さて、昨日只野に武家の再興に関して了承を得たので、本日は只野家について色々と調べてみた。
調べてみた所、かなりの名家ではあったようで、だが長男が余程素行不良だったらしく、俺のよく知る只野が跡継ぎとして育てられていたようだ。その兄がファデュイを稲妻城にまで引き入れた張本人らしい。いやぁ、中々やらかしてるな。
只野は知らなかったみたいだが、当時の当主とその妻、そしてその父と母はその戦いで生き残ったのだが、既に死亡した長男に代わり腹を切って責任を取ったらしい。まぁ、この事実は只野に伝えないほうが良いだろう。
「まぁそのことも踏まえると…ん〜、只野の屋敷は離島になるだろうな…」
俺的には色々と助けてくれたので城下町にしてやりたいのだが、多分上がそれを許さないだろうな。まぁ、仕方ないと言えばそれまでなのだが。
「只野の屋敷はまぁいいだろう。取り敢えず、次だ次…」
一応、只野の件に関しては眞にも、三奉行にも伝え、一応これから訪問するもう一人のことも伝えて置いたので、なんとかしてくれるはずである。
だが、一応本人の意思はしっかりと確認しておくべきだと考えたため本人を訪ねようとしたのだが、如何せん居場所がわからないのである。一応、旅人から海祇島にいるという情報を結構前に仕入れていたので向かって尋ねては見たのだが、珊瑚宮心海によると既に海祇島を旅立っているらしい。
いよいよ何処にいるかわからなくなってきたので、俺は一週間ぶりほどだろうか?淵下宮へ入る。勿論、旅人と共に淵下宮に入った時に珊瑚宮心海の許可は得ている。
「相変わらず、寂しい感じの場所だな」
洞窟のような場所、こと蛇腸の道と呼ばれる場所を抜けて太古の昔繁栄していた都市の廃墟がよく見える場所にまでやって来た。来たのだが、時々中央にある人工太陽が光を失ったり、光ったりしている。俺は気になったので少し周囲を見回してみたのだが、人工太陽の明滅に合わせて同じように明滅を繰り返している装置があった。どうやら、この装置が関係しているようだ。
「…十中八九、これをしているのは旅人だと思うんだが…」
問題はどこにいるか、というところだが…少しすると明滅が収まった。普通に考えれば中央にいるだろう。
「まぁ、大日御輿に行けばわかること、か…」
大日御輿とは、淵下宮の中央部にあり、人工太陽を擁する大きな建物で物凄く大きい。
さて、俺はその大日御輿までやってきたのだが、中央の建物の床が抜けている。下からは戦闘音が聞こえてくる。
「ま、十中八九この中か」
今は夜の状態だ。なにやら霊体のようなものがいるようだったが無視して俺は下へと降りていく。
「───今こそ…新生の時!」
「…アレは」
旅人と珊瑚宮心海、そして楓原万葉ともう一人…アレは、確か資料で見たことがあるな。いつだったか…ああ、離島奪還作戦の前夜に資料で見たな。名前は確か、宵宮と言っただろうか。しかし、炎に炎では少し相性が悪いようだ。
そして相対するはアビスの詠唱者・淵炎。初めて見るタイプだ。有効元素は水元素と氷元素当たりだろうが…雷元素は効くかな?要検証。
まだ落下している俺は空から旅人達の戦いを見ていたのだが、アビスの魔術師もいるので中々苦戦を強いられている。まぁ珊瑚宮心海の水元素と宵宮の炎元素、そして旅人の雷元素で大体の魔術師のシールドは割れているが、その後の処理がアビスの詠唱者の妨害で出来ておらず、思うように戦闘が展開できていない。それぞれで動きすぎているな。
「ま、それも仕方ないだろうが…」
降りながら、俺はヴィシャップのものと思われる死骸を見やる。アレは確か、アビサルヴィシャップとか言ったはずだ。まぁそもそも、俺は淵下宮にあまり詳しくないから、うろ覚えだ。
おっと、そろそろ下に着きそうだ。アビスの詠唱者にも気付かれてしまったしな。
「旅人、加勢する」
「ふぇっ!?アガレスさん!?」
旅人が驚くのを無視して、俺はシールドを再びはろうとしているアビスの魔術師・氷へ向けて突進すると、刀を一閃して阻止、ついでに絶命させる。殺してしまっているので「安心しろ、峰打ちだ」的なことは言えないのが少し残念ではあるが。うん、今度試してみるか。
「それはそれとして…さて、一人ははじめましてだからな…ビビらせない程度に加勢するか」
ビビらせすぎると関係がうまくいかないだろうしな。ま、それも仕方がないと言えば仕方がないんだが…。
