忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

12 / 157
第二話、どぞどぞ…!


第2話 面倒を見ることになった

さて、これからどうするか。少女、といっても大体13歳くらいだろうか。そのノエルはなにかに気が付いたように男性を見ると、

 

「あっ、そうでした…!この方を急いでモンドへ送って差し上げませんと…!」

 

そう言ってノエルは慌てながら倒れ伏す男性を抱えようとした。俺はそれを手で制すると、

 

「然程急がずとも大丈夫だ。どうやら救援が来たらしい」

 

周囲に複数の足音、まだ残っていれば恐らく『西風騎士団』だろう。やがて現れたのは統一された服装に見を包んだ騎士の風貌をしている者達だった。胸には紋章がありその紋章には見覚えがあった。

 

やはり、モンドの風神以外の人間による実質的な統治機構『西風騎士団』だった。

 

「───ノエル!!アルバート!!無事か!!」

 

やがて騎士達の後ろから走ってきたのは金髪をポニーテールにした女性だった。何か俺の記憶にデジャヴュを感じつつノエルと彼女のやり取りを見やる。

 

因みに、アルバートとは倒れている男性の名前らしい。

 

「あ、はい…!副団長さま…!わたくしは大丈夫です!!それより、この方を…!」

 

ノエルは彼女にそう言ってアルバートを指差した。副団長と呼ばれた彼女はアルバートをすぐに運ばせるよう部下に手配すると俺に気が付いたようで、

 

「っと、そちらの方は?」

 

とノエルに尋ねていた。だがノエルに答えさせるまでもない、と考えて俺が口を開いた。

 

「偶然ここを通った時に戦闘音が聞こえたから様子を見に来て人型の魔物を排除した者だ」

 

彼女は副団長…つまりここで疑われては本末転倒なので正直に答えることにしよう、うん。

 

復活早々獄中生活とか目も当てられん。というか俺の知り合いに爆笑されること間違いなしだな。

 

さて、そんな俺の心配とは裏腹に副団長は頭を下げる。

 

「そうだったのか…助力に感謝する。ただ…」

 

ただ、と続け顔を上げた彼女はバツが悪そうな表情だった。俺は溜息を一つつくと、

 

「素性がしれないからついてこい、だろ?わかっている」

 

そう言って武器をしまう。まぁ妥当な対応だろうから俺も特に文句はない。対する副団長は再び軽く頭を下げ、

 

「感謝の言葉もない」

 

とそう言いつつ、それと、と彼女は付け加えた。

 

「私は団長ではないが今は大団長が所用でモンドを離れている。そのため代理団長は私が務めているんだ。だから君の処遇…?というか扱いに関しては私が受け持つことになる」

 

なるほど、まぁしっかりしていそうだし当然とも言えるな。俺は一つ首肯くと「了解した」とだけ言った。

 

俺達は西風騎士に守られながらノエルと共にモンド素人へと連れて行かれるのだった。

 

 

 

さて、やはり俺達がいたのは囁きの森だったようだ。モンド城の東側に位置する森で、たまにあの人型の魔物───ヒルチャールが出るらしい。

 

そこから歩いてやって来た俺達はモンド城に入る。久し振りに見るモンド城内は活気に満ち満ちていた。500年前とは大違いだな。

 

「───あっ、ジン団長!」

 

そうして街を歩いていると前で副団長が声を掛けられていた。今更ながら彼女はジンという名前らしい。

 

ジンは声をかけてきた女性ににこやかに応対していた。

 

「どうしたんだ?マージョリー」

 

ジンがそう聞くとマージョリーと呼ばれた女性はニコッと笑うと、

 

「これ、見てください!!」

 

そう言ってジンの前に差し出されたのは何の変哲もないセシリアと蒲公英の花束だ。ジンは花束に面食らったように固まっている。

 

「モンドの皆で花束を贈ろうと思いまして…!セシリアの花と蒲公英の花束です!!」

 

