と、泣いている暇はないのだよ。うん。私ったら、天才なのかもしれない。次回は絶対に終わるんですが記念すべき100話目ですなぁ…。投稿数自体は100超えてますがね。
というわけで次回が、最終話です。
なんだか長く感じたここ数週間が終わり、稲妻の祭りの日がやってきた。俺は稲妻城の自分の部屋の窓から城下町の様子を見る。
大きい悲劇を生んだ戦争が終わった記念で今日限りの祭りが開かれるようで、城下町が遠目でも賑わっているのがわかる。眞も復活したことによって一週間後には稲妻の『鎖国』も解除される。
そう言えば俺なのだが、いよいよ稲妻での役職が助言役、などというものを貰ってしまったので頻繁に稲妻に訪れることになった。まぁ、旅人の旅についていく都合上、割と形だけの役職になってしまうだろう。次の目的地はスメールだと言っていたし、スメールに行ったらいつ帰ってこれるかもわからない。それに、次の国、次の国、と行くのだから割とゆっくりできる時間は少ないだろう。
まぁ、別にそれは良いだろう。今はまだ考えなくても。
「一先ずは祭りを楽しむとしようか」
と、俺は部屋を出ようとしたのだが、コンコン、と部屋の扉がノックされた。今日は来客の予定はないはずだが、と思いつつ、扉を開ける。
部屋の前に立っていたのは、眞だった。
「まだ部屋にいてくれて良かったわ、アガレス」
ニコッと笑いながら俺にそう言ってくる眞に対して、俺はジト目を向ける。
「眞…お前、政務はどうした」
「影に全部丸投げしてきたわ」
バチコーンとウインクをしてきたので軽くチョップする。眞は頭を抑えて涙目になりながら蹲った。
「お前なぁ、影は今まで三年もお前の代わりに頑張ってきたんだぞ?今日の政務くらいお前がやるべきだろうが」
「そ、それがね?私ったら、政務の仕方を忘れてるみたいで…」
ピキッと俺の額に青筋が浮かんだ。
が、俺は怒りを溜息と共に吐き出した。いや、どちらかと言えば眞に対する嘆息の意味合いが強いかもしれない。まぁそれはいいとして。
「…仕方がないな。眞、ちょっとついてこい」
「え?え、ええ…」
俺は眞を連れて天守閣へ向かった。今頃、影が物凄い形相で仕事をこなしているはずである。まぁ彼女のことだ。眞の頼みだから、とかなんとか言って文句一つ言わずにやってるのだろうが。
軽く眞と談笑しながら見回りの兵士に見つからないようにしながら天守閣に辿り着いた。
「影、少し失礼するぞ」
俺は一言断ってから扉を開いた。開いたのだが…。
「「……」」
俺と眞は揃って絶句し、目元を手で摘む。だってそこにあった光景は…。
「よいか影、男を落とすにはこう、胸元をぴらっとやるのがいいんじゃ」
「…こう、でしょうか…?」
「ふむ…少し角度が悪いのう…隣に男がいるのを想像してやるんじゃぞ。ほれ、妾をアガレスと思ってやってみよ」
「…ん、こうでしょうか…?」
「うむ、よく出来ておるぞ。それと、腕に抱き着くのも忘れるでないぞ?今日の夜の花火大会で後ろから裾を摘むのも忘れるでないぞ」
そう言いつつ、チラッと八重神子がこちらに視線を向け、ニィ、と笑った。うん、俺と眞は何も見なかった。俺達はそんな風に思いつつ踵を返して帰ろうとしたのだが、
「それより影、客が来ておるぞ?応対したほうがよいのではないか?」
ニヤニヤと笑いながら八重神子が俺を見た。
…あの野郎…アマ…?とにかくやりやがった!
