忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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旅人達の三人称視点です


第138話 業③

層岩巨淵にあった秘境へとやって来た旅人達は眼前に広がる壮観な光景を見て皆一様に息を呑んでいた。宙に浮いているような場所に降り立った旅人達はまず辺りを見回し自分達が今いる場所について把握し始めていた。

 

正方形に近い人工物の床の中央部には不可思議な幾何学模様が存在しており、その中心部には台座のような構造物がある。そして東西南北それぞれの方向に紫、緑、黄、そして青色の異なる印字のようなものがあり、床は今いる場所を入れて6つあるがこのような台座などの構造物があるのは今いる場所だけで、他の場所には謎の装置のようなものしかないようだ。

 

そして今いる場所以外の床には紫、緑、黄、そして青色の印字がされている。それを見たパイモンが、

 

「見た感じ、あの装置を起動していけばいいってことだよな?」

 

そう言った。その言葉に旅人もうん、と首肯く。

 

「この建造物?は淵下宮にあった建造物とかと似てる気がするね。四隅にも入ったら飛んでいけるヤツがあるし…」

 

「言われてみればそうかもな。実はここも淵下宮の文明が作った秘境だったりして…うう、オイラ途端に怖くなってきたぞ」

 

「淵下宮には幽霊もいたもんね」

 

「思い出させるなよ!!」

 

若干の茶番を挟みつつ行動を開始しようとしていた一行だったが、夜蘭と煙緋だけは浮かない表情を浮かべている。そしておもむろに進もうとした旅人達を呼び止めると、

 

「…それなりに時間が経ったはずなのにアガレス殿が来ない、これは妙だと思わないか?」

 

煙緋は旅人達に向けそう言った。言われて初めて気付いた、とばかりにパイモンが驚いたように目を丸くし口を開いた。

 

「…確かに、アガレスは魈のヤツと少し話してから行く、って言ってたけどそれにしては遅すぎるよな…?」

 

パイモンのその言葉に夜蘭と煙緋は同調したが、それだけでは終わらなかった。

 

「私としては最大戦力が欠けた時点でここの秘境の探索を打ち切りたい所だけれど、そもそもの入り口が見当たらないから進むしかないわ。あのアガレスが死んでしまうとは思えないし…」

 

「ああ…旅人、まずはこの秘境を探索しつつ、アガレス殿を探してみよう。同じ秘境に入っているのであればなにか手掛かりがあるかも知れない」

 

夜蘭と煙緋のその言葉に少し不安そうだった旅人とパイモン、久岐忍は安堵の息を吐いた。荒瀧一斗に関してはふん、と鼻を鳴らすだけだったが少しだけ心配するような雰囲気を醸し出している。旅人、久岐忍、夜蘭、煙緋にはちょっとした照れ隠しのようなものか、とすぐにわかったようだ。

 

煙緋と夜蘭の二人は───というより煙緋は他のメンツに比べて長く生きており、経験も他に比べれば豊富だ。そして夜蘭もこの手の仕事をこなしてきた経験と実績がある。だが他のメンツはそうではない。だからこそ二人が冷静さを欠くようなことは出来なかった。例えその心中が決して穏やかでなかったとしても。

 

「それじゃあ、今度こそ探索を───「…ッ!」…って魈!?」

 

折角探索へ行こうとした一行だったのだが、突如何かが落ちる音が周囲に響き渡ったかと思えば、音の先にいたのは傷を負った魈だった。魈は周囲を見回すと、慌てた様子で飛び起きたのだが、傷の痛みに苦悶の表情を浮かべ、再び膝をついた。

 

そんな魈に駆け寄って治療を始める煙緋と旅人だったが、

 

「我のことはいい、アガレス様を見なかったか!」

 

酷く焦った様子で魈はそう叫んだ。何がなんだかわからなかったが取り敢えず誰も見ていないので首を横に振る一行を見て魈は更に焦った様子を見せるが、

 

「降魔大聖、そう慌てていては何を仰られたいのか、何をお伝えしたいのかわかりません。我々もまずはこの秘境を出ねばなりませんし、道中お話をお聞き致します。歩けますか?」

 

夜蘭のその言葉を聞いてギリッと歯噛みしてから返事はせずに無言で立ち上がると、一言だけ「すまない」と告げた。

 

 

 

「───それで、何があったんですか?」

 

旅人達が謎解きに勤しむのを横目に、夜蘭は煙緋に支えられている魈にそう問い掛けた。魈は少し言いにくそうに口を噤んでいたが、大きく息を吐くと話し始めるべく口を開こうとした。しかし、

 

───お前は私だ、そのくらいわかるだろう?

