「あれ、ちょっとまて…!」
西風騎士団本部を出た俺は立ち止まってとあることを思い出す。
「どうかなさいましたか?アガレスさま」
ノエルは突如立ち止まった俺を見て心配そうに首を傾げた。そう、俺が思い出しと事とは…。
「訓練するにしたって場所がない…!」
と、いうことである。いや、まぁやろうと思えばその辺の野原とかでもできるが土地云々や万が一地形を変えたりなんてしたらちょっと…いや、かなり怒られるだろう。ジンもそうだが…多分アイツにもな。
「それでしたら、団長さまに頼んで訓練場を貸してもらいましょう!」
フンスッ!と鼻息荒く握りこぶしを作りながらそう言うノエル。どうやら気合いが入っているらしいが確かに良いアイデアではある。
だが、
「とりあえず…訓練に関しては明日からにしよう」
俺は意気込むノエルには悪いが…と思いつつもそう言った。ノエルはというと目尻を下げつつ、
「えっ…どうしてでしょうか…」
とそう言った。やはりというべきか落ち込まれてしまったようだ。しかしこちらも退けないのだよ。
ということで俺は人差し指を立てながら理由を説明する。尚人差し指はおまけである。
「まず第一に、今のノエルの実力をみたい。そしてそれは万全の状態でなくちゃならないんだ。ノエルはアルバートを守って片手剣を振り回していただろう?流石に疲れてるだろ?」
つまりはこういうことだ。今日はヒヤヒヤしただろうし十二分に休むべきだろう。心身共に疲労は大きいはずだからな。
ただ、ノエルはなおも反論しようとするので俺はもう少し言葉を継ぎ足すことにした。
「まだやれる、なんて言うなよ?人間は休息がなければすぐ壊れるものだからな。それに、さっき引き受けた手前騎士団本部に『訓練場ないから貸してよー!』なんて口が裂けても言えん」
「は、はぁ…」
前半はともかく、後半になるとノエルはよくわからない、といった様子だった。まぁ実際後半は個人的な感情だしな。
さて、訓練ができないとなればやることは一つだろう。そう、勿論腹拵えである。俺がノエルに有名な飲食店を聞くと、
「はい!商業区に『鹿狩り』が、あとは『エンジェルズシェア』だったり、『キャッツテール』もですねー。お腹を満たすならオススメは『鹿狩り』です」
そう答えてくれた。3つあるうち2つは飲食店というより酒場らしいのでどちらにせよ『鹿狩り』に行くしかないだろうな。
「よし、じゃあそこに「───ノエル様ー!!」……なんだ?」
俺が『鹿狩り』を一際大きい声が辺りに響き渡ったかと思うと、見覚えのある男───尚アルバート───が走ってこちらへ向かってきた。それを見たノエルが、
「あ、アルバートさま!安静になさってください!」
と心配の声を上げる。だかアルバートはそんなことお構いなしに俺を跳ね除けると、
「そんなことより、ああ、麗しのノエル様…こんな僕を助けて下さるなんて…!」
そう言ってノエルの眼前に跪いて祈りを捧げるように手を合わせるアルバート。俺は溜息を吐きつつ、跳ね除けられた際に乱れた服装を直しつつとりあえずアルバートに近づき声をかける。
「あー、アルバート、さん?ノエルが困っているからその辺に───」
「おお!まさかここにもノエル様の魅力がわかる方がいるとは…!ノエルファンクラブ会長にして会員No.1…このアルバート共に、ノエル様を推さないかっ!」
すっげえ圧だ…これがオタクというやつか。俺は思わず仰け反りつつ助けを求めるようにノエルを見ると、
「あ、あの、アルバートさまぁ…」
残念だが目を回している。俺は再び溜息をつき何とかするべく口を開く。
「悪いな…俺はノエル様親衛隊隊長にして親衛隊員No.1…アガレス。ここを退くわけにはいかない」
因みに全部嘘である。俺の言を聞いたノエルはというと先程よりも困惑しているようだった。あとでケアするべきだな、なんて考えていると、
「フッ…君にも退けぬ立場があるのは理解するが…僕の愛に勝てるかな…!!」
アルバートがそう言った。俺は取り敢えず内心何度目かわからない溜息をつきつつ、
「望むところだ…」
とそう言った。ただまぁ、充分気は引けただろうしこれ以上は時間の無駄かもな。
