UAがなんかどんどん増えててびっくりしかしてません今日この頃
俺が魔龍ウルサの討伐を終えてから四ヶ月経った。あの次の日、ノエルの身体能力検査を行ったが、常人に比べかなりずば抜けていることがわかった。特に腕力に関しては、稲妻にいた鬼すら凌駕するほどである。故に、俺はそのまま彼女に大剣の訓練をさせていた。
そんな中、七度目の騎士選抜試験に落ちてしまったためか彼女は流石にかなり落ち込んでいたようだった。しかも偶然出会った騎士選抜選考員のジンに対し反射的に騎士団の敬礼をしてしまったそうで、選抜試験に落ちた身で敬礼を軽々しくしてしまったため恥ずかしくなり逃げ出したくなった彼女だったが、ジンに同じ敬礼を返されたことによって彼女の少し落ち込んだ心は救われたのだろう。
そうして彼女のその心意気はジンと岩元素の『神の目』に認められた。岩元素の『神の目』とは…実に彼女らしい、護ることに特化した元素と言えるだろう。それに、大剣と相性もかなり良いしな。
「───そうだ、大剣の良さはその重みによる破壊力にある。例え盾で防御されてもその衝撃は内部に伝わる。逆に、後ろに飛んで衝撃を逃さないと自分自身にも衝撃が来る。基本は流石に覚えていたようだな」
そんなノエルと共に本日も訓練を行っている。最初は準備運動を行ってから大剣に身体を慣らし、そして俺と打ち合う。
ノエルは勤勉なこともあって上達が早い。初めは拙かった元素力の扱いも、俺が手取り足取り教えたので今となっては世界に誇れるレベルだ。なんたって岩元素で見事なバラの意匠を施せるほどだからな。
「剣術の基礎は覚えているな」
「はいっ!『受ける剣』ですよね!」
「うん、どうやら自己鍛錬は欠かしていないようだな」
打ち合いながら俺はノエルにそう告げる。そう、ノエルには『受ける剣』を教えた。大剣で攻撃を受け止め、そしてカウンターで反撃する、という寸法だ。勿論、大剣は路地裏などの狭い空間では振り回せない。故に体術と片手剣の立ち回りとそれ相応の剣術も教えてある。
大剣の剣術に関しても『受ける剣』だけでなく、しっかりと攻めも教えておいたが、ノエルにはあまり向かないだろう。彼女は、『護る』ことに関して一切の妥協をしないし、相手をできることならば傷つけたくない、なんて思っているみたいだしな。
まぁ、こと『守護』という点においてなら、俺すらも超えられるかもしれない。そうなればいよいよ俺も自由に生きられるかもしれないな。こんなこと言ったらバルバトスに確実に怒られるだろうが。
しばらく打ち合って俺は一旦ノエルに静止してもらった。彼女の実力はこの4ヶ月で圧倒的に伸びただろう。冗談で魔神を倒せるくらいに、なんて言ったがもしかしたらいい勝負はできるかもしれない程には実力がついてきたと思う。
「…この四ヶ月間、よくついてきたな。誇っていい」
俺は本心からノエルにそう告げた。ノエルはそれに対して謙遜しつつ告げた。
「いえ…アガレスさまのご指導の仕方がとても優しかったので…」
当然、常人なら死んでいるレベルの訓練だ。体を壊さないように、しかし壊す寸前まで追い込み続け、今のノエルはその細身に似つかわしくない怪力となっている。4ヶ月前も中々力強かったが今ではもう比べ物にならないだろう。
とはいえノエルは人間なのだ。今が肉体的には成長段階だとしても必ず限界はある。それでもその限界まで成長させることができただろう、と俺は感じていた。
何より彼女の実力はもう十分、教えることはまだまだあるがあとは彼女自身の人生で培っていくべきものだ。
「…よし、ここからは最終試験だ」
ノエルは俺に課された様々な試験をことごとく突破してきた。ヒルチャール3体同時の討伐に始まり、ヒルチャール暴徒、璃月まで行ってヒルチャール岩兜の王といって、最近『無相の岩』をもソロで討伐できるようになった。
俺は事前に作っておいた木刀を取り出し、何回か素振りをして手に馴染ませる。ノエルはまさか、という表情を浮かべていた。
その彼女の表情を見て、俺は満足げに微笑む。
「俺に一撃でも入れてみろ。そうしたら弟子は卒業だ」
ノエルは確かに強くはなった。しかし、精神面はまだまだ弱い。俺は何度か経験しているが、地獄のような苦しい訓練を耐え抜いたからと言って知人が敵になった時きっと彼女は弱くなる。
そして誰かを護るためには何かを犠牲にせねばならないこともある。何度か俺はそれをせざるを得なかったがこれに慣れという概念はない。