っと、アビスの詠唱者・淵炎がこっち見てなんか呟いてるな。彼か彼女か知らんが、便宜上彼と呼ぶことにして…。
彼の手に持つ法器にエネルギーが貯められていっている。大技らしい。まぁ、適当に水元素で相殺するか。俺は水元素を大量に生み出すと、周囲にばら撒いた。
直後、アビスの詠唱者・淵炎を中心に、広範囲の爆発が起こった。
あっつ、ちょっと服焼け焦げたぞ。
「思ったより高威力だった。終わったと思った」
「言ってる場合?アガレスさん…」
さて、冗談を言っている場合でないのは確かだ。アビスの詠唱者・淵炎の攻撃手段を俺はほとんど知らない。ただ、淵下宮でアビスの詠唱者・紫電と戦った時に名前が示す通り、詠唱によって攻撃が変わるのは把握済み。ただ、先程の攻撃の詠唱は聞き取れなかったのでわからない。
「さて、早めにシールド割ったほうが良いな」
使徒然り、詠唱者然り。ある程度まで攻撃を加えられるとシールドが出現するのだが、そのシールドを削りきれば大体は倒せる。とはいえ、アビスの魔術師が数体ほどいるこの状況下では…やってやれないことはないがちょっと頑張らないといけないだろう。
「ん〜…面倒くさい。やるけど!」
取り敢えず旅人の指示に従うか、と思って旅人を見たのだが、旅人はこちらを見て首を傾げている。まるで「どうすればいいの?」とでも言いたげだ。俺は溜息を吐くと、
「旅人が指揮を執ってくれ。なんというか、共通の友達というか知り合い的なアレだろ?」
「うん、言わんとする所はわかるよ。取り敢えず、わかった。それじゃあアガレスさんは詠唱者をお願い」
「はいよ」
旅人は楓原万葉、珊瑚宮心海、そして宵宮にそれぞれ指示を出すと散り散りになる。どうやら、それぞれでアビスの魔術師を抑えてくれるようだ。まぁ、頭数は合ってるからな。俺がさっき一匹倒したから、ではあるが。
「さて、ほんじゃあお前には悪いけど早めに終わらせるぞ」
だって俺ここに旅人探しに来たんだぜ?ま、目的の人物もいるとは思わなかったが。詠唱者は俺を見て体を僅かに震わせたかと思うと、すぐに何かを詠唱してから俺の足元に炎元素が集まってくるのを感じた。
俺はすぐにその場から飛び退くと、続いて二つの炎元素の集約場所があったためそこを避けて着地する。直後、俺の元々いた場所と、そこにほど近い場所から熱炎が吹き上がる。なるほど、油断も隙もないな。
「早めに終わらせると言っちゃったからな…」
格好良く言った手前、早く終わらせられなければ白い目で見られたりするのだろう。ただ、詠唱者はさほど近接戦闘に慣れていないようにも思えるので、俺は刀に水元素を付与しつつ、接近し、シールドに攻撃を加えていく。魔術師のシールドと異なり、両断出来たりしないのが少し面倒なんだよな。というか、水元素の通りが少し悪い気がするな。
俺は氷元素、雷元素と手を変え品を変え攻撃してみたが、大体シールドへ与えられるダメージは一定なようだった。
半分ほど削った時に、再び詠唱者が何かを詠唱し、俺の位置の直上から炎元素の塊のようなものを降らせてきた。炎元素の範囲ダメージがあったようだが、咄嗟に大袈裟なほど飛び退いた俺には当たることはなかったため、まぁ運が良かったな。
アレを残しておくのは危険だと本能が警鐘を鳴らしているので、アビスの詠唱者・淵炎から放たれる5つの炎球を避けながら法器を取り出して水球を飛ばす。飛ばした水球は炎元素の塊に直撃し、共に蒸発した。
「ッ!!」
思わず首を傾げたが、何故か詠唱者のシールドがかなり削れている。どうやら、あの炎元素の塊を破壊するとシールドが大幅に削れるようだ。まぁ、元素力で形作られたシールドだし、あの炎元素の塊にはかなりの元素が込められていたはずだ。あのままにしておけば恐らく元素力を回収できるのだろうが、残念ながら破壊されればそれも叶わない。
あのまま残しておけば何が起こるのかは気になるが、まぁそうも言ってはいられない。俺は法器で再び水球をアビスの詠唱者・淵炎へぶつけ、シールドを完全に消滅させた。そしてそのまま俺は法器を刀に持ち替え横薙ぎに振るおうとしたのだが、
「待てッ!待てぃッ!!これ以上やったら死ぬぞ!俺が!!」
突然アビスの詠唱者・淵炎が両手を前でバタバタさせながら叫ぶ。俺はギリギリのところで刀を止める。因みに、刃は彼の首元に当てられている。アビスの詠唱者・淵炎は若干だが震えている。俺は思わず「はぁ?」と言って旅人を見た。旅人、というよりいつの間にか姿を現していたパイモンが肩を竦めた。
