忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回とある方が登場しますが、口調がわからないので適当ですごめんなさい


第5話 訓練しようと思ったのに…

翌日、俺は騎士団本部の前に立っていた。

 

「あっ、アガレスさま!」

 

そう、ノエルを待っていたのである。バルバトスと酒場で話をしたあと、結局騎士団の宿舎を貸してもらい、その部屋で寝たのだ。

 

んで、今日になって支度をして騎士団本部で彼女を待っていたのだ。

 

「おはよう、ノエル」

 

「はいっ、おはようございます、アガレスさま!」

 

ノエルの満面の笑みに、なんだか凄く嬉しそうだな、なんて感想を漏らす。

 

「さて、いよいよ今日から訓練だな」

 

俺は腰に手を当てながら少し気合を入れつつそう言った。

 

昨日のうちに、ジンに聞けることは聞いておいた。まず訓練場だが、広いほうが良かったので騎士団本部横の訓練場はやめ、風立ちの地にある平地で訓練することとした。承認ももちろん貰ってある。

 

問題は、だ。

 

「雨が降ってるんだよなぁ…珍しい」

 

そう、雨が降っているのだ。モンドでは常に風が吹いている関係上、纏まった雨が降るのはあまりない。とはいえ、降るときはしっかり降るが。

 

いやはやしかし、なんだか嫌な予感がするな。モンドで雨が降るときは碌なことがない。主観だがな。

 

「一先ず、風立ちの地に行こうか。訓練場だけ見に、な」

 

「はい!」

 

俺はとあることを思いついたので岩元素で傘を作って持つ。ちなみに、常人ではとても持てない重さだ。

 

「ノエル、この傘持ってみるか?」

 

「え、あ、はい!おまかせください!」

 

俺は何があってもいいように身構えつつ傘を渡した。

 

「わわっ、結構重い傘なんですね。よいしょ…」

 

ノエルは手を伸ばし、俺の身長に合わせて傘をさしてくれる。俺はその様子に思わず目を剥いた。

 

「…ありがとう、十分だ」

 

「ふぇ…?は、はい。お役に立てて光栄です!」

 

俺は先程の事象を顎に手を当て考える。

 

一体全体どういうことだ?常人には到底持てるはずないんだが…いや、常人でない可能性のほうが高い、か。それか普通に鍛えに鍛えてああなったのか。うん、多分後者だな。

 

そう、思いついたこととは、ノエルの力がどれくらいなのかを試す、である。初めて見た時、彼女はかなり大きめの片手剣を自由自在とはいかないまでも振り回していた。そしてあの剣自体かなり重い。だからこそ、こういう方法で彼女の腕力を試したわけだが、正直言って予想以上だ。

 

「よし、行こう」

 

俺は考えるのをやめ、ノエルから傘を返してもらうと相合傘のようにして移動を開始するのだった。

 

 

 

結局、風立ちの地まで行くことはできなかった。門が閉まっていたのである。普段は活気に包まれている街だが雨のせいなのか、それとも門が閉まっていることと関係があるのか、いずれにせよ活気は皆無だった。

 

加えて、門の付近には西風騎士達。騎兵隊長ガイア・アルベリヒや副団長兼代理団長ジン・グンヒルド、あとはジンに聞いた図書館司書のリサ・ミンツや偵察騎士のアンバー、いるのは珍しいらしい遊撃小隊隊長エウルア・ローレンスに加えつい先日入隊したばかりだという調査小隊長アルベドなんかが集まっている。

 

勢揃いだなぁ、なんて場違いな感想を持ちつつ俺は周囲にいる西風騎士達の会話に聞き耳を立てる。

 

「だ、団長さま!?それに、みなさまも…!!」

 

ノエルが傘から出てとてとてと走っていく。主要なメンツの視線がノエル、そして俺へと移っていた。

 

俺はその視線を無視して聞き耳を立ててようやくある程度の状況を把握することができた。

 

「ああ、ノエル。実は今危険な状態なんだ」

 

少し遠くでノエルにジンがそう告げている。結構切羽詰まっている様子だ。

 

「何があった?」

 

西風騎士団ほぼ全員出陣するなんて余程大事だろう。ヒルチャールやアビスの魔術師だけなら、ここまで大規模に人を集める必要はないはずだしな、と俺は考えそう聞いた。勿論、その理由もある程度は把握している。答え合わせのようなものだ。

 

しかし、ジンは俺に答えていいものか、と首を捻っている。周囲のモンド城の住民達に配慮しているものと思われるが…。

 

俺はそのままジンに近づいて耳打ちした。

 