 

やけに鮮明に響いてきたその声によって中断せざるを得なくなってしまった。その声を聞いたパイモンがいち早く反応を示す。

 

「っ!今の声って!!」

 

「アガレスさんの声、だよね?」

 

そしてパイモンのその言葉に旅人が被せるようにしてそう言った。そう、響いてきたその声とはアガレスのモノだった。

 

「やけに鮮明だな…もしや近くにいるのだろうか?アガレス殿ー!!聞こえていたら返事をしてくれ!!」

 

鮮明であることから近くにいると予想したらしい煙緋は大声でアガレスに呼びかけた。だが特に反応はなく特に声も聞こえなくなっていた。

 

「…この感じだとアガレスは近くにいないみたいね。声は一方通行でただこちらに届いているだけ、って感じかしら」

 

夜蘭は少し目を細めながらそう推論を口にしたが、特に誰も反応することはしない。ただ旅人とパイモン、煙緋に関してはアガレスが少なくとも死んでいたわけではないとわかってホッとしているような雰囲気が明らかに出ていた。

 

「…やっぱりこのまま進むしかないようね」

 

夜蘭はそんな彼女達を見ながらそう呟いた。

 

 

 

1つ目のギミックを解き終えた旅人達だったが、再び声が響き渡る。

 

───わかっている。だが、後ろのヤツは誰だ?見た所この世界の服装ではないようだが。

 

「この世界の服装ではない…ってどういうことだろうな?」

 

「…わからないわ、今はただ耳を傾けるか先へ進むことしかできないし」

 

アガレスのものと思しき声は先程から意味不明な言葉を喋っており、かつ会話をしているようだった。旅人達が謎を解き進める中でアガレスの会話が止むことはなかった。

 

───わかっているはずだ。お前が()()この世界の存在でないということくらい。

 

───それは既に通り過ぎた道だ。俺の質問に答えろ、後ろのヤツは何者だ?

 

「…会話の内容から推察するに三人いるようね」

 

「アガレスが少なくとも二人いるってことか?オイラ、頭がこんがらがってきたぞ…あ、でも美味しい料理は二人で食べれば美味しさも二倍だもんな!わかるぞ!!」

 

「わかってないよねパイモン…あと二倍にはならないと思うけど…」

 

夜蘭の言っている意味を何も理解していないパイモンの言葉に旅人達は呆れて苦笑を浮かべるしかなかった。そうこうしている間にも謎解きとアガレスの会話は進む。

 

───此奴は複数いる私達が私達になる以前の存在…生きることからも死ぬことからも逃げ続け、挙げ句の果てに殺された愚かな存在だ。

 

───…なるほど、以前お前が言っていた『存在しないししてはいけない』というのはそういうことか。であれば───

 

「───よし、これで終わりなはず…!」

 

会話の途中で旅人の謎解きが終わってしまい、その瞬間轟音が響き渡ってしまったためそれ以上の会話を聞くことは出来なくなってしまった。実は装置を起動させる工程で魔物が湧いていたのだが、魈の素早い攻勢のお陰で夜蘭や煙緋がゆっくりアガレスの言葉を聞けていたのだ。

 

幾何学模様と台座のあった床が発光したかと思うと丁度対面の床へその光が一直線に伸び、床の一部が消滅し穴が出来ている。どうやらそこへ進め、ということのようで旅人達がそこまでやってくると地面がまるで溶けて消えてしまったかのようになくなっていた。

 

「…声はもう聞こえてこないわね」

 

夜蘭がおもむろに呟くと、思い詰めたような表情を魈が浮かべた。それを横目で流し見た夜蘭だったが特に触れるようなことはせず、

 

「なにはともあれ私達はこれで先へ進めるはずよ。行きましょう」

 

そう言って穴の中へ飛び込んでいく。残ったメンツもすぐに夜蘭の後を追って穴の中へと飛び込んでいくのだった。




魈君とアガレスの立場が逆転?しました

詳しい描写は次回か次々回に描きます
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