忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第120話 ヒルチャールの真実

焚き火へ向かう道中に今までとは打って変わってヒルチャールの作ったものを見ることができた。アビスの怪物達がカーンルイア出身であることからヒルチャール達も恐らく無関係とは言えないのだろう。

 

ただ、現時点で彼等がカーンルイアとどんな関わりがあるのか…それは不明だ。これからわかるといいのだが。

 

さて、焚き火のところまでようやく辿り着く事ができたのだが、ヒルチャール達が拠点としていた形跡が見受けられる。ただ、当のヒルチャール自体は見当たらなかった。

 

「ヒルチャール達が寝泊まりした形跡があるな…」

 

「なぁ、これって依頼で聞いた様子のおかしいヒルチャールが残したものなんじゃないか?」

 

パイモンがこの拠点をそう分析した。ただ、普段のヒルチャールにしてはやはりお粗末で簡素なものだ。たしか最初に話を聞いた玥輝という鉱夫はヒルチャールの様子がおかしいと言っていたな。意識が朦朧としている状態だったのなら首肯ける話、というわけか。

 

「これでようやく依頼が達成できそうだな!」

 

パイモンのその言葉にダインスレイヴは首を傾げた。が、すぐに得心がいったらしく、

 

「アガレスの言っていたものか。その依頼を達成すべく貴様達はここへ来たのだったな」

 

なんにせよ手がかりに辿り着いたのは言うまでもないだろう。層岩巨淵の地下鉱区に眠る秘密、それに迫るための尻尾をようやく掴んだというわけだ。

 

ダインスレイヴは俺を一瞥してから口を開いた。

 

「その答えを知りたいか?」

 

ダインスレイヴには心当たりがあるようだができれば俺達に自力で答えに辿り着いて欲しそうだ。それくらいはまぁ頑張ってみるけれども。

 

さて、ダインスレイヴが俺に一瞥くれたのは恐らく俺が関係していることを示しているのだろう。先程の旧世界の痕跡が関係しているのか、はたまた普通に以前のことからわかるものか。

アビスの魔術師や使徒は元々カーンルイアの民であることは既知のことだがそれに従うヒルチャールにも何らかの因果関係があると考えるべきだろう。アビスの使徒らしき存在も上層で確認しているので恐らくここはアビスにとって何らかの価値があることは既に明白だ。だがそれは全くわからないし加えてヒルチャール達の異変の原因も見当がつかない。

 

ただ、ヒルチャールもアビスの魔術師達と同様にカーンルイアの民だとするならば彼等もまた呪いに身を蝕まれているのだろう。ダインスレイヴや元ファデュイ執行官のアンのように。そしてその呪いは常に身を蝕み続けるのだ。

 

ダインスレイヴの話によれば不死の呪いをかけられているらしい。アンに関してはわからないが500年間生きてきたのだから同様の呪いだとしよう。ヒルチャールやアビスの怪物たちにかけられた呪いが何かは全く以て不明だが、同じようにかけられているとするならば我々神と同じように『摩耗』するはずだ。

 

意識の朦朧としたヒルチャール…生気のない感覚…ふむ、これらから察するに恐らく彼等は『摩耗』かなにかは不明だが何らかの理由で死に場所を求めているのかもしれない。かなりこじつけだけれどもな。

 

ただここにいると少し俺の中の魔神達の呪いが弱まる感覚がする。これも何らかの関係があるのだろうか?実際、忘れていたらしい記憶がそれなりに思い出せたのだから呪いが弱まっている可能性はかなり高いだろう。ダインスレイヴの呪いにまでその影響が作用しているかは不明だが。

 

さて、俺が考えている間に旅人もパイモンも音を上げていた。

 

「オイラ、全然わからないぞ…」

 

「私もわからない。ダイン、教えてくれる?」

 

ダインスレイヴは異様な雰囲気の残るヒルチャールの寝床を見やってから旅人や俺を横目で見て目を細める。

 

「貴様らが感じ取れないのも無理はない…この異様な雰囲気をな」

 

ダインスレイヴは少し視線の厳しさを和らげて言った。

 

「…ここにいると『呪い』が弱まるのがその答えだろう」

 

ダインスレイヴの呪いもどうやらしっかり弱まっていたようだが、はてさて消し去ることは出来るのだろうか?