「まさかとは思うが、ファデュイの執行官『博士』が撃退したという魔龍ウルサが回帰したか?」

 

ジンは驚いたような顔をしてからコクリと頷いた。ジンが俺を見ながら何故知っているのかを問いただそうとしたのだが、

 

「何故、あなたがそれを知っているのかしら?異邦人」

 

俺を咎めるような言葉が先に聞こえてきたためジンは静かになり声の主のいる方向を見る。割って入ってきたのは蒼色の頭髪を持つ長身の女性、エウルア・ローレンスだ。

 

「考えればすぐにわかることだろう?」

 

そう、わかることではある。聞き耳というちょっとしたズルはしたがな。

 

俺の言葉にエウルアは更に疑いの目を向ける。

 

「一般人、それも異邦人にはすぐに辿り着ける答えではないと思うのだけれど?あなた、一体何者なの?」

 

「エウルア…」

 

そんなエウルアをジンが止めようとするが、俺はそれを目で制して言葉を返した。

 

「…ローレンス家は太古の昔、大罪を犯した。そして反逆され、没落した。モンドの人々はローレンス家の悪行を忘れたことはなく、此度の騒動もお前達のせいにされたりするかもな。そうはならなくても、どこかで噂にはなるだろう」

 

エウルアが眉をピクリと動かしたが構わず俺は続けた。

 

「そしてそれはきっとエウルア、君にも伝染し、その立場を危うくするだろう。ノエルやジンから君の素晴らしさは聞いているから、俺は惑わされはしないが…果たして住民達はどうだ?」

 

周囲は雨音のみが響き渡っている。誰も話さず、沈黙だけが漂っている。

 

「『無知とは罪なり』、なんて言葉がある。つまり、エウルアのことを知らず、『エウルア』としてではなく『ローレンス』として見られてしまうからこういうことが起きる」

 

「…何が言いたいわけ?」

 

俺はノエルの手を取り、風元素で浮き上がる。

 

「君はまだ俺のことを知らない。だから疑い、貶す。今から───」

 

俺はノエルを落とさないように横抱きにすると更に高く飛び上がった。

 

「───俺が何者なのか、モンドに仇成す存在かどうか、それを証明してみせよう!どう判断するかは君達に任せる!」

 

面倒臭くなったのでそう言って俺は城壁を越え、魔龍ウルサがいると思われる場所まで飛んでゆくのだった。

 

〜〜〜〜

 

「……」

 

「行ってしまったな、彼は」

 

「ジンさん、大丈夫なんですか?ノエルも連れてかれちゃいましたけど…」

 

アンバーが濡れているリボンをぴょこぴょこと動かして心配の言葉を口にする。ジンは真顔でアガレス達の飛んでいった方向を見上げていた。

 

一瞬の後、わなわなと震えていたエウルアがアンバーに同調しながら、

 

「何よあいつ…私のことを散々言ったわね…この恨み、覚えておくわ…!」

 

とそう言った。エウルアが恨み言を口にしている最中、逆にアルベドはアガレスに対し好意的な言葉を口にした。

 

「ボクとしては、彼に興味があるかな。全元素を扱える生物…うん、新たな研究のネタになるだろうね」

 

「ッハハ、アルベドはいつもそういうことを言うなぁ」

 

アルベドのその言葉にガイアが苦笑しながら返す。そんな

 

弛緩した空気をジンがパンッと手を叩いて再び引き締めた。

 

「皆、魔龍が近付いている…!気を抜きすぎるのは…」

 

ジンの言葉を遮ってリサが口を開いた。

 

「あら?でも、今のうちに気を抜いておかないとあとで気を抜けなくなったときに困るわよ?ジン、あなたはもう少し、気を抜くということを覚えてもいいと思うわ」

 

リサの一言でジンは口を塞いで黙りこくる。リサは飛んでいったアガレスのいるであろう方向をキッと見据えて呟く。

 

「あの人がアガレスね。凄い元素の奔流を感じたわ…正直言って危険だと思えるわね」

 

西風騎士の一部はリサの言葉に同調し頷いていた。しかし、

 

「こうは考えられないかな?」

 

ここでアルベドが再び声を上げる。

 

「彼は強い。ここにいるボク達が束になっても、恐らく敵わないだろう。そういう彼とは違って、ボク達が魔龍ウルサと戦えば、必ず犠牲が出る」

 

それに、とアルベドは続けた。

 

「魔龍ウルサは『ファデュイ』の執行官、『博士』が撃退したからね。彼がせっかく撃退したものを西風騎士団が倒したとあっては、彼らも納得できない。けれど、旅の者が倒した、いや、倒してしまったのならば彼らも口出しができないだろう」

