「───さて、これからどうするかを話し合いましょう」
層岩巨淵の最奥から更に落ちてきた俺達が落ち着いてから夜蘭は俺達全員へ向けてそう言った。だが、勿論荒瀧一斗はこれに少しだけ反発する素振りを見せたが、俺はいい加減面倒になってきたので久岐忍に目配せして一応の許可を取ってから荒瀧一斗の体を岩元素で固く拘束した。
「なっ、なんじゃこりゃ!?おい、俺様を縛り付けてんのぁ誰だ!!フンヌぉぁぁあああ!!」
荒瀧一斗は驚きつつも拘束から逃れるべく体に力を入れ、なんなら元素まで使っているが一向に抜けられる様子はない。それもそのはず、壊されないような構造で力を分散して逃がすような拘束の仕方なのでどんなに怪力でも、それこそ俺の訓練を受けたノエルであろうとその拘束を解くことはできないだろう。しかしこのままではうるさいし、何より俺が何かを言った所で荒瀧一斗は絶対に聞き入れたりしないだろう。
どうしたものかと考えていると、事情を察したらしい久岐忍が口を開いて、
「親分、抜けられそうもないなら今は体力を温存すべきだ。私達で必ず拘束を解く方法を見つけてみせるから、静かに待っていてくれないか?」
そう言った。荒瀧一斗はかなり不満そうだったが、首肯くとケッと言って静かになった。俺はそのまま荒瀧一斗を除くメンツを引き連れ、彼のいる場所から少しだけ離れると、
「夜蘭、話を続けてくれ」
そう言った。荒瀧一斗以外のメンツは拘束が俺の仕業だとわかっていたからかあまり慌てた様子はない。いや、パイモンだけ素知らぬ顔でならない口笛をヒューヒュー吹いているので恐らく彼女もわからなかったのだろう。
夜蘭は荒瀧一斗を一瞥して苦笑すると、口を開いた。
「それで、どうするかよ。この空間は璃月七星は愚か、璃月にいる誰も知らない空間であることは間違いないわ。問題は正規で戻る手段が今の所は見当たらないってことね」
そう言いつつ、俺達が落ちてきた穴を見つめる。今俺達のいる空洞はある程度枝分かれがあるようで、脇道が何本かあるようだがそれだけだ。加えて空気の流れがほとんど感じられず、妙な肌感なのだ。空気の流れがないということは空気穴がないということであり、この空間が断絶された場所であることを示している。ただし、俺達が落ちてきた穴も存在しないことになるので、矛盾が生じている。
なんというか、本当によくわからない空間にいるのかも知れない。空気穴はないのに七人でいても空気が足りなくなることもなく、ただそこに『存在しているだけ』かのような感覚だ。非常に奇妙で気持ちが悪い。
俺は一旦はその事実を黙っておくことにして夜蘭の話を黙って聞くことにした。
「それで、皆に伝えておかなければならないことがあるの。アガレスは別として、ここでは『見ない』『聞かない』『質問しない』を守って行動してくれるかしら。知らないほうがいいこともあるものなのよ」
俺はともかくってなんだよ、除け者か??なんて思っていたのだがまぁ単純に俺は璃月七星そのものともかなり深い関わり合いがある。俺に知られても大して問題ないのだろう。他国の政務や極秘事項を横流しするつもりも全く無いし、したことがないから信用してもらっているのだろう。勿論荒瀧一斗は何か言いたげだがきちんと静かにしてくれているようだ。馬鹿だが頭は悪くない、と言ったところだろうか。言い方は悪いが荒瀧一斗のことを少し勘違いしていた俺は彼の評価を自分の中で少し上げる。
夜蘭はそのまま、出口を探すのに尽力するとだけ告げて話し合いの場を抜けた。パイモンが行っちゃったぞ…と呟いているが、俺としては別に構わないだろうと思う。彼女に関してほとんどの場合心配する必要はないだろうからな。
ただ、この空間が奇妙であることは間違いなく、常人には耐え難い環境であることは間違いないだろう。夜蘭はこういった状況に関して慣れているだろうし、煙緋は常人ではない。荒瀧一斗も常人ではないが、彼はまだ精神的に幼く感じる。こういった事態が動かない状況はあまり好ましくないだろう。
「夜蘭のことは放置して…煙緋、いい加減依頼内容を教えてくれても良いんじゃないのか?原因はどうあれ、俺達はお前の依頼に巻き込まれると言った形でこの謎の空間に閉じ込められている状態だからな」
俺は煙緋を見てそう告げた。別に嫌味というわけでもないが事実だけを述べるとこうなる。そして煙緋自身も依頼内容を言うべきかどうか葛藤していたのだろう。煙緋は少し申し訳無さそうな表情を浮かべつつ、依頼内容についてぽつりぽつり話してくれた。
彼女の話によれば、とある遺言に書かれていた『太威儀盤』という法宝を層岩巨淵に探しに来たようだ。どうやら何年も前に煙緋の依頼主がとある志士に『必要な時に必要な場所で役に立つように』と言って渡したものらしい。そしてその志士は層岩巨淵で行方不明になり、現在に至る、というわけだ。
そもそも層岩巨淵は様々な戦争に属した戦闘が行われており、内に秘められた怪異や危険が多い。何より、かつてのテイワットの遺物も存在している。その中でのこの空間だとすると…もしかしてこの空間もかつてのテイワットが遺っていた空間だったりするのだろうか?