 

と、思っているとパイモンが俺の思っていたことと同じことを聞いたのだが、ダインスレイヴは首を横に振って否定した。

 

「残念だが、俺の呪いはそんな一朝一夕で解けるようなものではない。この地に踏み入れてから束の間の休息を得ることはできたが、解くことは不可能だ」

 

ダインスレイヴの呪いの話が本当なら俺の呪いが解けることもなさそうだな。まぁ八重神子の見立てでは100年くらいは生きられるらしいし問題はないだろう。

 

「俺の身体は今も尚訴えている…ここに『残れ』と」

 

パイモンも旅人も首を傾げて不思議そうな顔をしている。実際不思議なもので何故層岩巨淵の地下鉱区に呪いを弱める力があるのか、そして何故このような逆さになった都市が存在しているのか…何もかもが謎めいている。

 

そして答えを出せる情報は俺の手元にはないのだ。

 

「アビス教団には俺の知る限りこのような技術は存在していなかったはずだ」

 

ダインスレイヴはそう評した。ダインスレイヴが言うのだから恐らくその通りなのだろう。先ず間違いなくアビス教団にはそのような技術は存在していないと考えていいだろう。

 

ただヒルチャール達はこの場所へと引き寄せられていると考えるのならば、この場所とヒルチャールには何らかの因果関係があるのだろう。そしてアビスとヒルチャールにも何らかの因果関係があるのだろう。そう考えればアビスとこの場所にも何らかの関係があるのは間違いないはずだ。

 

「そう言えばダイン、ヒルチャール達は仮面をつけてるけど…どうして皆仮面をつけてるんだ?」

 

パイモンが不思議そうな表情を浮かべながらダインスレイヴにそう問いかける。仮面、というと顔に当たる部分にあるアレのことか。そう言えばよく知らないな、などと思っているとダインスレイヴは神妙な顔つきで答えてくれた。

 

「彼等が仮面をつけているのは水面に映る自らの顔を見ないようにするためだ。何しろ、記憶にある自らの顔と比べあまりにも醜い顔であり、絶望を感じるほどだからな」

 

「やっぱり、ヒルチャールって…」

 

なるほど、そういうことか。ダインスレイヴの言葉の裏にあるのは唯一つの真実だ。

 

それは───

 

「そうだ、彼等は『不死』の呪いを身に受けたが、それは永久的な不死を意味するものではない」

 

ダインスレイヴは腕を組みつつそう告げた。その声にはどことなく悲しみが含まれているように感じられた。パイモンが悲痛な表情で言う。

 

「元に戻す方法はないのか?」

 

「不可能だ。『摩耗』により魂も肉体もすり減っていき最後には灰となって『死』という概念すら与えられずに消滅する」

 

ダインスレイヴは以下のことを語った。

 

ヒルチャールは己の死期が近いことを悟ると本能的に暗いところを探し、数百年にも渡る苦しみに別れを告げる。だからこそ、呪いの力を弱められるこの場所は彼等にとって最適な死に場所であり、また墓であるのだ、と。

 

「ヒルチャールという存在はその実1000年ほど前から存在している。だが、その実態は実は定かではない。カーンルイアが何らかの実験を行っていたのか、はたまた別の要因があるのか…それすらも不明だ」

 

だがわかることもある、とダインスレイヴは俺を見た。

 

「カーンルイアでは一つ、極秘に進められていたプロジェクトが存在していた。ヒルチャールはその副産物のようなものだ」

 

ダインスレイヴの視線と言葉に違和感を覚えた俺はダインスレイヴに問い掛ける。

 

「ダイン、そのプロジェクトとはなんだ?」

 

ダインスレイヴは少し瞑目した後口を開いた。

 

「かつて元素の神と謳われ、あらゆる障害を排除してきた最強の存在を模倣し、そして進化させる…俺も知っているのはこれくらいだがその過程でヒルチャールは生まれたようだ」

 

ダインスレイヴの言葉にパイモンと旅人、そして俺も驚かずにはいられなかった。

 

「ちょっと待て…元素の神、最強の存在…ってことは…!」

 

パイモンが驚いたように俺を見た。ダインスレイヴが首肯き口を開く。

 

「そうだ、そのプロジェクトとはアガレス、貴様を模倣するプロジェクトだ」

 

衝撃の事実を告げられた俺は思わずうへぇ、と呻かずにはいられないのだった。




遅れたぁー!!ごめんなさいっ!ほんっとーに!!
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