忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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ただの過去回みたいなもんです。

最後に補足ありますが読まずともよい…?かな。いや、そんなことないですね。


第118話 実は…

意味ありげな笑みを浮かべたダインスレイヴの様子から俺の予想が外れていないことが確定した。魂の奥底から沸々と湧き上がってくる怒りと悲哀、そして在りし日の記憶が俺の脳内を支配しかけていた時、ダインスレイヴが口を開いた。

 

「…幾千年も前、いやそれより前の遥かな昔。俺は同じく俺として生を受けた」

 

彼は幾千年以上も前にカーンルイアに似たような国に生まれ、ほぼ同じ生き方をしていたことを500年前突然思い出したという。奇しくもそれは不死の呪いをその身に刻まれた時だったらしくそんな時に俺を思い出したのだとか。

 

俺の全身の痛みが引くことはなく少しずつ酷くなっていたところで一旦壁際へ移動し座り込んだ。ダインスレイヴは無感動な表情で俺を見据えていた。

 

「…貴様があの時のことを全て忘れているのは無論俺とて把握している。思い出せるとも思ってはいない。だがここへ連れて来たのには訳がある」

 

不思議と意識が遠のく感覚があった。ダインスレイヴが何かをした様子はなかったので恐らくこの場所自体に何らかの力があるのだろう。

 

「今から貴様は、己の人生をもう一度体験することになるだろう。『忘れ去られたこの地』には…忘れ去られるはずだったものが記されているからな」

 

ダインスレイヴのその言葉を聞いてから俺の意識は暗転した。

 

 

 

かと思えば懐かしい感覚だった。いつぞやモンドの囁きの森で復活する時のことを思い出していた。

 

「───貴様が黙りこくるとは珍しいな?」

 

直後、俺の意識は浮上し眼前には酒の入ったジョッキを持つダインスレイヴの姿があった。俺は首を傾げつつ、

 

「何、少し考えてごとをしていただけだ。何一つ問題など存在しない」

 

「はぁ…貴様の酒癖の悪さと酒好き、それとその謎の自信には素直に感服している」

 

ダインスレイヴが溜息をつきながらジョッキを傾け口の中に酒を流し込んでいく。俺はそんな彼を見ながら、

 

「ふむ、褒め言葉は素直に受け取っておくとしよう」

 

「…皮肉だが」

 

「こちらこそ冗談だが」

 

と言いつつ俺も酒を飲む。

 

さて、このように俺はダインスレイヴと中々に親しい仲だったのだ。カーンルイアという神を持たざる国に生まれたダインスレイヴと、テイワット大陸のあるこの世界に生まれ落ちた国を持たざる神アガレスこと俺は…まぁそれなりに境遇が似ていたこともあってすぐに仲良くなることができた。勿論、カーンルイアは強大な科学技術を笠に周辺国家への圧力を強めていたため『八神』としても見逃すわけにはいかず、俺も気軽に遊びに来られなくなってしまった。

 

まぁなんとかそれでも他の神を出し抜いてダインスレイヴとこうして酒を酌み交わしている。不意に、ダインスレイヴが俺を見て口を開いた。

 

「…忘れたか?貴様には大事な使命があるのだろう」

 

「ふむ?」

 

ダインスレイヴの言葉に対して俺はおどけたような声を出す。勿論表情はほぼ変わっていない。

 

「とぼけたとて無駄だ。『八神』が協議の末カーンルイアに実力で圧力をかけようとしているのは知っている」

 

バレバレだな、なんて思いつつ俺はなんでもないことのように返した。

 

「私個人の考えとすれば特段、この国がどうなろうと、俗世の七国がどうなろうと知ったことではない。私は国を持たざる神であり最も人間というものの理解からはかけ離れた存在だからな」

 

「…答えになっていないと思うが」

 

「そうか?まぁそうかもしれんな。人間が理解できぬものを忌避するように、私も人間の感情などほぼ理解はできん。いや、出来ようはずもない」

 

俺はジョッキの中の酒を全て飲み干し、席を立つ。

 

「だから『八神』やお前に愛情と呼べるものが備わっていても、その他に愛情があるわけではない。私にとって大切なのは同類のみだ。そういう意味では魔神達の方が人間より好感が持てたのだが…残念なことにアレらとは相容れなかった。そういう意味ではカーンルイアも似たようなものではある。まぁつまり…難しく考える必要はない。私の立場自体、この世界では不明瞭なものだからな」

 

俺は言うだけ言ってそのまま踵を返してその場を去ろうとすると、

 

「…まぁいい。というか貴様、金を払え」

 

とダインスレイヴに呼び止められた。だが残念ながらここカーンルイアはモラを使えない。

 

