忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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100にして、アンチ・ヘイトは保険というタグが割と詐欺だということに気付いてきた。


第100話 アガレスの答え

城下町で行われている祭りは、やはり盛大に行われていた。そこかしこで出店が出ており、兎にも角にも皆が騒ぎに騒いでいる。本日の仕事は営業している店以外全てが定休日となっているようだ。

 

「影、どこから回ろうか」

 

俺は隣を歩く影に何処へ行きたいかを聞いてみる。影は顎に手を当て少し考える素振りを見せたが、少ししてこちらを見ると、微笑んで言った。

 

「アガレスの行きたい所にしましょう。私は行動を共に出来るだけで嬉しいですし」

 

俺は自分の頬が熱くなるのを感じながら、出来るだけ平静を装って返した。

 

「わかった。それじゃあまず…やっぱり団子牛乳だな」

 

そう言うと、影は顔を輝かせた。八重神子の言っていたことは本当だったようだ。俺達は団子牛乳を売っている出店へ訪れた。

 

ちなみにだが、どこもかしこも影の姿を見て固まっている。まぁ、仕方がないのだろうが…少し申し訳ないことをしたな。酒を飲んでいるおっさん達は変わらず騒いでいるが。だがそんなおっさん達のお陰もあってか、先程までの喧騒が戻った。影に挨拶する人はいても長々と話すような人はいなかった。

 

「智樹、久し振りだな」

 

「あっ、旦那!久し振りです…って、将軍様!?」

 

出店の店主、智樹が頭を下げようとするのを、影は手で制した。

 

「畏まる必要はありません。それより、貴方が作った団子牛乳を以前口にしたのですが…大変美味でした。是非、二つ売っていただけますか?」

 

影がそう言うと、智樹は慌てたように団子牛乳を二つ、袋に詰めて俺達に渡してくれた。

 

「2800モラになります!」

 

「ん?前より安いな」

 

「ええ、祭りに際しての特別割引価格ですよ!」

 

俺は懐からモラの入った袋を取り出し、智樹に渡した。

 

「2800モラ丁度いただきます。毎度!」

 

俺と影は智樹に礼を言ってその場を去る。そのまま、少し離れた場所にあるベンチに、二人揃って腰掛けた。

 

「ほれ、団子牛乳、影の分だ」

 

「ありがとうございます、アガレス」

 

影は俺から団子牛乳を受け取ると、早速封を開いて団子を一つ串で刺した。影は何を思ったのかそれをまじまじと見つめると、俺へ差し出してきた。

 

「あ、あ〜ん…です」

 

影は顔を赤らめながら小さく言った。俺は彼女の意を汲んで、しかし顔が熱くなるのを感じながら影に差し出された団子を頬張る。なんだか、普段より甘く感じた。

 

さて、やられっぱなしでは俺の立つ瀬がない。

 

俺も団子を一つ串に刺すと同じようにして影に差し出した。

 

「俺の分も一つ、やるよ」

 

「…は、はい」

 

俺の串に刺さった団子を影が一口で食べた。お互いに、顔は真っ赤だろう。道行く人々の視線が若干生暖かいのでなんとなくわかる。

 

スッと、俺の横に再び団子が差し出された。思わず俺は驚いて仰け反る。影はどうやら、更に『あ〜ん』をしたいようだ。

 

その後も俺達は団子牛乳がなくなるまで食べさせ合いをしたのだが、恥ずかしすぎて死ぬかと思った。

 

 

 

気を取り直して。

 

「さて、次は何処に行こうか…」

 

時刻は午後五時。あそこのベンチで二時間は消費したのだ。途中から少し慣れてきて談笑していたので、割と長くかかったのである。

 

「特に行くべき場所はないし…取り敢えずぶらぶらしようか」

 

行こうと思っている場所は特に無いので、俺は影にそう言った。影は微笑むと、

 

「わかりました」

 

と言った。

 

「アガレスさん!」

 

と、声を掛けられたので声の主を探す。すると、旅人がこちらを見て手を振っていた。

 

「アガレス〜!」

 

