忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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いやー、想ったより長くなりまして…えへへ。


第124話 『アガレス』の真実

さて、ハールヴダンを追ってきた俺達だったが結局彼に追いつくことはできなかった。アビスの詠唱者が言っていた準備というのも気になるが…。

 

それを考える前にハールヴダンが通ったであろう道を追わねばならないだろう。逆さになっている都市の切れ目から、どうやらハールヴダンは下に降りていったようで姿を見つけることはできない。

 

旅人達は風の翼で、ダインスレイヴはわからないが俺は風元素を使ってゆっくり降下していく。やがて下へ降り立ったが、やはりというべきかハールヴダンの姿はなかった。だが道らしきものは奥へ続いている。

 

ハールヴダンがここで姿を消したのなら…と俺は少し考えながらダインスレイヴを見やる。彼は相変わらず無言だが俺の言わんとする事はしっかりと理解してくれていたようだ。

 

一応、この辺りも層岩巨淵の深部のはずだが、ヒルチャール達が生活していたであろう痕跡がそこかしこで見て取れる。本当にかなりの数のヒルチャールがここへやって来て、そして誰にも看取られずに消滅していったのだろう。

 

「…胸が痛むな」

 

どうにもできないしするつもりもないが同情しないわけではない。過去に交流があったなら尚更だろう。多分、ここで死んでいった者の中に俺の知り合いもいたかもしれないからな。

 

さて、それはさておき道があるということは何かがここをよく通っているということだ。ヒルチャールによって作られた物が散在している以上、この道はヒルチャールが作ったものと見て間違いないだろう。或いはここを取ったヒルチャールの量が多くて獣道のようになっているのか。まぁ多分後者だろうな。

 

「あ!あそこ、ヒルチャールの集落じゃないか?」

 

パイモンがそう言いながら指さした先、すなわち今俺達がいる道の先に少しだけヒルチャールの構造物が見える。終点、と受け取っていいのかは謎だが一先ずあそこを調べるべきだろうな。

 

俺達はそのまま道の先へ進んでいき、かなり質素で簡易的なヒルチャールの集落の入り口まで辿り着いた。集落というだけあって、そこかしこにヒルチャールがいる。しかしこちらに襲いかかってくることはなく、生気の抜けたその顔をこちらへただ向けているか、もう動いていないかのどちらかだ。

 

パイモンがそんな彼等を見て悲しげな表情を浮かべた。

 

「ハールヴダンが見せたかったのって…」

 

俺はパイモンの言葉に首を横に振った。

 

「ヒルチャール達の最期は実際に満たし、何よりダインから聞いただろう?多分、これじゃない」

 

そのまま俺達は集落を調べ始めた。ピクリとも動かないヒルチャール達を目にしてパイモンと旅人が何事かを話している。俺はそんな二人を尻目に少し奥へ歩く。

 

道中、ヒルチャールの集落によくある、食べ物などを保存する箱があるが勿論空っぽだ。必要であるとは思えないが…。

 

もう少し奥へ行くと水の入ったヒルチャール手製の水釜がある。水は透き通っていて満杯だ。少しでも生き長らえさせるために置いているのか、はたまた他の要因があるのかはわからないがどちらにせよこれはあまり関係ないかもな。

 

俺は水釜から視線を外すと奥が少し明るいことに気が付いた。少し歩くとまだ燃えている篝火を見つけることができた。閉鎖空間で物を燃やすのは危ないがどうせヒルチャールしかいないからあまり気にする必要はなかったのだろうか?

