忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第135話 急変直下

さて、なんだかんだで荒瀧一斗に加えて久岐忍も加わり大所帯になった俺達だったが、こんなにいても煙緋にとっては迷惑なだけだろう、とは俺も心の何処かで思っている。当事者である煙緋からすれば彼女自身が最もそう思っていることだろう。

 

それはともかくとして煙緋の依頼は未だにわからない。だが層岩巨淵の奥地に来てまですることと言えば…まぁ大抵レアな鉱石の類の捜索だったり、或いは遺物探しだったりくらいだろう。冒険者の類なら未知を既知へと変える探索という理由も存在するだろうが、生憎煙緋は法律家であり、そういった探究心とは無縁だろう。

 

であれば法律家として依頼を受けここに来たことになるのだろうが果たして法律家が出向く所以のある依頼で層岩巨淵が関係するものとはなんだろうか。そういうものは大体冒険者に───いや、ああそうか、だから旅人が駆り出されているのか…と勝手に納得する。

 

実際問題煙緋は戦闘がお世辞にも得意とは言えないため護衛である冒険者を雇い入れる必要があったのだろう。煙緋とも親交のある旅人が選ばれるのは道理であり、腕も探索も、機転も利く。

 

 

 

さて、俺が考え事をしながら皆について行っている間に道中色々見て回ったようだが、残念ながら目的には辿り着けなかったようで、煙緋は最後に残された場所───層岩巨淵の最奥にある寒天の釘に似たようなモノがあるその真下へとやって来た。

 

「…ふむ、やはり見つからないか…」

 

10分ほど手分けして捜索したのだが何も見つけることができず、煙緋はそう呟いた。もう辛抱堪らん、とばかりに物探しにもいい加減に飽きてしまった様子の荒瀧一斗が丁度隣にいた旅人に、

 

「おい、これ何を探してんだ?」

 

とそう聞いていた。俺としても気になるところではあるが素直に答えてはくれないだろう。と思っていたのだがやはりそのようで、旅人は知っている様子を見せていたが口を割らない様子だった。パイモンは本気で知らないようだが、それで良いのか最高の仲間。

 

とわちゃわちゃしている旅人達を見ながら苦笑を浮かべていた俺だったが、

 

「…アガレス殿アガレス殿」

 

という煙緋の俺を呼ぶ声で我に帰された。そして手招きする煙緋の下へ言って耳を貸す。

 

(今回の依頼に関してなんだが…旅人には伝えたんだがパイモンには私の方から口止めしていてね。彼女、どうも口が軽いみたいだから…)

 

すると煙緋は少し申し訳無さそうにそう囁いてきた。煙緋のパイモンへの認識に対して俺は弁護してやろうと思ったのだが、不思議と議論も交わしていないのに煙緋の言葉に納得してしまったため弁護ができなくなってしまった。

 

すまないパイモン…君の裁判は負けが確定してしまった。

 

すぐ近くでくしゃみの音が聞こえたのだが、それを無視して俺は首肯くと、

 

(それで、内緒話ってことは俺にその依頼内容を教えてくれるんだろう?)

 

そう返した。俺の言葉に煙緋は首肯くとその内容を話そうとした。だが、俺は気配を感じて煙緋を制すると、

 

「…小高い所に誰かいる。どうやら一斗とは別に俺達を追っている誰かがいるようだぞ」

 

そう呟いた。それを聞いた煙緋はふむ、と一つ唸ると上を落ち着いた様子で見上げた。それとは対照的に少し離れた位置で話していた旅人達にも俺の呟きが聞こえたようで少し動揺している様子だった。

 

だが、その人物がいることを予想していたらしい煙緋は「やはり、ここにいたのか」と呟き、俺は知っている気配だったため警戒を解いた。荒瀧一斗や久岐忍の気配に上手く隠れて中々接近に気が付けなかったのだが、かなり近付かれてようやく気が付くことができた。

 

知っている気配でなかったらと思うとゾッとするが、俺を欺ける程の隠密ができるような人間など俺は一人しか今の所は知らない。その人物は煙緋の言葉を聞いて「あら、かの高名な法律家さんが、層岩巨淵まで来て私の意見なんて聞く必要はないと思うけれど」と言いながら小高い場所から姿を現して華麗に着地してみせた。

 

俺はふん、と鼻を鳴らすと、

 

「差詰、七星から派遣された目付役ってところか?」

 