「ノエル、ちょっとすまん」
「ふぇ…?きゃっ!」
俺は一言断りを入れてからノエルをサッと横抱きに抱え騎士団本部の屋上まで一気に飛び上がった。それを見たアルバートは、
「なっ!逃げるか卑怯者!!と、いうか女神に触るんじゃない!!」
などとよくわからないことを言っている。
「真面目な話をすると腹が減ってるんだ。腹拵えをするだけだ」
ので、意味わからないやつには更に意味わからないことを言っておくことにする。
「と、突然シリアスになるなんて聞いてないぞ!!」
事実、アルバートは俺の言葉に一瞬考え込むような素振りを見せたのでその隙に俺は屋根の上を伝って路地裏に飛び降りる。ちなみに、『鹿狩り』の真裏だ。
「ある程度離れはしたが…大丈夫だろうか」
俺はアルバートがいるであろう方向に視線を向けつつノエルを優しく地面へと降ろした。ノエルは恥ずかしかったのか顔を逸しつつ俺に礼を言った。まぁ、自分でどうすればいいかわからなかっただろうし仕方がないだろう、ということで軽く首肯くだけに留めておいた。
俺達がそのまま路地裏から出ると本日二度目の活気のある街並みが目に入ってきた。多少時間は経っているがその賑わいに差はないように見える。
さて、そのまま俺は辺りを見回し『鹿狩り』を発見したのでノエルと共に店の前までやってきた。
「いらっしゃいませー!あら?ノエルちゃん!こんにちは!」
看板娘…?は俺達、というよりノエルを見て嬉しそうにはにかんた。
「サラさま!こんにちは!なにかお困りごとはございませんか?」
対するノエルは、『鹿狩り』の看板娘───サラ───に社交辞令とばかりに…いや、彼女の場合本気で聞いているのだろうが、少し心配になるレベルだがまぁとにかくそう聞いた。
そしてサラもそれを理解しているからか苦笑しつつ、
「あはは、大丈夫だよ!それより、そちらの方は?」
そう言って軽く受け流すとやはり俺に視線をぶつけてくる。まぁ気になるだろうしな、と考えつつ一応丁寧に対応することを決める。
「どうも、はじめまして。私はアガレスという旅の者です。訳あってノエルさんと共に行動させてもらうことになりまして、まずは腹拵えを、と」
ノエルがギョッとしたように目を見開く。俺の口調がそんなにおかしかっただろうか?いや、まぁおかしいというより違和感しかなかったんだろうな。
「あ、アガレスさま…?」
「初対面だからな」
なんて会話をしているとサラがこちらにジト目を向けながら、
「あのー、丸聞こえなんですけど…」
とそう言った。いや、うん、ごめんとしか。
「あ、あの…アガレスさまはわたくしを助けてくれたんです!とってもいい方なんですよ!」
ノエルはその言葉を聞いて俺が疑われている、と感じたのか俺のプレゼンを始めた。効果はあったらしくサラは少し微笑んで、
「アガレスさんですね?ノエルちゃんを救ってくださり、ありがとうございます。口調はいつもの通りで結構ですよー」
と言ってくれた。うーん、しかし中々砕けた看板娘だな。まぁ、悪くはないが。
俺も少し微笑みを返しつつ「そうさせてもらおう」と返事をした。
で、だ。
「毎日毎日『今日のおすすめは、ステーキですよー!』って…もう言う必要ないんじゃないかな」
俺がボソッと言うとノエルもサラも不思議そうな顔を浮かべたので、
「いや、こっちの話だ。ステーキ2つ頼む」
そう言って誤魔化しつつステーキを頼んだ。
「はい、毎度〜!」
サラが店内へ入っていくのを見つつ俺とノエルは席に着き料理を待つ。待っているとノエルが俺に話しかけてきた。
「あの、先程の口調は…」
まぁ無論気になるとは思っていたので俺は、
「なに、それなりに長く生きていてな。自然と、そういう話し方も身についてしまったんだ。あまり気にしないでくれると助かるが、そのうち話すことになるだろうな」
そう言って若干ぼかしつつ答える。だがノエルは満面の笑みで、
「はいっ!」
と返事をするので俺は不思議に思って「なんで嬉しそうなんだ?」と思わず問い掛けてしまう。迂闊だったな、なんて考えている俺とは裏腹にノエルは上品に笑った。