「私がここの通貨を持っているわけがないだろう。少し考えればわかるだろうし…何より私は何度もお前にそう告げているはずだが?」

 

持ってるわけがない。昔からずっとダインスレイヴに払ってもらっているのだから。つまり、ダインスレイヴは俺の友人であり財布でもあるのである。

 

「チッ…言うと思っていたが聞いた俺も俺だな…」

 

俺は悪戯っぽい笑みを浮かべてダインスレイヴの下を去るのだった。

 

───この頃の俺の様子からわかるように…いや、というより一人称、そして話し方からもわかるように、酒を飲むと俺の表層意識を支配するのは彼、つまり『俺』自身だ。古の巨神などと名乗ってはいたが、ただこの世界に生まれるのが一番早かっただけである。恐らくだが、自分が何者なのかを隠すための嘘、或いは冗談だと考えられる。

 

ただ旅人達の前で出てきた時に『古の巨神の加護を受けたこの者』と言っていたので何らかの関係がないとも言い切れないが…実際のところはこれからわかるだろう。

 

場面は変わりカーンルイアの破滅の場面だ。俺は血を流すダインスレイヴを抱えあげており、ダインスレイヴは俺の上腕を鷲掴みにしていた。

 

「…ミを……む…ッ」

 

ダインスレイヴの口からは言葉ではなく暗号のような言葉が紡がれる。だが、しっかりと俺にその思いは伝わっていた。

 

「…わかっている。私とてそのつもりでここへ来たのだからな」

 

俺は動かなくなったダインスレイヴを横たえ、カーンルイアを去った。

 

───やがて場面は移り変わり、俺の目の前には雷電影、そしてモラクスとバルバトスがいた。場所は璃月港付近に位置する天衡山の頂上である。皆一様に溢れ出る漆黒の闇を見据えていた。

 

「アガレス、これは…」

 

バルバトスが若干驚きの混じった声を上げた。

 

「…ああ、間違いなくカーンルイアの方向からだろう。私が独自に調べていた『黒土の術』というものの効果だとは思うのだが…それにしては…」

 

俺にしては珍しく困惑していた。『黒土の術』というものの暴走によって見過ごせなくなった天空の島の神々がカーンルイアを攻撃し始めるのでは、という予想を立てていた俺や他の『八神』にとってこの状況は想定外だった。

 

加えて肌がひりつく程の殺気と怨念がテイワット大陸全体を包み込んでいるのを感じた。

 

「…これは少し不味いな。お前達は早く国に戻って戦闘準備を始めた方が良いだろう」

 

バルバトス、モラクス、影の三人が俺を見る。既に草神、水神、炎神、氷神は恐らく戦闘態勢になっているはずだ。よほどのことがなければあの氷の女皇が負けるとも思えん。恐らく多少の時間は稼いでくれるだろう。バルバトス、モラクス、影の三人はすぐに自国へ戻って準備をするようだった。これでなんとかなるだろうと考えて俺も『八神』のために周辺国家を護るべく行動を開始した。

 

だが、モラクスが慌てて俺の下に戻ってきた。何事かと思えばモラクスの口から出たのはとんでもない妄言だった。

 

「…アガレス、あの闇に既にテイワット大陸の半分以上が飲み込まれている。残っているのは最早モンド、璃月、稲妻の三国だけだ。スメールは…保ってあと一時間と言ったところらしい」

 

「…確かか?」

 

天衡山は高い山ではあるがスメールまで見えるほどではないのだ。だから現在のスメールの状況はわからない。モラクスの話によればスメールから来た伝令が息も絶え絶えになりながらも伝えてくれたらしい。

 

「一先ず私はスメールに向かう」

 

「行くのか?」

 

「ああ」

 

「では俺達は俺達のできることをしておくとしよう。お前なら大丈夫だとは思うがくれぐれも…死ぬなよ」

 

俺はモラクスのその言葉に一言だけ「お前達もな」と告げると一先ずスメール方面へと風元素で浮かび上がり飛んでいくのだった。

 

 

 

───結論から言おう。俺はこのスメールに押し寄せた闇を止めることはできなかった。闇には実体など存在していないのだから当然だ。元素を使ったところでその元素ごと黒く塗り潰されていくのだから当然止める手段など存在するはずもない。

 

まぁ、止めたのは俺じゃなく、他の神でもない。『終焉』の余波だ。カーンルイア辺りに衝突した他世界の余波で溢れ出た闇が一時的に世界の外へ流出したのだ。そのため猶予ができたのである。

 

勿論止まったとは言え残った三国の被害は甚大だ。神達も全員軽くはない怪我を負っている。雷電眞は雷電影を庇って重傷を負っており動ける状況にはなかった。

 

再び天衡山へ集まったバルバトス、モラクス、雷電影、そして俺の四人は作戦会議を始めようとして…影に制された。やがてバルバトスが口を開く。

 

