忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第102話 おや、アガレスの様子が…②

アガレスが倒れてから二日後。

 

「…んん…」

 

俺はふかふかのベッドから上体を起こした。思わず、俺は周囲を見回す。

 

「…アレ、寝る前の記憶がないな…」

 

俺は少し記憶を遡ってみる。確か…稲妻の戦争の事後処理も一段落ついてモンドに戻って…って、戻ってる途中から意識が無いぞ。

 

俺は肉体に不審な点が無いかを調べる。服の中を見て一通り調べてみたが、特に普段と変わった点は見当たらなかった。思わず、首を傾げる。

 

「う〜ん…もしかして働きすぎかな…最早社畜だな社畜…」

 

実際稲妻の一週間くらい事後処理を夜通し行ったので一週間は常に集中を切らさないようにしていた。うん、割と真面目に過労かもな。

 

「それより、ここは何処だ?いや、普通に考えれば救民団本部だろうが…」

 

建築様式的にはモンドっぽい。だが少なくとも、救民団本部でないことは確かだった。俺は今度はベッドから立ち上がり、窓の外を見てみる。

 

「…少なくとも、俺のではないな」

 

そこに見えた景色は一言で言うなら絶景だが、大地は途中で途切れ、その奥には雲海が広がっている。間違いなく、誰かの塵歌壺の中だろう。

 

心当たりは、一応あった。

 

「…記憶がないことと紐付けて考えると…うん、何らかのトラブルで俺をここに運ばざるを得なかったんだろうな」

 

まぁ誰が運んだのかは知らんが。

 

それはいいとして、俺は今度は部屋の外に出てみる。予想通り、2階だった。下からは食事の音と話し声が聞こえてきた。

 

「───旅人さん、アガレスの様子は見ていなくていいのですか?」

 

「うん、アガレスさんは多分大丈夫だろうし。話を聞いた時は結構動揺しちゃったけど…」

 

下では旅人とパイモン、そして何故か影もいた。いや、影は政務をもうやらなくて良くなったんだし、いてもおかしくないのか。

 

なんて思いつつ、俺がいない時の二人の会話にも興味があったので、ちょっと盗み聞きをしてみることにした。

 

「アガレスさんの寿命があまり無いなんて私知らなかった」

 

「オイラもだぞ!影は、ちょっと前に聞いて知ったって言ってたけど、誰から聞いたんだよ?」

 

「いえ、彼自身から聞きました。尤も、アガレスの人格ではない様子でしたが…」

 

俺以外の人格、と聞いて若干ピンときたのでちょっと溜息を吐いた。俺はそのまま続きを聞いた。

 

「え、影も見たの?」

 

「『も』、というと旅人さんも彼を?」

 

「オイラも!オイラも見たぞ!!お酒を飲ませたら出てきたんだ…!」

 

「ではやはり…ええ、彼から聞きました。『彼の寿命は持って数年だ』と。ですが明らかに早すぎます」

 

影の話を要約すると…俺の中に眠っているもう一つの人格が酒を飲んで…つまり、前回みりんを摂取した時だろう。そして俺の寿命が残り数年と言った、ということか。まぁ、昔の欠落した記憶がある感じからして『摩耗』が進んでいるとは思っていたが…まさかそこまでとは。

 

などと俺は考えていたのだが、次に影が放った言葉で俺は思わず驚くことになる。

 

「はい…私も全く気が付けませんでした。まさか魔神達の呪いが彼をあんなにも蝕んでいたなんて…」

 

何…と思わず声に出してしまったがそれも仕方がなかった。

 

魔神達の呪い、つまり怨恨や憎悪などの残留思念が俺という存在そのものを取り巻いていたのだ。だから現『七神』は総力を上げて俺の記録を抹消して回ったのだ。だのに、結果はこの通り、というわけか。魔神達の呪いによる魂の『摩耗』と生きた年数に応じた『摩耗』によって俺の記憶はどんどん欠落していっていたわけだ。道理で最近昔のことを覚えていないと思った。

