忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第115話 陣法除去

南方向の倉庫に向かった私達は倉庫に一人も見張りがいないことを不審がりつつ倉庫の中に入った。

 

「これかな…」

 

私は長机の上に安置されていた青白い石を手に取る。恐らく志璇が言っていた流明石の触媒とはこれのことだろう。私とパイモンは何事もなかったことに安堵しつつ一旦倉庫を出た。すると何処で待ち伏せていたのか、宝盗団が突如その姿を現し襲いかかってきた。私はパイモンを守りつつ宝盗団をなんとか一掃し志璇の下へと帰還した。

 

戦いの最中リーダー格の男がなにやら『クレイトポン』がどうのって叫びながら撤退していったのは気になったけど一先ず志璇へ事の顛末を話すことにした。話し終えると志璇は驚いた様子を見せ、

 

「そ、そんなはずありません。私が見張っていたときは宝盗団なんて一歩も近付けませんでしたよ?」

 

「え、志璇が見張ってたの?」

 

私がそう問いかけると、志璇はキョトンとした。

 

「はい、そうですけど」

 

私とパイモンは顔を見合わせ、溜息を吐いた。

 

「志璇…さっきお前が言ってた、『倉庫は安全』ってこういうことなのか?」

 

パイモンの呆れたような声音とは裏腹に志璇は自信たっぷりに宣言した。

 

「はい、私が見張っているので安全です。まぁそれでも万が一の可能性があるので忠告しましたけどね!」

 

何故そんなに自信たっぷりなのだろうか…と思わず頭を抱えたくなりつつも私は彼女の間違いをやんわりと指摘した。

 

「志璇、ちゃんと今倉庫を見張ってる?」

 

「嫌だな先輩。そんなことに時間を費やすのは冒険者としてあるまじきことです!そんな暇があったら冒険するか先輩と一緒に───あ…」

 

話の途中で志璇が固まった。どうやら、自身の過ちに気が付いたようだ。その証拠に彼女は今恥ずかしそうに顔を赤くしてもじもじしている。そんな彼女の様子に私は頭を抱えパイモンはジト目を向けた。

 

「コホンっ!まぁ私の職務怠慢はいいでしょう」

 

「良くないぞ!」

 

「準備は整いましたし七星の陣法を解除しましょう!」

 

沐寧によれば陣法の要となっているのは『盤鍵』と呼ばれる巨大な岩の杭のようなものだ。アレをなんとかできればきっと陣法は解除できると思うのだけど、志璇はどうやら『盤鍵』については詳しく知らないらしい。

 

ただ、付近にあるかご状岩元素重合体からなにかわかるかもしれないとのこと。沐寧も言っていたけど総務司はこの重合体が層岩巨淵の基盤に蔓延っていることで悩まされているみたい。

 

志璇によれば、璃月七星八門のうちの輝山庁が、この重合体は周囲から岩元素を吸収し『盤鍵』の構造を少しずつ削っており、このままではどちらにせよ『盤鍵』が陣法の強さに耐えきれなくなり崩壊。そして下にいる『もの』が出てくるとの結論を出したそうだ。

 

「おかしなことに、まるで意思を持っているかのようにこの陣法を破壊しようとしているみたいです」

 

「うえぇ…なんか怖いぞ…!その『岩元素重合体』はどうにかできないのか?」

 

パイモンが怯えながら志璇にそう問いかけたが、志璇は首を横に振る。

 

「半月に一度、掃除によって除去はできますがすぐにまた同じものができてしまって…しかも最近はその頻度も増えていまして…どうにかするのは多分難しいでしょう」

 

志璇の言葉を聞いて私は少し考える。七星だって表層だけの調査をしたってなんの意味もないことは知っているはず。ならもしかして私達がこうするのも想定済み…いや、寧ろそうすることを望んでいるのでは?

