誰もいないはずの部屋に人がいた。
アガレス「おい、手抜きが過ぎるぞ。正確には『誰もいないはずの自室に恋人がいた』だろ?」
はぁ〜?なんですか?文句あるんですか作者ですよこちとら!!
※本編に全く関係ないですねこれごめんなさい
「───お、おう…ただいま…?」
一旦俺はそう返したが全く状況が理解できなかった。
俺の自室には基本的に人が入らない。稀に掃除のために使用人が入るくらいで今の時間帯では人はいないはずだった。
だが現に俺の目の前には少し服の乱れた影の姿がある。つまるところ俺の部屋で何かをしていたのだろう。でもなんとなく野暮ったい気がするので深くは聞かないことにしておきたい。
「それで、何故ここに?」
まずは先手を取って影にそう問い掛けた。事実何故影がここにいるのか、俺には一向に予想できなかったのだ。いやまぁ、俺の部屋で何かをしていたことと何らかの関係があるのだろうが、気になるものは気になる。
聞かれた影は、というとやはり気恥ずかしいのかもじもじしている様子だったが、
「…最近はあまりゆっくりできていなかったのでふらっと立ち寄ったんです」
そう言った。間違いなく照れ隠しであることはわかっている。自惚れかも知れないが…寂しかったりしたんだろうか?そう考えると途端に…いや元からだが影が途轍もなく可愛く見える。
俺は少し笑うと、
「折角だからどうだ?久し振りに一緒にゆっくりしないか?」
影へ向けてそう提案した。影はまだ恥ずかしそうにしていたが然と首肯いてくれた。
結局そのまま俺達は部屋に入って思い思いに寛ぎ始めた。俺はまず茶を淹れて影に出しつつ、自分の分も用意して椅子に座った。影は対面に座っており、窓の外を眺めているようだ。
因みにちゃんと団子牛乳も入手済みである。これを渡した時の影の反応と来たら、かなり目を輝かせているものだから買ってしまいたくなるのだ。あの反応を見るために最早団子牛乳を買っているまであるのはご愛嬌だろう。
俺は小説を取り出して読み始めつつ口を開く。
「最近稲妻の様子はどうだ?」
突然声を掛けられた影は、というと慌てた様子で団子を飲み込むと、
「最近は特筆すべき点はないですね。一つ挙げるとすれば人員不足がようやく解消されつつある、というところでしょうか。まぁ、それもモンドと璃月ありきのものですが」
そう言った。団子を焦って飲み込ませたのは完全に失敗だったがまさかそんなに急ぐとは思わなかった。にしても稲妻の人員不足がマシになってきたのは本当に良かった。まぁとはいえ戦前の水準にまで回復するにはまだまだかかるだろうな。
俺は影の言葉に首肯くと、
「そうか、なら良かったんだが…」
思わず言い淀む。影は首を傾げていたが、俺は意を決して口を開きつつ頭を下げた。
「…すまない、心配をかけた」
影はかなり慌てている様子だったが俺の言葉を聞いて少し怒っていることが雰囲気だけでよくわかった。
「…顔を上げて下さい」
影のその言葉に従って俺は顔を上げた。直後、額に軽い衝撃を感じて仰け反る。何のことはない、ただのデコピンだ。だが、そのデコピンが今は何より痛かった。
「…アガレス、何度言えばわかるんですか?一人で危険にすぐ飛び込もうとしないで下さいって…無理しないで下さいってアレほど言いましたよね?呪いで寿命も縮まっているんですから」
「だが寿命はもう気にしなくて良いんだ。理由を説明するのは少し難しいが…だが「そういう問題じゃないんです!」…影…」
俺の言葉を遮って影が声を荒らげた。だが俺の声ですぐに感情を抑えてギュッと口元を引き絞ると机の上に置いてある俺の手に自らの手を重ねた。
「例え寿命の心配がなくなったとしてもアガレスには無理をして欲しくないんです。貴方が苦しむのを見たくないんです」
俺はハッとした。心配をかけた、とは言ったがその心配は寿命によるものだと勘違いしていた。
影は更に続けた。
「貴方にとっては無理をしていないのかも知れないけれど…私から見れば貴方はずっと無理をしているように見えます。休まずに誰かのために動いて…」
彼女は…影は大切に想う俺を常に心配し続けていたのだ。やはり俺は心の何処かで影と恋人同士であることの自覚ができていないのだろう。だから普段通りの行動をして影に沢山心配をかけてしまった。
いや、影だけでなく旅人に加えてノエルやバーバラ、恐らく夜蘭にも心配をかけたのだろう。
「貴方が如何に優しくて強かで…でも誰よりも繊細なのは私がよく知っています。そういうところが…私は好きですし…」
でも、と影は少しだけ目に涙を溜めながら続けた。
「貴方が一人で大体のことをなんとか出来てしまうのは知っています。だから人を頼ろうとしないことも…勿論知っています。でも、貴方が辛い時に側にいることができないのは…私も辛いんです」