 

「いや、そうじゃないな…」

 

そう、おかしい。ここには動けないヒルチャールしかいないはずだ。ハールヴダンや黒蛇騎士達の誰かが炊いていた可能性もあるが…いや、ダインスレイヴの話が正しければ、光を嫌うようになったヒルチャール達の前で焚き火をするようなことはしないだろう。

 

であれば第三者がここに?いたとしたらつい最近のことになるのだろうな。

 

それにしても…と俺はパチパチと音を立てて燃える焚き火を見やる。

 

ヒルチャールはカーンルイアの民…そして死に際に光を嫌って暗闇に一人孤独に溶けていく。だが彼等とて昔は人間だったのだと思うと…何より、俺も化け物に身を落とし、孤独に生きていたかも知れないと考えると…少し共感できる部分もある。

 

俺には帰るところがあるが、彼等にはないのだ。

 

「………」

 

もう少し奥へ進むと二体のヒルチャールが横たわっている。そして既に息絶えているようだ。その傍らにはどことなく見覚えのある花が供えられている。

 

「…いや、これは」

 

俺は道中見つけた箱を調べている旅人を見る。その頭についている花と同じものだ。

 

もっと早くに気が付くべきだった。彼女の兄である空がアビスに協力しているという事実、それはつまり少なくとも妹である旅人もカーンルイアに関わりがあるということだ。

 

白く、仄かに青みがかっている花びらを持つ美しい花だが今やこのテイワットでこの花が咲いている場所があるかどうかはわかない。

 

少し呆然としていると旅人とパイモンが俺の下までやって来た。

 

「アガレス〜、なんかあったのか〜?」

 

パイモンが能天気にそう言いながら近付いてきた。

 

「これを見てくれ」

 

俺は二人に手向けられた花を見せる。パイモンは地中深くに花があることに驚いていたようだったが、旅人は違う意味で驚いていたようだった。

 

「…旅人はこの花のことを知っているんだろう?」

 

パイモンが驚いたように旅人を見て、そして気が付いた。

 

「あっ、旅人の頭についている花と一緒だぞ!」

 

俺は首肯くと彼女達に花についての説明をした。

 

「この花の名前は『インテイワット』。かつてカーンルイアの各所に咲き誇っていた、あの国の国花だ」

 

旅人は無表情で、パイモンは色々な驚きが混じったような表情を浮かべている。まぁ俺が何故それを知っているのか、とか色々疑問はあるだろうが、無視して俺は続けた。

 

「この花の開花期間は二週間しかない。しかし、誰かに手折られ祖国の土を離れると、その花びらの成長は止まり、固まるんだ」

 

昔…と言っても一周目?の俺の時に知った知識だ。魂の奥底に眠っていた記憶に『インテイワット』に関する情報も刻み込まれていた。痛く感銘を受けたらしいが、実際は俺の感情はあまり覚えていない。

 

「逆に固まった花びらは祖国の土に還ると柔らかくなり、塵となって崩れ落ちる」

 

この花の性質から『遊子』、つまり故郷を離れて旅する者を象徴する花としてカーンルイア人に限らずこの花を持っていく旅人は多かった。カーンルイアを除けばその性質が生きることはないが、『故郷の優しさ』という意味を持つ花を持っていき、その故郷を遠くの土地から想うことで寂しさを紛らわせていたのかも知れないな。

 

特にカーンルイア人は旅する者に、この花を持たせていた。花びらが固まる様を自分達の縁に見立て、自分達を時々思い出してほしいという思いを込めていたようだ。

 

「…貴様がそれを知っているとは驚きだ。だが、当然だろう。一度はカーンルイアに受け入れられた男だ、それに当たって色々情報を仕入れていたのだろうしな」

 

遅れてやって来たダインスレイヴがそんな事を言う。否定はしないが滅ぼそうとか情報を横流ししようとかは全く考えていない。断じて。

 

それまで無言だった旅人が花を見つめて呟く。

 

「…目が覚めたらこの花が私の頭の上に…」

 

「あ…その花がここにあるっていうことは…!」

 

その言葉に反応したのはパイモンだった。そう、俺が先程焚き火の前で考えていたことが当てはまる。

 

恐らくここにいたのは旅人の兄である空だろう。そして恐らくそこまで時間は経っていない。

 

「なるほどな…」

 

アビスの詠唱者が前に言っていた選択を迫られる時が来る、という言葉。

 

ヒルチャールの真実を知って尚、この地獄のような呪いを簡単に課す神々に、味方をするのか?

 

彼等はそう問い掛けている。無実の民にまで同じ呪いをかけ、救いのない死を遂げるヒルチャール達を生み出した元凶である彼等に、と。

 

───答えは出たのか?