「アガレスさまがわたくしを信用して下さっているのが嬉しくて…」
その言葉を聞いて俺は無言になる。
『信用』か…確かに俺はノエルを…いや、人間そのものを信用している。ある意味では彼等の行動はある程度予測しやすく、世界を壊す心配もあまりない。
俺はそんな利己的な考えを隠すように手を伸ばしノエルの頭に手を置いた。
「…ノエルはもう少し人を疑うことを覚えないと、そのうち手痛いしっぺ返しを喰らうぞ?ま、その優しさがノエルの良いところでもあるがな」
やっとのことで返せた言葉がそれだった。
いや、思い出したから忠告している、の方が正しいだろうな。昔から優しすぎて人を疑いきれず或いは争えず滅んでしまった存在を何度も見てきた。
中でも人間に裏切られた魔神の末路は…悲惨なものだったしな。
「ふぇ…!?ああああああの!アガレスさま!?」
俺はノエルが動揺しまくっているのを無視して続ける。
「ノエル、お前は本当に優しい子だ。だからこそ少しだけ、本当に少しだけでいい。人を疑うことを覚えるんだ。さもないと…」
「さ、さもないと…?」
「お待たせしましたー!」
良いところだったのだがサラがステーキを3つ運んでやってきた。残念なことに話しの続きはまた今度、となってしまったらしい。
というかステーキが3つ運ばれている時点でおかしいだろう、などと思っていると突如辺りに声が響き渡った。
「───よっ、俺も混ぜてくれないか?」
俺は後ろ側から聞こえた声に座ったまま振り向くとそこには長身で右目を眼帯で隠している男が立っていた。ノエルはその男を見るやいなや、
「が、ガイアさま!はいっ!勿論です!」
とそう言って許可を出す。ガイアと呼ばれた男は人が良さそうな笑みを浮かべ近づいてきて席に着く。
ふむ…間違いなく上辺だけの笑顔だとはいえ、ノエルが良いと言っているんだし悪いやつではないんだろう。まぁ断言はできないがな。
「アンタがアガレスか。ノエルが世話になったな」
ガイアはノエルに視線を向けながらそう言う。心配というより異常がないかを探っている視線だなアレは。
俺は少し口の端を持ち上げて笑みを作ると、
「それほどでもない。アンタこそ、さっきは俺からジン団長を守ってくれてありがとよ」
そう言った。気のせいかと思ったがジンと話しているときにカーテンの裏に潜んでいたのは彼だろうと踏んでカマをかけてみたのだ。
暫しの沈黙の後。
「ッハハ」
「ははは」
俺達はお互いに笑った。どうやら合っていたらしい。
「いや、やっぱ気付いてたか。一瞬こっちを見ただろう?」
ガイアは面白そうな表情を浮かべてそう言う。それにしてもあの一瞬の交錯でわかるとは、ガイアという男は中々食えないやつらしい。
取り敢えず俺は改めてガイアに名を名乗ることにして口を開く。
「改めて俺はアガレス、旅の者だ」
「俺は西風騎士団騎兵隊長ガイア・アルベリヒだ。よろしく頼むぜ」
名乗るとガイアも名乗った。なんだかいい声だなぁ、なんて関係ないことを思いつつステーキを自分の前に持ってくるガイアを見て、
「んで、ステーキが3つってことは、ガイアのか」
思わずそう言った。ガイアは苦笑を浮かべると、
「すまんすまん、俺も徹夜の任務で腹減ってるんだ」
とそう言った。それを聞いて俺たちの会話の邪魔をしないように黙っていたノエルが我慢ならん、とばかりに口を開く。
「ガイアさま、長らく何も食べていらっしゃらないのであれば、ステーキよりも軽いお食事の方が…」
ノエルの言葉に俺も首肯く。しかしガイアは少し笑うとノエルの髪をわしわしと撫でる。
「ノエルの気持ちはありがたいが、今はステーキの気分なんだ。それに頼んじまったもんは仕方ないだろ?」
そう言われたノエルは渋々、といった形で引き下がった。俺は苦笑すると、
「そろそろいただこうか」
とそう言うのだった。
それにしてもステーキか、と俺は目の前に置かれたステーキを見やる。
おすすめというだけあっていい匂いがするし見た目も良い。俺は一口サイズに切り取って口に運んだ。ふむ、余分な肉汁が既に肉から逃げているからか汁っぽく感じず、また味も逃げていないので肉本来の旨味も感じられる。いや、これはむしろ凝縮され深い味わいに仕上がっている。塩コショウでここまでの味の深みを出せるとはな。