そこかしこから拍手と歓声が上がる。どうやら本当にモンドのほとんどの住民が協力したようだった。マージョリーはそんな皆の様子を見て苦笑しつつ、

 

「団長様は働きすぎですから…この花の香りで少しでもリラックスできるようにと皆で選んだんです!」

 

はにかみながらそう言った。対するジンは少し固まっていたが、やがて花束を受け取り同じようにはにかむと、

 

「ああ、ありがとう」

 

とそう言うのだった。

 

〜〜〜〜

 

「───随分民に慕われているんだな?」

 

私は、そう言いながら私の横を歩く黒衣の男を横目でチラリと見やる。民、という言い方に少し違和感があるが言われていることは理解できる。

 

「ああ、有り難い限りだ」

 

私は本心からそう返すと彼は何かを慈しむような表情を浮かべる。それにしても、と私は思案する。

 

この男は本当に妙だ。リサに戸籍を調べてもらっているが彼の名はモンドには存在していない。それにあの服…何処の国なのかもわからない、正に異世界から来たかのような風貌をしている。

 

リサによれば禁書庫エリアの口伝の本に同じ名前が見られるらしいが恐らく偶然だろう。

 

「それにしても随分活気があるな。普段からこんな感じなのか?」

 

彼がそう私に問いかけてきた。私は聞かれても問題ないため何でもないことのように答える。

 

「ああ、少し前にファデュイの執行官『博士』がモンドの危機を救ってな。皆、安心しているんだろう」

 

魔龍ウルサを撃退したあの件で結果的に西風騎士団はファデュイに強く出られなくなってしまったがな、と私は心中で嘆いた。

 

さて、『ファデュイ』の言に微かに彼は反応を見せたがすぐに微笑みを携えており真偽の程は定かではない。

 

そうこうしているうちに我等が西風騎士団本部に辿り着いた。

 

「ついたぞ、此処が西風騎士団本部だ」

 

そう言うとおお、と感嘆の声が聞こえてくる。なんだか疑っているのが申し訳なくなってしまったが心を鬼にしてしっかり見定めねばならないだろう。

 

「この中でノエルも交えて事情を聞こうと思う。ついてきてくれ」

 

私は彼の様子を観察しつつ扱いに関しての熟考を開始するのだった。

 

〜〜〜〜

 

そうして案内されたのはさして広くはない部屋だった。本当に尋問室って感じだな。まあその実、書類の山が積まれているのを見るに彼女の執務室なのかもな。まぁ大団長室って書いてあったし実際そうなんだろう。

 

ジンは席につくとまずノエルに事情を問い掛けた。

 

「───それで、何があったんだ?」

 

かくかくしかじか。

 

「……そうか、そんなことが」

 

滅茶苦茶省いたが事これに関してはノエルは俺よりわかっていることも多いだろう。アルバートがスイートフラワーを集めていたところにヒルチャールが襲来、助けを欲している声を聞きつけたノエルはすぐさま駆けつけ…って、この子行動力凄いな。

 

それはともかくそこからは知っての通り、というわけだ。ジンは事情を聞かされたあとで俺を見つつ何かを考えているようだった。

 

「しかし…二種類の元素を使えるというのは本当なのか?」

 

やがて口を開いたかと思うとジンは俺にそう問いかけつつ半信半疑だという目を向けた。まぁご尤もな疑問だろう。

 

どちらにせよ、風元素で敵を貫いたのに、水元素でアルバートの傷を癒やしているのだ。元素が二種類またはそれ以上扱えないと不可能な芸当だと踏んだのだろう。

 

勿論見せてしまって報告された以上下手な誤魔化しは逆効果、なので俺はむしろ開き直ることにした。

 

「…此処からは他言無用で頼めるか?」

 

ジンなら信用できるだろう、と踏み俺はそう聞いた。勿論バラされても問題はない。多少モンドの居心地が悪くなる程度で済むだろう多分。

 

