秘境内はどうやら、旅人達によって既に攻略されている場所だったようで見覚えがあると言っていた。勿論、それぞれの時間の流れ方によって感想は様々あるようだったが、朧気ながら全員覚えているようだ。無論、俺は来たこと無いから初見だが。
さて、以前行った場所を覚えていた夜蘭だったが、足場が消えているらしいことに気が付き足を止めた。今までのことを察するにこれもまた罠だろうが、行かないことには変わらないだろう。俺としても、もう少しこの空間を理解するのには時間がかかる。だからこそ進むしか無く、先程と同じ結果になることも自明の理だろう。
しかし、そんな時だった。
───ア…様が…死地に…事実だ!!だが…時に…救…だ!
どこからともなく、声が反響して聞こえてくる。その声にいち早く反応を示したのは意外にもパイモンだった。
「オイラ達、前もこんな声を聞いたよな?前はアガレスの声だったけど…」
要するに皆で秘境に入っていた時のことだろう。その時に俺の声が聞こえていたと言っていたが、まさかこのような形だったとは。
「声は遠いわね。前ほど鮮明には聞こえないけれど…」
パイモンの言葉に夜蘭は首肯きつつそう呟いている。
まぁ一先ず、この声は間違いなく魈の声だろうから、生存は確認できたと見て良いようだ。これすらも空間による罠の可能性もあるが…その疑心暗鬼こそこの空間が欲しているものだったりしてな。
それに、先程の音声からは戦闘音のようなものが聞こえてきた。魈は戦闘中なのかもしれないが…まぁ音声自体が途切れ途切れなため聞き取りづらかったが、彼は夜叉でありそれ相応の実力もある。あまり心配することはないだろう。
というのを皆に伝えた俺は、足場の消えている場所に目を向けた。明らかに入って下さい、と言わんばかりである。この空間の特性をまだ理解できていないから少し危険かもしれないが、この中に行く以外進むべき道はない。
「じゃあ皆、一先ずこの先へ進もうか」
俺はそう皆に声をかけて、全員が首肯いたのを見てから中へと入るのだった。
穴の先はかなり深く、気がつけば秘境の外に出ていたようだ。下には水も見えるから落下の衝撃は吸収してくれそうだ。それはそれとして念の為風元素を使って浮上しておく。少しして荒瀧一斗が途中の岩に尻をぶつけたり、それを見た久岐忍が溜息を吐きながら軟膏を塗っていたりとちょっとしたトラブルはあったが、全員無事に下へと降りることができた。
降りた先はさして広くはない空間だったが、地下水源の終わり目に構造物が見える。俺と夜蘭を除いて荒瀧一斗の尻について話していたのだが、思わず笑ってしまうくらいには面白かった。なんというか、荒瀧一斗は正しく天然のムードメーカーと言ったところだろう。
それはそれとして妙な構造物だ。門のような構造物であり、似たようなのであればそれこそ淵下宮で見た覚えがある。
さて、考察している俺の傍らで荒瀧一斗が門を開けようとして体当たりをしていたのだが、そのすぐそばに門を開けるための装置があることを失念していたようだ。荒瀧一斗はそれに気づいてしまい、恥ずかしそうに肩を震わせていた。
彼のフォローは一番慣れているであろう人、もとい久岐忍に任せて門が開くであろう装置に触れる。すると少しの地揺れと轟音と共に門が開いてゆく。絶賛落ち込み(?)中の荒瀧一斗だったが、それを見た瞬間「俺様の手柄だ!一番乗りはもらうぜ!!」とばかりに突っ込んでいく。
なんとなくわかってきたのだが彼は恐らくなんとか役に立とうとしているのではなかろうか。なんだかんだ、この空間に落ちてきたのは彼のミス、ということになるだろう。そしてそれは彼自身わかっているはずだ。だからこそ何があるかわからない場所に向け、いの一番に飛び込んだ…という見方もできる。
門が開いた時に目を輝かせている辺り全然そんなことないような気もするのだが、きっと勘違いに違いない。
さて、門が開いて中に入った荒瀧一斗だったが、特に何もない中の様子を見て困惑し、外にひょっこり顔を出した。
『貴様…うちの子に何をした!!』
「へっ?おわぁぁぁあああ!?」
その時、背後から声をかけられた荒瀧一斗は驚きのあまり門の中から飛び出してきてしまった。そして荒瀧一斗が振り向く時には既に門は閉まっている。俺の位置からは何も見えなかったのだが、煙緋には先程の一瞬で荒瀧一斗の背後に人がいたように見えたらしい。
ということで、もう一度荒瀧一斗が恐る恐る中に入ると、今度こそハッキリ人が現れた。よく見れば中は六畳一間程度の広さをしており、中央部には机がある。そして子供が一人、その両親と見られる男女が一人ずつ存在していて、皆一様に稲妻の服装をしている。