「アガレスさん…って、将軍がいるってことは、もしかしてデート!?」

 

…。

 

「まあそんなところだ」

 

「ん〜…まぁさっき『あ〜ん』しまくってたの見てたから聞くまでもないんだけどね」

 

顔が熱くなった。そして影は両手で顔を覆っていた。旅人もパイモンもニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 

「そんじゃ、あとは若いもんでごゆっくりだぜ!」

 

「ごゆっくり〜」

 

旅人は冷やかすだけ冷やかして行ってしまった。俺は溜息を一つつくと、影と顔を見合わせたが、すぐに気不味くなって目を逸らした。

 

「…次、行くか」

 

「…はい」

 

 

 

それから俺達は屋台にある色々な食べ物を食べて回ったり、輪投げや射的というゲームを遊び、虫相撲を見たりしていた。中でも虫相撲はなかなか面白かった。

 

「かーっはっはっは!!俺様の『世界頂点丸』に敵うと思うなよ!!」

 

「お兄ちゃんの虫つよそ〜!!」

 

「早速戦わせてみようぜ!!」

 

鬼の末裔が虫相撲で戦っていたのだ。折角なので影と一緒に観戦していったのだが、荒瀧一斗と名乗った鬼の末裔の虫───オニカブトムシ…いや、彼風に言うと、『世界頂点丸』だったな。その虫が相手の子供の虫に簡単に負けていた。

 

「う、嘘だろ…お、俺様の…せ、『世界頂点丸』があああ!!」

 

「あははは!!兄ちゃんよわ〜い!」

 

「ぐぅ…おいっ!もう一回勝負だ!!」

 

そのまま何度も虫相撲のルールを破って占有したため天領奉行に連れ去られていったのは、また別の話だが。

 

「アガレス殿!」

 

「ん?…って、お前達、何時ぞやの見張りの武士か」

 

志村屋の前を通りがかった時に、声を掛けられたのだが、俺が稲妻に来たばかりの頃に俺を見張っていた武士達だった。

 

「久し振りだな。元気にしていたのか」

 

「ああ、お陰様で、離島奪還作戦の際も大した怪我無く!」

 

「ウソつけ、お前、ファデュイに手痛く一撃貰ってやがっただろ!」

 

二人は若干酒が入っているようでテンションが高かった。そんな二人を見ていると、少しだけ心が穏やかになる気がした。

 

「それで、アガレス殿も祭りに?」

 

「ああ、少し友人───」

 

影からの不機嫌オーラが出た。若干気恥ずかしいが、言い方を変えることにした。

 

「───彼女と、な」

 

「おお!それは羨ましい限りですな!うちの家内ときたら、昔は可愛げが…」

 

長くなりそうだったので、適当なところで切り上げて二人と別れた。

 

「今度いっぱい奢らせて下さい!アガレス殿!!」

 

「今後も息災で!」

 

二人はそう言いながら志村屋の中から手を振ってくれた。俺は手を振り返しつつ、ちょっと申し訳なくなる。

 

「俺は酒が飲めないんだがな…」

 

「ふふ、いいじゃないですか。その時はその時、でしょう?寧ろ酔っ払って困らせてしまえばいいのです」

 

何故か胸を張りながら影はそんなことを言った。俺は、困ったように笑うのだった。

 

 

 

その後は八重堂の新刊を買ったりしてぶらぶらしながら花火が打ち上がる時間になった。辺りはすっかり夜である。花火は、甘金島で上がるらしい。長野原家がこの日のために準備していたんだとかで、かなりの数が上がるそうだ。

 

「おや、司令官ではないですか!」

 

俺と影は見えやすい位置に移動するべく、城下町を離れようとしたのだが、不意に声を掛けられた。やってきたのは、ラフな格好をした只野、奥之院、黒川の三人だった。

 

「あれ?本当じゃない…ですか」

 

「菫、無理矢理敬語にしなくてもいいと思うよ…」

 

「司令官、司令官も祭りを楽しんでいるんですか?」

 