 

「まぁ一先ずあの重合体に衝撃を与えて『盤鍵』に影響を与えてみましょう」

 

志璇と一旦別れて私は『かご状岩元素重合体』の前までやって来た。一旦岩元素重合体を剣で殴りつけてみたけど特に反応はなかった。

 

ただ、近くに岩の種を持つ鉱石があるのでそれを使ってみることにする。原理としては石灯籠のようなものに岩の種が吸い込まれるのと同じだ。不思議なことに試してみると案外いけた。あとはこの状態で剣で殴りつけると…。

 

少し腕に響く鈍い感覚と共に岩元素重合体からなにかの欠片が一直線に『盤鍵』へ向かっていき衝突。『盤鍵』の高度が下がった。

 

「よしっ、この調子でやろうぜ!」

 

パイモンの言う通り、私は岩元素重合体に同じようにして岩の種を設置。『盤鍵』を地に落とした。衝撃で地面が少し揺れたけど、陣法の力は確かに弱まっているようだった。

 

念の為志璇に確認してみると『盤鍵』はしっかり破壊できているらしい。見た目的には結構原型を留めているけど。

 

「でもこれって、公有財産の破壊じゃないの?」

 

そう、例え七星が私達の行動を予見していたとしてもこれは公有財産の破壊であることに変わりはない。けど、そんな私の心配とは裏腹に志璇はなんでもないことのように言った。

 

「この『盤鍵』は事前に沐寧が届け出た『破損届け』によって全て破壊されたことになっています。なので大丈夫ですよ」

 

私とパイモンはホッと安堵の息を漏らした。そうしていると志璇がゴソゴソと懐から紙を取り出した。

 

「壊すべき『盤鍵』は残り4つです。うち3つをこの簡易図に書き記しておきました。お役に立てば良いのですが…」

 

志璇から渡された地図は層岩巨淵の地図であり、3つの点と矢印が書いてあった。現在地からこの矢印の通りに向かえばいいようだ。

 

「それと残りの一つですが位置の特定ができていないんです。その柱のあった鉱洞が水没してしまいまして…」

 

水没かぁ…アガレスさんならなんとか出来るんだろうけど、残念ながら今はいないし。思えば淵下宮の時もアガレスさんがいたらって思うことが一杯あった。なんというか若干依存気味だね。

 

「一先ずこの3つの『盤鍵』を同じように破壊して私のところへ戻ってきて下さい。4つ目に関しては先輩が頑張っている間に私が考えておきます。あといい加減私が倉庫を見張ってないと沐寧にどやされてしまいますから…」

 

志璇はそう言ってはにかんだ。まぁ彼女のことだからきっとなにかしらの方法を考えてくれると思う。『盤鍵』を壊す方法を思いついたのだからきっと水を何とかする方法くらいなんとかできるはず。

 

「わかった。志璇、また後で」

 

私はそのまま志璇と別れて地図に書かれている通りに『盤鍵』を破壊していった。最後の場所は宝盗団に占拠されていると思ったらなにやら怪しさ満点の千岩軍だったりしたけれど一先ずは全てなんとかすることができた。

 

ということで倉庫にいるはずの志璇の下を訪ねると彼女は入り口で首を上下に振っていた。なにか音楽に…そう、それこそ辛炎のロックにノッているのかと思ったけど、ただ眠いだけらしかった。

 

「志璇〜!戻ってきたぞ〜!」

 

「はっ!敵襲ですか!!逃げます!!」

 

逃げないで欲しい。

 

志璇は数秒寝惚けていたけどすぐに私達だと認識して姿勢を正した。

 

「あっ…先輩、おかえりなさい。終わったんですね?」

 

「おう!全部ぶっ壊してきたぜ!!」

 

パイモンが楽しそうにそう言った。だが、そんなパイモンの様子とは裏腹に志璇が突然人差し指を唇に当てて「しーっ!」と言ってきた。

 

突然の不意打ちにパイモンが固まったので、私が聞くことにした。

 

「どうしたの?近くに敵でもいるの?」

 

志璇は首肯く。パイモンが不安そうに周囲をあからさまに見回し始めたが、まさかこんな近くにいるわけがない。いるなら志璇はこんなところで寝てない。

 