華麗に着地した人物───夜蘭へ向けそう言った。夜蘭はクスリと笑うと特に否定も肯定もせず、ただ肩を竦めるだけだった。まぁそりゃあ話せるわけがないだろうことはわかっていたので俺も肩を竦めると黙った。

 

そして現れた夜蘭を見たパイモンが夜蘭に指をさしながら、

 

「あ、夜蘭だ!お前、昨日まで救民団本部に来てたのになんでもうここにいるんだよ!!」

 

そう言いつつ近付いてきた。そのパイモンの言葉に夜蘭は再び微笑みを携えると、

 

「あら、君達だって現にここにいるじゃない。なら私がここにいたってなにもおかしなことはないはずよ?」

 

そう言った。事実その通りであるためぐうの音も出ないパイモンだったが、煙緋が夜蘭を少し諌めるような声を上げると、遅れて近付いてきた荒瀧一斗達に向けて夜蘭を紹介していた。

 

高名な法律家である煙緋と表向きは総務司に勤めている夜蘭はどうやら友人同士であるらしく、その旨を荒瀧一斗にも伝えていた。俺としても今まで煙緋との交流がなかったとはいえ初耳だ。

 

さて、その夜蘭だがここには別の仕事の案件で来ていたらしい。そんな中団体で行動する俺達が目に入ったため様子を見に来たようだ。夜蘭は凝光お抱えの諜報員的な立ち位置でもあるので、目を光らせていたのだろう。知り合いだからといって容赦するような性格でもないだろうしな。

 

「さて、君達がここで色々と行動を起こすつもりなのはわかったわ。けれど、その場合私も規則で同行させてもらうことになるわ。ただ、さっきも言った通り私がここにいるのは別の仕事を片付けるため…もしかしたら最後までは同行できないかも知れないから、くれぐれも問題を起こさないよう、慎重に行動して頂戴」

 

夜蘭は荒瀧一斗達との顔合わせを終え、俺達全員へ向けそう告げた。当然のことなので俺は特に否定的な意見はない。煙緋も旅人達も、そして璃月の同文学塾で法律を学んでいた久岐忍に関しても無言で肯定の意を示していた。

 

ただ、煙緋に関しては夜蘭に頼みたいことがあったようで少し残念そうな表情を浮かべつつ「昔の好で助けてくれてもいいんだぞ?」と言っている。夜蘭も対価は貰うようだが、待ってましたと言わんばかりに煙緋が夜蘭の喜びそうな対価をつらつらと並べていく。

 

そんな中、わなわなと震えている様子の荒瀧一斗が遂に堪忍袋の緒が切れ、大声を上げた。

 

「おい!随分上から目線な物言いだな!!」

 

勿論その対象となるのは夜蘭で、実際敵意を剥き出しにされた夜蘭は少しだけ驚いている様子を見せたが、すぐにクスッと微笑むと、

 

「あら、当然よ。私は別の仕事で来ているとは言ったけれど正式な璃月港の役人…だったら部外者である貴方は私の指示に従う義務があるのよ。それに、ここは危険な場所だから、本来なら貴方のような一般人がいていい場所じゃないわ」

 

そう言った。売られた喧嘩は買う主義なのか、はたまたやっぱり一般人(笑)がいると不味いと思っているのか、荒瀧一斗へ向けてそう告げた。なんというか、どちらも積極的に喧嘩を買ったり売ったりするタイプな気がするので是非ともやめていただきたい。今は特に、中々広いとはいえ閉鎖空間であるため荒瀧一斗の大声は…なにかこう、耳に直接くるものがあるのだ。

 

だが、荒瀧一斗はその言葉を聞いても引き下がらず、

 

「だったら注意喚起をすりゃいいじゃねぇか!!ここに入る時そんな看板は一個も見付かんなかったぜ!!」

 

そう告げるとしてやったり、とばかりにドヤ顔を浮かべた。勿論、その瞳に慢心はない───ように見える。夜蘭は荒瀧一斗が脳筋であることに気が付いたらしく、はぁ、と溜息を吐くと、

 

「本当に危険な場所には本来、注意喚起をするような物は存在しないものよ」

 

そう告げた。その言葉に、喧嘩を見かねた煙緋が苦笑しながら入ってきた。

 

「ああ、だから私は本当なら二人についてきて欲しくなかったんだ。まぁ…予想外にもアガレス殿のお陰でバレてしまったわけだが」

 

喧嘩を止めるためかと思いきや突然ディスられて内心びっくりの俺であったが、すぐに腕を組むと、

 