ギュッと、俺の手を握る力が強くなる。辛そうな影にかける言葉が見つからなくて俺は口を開いては閉じを少しだけ繰り返したが、
「…わかっているんです。私が全てを放り出してアガレスと共に過ごしたいと願ってもそれが許されないということくらい…わかって…るんです…」
影のその言葉に再び暫く口を閉ざす俺だったが、ようやくかけるべき言葉を見つけて口を開いた。
「…できることなら、俺もお前と共に過ごしたい。神という柵がなければきっと…同じ家に住んで、何気ない日常の会話を楽しんで…そうなれたら、どれだけ幸せだろうか」
俺は懐から一対の指輪を取り出した。指輪のデザインは二つ共同じものだが、うち一つを影にアガレスは差し出した。影はそれを手に取り不思議そうに眺める。
「俺は兎も角、影には立場があるから…その生活はきっとできない。だけど、代わりにこの指輪を肌身離さず身につけていてくれ」
この指輪はバルバトスと旅人が持っている指輪と同じものだ。俺が死んだ時に恐らく生成される聖遺物だと考えると、この指輪の聖遺物には俺の『誰かと繋がっていたい』という心の底の欲求のようなモノが反映されているのだろう。
だから対になっている指輪をそれぞれが着用することで意思の疎通が離れていても可能になるのだ、と俺は予想している。聖遺物とはそもそも誰かの想いが強く込められたものだから、俺の予想は間違っていないはずだ。
俺はこの指輪を弾けば何処にいても俺と会話ができることを影に伝え彼女に渡した。影は指輪を見て嬉しそうにはにかむと、指輪を大事そうにギュッと抱き締めながら、
「ありがとうございます、アガレス」
とそう言った。影は既に左手の薬指に指輪をしているので左手の人差し指に指輪をするようだ。俺はまだ左手の薬指に指輪をしていないので、左手の薬指に指輪を嵌めた。
「改めてすまなかったな。これからは…間接的だが一緒だぞ」
俺は指輪関連が一旦落ち着いてから影に改めて謝った。一方の影は、というと笑顔を浮かべながら首肯いてくれた。
真面目な話が終わったことを察知したのか、影は早速とばかりに、
「では試してみてもいいですか?」
キラキラと瞳を輝かせながらそう言った。余程嬉しいのか、試したくて仕方がないようだ。
俺が影の言葉に首肯くと、若干ウキウキしながら影は少し遠くへ行った。俺は左手の薬指を弾くと指輪へ向け小声で喋りかけた。
「影、聞こえるか?」
少しして指輪から音が聞こえ始めた。
『…えっと…これでいいのでしょうか…?合ってるんでしょうか…?あ、あー、アガレス?聞こえますか?』
突然の可愛さにやられそうになるが、別世界だったら音声聞こえてないのに喋ってそうだよな。
…どういう意味だろう?まぁ今はいいか…?
俺は影の言葉に返事をした。
「ああ、聞こえるぞ。どうやらちゃんと繋がるみたいで良かった」
動作確認も終えたし影はこちらに戻ってくるかと思ったのだが、無言のまま戻ってこない。どうしたのだろうか、と首を傾げていると不意に影が、
『ごめんなさい、アガレス…貴方に謝らなきゃいけないことがあって…』
そう言った。どうやら面と向かって謝るのは恥ずかしいことのようだ。俺が無言で続きを待っていると、
『…その、貴方がいない時に余りにも寂しくて…度々貴方のベッドに包まって紛らわせていたんです…だから、その」
思わず途中で影のいる部屋までやって来たしまった俺だが、そのまま指輪に夢中になっている影を後ろから抱き締めた。
「あ、あああアガレス!?」
影は驚きながら顔を真っ赤にしていたが俺を振り解いたりはしなかった。寧ろ俺の腕に手を添えて心地が良さそうである。
そのまま暫くして数刻後。
「…やっぱ休養ってのはいいな」
夜風に当たりながらそう呟く。窓から入ってくる月光とそれに照らされた影の横顔がとても綺麗に見える。影は俺の言葉に少し笑うと、
「ええ、そうですね。何時ぞやの賑やかな休養もいいですが…やっぱり二人だけというのも私は好きですよ」
そう言った。部屋の明かりはついておらず月光だけがただ俺と影を照らしている。薄暗いが、それくらいが丁度良いのだ。
俺は影の手を握ると彼女の言葉に同意した。
「…ああ、そうだな───」
───だから、例え世界を敵に回しても…この時間を壊させはしない。
新たな決意と共に俺は空で光る月を見るのだった。
影ちゃんの左手の薬指の指輪は閑話でアガレスがあげたヤーツですこれ。
時系列的には層岩巨淵に出発する前ですね。バレンタインデーもそのくらいです。
影ちゃんの指輪が気になる方は閑話 ホワイトデーの贈り物を見ていただければと。
次回から真面目な話やっていきまっせー…気合い入れてけ私!!