 

「ですが、心配ありません。打ち合わせ通り、アガレスにプラスの感情を抱かせることができれば、呪いの進行を遅らせることは出来ますし…」

 

ん?それは初耳だな。と、更に聞き耳を立てようとしたのだが…。

 

「おい、おいおい旅人!あれ!あれ!」

 

パイモンがこちらを見て指をさす。もしかしてバレたか?と思っていたら、旅人と影がこちらを見てにっこり笑った。

 

「アガレス、アホ毛が見えていますよ?」

 

そこで言われて初めて、俺は自分の髪の毛を触る。確かに、普段はないアホ毛があった。俺は大人しく物陰から姿を現した。

 

なんだか若干気不味く感じるのは俺だけだろうか。

 

「…その、すまんな。心配かけて」

 

「いえ、大丈夫ですよ。寧ろもっと頼っていいんですからね?」

 

影が微笑みながらそう言ってくれる。旅人とパイモンもそれに同調するように首肯いた。

 

「はぁ…わかったわかった。それで、話が遮られるまでは大体聞いてたんだが、まず俺の呪いが、俺にプラスの感情を持たせることによって呪いの進行が遅れる、というのはどういうことだ?」

 

まず、そこがわからない。

 

影は神子が言っていたのですが、と前置きしてから話し始めた。

 

「曰く、魔神達の呪いは怨恨や憎悪といった、謂わば『マイナスの感情』が元になっています。神子はそこに目をつけて喜びや幸せといった謂わば『プラスの感情』をアガレスに抱かせることによって呪いの進行を遅らせることが出来るのでは、と仮説を立てたんです」

 

なるほどな…まぁ確かに筋は通っている。まぁ、それで俺の寿命が、というより魂が修復されるわけでもなく、呪いが浄化されるわけでもないわけだから進行を遅らせることしか出来ない、と。流石は八重神子、と言ったところか。

 

と、旅人が少し寂しそうな表情をしながら言葉を発した。

 

「そうなんだよね。それにアガレスさんって、一人でほとんどのことは出来るから、私達のことをあんまり頼ってくれないし…だから、どんな形であれ一人で幸せな気持ちにはなれないと思うし…」

 

旅人の言葉で俺はハッとした。思えば復活直後から、いや、俺は生まれてから誰かに頼る、ということをあまりして来なかった。戦争中はそれなりに只野や部下を頼ったことはあるが、本当の意味で頼ったことなどないのだ。

 

だがまぁ、理由は単純で、俺一人で大体のことは出来てしまうし、何より他人に迷惑がかかると思っているから…いや、思っていたからだ。

 

パイモンも旅人達の言葉に同調するように声を出す。

 

「そうだぞ!!今回くらいオイラ達をどんどん頼ってくれよ!!」

 

「パイモンはその明るさで皆を楽しませられるからね。適任だと思うよ」

 

「へへっ!だろだろ〜」

 

「ええ、パイモンは少々…いえ、かなり抜けているところはありますがアガレスを案じる気持ちと面白いところは本物ですから」

 

「えへへっ…え?影、それちょっとディスってないか…?」

 

三人でそのまま話し始めるのを見て、俺は思わず腹を抱えて笑った。三人の視線が俺に集まる。

 

俺は一通り笑った後、にっこり笑った。

 

「ああ、よろしく頼むよ。今くらい全部頼ることにするよ」

 

俺がそう言うと、三人は嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「それはそうと、アガレス〜…」

 

パイモンが少しニヤニヤしながら俺を見た。俺は首を傾げつつ、パイモンを見る。

 

「その〜」

 

パイモンはチラチラとテーブルの上に視線を送っていた。俺はパイモンの視線の先を見て、何のことか察し少し笑った。

 

「ああ、中断させてしまってすまない。飯にしよう」

 

そう言うとパイモンはその表情を輝かせるのだった。




というわけで、アガレスの寿命問題でした。
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