「久岐忍に関しては交流がないから一概には言えないが…荒瀧一斗に関してはそれなりに実力がある。加えてここに至るまでたった二人で道中の魔物を倒してきたと考えると実力的には問題ないだろう」

 

そう言った。その他が問題だが、という言葉は飲み込んだが、唐突に褒められた荒瀧一斗は驚きつつも俺のことを目を丸くして見ていた。荒瀧一斗が喋らないのをいいことに、或いは説得するために夜蘭は更に口を開いて続けた。

 

「璃月に対して多大なる貢献をしてきた旅人とアガレス、璃月の法律家として名高い煙緋。私はこの三人の立場と実績を信頼しているからここでの活動を止めなかった。その彼、彼女らと一緒に行動しているとはいえ、君達の場合だと…」

 

言いつつ、夜蘭が荒瀧一斗に視線を向けるのに対して荒瀧一斗は反発する姿勢を見せた。だが、久岐忍が一旦荒瀧一斗を諌めると、夜蘭の言い分は正しいということを先ず伝えた。しかし、彼女自身も少し対応に思う所があったのか、

 

「そこまで言うのなら早急に私達は離れることにしようと思う。ただ、本当に危険な場所なのであれば警告文くらいは出すべきだと思う。それがあれば私も親分の行動を止めることができたかも知れない」

 

そう言った。その言葉に夜蘭は「ご意見ありがとう、考えておくわ」と告げた。一旦これで落ち着きを見せるかなぁ、なんて俺は甘い考えを持っていたのだが、荒瀧一斗はどうしても夜蘭が気に食わないのか久岐忍の言葉にさえ反発する姿勢を見せた。

 

久岐忍の諌めるような態度とは裏腹に、いよいよ夜蘭も目を細めて荒瀧一斗を睨めつけている。それを見た荒瀧一斗はニヤリと笑い、

 

「ッハ!!面白ぇ…俺様は人に指図されるのが大嫌ェでな…そんなに自身があるなら、お手並み拝見といこうじゃねぇか!!」

 

そう言って岩元素力を高めていく。いよいよやばくなってきたからか久岐忍も声を上げながら荒瀧一斗を止めに入った。夜蘭も夜蘭で完全に必殺仕○人くらいの眼光である。

 

それを見た旅人達と煙緋が二人を諌めようとして間に急いで入っているが、それより俺は別の問題を直に感じ取っていた。少しして喧嘩の真っ只中にいる全員も気付いたのか驚いたような表情を浮かべている。

 

「お、おい!地面が揺れて───うわっ!?」

 

「話を逸らすんじゃ───ッ!?」

 

パイモンと荒瀧一斗の足元の地面に大きな罅が入ったかと思うとその罅はその場の全員の地面まで広がり、やがて陥没した。俺は薄々陥没の危険を感じ取っていたため咄嗟に風元素を展開すると、一番最初に落ちた荒瀧一斗と久岐忍、そしてパイモンをそれぞれ受け止めながら地面へ降ろし、その直後に降ってきた夜蘭、煙緋、旅人の三人を俺の体でなんとか受け止め、地面へと墜落した。

 

「いてて…皆、大丈夫かー!」

 

一番最初に地面へついていたパイモンが久岐忍を連れて俺達の下へ駆け寄って来てくれたため、俺は良いから夜蘭と煙緋、そして旅人にどいて貰う。俺はどうやら打ち身で済んだが、ちょっとの間は動けそうもない。その反面他のメンツは多少の打撲などはあるかも知れないが基本的に外傷はなさそうだった。

 

俺はそのことに安堵しつつ落ちてきた穴の方向を見つめると、僅かに寒天の釘の放つ光が見えるくらいなので、相当落ちてきたことがわかる。そして溜息を吐くと、

 

「はてさて…この先どうなることやら…」

 

と思わず呟くのだった。




・アガレスの空中人間キャッチ術(?)

ということで、詳しく。

1.荒瀧一斗をおんぶで受け止める
2.パイモンを左腕で受け止める
3.久岐忍を右腕で抱える
4.地面へそっと置く

5.夜蘭をおんぶで受け止める
6.煙緋を右腕で受け止める(少し体制を崩す)
7.旅人をなんとか左腕で受け止める(完全に体制を崩す)

8.三人に被害がでないように墜落

という流れです。なんだこの主人公空中戦に慣れすぎている…(?)
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