女性は子供の頭を撫でており、男性は荒瀧一斗を睨めつけている。そして男性の左手にはこぶし大の袋が握られており、男性は右手をその袋に突っ込むと荒瀧一斗に向け投げつけていた。
程なくして半べそかきながら逃げてきた荒瀧一斗は「っ…俺様としたことが、迂闊だったぜ…」とカッコつけていた。先程投げられていたのは豆で、鬼である荒瀧一斗は豆に触れただけで重度のアレルギー症状が出るらしかった。
俺は口をへの字に結んでいたためか、旅人に心配そうに顔を覗き込まれた。それに気づいた俺は苦笑しつつ心配ない、と返すと、
「…一斗、先程の光景はお前が過去に経験したものか?」
今度は荒瀧一斗に視線を向けつつそう問いかける。すると荒瀧一斗は怪訝そうに首を傾げながら、「あー、あったようなー…なかったようなー」とよくわかっていない様子だ。うん、彼に期待するのはやめよう。
さて、それはそれとして…と俺は皆に視線を向けた。荒瀧一斗のお陰で色々とわかったことがある。だがそれを確かめるには別の人に入ってもらうことになるだろうが…久岐忍が行きたがっているようで、機を窺っている。
「じゃあ、次は忍に任せよう。一斗繋がりで」
「私で良いのか?ふむ…アガレスさんがそう言うなら、私が入ろう」
一斗繋がりというのは全くの冗談であるため特に意味はない…というわけではない。一斗に限らず、彼らは稲妻からわざわざ来たのだ。俺の予想が正しければこの秘境に入った人の過去の出来事によって場所が変わるはず。
一斗は確か稲妻から出たことはなかっただろうし、過去の出来事が反映されるとすればほぼ確実に稲妻が反映されることだろう。そしてこの空間の特性上、俺たちの精神を逆撫でするような記憶を再現、或いは捏造して我々の前に具現化させる。
さて、久岐忍の場合では璃月での経験がある。話を聞いた限りだとトラウマになるような出来事はないだろうから、こちらも稲妻での出来事でなにかトラウマがあればそれが反映されることだろう。
扉を開いた久岐忍だったが、予想通り中は稲妻の家だった。中には、久岐忍と同じ、緑色の髪色をした女性の姿がある。久岐忍はその女性にゆっくりと近づくと、女性は突如反応して振り向くと、
「ちょっと忍!また本なんか読んで…貴女は早く鳴神大社で巫女をやりなさいっていつも言ってるでしょう!折角私が苦労して手に入れたお仕事なのよ?」
キッと睨めつけながらそう言っている。そして忍はたじろぎつつ戻ってきた。なるほど、どうやら忍は過去に親に生きる道を定められていたようだ。そんな彼女が荒瀧派にいるのは、どこまでも自由な彼等に憧れたからであったりするのだろうか…まぁ今はいいだろう。
───にしても巫女姿の忍さんか…いやー!見たいっ!!公式さんでなんとか映像化してほしい…。
一瞬だが頭痛がした。そういえば…俺が復活してからも記憶障害の際は頭痛が起こっていたな。もしかして、何かを思い出しかけたのだろうか。
それはともかくとして、取り敢えず仮説は立証されたようだ。少なくとも俺達に不快感を植え付けるような構造になっている門のようだ。
「…先程の声は…巫女になれと言われていたようだが?」
煙緋が心配そうに久岐忍に向けて声をかける。久岐忍は、はぁ、と溜息をつくと大丈夫だ、と告げつつ先程の声は自分の母親だ、と皆に告げた。
「…私は家族に巫女になれ、と再三言われていてな。それが嫌で璃月の学校に通ったんだが、それもずっと反対されていて…卒業して稲妻に戻ってきた今でも巫女になるように勧められているんだ」
久岐忍の声は平坦だったが、その声には悲嘆が漏れ出ていた。
「巫女、という職業は待遇も良い。だから家族は…私のしたいことより、家族のために働くことを強制してきているんだ。だけど私にとって『自由』とは必要不可欠なものだ」
できないわけではないが、したくない…とそういうことか。久岐忍を取り巻く環境は決して良いとは言えなかったが、恐らく友人関係には恵まれていたのだろう。
「かーっはっはっはっは!!忍!!今のお前の堂々とした姿が答えじゃねぇか!この荒瀧派の仕事はお前に向いてるってことだな」
「ああ、仕事は興味のあるものに就くのが一番だ。きっと君の能力なら、別の選択肢もある」
「長く生きているからこそ言えるが、仕事には向き不向きの他に、肌感に合うか合わないかがある。そして後者は周りの環境と自分の考えが重要だ。忍の場合、今の職場で満足しているのなら、それで良いと思うぞ」
俺も含めて口々に久岐忍への思いを口にした。そうして慰められた彼女は面頬越しでもわかるほど顔を赤らめていたが、小さく謝意を口にするのだった。
…うん、長くなった(白目)
アガレス「…君描写足しすぎね」