忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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バイト…バイト…ホイサッサー!

今の私の状況を簡潔に述べるとこんな感じです。初出勤が楽しみですね。


第113話 層岩巨淵

さて、根回しも終わったので俺は璃月港で色々と準備をすることにした。旅人はもう既に層岩巨淵に向かって今は他の冒険者や鉱夫達と共に色々と調査をしている最中らしい。指輪の通信が入ったのでなにか想定外のことがあったのかと心配したのは杞憂だった。

 

璃月港で準備することと言えばまぁそんなにあるわけではないんだが念には念を、というやつである。準備するものは主に2つあるのだが、一つは食糧。これは絶対に必要である。後は紙を多めに。

 

俺はこれらのものを準備し終えてから一旦救民団璃月支部に戻って色々と準備を始めた。因みに、モラクスは神としての仕事をしているし重雲も行秋も救民団の仕事で今はいない。つまり今は申鶴が留守番である。

 

「…アガレス殿、我はまだ一人前には程遠いのだろうか?」

 

と、台所で色々と準備をしているとひょっこり顔を出した申鶴が俺へそう言ってきた。どうやら、留守番は申鶴がしていたらしい。俺は若干驚いたのを隠しつつ、申鶴にどう返そうか、と思案する。

 

この子の出自はかなり特殊であることに加えて内に秘められた殺意や害意といった感情、そして普通の人間らしい感情も赤紐によって縛り付けられている。ただ最近は救民団での仕事を通して人々と会話する機会も増えており、それなりに感情を見せるようになってきてはいる。最初に会った時とは最早別人と言っていいほどに彼女は感情を見せるようになった。

 

だがしかしだ。彼女を一人前と認めるということは『赤紐が必要ない』と判断されたということである。それ即ち彼女の内に秘められた凶暴な感情を解き放つということになる。暴走した時止める者が必要になるだろう。ノエルやモラクスなら彼女を止められるだろうが、璃月港にそれなりに被害は出すことになるはずだ。

 

感情が表に出るようになったとは言え感情をコントロールできるかは別だ。そう考えるとまだ半人前、といったところか。

 

俺は料理を作ってキッチンペーパーのようなもので包みつつ申鶴の問に答えた。

 

「仕事はどうだ?」

 

「うむ、かなり慣れてきた。我一人でも最近は依頼をこなせるようになってきた」

 

それはとても良いことだな、と俺は告げる。定期的に救民団の収入を確認しているが、下がったりしていることはない。つまり接客に問題が存在していないことを意味し、リピーターが続出している、ということだ。勤務態度が良いということだな。

 

「そうか。最近は色々な感情を表に出しているとモラクスからも聞いている。良い兆候だな」

 

「そうだろうか…我にはあまり、変化がわからぬが…」

 

「それがわかるようになるまではまだまだ半人前だよ。自分の持つ感情の機微を把握してコントロール出来るようになれば…」

 

俺は申鶴の方を向いて赤紐を指さした。

 

「その赤紐も必要なくなる。きっと自分の感情のままに笑ったり泣いたり怒ったり…或いは恋なんてしてみるのも良いかもしれないな」

 

「恋…我にそのようなものは理解できぬと思う…」

 

少し申鶴は寂しそうな表情をする。その姿が何処か、影と思いを伝え合う前の俺に重なった。俯く彼女を見て俺は少しだけ微笑む。

 

「気持ちはわかる。だが申鶴にはまだまだ時間があるだろう?きっと大丈夫さ」

 

俺は言いつつ、作ったおにぎりを彼女に渡した。持ち運ぶにはやはりおにぎりが最強だろう。申鶴は受け取るとこちらを不思議そうに見つめる。

 

「まぁ、アガレス殿がそう言うのなら…信じてみよう」

 

「申鶴、最後に一つだけ」

 

申鶴は首を傾げると再びこちらを不思議そうに見やる。無機質な瞳だが、心做しか感情が籠もっているように見える。それとこれは…焦燥感か。

 

「稲妻には『急がば回れ』ということわざがあるんだ。まぁ、つまり目的を達成するためには回り道も必要だぞ、ということだ。参考程度に教えておこう」

 

「承知した」

 

俺は準備も終わったので踵を返して玄関へ向かう。

 

「アガレス殿」

 

そして玄関の扉に手をかけたところで申鶴に呼び止められた。俺は振り返り申鶴を見る。

 