煙緋はここからは皆の力を合わせて突破口を探るしかない、と言いつつ俺に視線を向けてから荒瀧一斗へと視線を向けた。拘束を解け、ということだろうが、恩人権限というやつだろうか。
俺は荒瀧一斗を拘束していた岩元素を霧散させ拘束を解いた。後でフォローしようかとも思ったのだが、
「ふい〜…俺様に恐れをなして勝手に壊れやがったぜ」
なんて言っていたのでその必要はなさそうだ。そして荒瀧一斗としては恩人である煙緋の判断に従うらしい。荒瀧一斗が従うということは久岐忍も従ってくれるようで、否やはないようだった。
「にしても、総務司って夜蘭みたいな能力も必要なんだな…なんか大変そうだぞ…」
そして旅人もパイモンも煙緋の意見には全く反論しなかったが、パイモンがそんなことを口にした。煙緋と俺は顔を見合わせて苦笑すると、俺が先に口を開いた。
「夜蘭は一般的には総務司務めではあるが、明かせない身分も多々あってな。実際俺も全部の身分を把握しきれていなくて、驚かされることがあるんだ」
俺の言葉に煙緋も同意するように首肯いており、一方のパイモンはなるほど、と納得したような表情を浮かべると、
「オイラ知ってるぞ!そういう職業は大体冒険者だよな!!今回も煙緋の依頼に来てくれてるし〜」
そう言った。静まり返る洞窟内で旅人の小さい溜息の音だけが響き、それに反発するパイモンの声が再び響いた。俺もパイモンの能天気っぷりに少し苦笑しつつ、その場を離れた。後ろからは久岐忍の「食料と水は持ってきている」という真面目な話も聞こえてくるのだが、他には大体が「ッハ!そんじゃお前は空飛ぶチビ助だ!!」だの、「なんだとぅ!!だったら、お前は牛使い野郎ってあだ名をつけてやる!!」と言った荒瀧一斗とパイモンの言い争いの声と煙緋と久岐忍、そして旅人が諌めているような声だけだった。
「…夜蘭」
俺はブツブツ喋っている様子の夜蘭に話しかける。夜蘭は考え事をしていたからか俺の接近に気が付かなかったようで少し驚いていたが、しっかり返事をしてくれた。他の者は兎も角として夜蘭にだけは伝えておくべきだと判断したので、俺はこの空間が通常の空間とは異なっており、奇妙であることを告げた。
「実際、ここの空気の流れが止まっているからな。恐らくだが出口は今の所存在しない。正規の方法ではここから出ることはできないぞ」
言いつつ、俺は楽しそうに話している旅人達を一瞥してから、夜蘭に視線を戻し、
「あいつらのためにも早めに突破口を見つけ出すぞ。そのために俺には知っていることを話してもらうからな」
そう言った。夜蘭は観念したように肩を竦めると、
「ええ、わかったわ。かのアガレスと一緒に仕事が出来て光栄よ」
そう言った。俺はフッと笑うと、
「皮肉はいい。取り敢えず場所を移そうか」
とそう言うのだった。
志士…また、国家、社会のため自分の身を犠牲にして力をつくそうとする人。の意味ですね今回の話に関しては。私これなんだろうと思って調べたらほへぇ…ってなってました。