「何を言っているのですか神子…天守閣に入るのを許されているのは貴女と眞、そしてアガレスくらい…」
影が八重神子の腕に抱き着きながらこちらへ視線を向ける。バッチリ俺と目が合った。やがて影は眞のいる方にも視線を動かした。眞はあろうことか、視線を逸した。影の顔が真っ赤になり、こちらを懇願するように見る。
「…その、なんだ、俺は何も見ていない」
「そうよ、私達は何も見ていないわ。たった今来たんだし…まぁ、神子もほどほどにしなさいね?」
「ふむ、二人からお願いされては仕方がないのう…あまり影をからかうのはやめておいたほうが良さそうじゃ」
影は真っ赤になって俯いてしまった。俺がコホン!と咳払いをすると、顔は真っ赤だったが俺に視線を向けてくれた。
「影、政務は?」
「既に本日の分は終わらせました。その、本日はお祭りですし」
そのことなんだが、と前置きして影に伝えることがあったのを思い出した。
「今日の夜、終戦を祝して、とかなんとか言ってバルバトスとモラクスが来ると言っていた。お忍びだそうだし、別に歓迎の準備とかはいらないそうだが」
「わかりました」
それにしても、政務は終わっているのか。それじゃあ此処へ来た意味がなくなってしまった。
いや…そういえば。
「そういえば眞、お前が俺の部屋に来たのはなんでだったんだ?」
俺が眞にそう問い掛けると、場の空気が固まった。
「ギクッ…」
眞は何故か痛い所を突かれた、みたいな顔をしているし、
「……眞?」
影は影で眞に物凄く冷ややかな視線を向けている。八重神子は既に少し離れたところに立っており、この状況をニコニコしながら見ていた。なんだろう、凄く嫌な感じのする笑みだ。綺麗なんだけどな。
「わ、私用事を思い出したので…」
眞が冷や汗を物凄くかきながら今度こそ部屋から出ていこうとした。が、
「眞、今日の予定は全て私に丸投げしたはずですよね?用事なんてあるはずないですよね?」
「ギクギクッ!」
影の一言で眞の足が止まった。冷や汗の量は、増すばかりである。影はゆらりと立ち上がると、少し微笑んだ。勿論、目は笑っていない。
「ち、ちょっと用を足しに…」
「ま・こ・と?」
尚も抵抗しようとした眞の肩に、影は手を置き、にっこり笑った。目のハイライトがない。
「ヒッ…」
「少し、オハナシしましょうか」
「う、うぅ…はいぃ…」
眞は少し涙目になりながらズルズルと引き摺られて行った。やがて別室に入っていった彼女達が何をしているのかは、全くわからないしわかるとなんだか怖いのでやめておこうと思う。
八重神子が面白いものを見た、というような表情を浮かべながらこちらへ近付いてきた。
「なんだ?」
「なに、特に用があるわけではない。じゃが、そうじゃのう…そうじゃ、影が団子牛乳をまた食べたがっていてのう…できれば買いに行って欲しいのじゃが…」
八重神子の言わんとすることがなんとなくわかった俺は少し溜息をつく。
「わかった。祭りに誘おう」
「ふむ、妾はそんなこと一言も言っておらぬがのう」
「フン…小狐がここまで成長したのだから、狐斎宮はさぞかし喜ぶだろうよ」
若干の皮肉を込めてそう言う。八重神子は意味深に笑うと、
「ふむ、褒め言葉として受け取っておこう」
と返して部屋を去って行った。俺は肩を竦めつつ、八重神子を見送った。
少し経って、影が別室から出てきた。眞は連れていない。
「影、眞は?」
影にそう聞いたのだが、笑顔を返されるだけだった。どうやら、あまり触れてはいけないみたいだ。
「もう、眞ったら、抜け駆けなんてして…!」
影が何事かをぶつぶつ呟いていたが、俺は構わず声を掛けた。
「ところで影、この後時間あるか?」
「えぇ、ありますよ」
なら好都合だな。ただ、こういう経験はあまりないから少し緊張するな。
俺は首をかしげる影に対し、コホン、と咳払いをして見せてから、何でも無いことのように言った。
「なら、一緒に祭りを回らないか?」
「ふぇ…?」
影がボンッと顔を真っ赤にした。なんだろう、俺もちょっと恥ずかしくなってきた。
「あ、ああいや、何か予定があるなら…全然、一緒に回らなくてもいいんで…うん」
言葉が続かずに一挙に失速した。終わったかもしれない。影は顔を真っ赤にして俯いたまま、首を縦に振った───ように見えた。
「…いいのか?」
「…はい」
めちゃくちゃ小声で返事を返してくれた。俺は別室からこちらを覗き込んでいる眞に気が付く。笑顔でサムズアップをしていた。
「全く…」
俺は眞の行動に呆れつつ、しかし感謝した。
「…アガレス?」
影が不思議そうな顔で俺を見るが、俺は「なんでもない」と言って誤魔化した。俺は部屋の出口である扉の前に立つと、振り返って手を差し出した。
「それじゃあ影、行こう」
影は少し気恥ずかしそうにしながらも、手を差し出して俺の手を握ってくれた。
「ええ、行きましょう、アガレス」
はにかみながら影はそう言った。
くぅ…可愛い…じゃなかった。くぅ…手が柔らかい…でもなかった。
俺は自分の理性をなんとか冷静に保ち、影と共に天守閣を出るのだった。
次回、作者死す…!デュ○ルスタンバイ!!(万が一最終話にならなかった場合の保険)
いや、なんとかします、なんとかするので許して下さい。
自己暗示でも掛けておくか…。