 

「政治的要因に加えて我々の犠牲も心配してくれている、ということか?」

 

ジンのアルベドの発言を纏めたこの言葉に、アルベドは頷いた。

 

「そうだね。そして彼はそれを考えた上であの行動に出た。エウルア、君に疑念を、嫌悪感を抱かせてまでね」

 

エウルアは一瞬ハッとしたような表情になったが、すぐにふいっと顔を背けた。アルベドは更に続けつつ目を瞑る。

 

「加えて…禁書庫エリアに彼の名前が乗っている本を幾つか見つけてね。その本の記述に差異はあれど、民と世界を守護する存在として伝わっているみたいだ」

 

閉じていた目を開けたアルベドは、

 

「もし本当に彼がその口伝の存在と同一なら…ボクは彼を信用に値する人物だと思うよ。皆、どうかな?」

 

そう言った。エウルアは若干不満そうだったが、アルベドの言うことも尤もであるため、首肯く。

 

「彼を信じて待とう。万が一彼がしくじればその時は我々の出番だ!」

 

ジンは不安そうな表情の西風騎士達を鼓舞するように右手を振り上げた。それに呼応し西風騎士団が声を上げた。

 

「士気はこれで問題ない。あとの心配事は連れて行かれたノエルがどうなるか…」

 

「私が見てきますか?」

 

アンバーはノエルの友達だ。幼いながら、偵察騎士としての能力は高い。だが、彼女一人で魔龍ウルサとの死闘をするであろう場所に行かせることはジンにはできなかった。で、あるならば、一人で行かせなければいいのだ。

 

「皆の者!あの異邦人は、我々のために戦うと言った!」

 

ジンは声を上げる。最早、ここに留まってはいられない、というふうに。

 

「あらあら…言ってないわよね…」 

 

というリサの呟きを意にも介さず、ジンは続けた。

 

「だが、彼だけに任せていては、騎士の名折れ…!私と共に魔龍ウルサを討伐せんとする者は、我が下に集え!」

 

ジンが剣を抜き放ち、天へ掲げる。西風騎士達は初めは戸惑っていたものの、徐々にその剣を掲げ、恭順の意を示した。

 

ジンは事前に西風騎士の数名をモンド城に残しているため、全員ついてきたとしても問題はなかった。

 

「門を開け!前進せよ!あの異邦人と共に邪竜を討伐するのだ!」

 

「「「応!!」」」

 

西風騎士達は門が開くや否やモンド城を走って出ていった。その様子を見てガイアは、

 

「やれやれ、また面倒事に巻き込まれちまったぜ」

 

「ガイア先輩、ノエルは大丈夫なんですか…?」

 

アンバーが不安そうに答えるのをガイアは彼女の頭に手を置き、安心させるように言った。

 

「ああ、心配ないぜ?なにせ、アガレスってやつは自分の仲間は大切にするタイプのやつだからな」

 

ガイアはそう言って少し笑いながら肩を竦めるのだった。

 

 

 

「───執行官様…」

 

暗闇の中、ファデュイのデットエージェントが跪きながら声を上げる。

 

「話せ」

 

「ハッ…どうやら、撃退したはずの『魔龍ウルサ』が暴走し、こちらへ向かっている模様です」

 

さしもの執行官もこれには驚きを禁じ得ず、座っている椅子から腰を浮かした。

 

「私がわざわざ打ち負かし、不可侵を取り付けたあの害獣がまた侵攻してくるだと?寝言は寝て言え」

 

「しかし、西風騎士団のほとんどが出払っており、信憑性は高いかと…」

 

「ああ、私が悪かったのだ。害獣が一度負かした程度で本能に勝てるわけがなかったのだ。いや、いやいやいや否、丁度良い!」

 

デットエージェントはまたか、と思いつつもそのまま跪いていた。執行官は既に彼の存在など忘れ去っている。

 

「ちょーうど研究対象が欲しかったところだ!あの害獣を今度こそは殺してしまおう…!」

 

ゲーテホテルの一角で、ただただ狂ったような哄笑が響き、はぁと溜息をつく部下はキビキビとその更に下の部下に命令を下し始めるのだった。




執行官の口調ってやつぁわからねぇ…。

というわけで『博士』が撃退したはずの魔龍ウルサが襲来…どうしてですかね…?

後書き追記:何故第四話の次が第四話だったんだろう。自分でもわかんない…というわけで、ばっちり修正させていただきやした
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