 

内なる声、一周目の俺の声。

 

俺が目を瞑り、そして開けると目の前には一周目の俺の姿。気怠げな目、しかしそこに宿る意思はしっかりしており、まっすぐに俺を見据えている。

 

『私はかつてお前だった。だが私は…選択を誤ったのだ』

 

淡々と、彼は告げた。

 

『だから二周目のお前は力を磨いた。それが仇になっているとも知らずに』

 

淡々と、彼は続けた。

 

『強くなりすぎたお前はカーンルイアの創神プロジェクトを引き起こしてしまった』

 

それでも尚、と彼は俺に問い掛ける。

 

『世界に真に害になっているのはお前であり俺だ。わかるだろう、世界に不釣り合いなほどに強大な力だ』

 

俺は無言を貫く。彼は続けた。

 

『本来であればお前など存在しないししてはいけない。お前がいたから救われた命もあれば救われなかった命もある。そしてお前自身のせいで世界は滅びかけている。それでも尚どこに生きる理由がある?存在する理由がある?もうやめたらどうだ』

 

彼は俺の中でずっと生きてきた。通算で恐らく一万年ほどだろう。その間、彼は色々考えてきたのだろう。

 

『一度全てを失ったお前は、もう失うまいとしてもがき、抵抗し、結果がアレだ。自分勝手だとは思わないのか?』

 

世界の守護も、大切なモノを護るその思いも、全ては自分勝手で自己中心的であり、自己満足でしかない、と彼は言う。

 

『私は長い間考えていた。私達は異質だ、それはどんなにこの世界で過ごしても変わらない』

 

で、あれば。

 

『私達がおかしいのではない。おかしいのは世界の方だ』

 

彼は俺だ。その考えは手にとるように理解できる。

 

強大過ぎる力を持っている俺は世界に不釣り合いだ。そして世界が破滅すると輪廻し、新たな世界が創造される。

 

彼は歪な笑みを浮かべた。

 

『既に私達は一つの世界を忘れ、先に去られている。そして新たに創造されたこのテイワットに取り残されたのだ』

 

「だったらどうした?」

 

俺はようやく口を開く。彼は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「俺の癖にうじうじうじうじ悩みやがって。それがどうした?世界に忘れられ、去られたかなんだか知らないが今は覚えてくれているヤツがいる。それでいいじゃねえか」

 

『…お前は…いや、そうか』

 

彼はフッと笑った。

 

『なるほど、自分の決めたことを曲げることはない、か』

 

彼は俺に背を向け座り込む。いつの間にか俺の手には楓原万葉から譲り受けた刀が握られていた。

 

『やり方はわかるのだろう?』

 

「無論だ」

 

俺は彼の背後に立ち、刀を構える。

 

『最期に一つ忠告だ。忘れ去られたのは私達だけではない。お前を覚えてくれている者を信じていれば問題はないだろう』

 

「肝に銘じよう」

 

俺はそのまま手にした刀を彼の首目掛けて振り下ろした。首を切り落とす生々しい感触と共に声の残滓が俺に言葉を告げてきた。その言葉に俺は首肯くと目を瞑って、そして開く。

 

先程から時間は経っていない。旅人は相変わらずインテイワットを見てぼーっとしており、パイモンはそんな旅人を心配そうに、そしてダインスレイヴは旅人をじっと見ていた。

 

 

 

───数ある世界の分岐の中から生まれた俺達を、テイワットに住む彼等を救えるのはお前だけだ。最期に…世界を、いや…お前の大切なモノを必ず守り抜け。私ができなかったことを成し遂げてみせろ。そのために必要なことはした、あとは…任せたぞ。

 

不思議なことに、呪いによる今までの苦痛を全く感じない。記憶もほとんどが戻っている。彼の存在をもう感じることはできない。本当に消え去ったのだと実感するのに然程時間はかからなかった。

 

俺は強く握り拳を作ると、

 

「…言われなくても、やってやるさ」

 

とそう呟くのだった。




ということでタイトル回収?でした。

長くなりすぎたので一旦区切りますけれども…もう一話くらいいっときたい…(圧倒的願望)
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