三人が近付いてきつつ話している。一先ずは只野の質問に答えた。

 

「ああ。折角の祭りだからな。と、いうか別にもう司令官じゃないんだから司令官だなんて呼ばなくていいし敬語もいらん」

 

奥にいる奥之院と黒川にもそう言ってやると、特に黒川が嬉しそうにしていた。

 

「わかったわ、アガレスさん」

 

「え、ええっと…わかったよ」

 

「私は変えませんよ。性分ですから」

 

などと話していると、後ろからちょっと不機嫌そうなオーラを感じる。何より、俺の服の裾を掴まれていた。先程と同じことをしたほうが良さそうだ。

 

恋愛小説の主人公の台詞を借りるなら…。

 

「悪いな、今ちょっとデート中なんだ。そろそろいいか?」

 

「えっ!し…アガレスさん彼女!?彼女いるの!?」

 

黒川が信じられない、とでも言いたげな目で俺を見た。心外だなこいつ。

 

「菫、アガレスさんに失礼だよ。それで彼女さんは…」

 

奥之院、流石恋愛の師匠だな。と、まあそれは置いておいて。

 

「ああ、彼女だ」

 

俺は後ろにいる影を指差した。三人はまじまじと影を見つめていたが、やがてぎょっとしたように仰け反った。

 

「「「し、将軍様!?」」」

 

割と本日何度目かわからない跪こうとした彼等を影が手で制した。

 

「あ、アガレスさん、将軍様が彼女って…なんてこと言ってるんですか!!」

 

「いえ、事実ですので」

 

「将軍様!?」

 

黒川が物凄く驚いている。只野に至っては失神しそうになっている。う〜ん…やっぱり、彼女も知らぬ間に…。

 

旅人に気をつけろと言われていたんだが、駄目だったらしい。

 

「只野、はっきりさせておく。お前の気持ちには向き合えない。俺には…その、好きな人がいるんだ。それと、お前にだけは伝えておくが」

 

俺は彼女に耳打ちをした。俺が神であること、人と時の流れが違うことから恋人同士にはなれない、ということを伝えたのである。只野は驚いていたようだったが、やがて俯くと、

 

「そう、だったんですね…勿論、他言はしません…ですが、アガレス様…」

 

キッと只野は影を見てから俺を見た。

 

「諦めません。私は…私のことを初めて女性として見てくれた貴方が、好きだから」

 

そう言って彼女は去って行った。奥之院と黒川は俺に一礼して彼女を追っていった。

 

「すまない、影…折角のデートだったんだが…」

 

なんか、元カノに遭遇してよりを戻そうって言われたけど今の彼女がいるから出来ない、っていう彼氏みたいな感じだったな。小説に拠れば彼女側は割といまので不快になるらしい。だから謝ったのだが…影は何故か握りこぶしを作っていた。

 

「…いい度胸ですね…只野家の長女…私と真っ向勝負とは」

 

「あの〜、影さん?」

 

「はっ!なんですか!」

 

やや食い気味でズイッと顔を寄せてくる影だったが、すぐに顔が近いことに気が付き顔を逸して、もう一度小さく「なんですか」と言った。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、別に、なんでもありませんから!さ、行きましょう!」

 

影は俺の手を引いて歩く。普通にこのまま花火が見られる場所まで連れて行ってくれるようだが、割と力が強い。このまま、というのもなんとなく嫌なので、俺は少し歩く速度を上げて影の隣に並んだ。

 

影が驚いたように俺を見る。そんな影に向けて、俺は微笑みかけた。

 

「この方が歩きやすい。それに…デートならこれくらいしてもいいんじゃないか?」

 

そう言うと、影は少し恥ずかしそうにしながら手を握る力を強くした。

 

 

 

何かと便利な場所として、稲妻の天守閣の奥が挙げられる。実際、ここなら人が来ることはない。

 

が、そこからでは花火は見れないのだ。そういうわけで、稲妻城付近の大きい像の近くに少し開けた場所があるため、そこで見ることになった。幸か不幸か、周囲には人がいない。勿論、影がいるとなったら、皆、花火なんかに集中できないだろうしな。