そしてジンは俺の予想通りの答えをくれた。

 

「無論だ。騎士団としてもなるべく住民に不安な思いはさせたくない。私だけでなく他の上層部にも留めておくことにはなると思うが…」

 

「それで構わない」

 

さて、と俺はダミーではあるもののしっかり『神の目』の機能を果たしてくれる物をジンの眼前にある机に置いた。

 

「これは…何元素のものだ?」

 

ジンはその神の目をまじまじと見つめやがてそう言った。

 

そう、俺の持っている神の目にはなんの元素も宿っておらず灰色なのだ。俺はノエルにもこれを見せてから適当なグラスを手に取り水元素で水を生成する。するとどうだろうか。

 

「な…んだ…と…!?」

 

神の目が青色、即ち水元素によって輝いていた。俺がグラスがいっぱいになったところで水の生成を止めるとそれと同時に神の目からは光が消えた。

 

ジンは俺に恐る恐る視線を向けた。

 

「安全面から言って水元素にしたが、どの元素を扱うかによって神の目に宿る元素は変わる」

 

俺の乾いた喉を潤すため、という目的も勿論あるが。俺は生成した水を飲み干し潤った喉で続けた。

 

「つまり、俺は全元素を扱える。炎、水、風、雷、草、氷、岩の全てをな」

 

そう言った。ジンは混乱している様子だったが何処か合点がいった、という表情も浮かべていた。

 

「この目で見ていなければ、にわかには信じがたいが…」

 

ジンはふむ、と顎に手を当て何事かを考えると、

 

「…アガレス殿」

 

「なんだ?」

 

俺はジンに名前を呼ばれたのでそう返す。ジンからは思ってもみなかった言が放たれた。

 

「アガレス殿、ノエルのことを頼んでもいいだろうか?」

 

「副団長さま…!?」

 

今までずっと黙りこくっていたノエルが初めて声を上げた。無論、俺も声を上げたいくらい驚いている。

 

「どういう意味だ?」

 

と俺が聞くとジンはフッと笑う。

 

「以前、リサという私の友人にとある話を聞いてね。その話によれば君は信用できる」

 

それに、とジンは付け加えた。

 

「ノエルは騎士団に入るのが夢なんだ。もし君に鍛えてもらえるなら…」

 

「ふ、副団長さま!それは…アガレスさまに申し訳ないです…!」

 

ノエルはジンの言葉を遮ってまでそう言った。まぁ当然そうなるだろう。だがジンの言動には気になる点もあるのでそれを聞けるようにするにはパイプも必要だろう。

 

そう考えて俺は、

 

「良いだろう。だが念の為俺に監視はつけておくべきじゃないのか?」

 

この話を受けることにした。ノエルも勿論かなり驚いているが、監視の件に関してもジンは少し驚いていたようだが少し笑うと、

 

「安心してくれ。腕利きをつけておくから」

 

とそう言った。密偵もしっかりいるようなので深くは詮索しないことにしておこう。

 

さて、問題はノエルを何処まで育てるか、だが…うん、魔神程度には勝てるようにしておくか。

 

「なんか、不穏な気配を感じるのだが…」

 

変なことを考えているのがバレたらしいので、

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

と誤魔化しておく。

 

それより、と俺はノエルを見た。

 

「ノエル、俺としては問題ないんだがどうする?」

 

そう、本人の意志も大切である。会って数時間の俺を信用しろっていうほうが難しいだろうし…と考えていると、

 

「で、では…宜しくお願いいたします!アガレス師匠!!」

 

などとガッツポーズをしながら言ってきた。どうやら大丈夫らしいが師匠とは…?