「敵、というより地面が揺れているのを感じませんか?封印が緩んだので付近の岩も不安定になっているんです」

 

「大地が揺れてる?オイラ、全然感じないぞ…!」

 

パイモンの発言に私はジト目を向けながら、

 

「パイモンは飛んでるんだから感じるわけ無いでしょ」

 

パイモンは衝撃を受けたのか固まった。そうこうしている内に、地面の揺れが更に大きくなった。

 

「うわぁ!すごく揺れてる!!立ち上がることすらできないぞ!!」

 

「パイモンは元々立ってないでしょ!!」

 

半ばヤケクソ気味に私はツッコんだ。ツッコみつつバランスを崩していた志璇を支える。一分程ですぐに揺れは収まった。三人で安堵の息を吐く。

 

「ふぅ…地表にいたから良かったですが坑道にいたら大変なことになってましたよ」

 

「沐寧が地震をオイラ達のせいにしなきゃいいな…」

 

パイモンが何処か遠い目をしながらそう呟いた。まぁ確かに…そうしないことを祈りたい。

 

「それより『盤鍵』は残り一つです!方法も考えつきましたし、早速向かいましょう!!」

 

志璇のその言葉に私とパイモンは首肯いた。

 

 

 

層岩巨淵の最後の『盤鍵』がある坑道は志璇の話では水没していたはずだが…。

 

「あれ?水がないぞ!」

 

そう、水没していたはずの坑道は水没していたのが信じられないほど一滴も水がなかった。

 

「もしかしたらさっきの地震で地下の何処かと繋がってそこに水が流れ込んだのかもしれません。今のうちに破壊しましょう」

 

私達はそのまま坑道の奥まで入っていき同じ要領で『盤鍵』を破壊した。最後にベビーヴィシャップ・岩が上から降ってきたが壊された『盤鍵』の下敷きになってしまった。

 

なにはともあれ全ての『盤鍵』を破壊することができた。

 

「すごいです先輩!これで層岩巨淵を封印する陣法も消滅したはずです。いつでも地下の探索を開始できますよ!」

 

「その前に沐寧に報告しなくていいの?」

 

私が冗談めかしてそう志璇に告げると志璇はうぐっと痛いところを疲れたかのように仰け反った。

 

「そうでした…ふええ…あいつ、どうせまた私を責めるに決まってます…」

 

「つべこべ言わず戻ろうぜ!」

 

志璇と共に拠点へと帰還した私達は早速沐寧にぎゃあぎゃあと言われていた。

 

「志璇、お前結局倉庫を見張っていないじゃないか。それで深刻な事態を引き起こしたら責任を取れるのか?」

 

「加えて、七星の陣法を勝手に消滅させるなど何事だ。これに関してはどう落とし前をつけるつもりだ?」

 

「しかもアレはくどくどくどくど───」

 

10分ほどの沐寧の説教を経て。

 

「まぁやってしまったものは仕方がない。七星からの非難を待とう」

 

つまり許されたということだった。沐寧の下を離れた私達は志璇と話していた。

 

「これから人を集めてすぐに地下へ向かいます。今回の目的は地下の異変、そして地形の調査です。可能であれば異変を取り除け、とも言われています」

 

志璇はそう告げ、私とパイモンを見た。

 

「それで先輩…我々の準備はとっくにできていますが…先輩はどうですか?」

 

志璇の問に対する私の答えはもう決まっていたけど一応パイモンの意思を確認するべく視線を向けた。パイモンもこちらを見て笑いながら首肯いていた。

 

なら、答えは一つ。

 

「行こう、層岩巨淵地下鉱区へ」




志璇「せっかく考えた水没した坑道を突破する方法が完全に無駄になりましたね…」

旅人「因みにどんな方法だったの?」

志璇「ゴリ押しです」

旅人・パイモン「「………」」

志璇「…?」

なんてやりとりがあったとか。

長くなりましたが次回からはアガレスの話に戻ります。
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