 

俺と影は草むらの上に腰掛けた。

 

「アガレス…今日はありがとうございました」

 

「…何がだ?」

 

「誘ってくれて、ですよ。誘ってくれなかったら私から誘いに行こうと思ってたんですけどね」

 

影はそう言って嬉しそうに笑った。そろそr時間のようで、遠くから風元素を利用した声が聞こえてきた。

 

「始まるみたいだぞ」

 

「ええ」

 

それから、少しして一つの大きい花火を皮切りにして次々と豪華絢爛な花火が打ち上がった。

 

古来より花火とは鎮魂の意味や疫病退散が目的として行われていた。花火が空中で花を咲かせるのは、墓に献花をするのと似たようなものなのだろう。

 

「…綺麗ですね」

 

「…ああ」

 

影は花火を見て瞳を輝かせていた。だが、俺は花火の光に照らされている影の横顔から、目が離せなかった。影がこちらの視線に気が付いたように、俺を見て首を傾げた。

 

「…なんですか?」

 

「…今だから、言うが」

 

俺は、そう話を切り出した。

 

「…前に、お前は俺を惚れさせる、と言っていたな」

 

「…はい」

 

影は気恥ずかしそうにしていた。花火の破裂音と綺羅びやかな彩りが辺りを支配する中、俺は告げる。

 

「…実は、さ。俺は元々から、影のことが…その、好きだったんだと思う」

 

「…え!?」

 

影が驚いたようにこちらを見る。その頬は、紅に染まっていた。俺もそれは同様だが、ここで逃げるわけにもいかないだろう。

 

「元々、友人として気が合ってたし、友人としては元から好きだった。或いは…俺が気が付いていなかっただけで、既に好きになっていたんだろう。だから、改めてあの日お前に想いを伝えられて、異性として意識して…自分の気持ちに気付いたんだ」

 

俺は影の顔を真っ直ぐ見据えた。俺は一度深呼吸してから、口を開いた。

 

「俺は、お前が好きだ」

 

一際大きな花火が空で瞬いたため、影の表情を推し量ることはできない。俺は少し恥ずかしくなって花火を見つめる。

 

少しして、不意に影が俺の肩に頭を預けてきた。

 

「…影?」

 

「…今暫く、こうさせて下さい」

 

俺は物凄く頬が熱くなるのを感じつつ、そのままにさせた。

 

「…アガレス」

 

影が俺の名前を呼んだ。俺は返事をせずに次の言葉を待った。

 

「私も、貴方が好きです。ずっと、好きでした」

 

「…そうか」

 

「500年前に貴方がいなくなって、その時に…物凄く、その…」

 

俺は影の肩を抱いた。

 

「それ以上は、言わなくていい。わかってる」

 

俺と影は少し離れ、見つめ合った。

 

「アガレス…」

 

「影…」

 

なんだか久し振りに彼女の顔を真正面から見たような気がする。花火の日に照らされた彼女の顔は、とても綺麗だった。

 

影が瞳を閉じる。俺は顔を傾けながら、顔を近付け、唇を触れ合わせた。

 

その瞬間は永遠のようにも思えた。だが、実際の所、恐らく十秒程度しか経っていないだろう。

 

「…ふふ、ようやく、ですね」

 

「何がだ?」

 

影は一瞬花火を見てから俺を見て満面の笑みを浮かべた。

 

「いいえ、なんでもありませんよっ!」

 

言いつつ、俺の胸へ飛び込んできた彼女を受け止めた。何度でも言おう。花火と、その光に照らされる彼女の顔はとても美しかった。

 

そして俺は胸に誓うのだ。今度こそ、彼女を幸せにしてみせる、と。




ということで、稲妻編はこれにて終了となります。

いやぁ、疲れた!一番疲れましたね、稲妻編は。かなり話しが長めになったので、アレだったんですが、ここまでお付き合い頂いてありがとうございました。

終わる雰囲気出してますが終わりません。まだまだ続きますのでどうぞこれからもよろしくおねがいします。
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