「先程の『急がば回れ』という言葉…然と覚えておく。それと…感謝する」

 

申鶴はどうやら、自分が少し焦っていることに気が付いていたようだ。いや、意味を知ってから気が付いた、というべきだろうな。だから俺の気遣いの言葉に気が付いて感謝をしたのだろう。

 

なんだ、俺が思っていたよりずっと感情豊かじゃないか。俺は少し笑うと「謝意は受け取っておく」とだけ言って救民団璃月支部を去るのだった。

 

 

 

作ったおにぎりを持って層岩巨淵へとはるばるやって来た俺はまず口をあんぐりと開けて絶句していた。

 

「いや、十中八九旅人がなんかやったんだろうが…だからってこうなるとは…」

 

俺は思わず頭を抱える。いや、だってさ…昨日今日でこんなに状況が変わるとは思わないわけで…。

 

層岩巨淵地下鉱区に繋がる中央の大きい穴にかけられていた封印が消えてなくなっており、それを成していた筈の岩の杭は地面に突き刺さっていた。

 

「冒険者協会の権限以上のことしてないかこれ…」

 

果たして良かったのだろうか…凝光によれば今回は表層の調査だけだと言っていたのにこの体たらくだ。彼女は今頃煙管をぶち折る位動揺していることだろう。

 

勿論、俺はこうなることも想定しなかったわけではない。だからこそ凝光に許可を取りに行ったのだ。ただ、まさか本当にやるとは思わなかった。

 

「はぁ…案外念には念をって大切だな」

 

俺は自分に呆れつつそう呟いて層岩巨淵へと足を踏み入れた。

 

「止まれ、何者だ…って、アガレス殿でしたか」

 

入り口にいる千岩軍の兵士の目に留まった俺は声をかけられたがすぐに顔パスで通り抜ける。その先には新たに作られたであろう拠点が存在しており、鉱夫や学者、そして千岩軍が慌ただしく動いていた。

 

「勿論、旅人の姿なんかないよな…」

 

今頃彼女は地下鉱区を探索しながら調査しているのだろう。まぁ、封印を解いた理由に関しては問い質さねばならないだろうが…。

 

まぁ一先ず話を聞いてみるとするか。と早速俺は一人の鉱夫を捕まえて話を聞くことになった。鉱夫は玥輝と名乗った。

 

「ああ、あんたの言う旅人はつい数刻前に層岩巨淵の異変を探りに地下鉱区へと向かったぞ。現場責任者が許可を出したからな」

 

やはり旅人は地下鉱区へ向かっていたのか。だが、気になることを言っていたな。

 

「七星の許可は必要ないのか?」

 

モラクスを除けば璃月七星が璃月の支配者だ。その彼、彼女らの許可が必要ないというのはどういうことなのだろうか?理由としては色々考えられるが…と、俺の疑問にしっかりと玥 輝は答えてくれた。

 

「それが、璃月七星には現場判断を委ねられていてな。この場の最高責任者が調査を命じたんだ。つまり、これは七星からの許可も貰ったと考えていい」

 

「そうか…俺の聞きたいことはあらかた聞けたが最後に一つだけ」

 

俺は最高責任者の名前を問うた。すると玥輝は首を捻ってわからないようだった。

 

「いや、すまない、わからないならいいんだ」

 

「あ、ああ。ところで、層岩巨淵で起きてる奇妙な現象は知ってるか?」

 

聞いたことがなかったので俺は首を横に振った。すると玥輝は説明してくれた。

 

「近頃、表層…それも特に地下鉱区への入り口にほど近い場所で意識が朦朧とした状態のヒルチャールが目撃されるようになっていてな」

 

「意識が朦朧とした状態…?外傷とかはあったか?」

 

「いや、聞いた話では外傷も特になく、そして目撃した鉱夫を無視して地下鉱区へ向けて突き進んでいったそうだ」

 

俺は自分の中でその情報を留めておき、礼を言ってから玥輝の下を離れた。

 

旅人のことは心配だが地上で調べねばならないこともあるので地下鉱区へ行くのは明日になるだろう。冒険者協会からの依頼もあるのでなるべく早く旅人に追いつかねばならないだろう。

 

一先ず俺は夜蘭から齎された情報を元に表層で調べることを済ませるべく行動を開始するのだった。




次回、一方その頃旅人は…から始まります。旅人の話とアガレスの話で一話分ですかね。

それと私事ですがナヒーダが出たので育成頑張ろうと思います。
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