周囲にヒントがないかを見たが、アビサルヴィシャップの死骸しかない。それと、アビスの魔術師も倒されていたようだ。
「旅人、コイツは?」
一応、旅人にコイツについて聞くことにした。すると、旅人からは驚くべき答えが帰ってきた。
「その人…?は淵上さん。淵下宮の歴史とか、血枝珊瑚について色々教えてくれた」
前回、というより、蛇腸の道の探索を手伝った後、更に手伝おうとしたのだが、淵下宮に入る直前にとあることを言われたのだ。
「つまり、信頼できる案内人ってのはお前のことを言っていたわけか。ま、見事に裏切られてるわけだが」
俺が刃を更に近付けると、心做しか震えが増した。
旅人とパイモンの淵下宮での案内役がコイツだった、というわけだ。というか人にも擬態できるのか。
「そうだぞ!研究員で、手伝いに来た!って言ってたじゃないか!なんでオイラ達を襲ったんだよ!!」
「1つ目の質問に答えるとするならば、俺は一言も珊瑚宮から派遣されたとは言っていないぞ」
詠唱者…こと、淵上と自称する者がそう言うと、パイモンがむぐっと口を噤む。
「そして2つ目に関してだが…理由ならそれなりにある。まず俺がアビスの者でお前が地上の者だということだ」
それはそうだな。まぁ、それまで手伝ってきたのには別の目的があるような気もするが。
「お前は淵下宮で、俺の部下や仲間たちを何人も倒したのだから、俺が仇討ちに動いてもなんら不思議はないだろう?」
普通の人間の心理であれば確かに納得できる話だが、相手はアビスだしな…正直、信用は出来ないだろう。
「それに本が見つからないのはお前達が持っているからかもしれない。だから殺した後で持ち物を物色するわけだ」
旅人のバッグの中にはどうせ聖遺物と各地の精鋭の魔物の素材。そして食べ物とその材料とかしか入ってないだろう。え?他にもあるって?そんな馬鹿な。
「これでわかっただろう。他の者を安易に信じてはならないと。例えばそこの小さいの。いつかお前を裏切ることに───」
俺は刀を振るおうとしたが、一歩間に合わず詠唱者を逃した。
「チッ…暫く振るってなかったから鈍ったか」
「まぁいい。時間は十分に稼いだ。また会おう。旅人、そして…」
チラリと詠唱者は俺を見た。俺は刀を仕舞いつつ、見返す。奴に表情の変化はないが、心做しか笑ったように見えた。
「永劫の淵で、また会おう」
永劫の淵、か。俺の寿命があと百年ってのも知らないんだろうな。さて、取り敢えずアビサルヴィシャップの死骸から何かを取り出している旅人は放っておいて。
俺は少し休んでいる楓原万葉に近付く。
「久し振りだな。万葉」
「ああ、久し振りでござるな、アガレス殿。拙者になにか用でござるか?」
俺は首肯き、只野に話した内容と同じことを伝えた。すると楓原万葉は顎に手を当て考える仕草を暫しした後。
「少し、拙者に考える時間をくれぬか?」
「ああ、大丈夫だ。急ぐ必要はない。別に期限とかはないから、ゆっくり考えるといい」
一先ず、俺の目的は達成できたのだが、珊瑚宮心海もここにいるのがとても気になる。俺は楓原万葉から離れると、次は珊瑚宮心海に話し掛けた。
「心海、何故ここに?」
「アガレスさん。はい、此の度、旅人さんから案内人の話を聞いて少し、怪しいと思いまして。血枝珊瑚は淵下宮の『聖土化』を止めるのに必要でしたし、その場で即座に色々と判断できる人材が必要だと考えたので私が来ました」
なるほど、腑に落ちた。つまり、海祇島にとって重要な淵下宮の問題を解決できる血枝珊瑚を獲得するために旅人を派遣したが、詰めの段階で怪しさ満点の案内人がいるからその場で的確に指示を出すために来た、というわけだ。
まぁ要するに、珊瑚宮心海にとってこの状況は予想外だったというわけだ。
「そうか。大事なくてよかったな。お前は一応、巫女なんだから自分のことはもう少し大切にしておけよ」
「ええ、わかっています。アガレスさんこそ、ご自愛下さいね」
ちょっと耳が痛い言葉を俺は聞き流しつつ、俺達を呼んでいる旅人を見た。どうやら、このまま地上に戻るようだ。
さて、俺は万葉の答えが出るまでのんびりするとしようかな、なんて思いつつ、旅人と共に地上へ戻るのだった。
宵宮さんとの絡みは次回へ持ち越しですね。
さて、万葉君の伝説任務のネタバレがありますんで、気をつけて下さい。あとがき付け足しときます。