「…僕から一つだけ提案があるんだ〜」

 

俺を除いた三人が首肯き、バルバトスが風元素で俺以外の三人を浮かび上がらせた。俺は思わず面食らい動くことができなかった。

 

浮かび上がった三人が口々にこんなことを言う。

 

「皆のことを…この世界を、お願いします、アガレス」

 

影が悲しそうに笑みながらそう言った。

 

「盤石もいつかは…土に還る。お前に後は託す…友よ」

 

モラクスが俺を心の底から信頼しているような眼差しと笑みを浮かべた。

 

「僕らでは止められなかったこの『終焉』を…君なら止めてくれるよね、アガレス」

 

バルバトスがはにかみながら俺にそう告げる。俺はその瞬間彼等が何をしようとしているのか、それを察した。直後、三人はカーンルイアのある方向へ一直線に飛んでいった。

 

俺はそれを追おうとしてしかし失敗する。あの三人がどういう方法を使ったのか闇が引き始めていたからだ。だが彼等が帰ってくる様子はない。

 

「…ッ」

 

俺は目眩を感じた。疲労か、はたまた大切な存在を全て失った虚無感からか…否、目眩はどんどん秒を刻むごとに強くなっていた。

 

「これ、は…ウッ」

 

俺はそこで意識を途絶えさせた。世界が崩壊していっているのを最後に見ることしかできなかった俺は決意する。

 

この『終焉』を…世界に害を成すものを全て破壊できるようにしようと。それが自らの大切な存在を護ることに繋がると信じて。

 

───再び、暗転。これが謂わば一周目の俺の身に起こった出来事というわけだ。

 

「…少しの間気を失っていたが、何を見た?」

 

目を開いた俺を待っていたのは無感動な表情のダインスレイヴ。だが俺が気を失っている間に見たものの見当がついているからか少し目尻が下がっている。心配してくれているようだった。

 

「過去の記憶、俺の内にずっと潜んでいた記憶を見た。全てとはいかないが…大体のことは把握できた」

 

酒を飲むと出てくる俺の内に潜むもう一つの人格、そして刻晴と旅人と話をしていた時に思い出した言葉…そして何処で何が起きるかを何故知っていたのか…全ては繋がっていたというわけだ。

 

「でも、どうしてダインスレイヴはその…魂の漂白が為されていないんだ?」

 

ダインスレイヴにそう問いかけるとダインスレイヴは首を横に振った。

 

「俺にもわからない。魂の漂白に関しては俺もあくまで推測に過ぎん。無論、可能性は高いがこうして俺と貴様に差異がある以上何らかの理由はあるのだろう。魂の強度、或いは思いの強さ…それとも神のミスか…」

 

方法は幾つか考えられるだろうが結局は考えたところで答えは出ないだろう。

 

俺は座り込んでいたので立ち上がると俺の服が落ちているところまで歩く。服を持ち上げると中からは指輪が2つ出てきた。そしてその指輪には見覚えがあった。

 

「…まさかこれがここにあるとは…」

 

それは俺がバルバトスと旅人の二人に渡していた聖遺物の一種である指輪だった。




・カーンルイアでモラが使えない

これはオリジナル設定ですね。まぁカーンルイアが元々神を持たない国で俗世の七国ですしそもそもテイワット大陸に属してすらいないらしいのでそれはもうモラ使えないでしょうと。

・ダインスレイヴ

ダインスレイヴとの別れが結構あっさりしてますが…アガレスも一応神ですし隠れてダインスレイヴに会いに行ってたことが知られると自分自身の立場も他の『八神』の立場も危うくしてしまうと考えたので顔だけ出して帰った感じですね…余談ですが1代目のアガレス君は後からめちゃくちゃ後悔してたらしいですよ。

・お酒

アガレスはお酒が苦手ですが一周目では酒豪と言われるほどお酒に強く、また大好きでした。しかしお酒にうつつを抜かしていたために自分自身の強さが足りなかったと考えたアガレスは一周目とは打って変わって何処か本能的にお酒を嫌悪するようになっています。その結果お酒を飲むとすぐに意識を失ってしまうんですねぇ…。
お酒を飲むと出てくるアイツは本文にある通り一周目のアガレスですが、何故出てくるのかはわかったと思います。純粋にお酒が好きだからです。

・指輪

はい、ちょっと気付いていた方もいるかもですが指輪はアガレスの生の回数で決まってます。内訳は一周目一回、アガレスが『終焉』止める前に一回、そして現時点で一回ですね。アガレスの中ではあくまで復活しただけで死んではいないという認識なのでここにあってちょっと驚いてる形になります。

長々と説明してしまいましたね…うへぇ…。
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