そう考えて俺は一言「これは、美味い」と呟く。俺はもう一口食べてからノエルとガイアの様子を見やる。
「ん〜!美味しいです〜!」
「…ッ」
ノエルは普通に美味しそうに食べていたが、ガイアは苦しそうだったため俺は苦笑する。
そのまま食べ続けてステーキを早めに食べ終わった俺とノエルだったが、ガイアは何とかステーキを食べ終わった後よろよろと椅子を立った。
「フッ…予想外だぜ…」
「いや、行動不能になったわけでもなかろうに…」
思わずツッコミを入れたが本当に辛そうだった。やはり長らく何も食べていないのにステーキは無理があったらしい。
「すまんが、ちょっと休んでくるぜ…じゃあ、またな」
ガイアはそう言ってよろよろと去って行った。
…あいつはいいやつだった。
「さて、俺達も行くか」
ノエルが首肯いたのを見てから俺は席を立ちサラの下に歩いて行って、
「ステーキ、美味しかった。また来る」
とそう言って懐に入っていたなけなしのモラを支払った。
サラは満面の笑みで「またのご利用お待ちしております!」と言っていたため軽くお辞儀をしてから『鹿狩り』を離れた。
ステーキの余韻に浸りつつ俺は昔のことを思い出していた。
───ここからここまで、全て買うに値する。
───ちょっ、お前まだなんか買うのか!?これ以上は俺の財布が空に…ッ!
───ふむ…モラはない。
───あー、俺が払うからよ。これで足りっか?
───この壺も…。
───やめろー!!
とかもあるし。
───アガレスぅ〜!僕このお酒飲みたいなぁー?
───お前…前にも酒場の代金代わりに支払ってやっただろうが!!
───えー、でもさー!あ、店主さーん!このお酒もういっぽーん!
───やめろー!!
昔懐かしい思い出に浸っていると、
「───っふふ」
「アガレスさま?」
思わず笑ってしまう。すると隣を歩くノエルに怪訝そうな表情をされたので俺は軽く説明した。
「いや、昔にも代金を建て替えたことがあってな。ま、モラの量が比にならないが」
俺の長年貯めに貯めた貯金、というか貯モラが消し飛んだがな!と内心で悪態をつく。
「ご友人の、ですか?」
「…ああ、長年のな」
言いつつ改めて本当に長い付き合いだと実感する。そういえば、風神は今いないんだろうか?と気になったのでノエルに、
「そういえば、風神はいないんだな」
そう問いかけた。するとノエルは首を縦に振りつつ、
「はい。『神の去った地』とも呼ばれていますね」
そう言った。あの風神が…あのバルバトスが理由もなくモンドを見放すとも思えない。まさか…などと考えていると、
「アガレス〜!」
と突如俺を呼ぶ聞き覚えのありすぎる声が聞こえたかと思うと、俺を背中からの衝撃が襲う。俺は突然の衝撃に思わず倒れかけるが……いやまて酒クッサ!!
「アガレスー会いたかったよぉー!」
「待て!誰だ!!」
会いたかった、とか言われてもよくわからないので俺は後ろに引っ付く酒呑みを引き剥がしてから空中に飛び上がり一回転して体をひねり地面に着地した。
そして俺の眼前には全身緑色の吟遊詩人風の少年がおりその服は兎も角、風貌には見覚えがあった。
「「………」」
目が合ったので。
「……」
「…!?」
そっと逸らす。
「なんで僕から目を逸らすのさ!」
バルバトスは引き剥がされたままの体制で器用に憤慨しているようだ。それを見て俺は物凄く大きい溜息をついた。
「はぁ…久し振りだな───バルバトス」
「うんっ、久し振りだね〜アガレス」
再び緑色の少年───バルバトスが俺に抱き着いてくる。正直鬱陶しいし酒臭いが、なんだかんだ旧友との再会に心を熱くせずにはいられなかったのだった。
アルバート、まさかのバーバラファンクラブならぬノエルファンクラブを立ち上げる()
これによってアルバート、ストップ!のデイリーの内容が変わってきますね。
追記 : 描写を増やしてたら文字数がッ!!
人類が、増えすぎた文字数を宇宙に移民させるようになって既に半世紀…(?)