 

「師匠?」

 

ジンと思考が被っていたようで顔を見合わせて苦笑し合う。だがノエルは至って真面目なようで、

 

「アガレスさまはわたくしに剣術を教えてくださるのですよね…?ですから、お師匠さまです!」

 

そう言って胸を張っていた。お師匠様、か…まぁ言われて悪い気はしないが。

 

などと考えていると不意に気配を感じてチラッとカーテンに目を向けたが、再びノエルに視線を戻した。

 

カーテンに何かいたようだが恐らくジンの護衛か何かだろうし気にすることはないと考えつつ、

 

「そうか…じゃあ、これから宜しくな」

 

ノエルにそう告げた。するとノエルは

 

「はいっ、アガレス師匠!」

 

そう言って満面の笑みを浮かべるのだった。

 

〜〜〜〜

 

アガレスとノエルが西風騎士団本部から出た後。

 

「どう思った?」

 

ジンは一人でそう呟く。答えるものはない、かと思いきやカーテンの中から籠もった声が聞こえてきた。

 

「───ッハハ、中々面白そうなやつだな」

 

影から現れたのは青い髪に特徴的な眼帯を身につける長身の男、ガイア・アルベリヒである。彼は尋問をしている副団長ジン・グンヒルドの護衛として潜んでいたのだ。

 

そのガイアが若干苦笑しつつ、

 

「ただ、気配を消してる俺にも気づいてたみたいだったぜ?」

 

そう言った。ジンも首肯き、

 

「ああ、カーテンに一瞬視線を向けていたな」

 

そう同意した。そのまま無言の時間が流れるとジンは頬杖をつく。その様子を見たガイアは少し困ったように笑った。

 

「ッハハ、流石の代理団長様もお疲れか?」

 

ジンはその言葉に頬杖をついたまま答える。

 

「…私の選択は、間違っていないだろうか…確かにアルバートとノエルを救ってくれた…加えてあの能力と名前…リサの言っていた通りだが…信じていいものか」

 

実のところジンも半信半疑だったがアガレスに邪悪さを感じなかったため自分とアガレスを信じてみることにしたのだ。

 

ジンの自嘲気味な言葉に対してガイアはただ肩を竦めた。

 

「問題ないさ。俺もヤツが悪いヤツには見えなかったしな」

 

ガイアの言葉に若干だがジンは安心した様子を見せる。だがすぐに目の前にうず高く積まれた書類の山を見て表情を曇らせた。ガイアはそんなジンの様子を見てケラケラと笑いながらその半分を持ち去る。

 

「仕事ぐらい手伝うぜ、副団長サマ」

 

ガイアはそのまま書類の半分を持って去って行ってしまった。ジンはガイアを止めようとしたが既に遅く再び頬杖をつく形になった。

 

「はぁ…先輩がいてくれればなあ…」

 

頬をプクッと膨らませつつ、ジンは誰も居なくなった執務室の中で一人呟いた。

 

 

 

「───新しい風が吹き、詩は世界を廻る。やがて新しい風はこの世界に一陣の風を巻き起こすだろう」

 

風立ちの地にある巨大なオークの木の下で、全身緑色の少年がライアーを爪弾き、詩を詠んでいた。だが突如その詩を止め空を見上げる。

 

「───戻ってきたんだね、アガレス」

 

その呟きはそよ風がどこへともなく運んでいった。

 

「僕達はずっと君の帰りを待っていたよ。まぁ…僕達の関係もすっかり変わってしまったけれどね」

 

緑色の詩人は誰もいないというのになにかに語り掛けている。オークの木の下は影で暗くなっておりその表情を見ることはできない。

 

「でも、どうかな今のモンドは。今のモンドは自由の国、皆が笑いあって暮らしてるんだ」

 

だから、と詩人は続けた。

 

「君も自分のために自由に生きなよ、アガレス。僕はそれを応援するから」

 

ライアーの音色と風の音に、全ての呟きと詩は溶けて消えていくのだった。




調べながら頑張ってますね、はい…原神の歴史って面白いですね…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。