今から少しずつ覚悟を決めさせることが必要であるため、俺は心を鬼にしてノエルと戦うことにするのだった。
〜〜〜〜
「はぁ…」
今日も駄目だった、とノエルは一人溜息を吐いた。モンド城内の脇道でノエルは一人歩いていた。
アガレスとの対戦が始まってからもう一ヶ月も経つが、アガレスには攻撃が当たるどころか掠りもしなかったのだ。
素早さ、剣術、体術、身のこなし、腕力、元素力の扱い、反射神経、そのことごとくがアガレスに劣っており捻じ伏せられたのだ。さしものノエルも、成長を感じられず、精神的に参ってきた頃だった。
そんな時、
『最近、根を詰めすぎて疲れているんじゃないか?動きにキレが無いぞ…?疲れているだろうし…うん、明日の訓練は休みにしておくから、ゆっくり休んでくれ』
とアガレスに言われたのである。ノエルとしては疲れているという自覚はなかったのだが、連日アガレスとの戦闘は生命の危険を感じることも多く、疲れてないとはお世辞にも言えなかった。
「ノエル、どうかしたの?」
そうして途方に暮れていた時、偶然通りがかったアンバーがリボンをピョコッと動かしながらノエルのもとへ歩いてくる。
「あ、アンバーさま…!い、いえ…なんでもございません…!」
ノエルは今の弱っている自分を同年代のライバルに見せたくなかったのか、逃げるようにその場を離れようとしたがアンバーに手を掴まれて止められる。
アンバーはノエルを見てニッコリ笑うと、
「ノエル、ちょっと付き合ってくれる?」
とそう言うのだった。まさか断ることもできず、ノエルも首肯くのだった。
アンバーとノエルは『鹿狩り』にやってきて満足サラダを2つ頼み食べていた。
「やっぱり満足サラダは美味しいねぇ〜!ねぇノエル!」
「は、はい!そうですね」
ノエルは困惑していた。何故アンバーとご飯を食べているのか、と。しかも自分の好物が満足サラダであることを何故知っているのだろうか、とも考えており様々な理由を思い浮かべてはあーでもないこーでもないとばかりに混乱の最中だった。
その考えが見透かされていたのか、一旦サラダを食べる子をやめたアンバーが、
「ノエルの好物はね、アガレスさんから聞いたんだ」
とそう言った。アガレスの名前が出て少しビクッとするノエルに、アンバーは笑いかけて更に続ける。
「あはは、別に私とアガレスさんは、そういう関係じゃないよ?」
「べ、別に気になっては…」
「ノエル」
アンバーはノエルの手を握った。
「ノエルが頑張り屋さんなのは、みんな知ってる。でも、頑張り過ぎだってみんな言ってる。アガレスさんもそう言ってた」
モンドの人々に自分の努力が認められているのが嬉しいと感じると同時に、なんだか気恥ずかしくもあったため困ったように目を泳がせることしかできなかった。
「ノエル、訓練も確かに大事だよ?だけど、ちゃんと休まないと駄目なんだよ?」
そしてノエルはアンバーのその言葉に抗議しようと口を開く。だが、有無を言わさずアンバーは続けた。
「アガレスさんから訓練に誘われたことってあった?」
ノエルはアンバーの言葉に口を噤んだ。アガレスは休息の重要性を理解している。だからこそ、2日に一回しか訓練を自分から誘っていなかったのだ。ノエルは皆を護れるように強くなりたかったのと、アガレスの期待に応えたかったために毎日アガレスに訓練をしたいと頼み込んでいたのだ。
アガレスはアガレスでノエルの剣幕に圧されてなんだかんだで訓練を了承してしまっていたため彼にも責任はあるが、勿論ノエルの気持ちを考えての行動である。休息が必要であることを自分で気付いてほしいという思いもあったようだ。
ノエルは少し思い出すように首を捻ると告げた。
「ふ、2日に一回ほどでした」
それを聞いたアンバーはやっぱり、とばかりに手を叩くと、微笑んだ。
「でしょでしょ?アガレスさんは休息が大事だよーって言いたかったんだと思うよ。しかも、ノエル自身に気がついてほしかったんじゃないかな?」
その言葉に、ノエルは目を見開いた。
「ねぇ、ノエル…私はノエルを、頑張っているあなたを応援したい。でも、頑張りすぎて辛そうにしてるノエルを見るのは…私も辛いよ」
ノエルの手を握るアンバーの手が震えているのが、ノエルにはよくわかった。ノエルは少しだけ俯いて瞑目してからアンバーの手の上にそっと自分の手を添え口を開く。
「アンバーさま、ありがとうございます。ずっと、わたくしは自分を見失いかけていたのかもしれません…アンバーさまのお言葉のお陰で、自分の初心を思い出すことができました…ありがとうございます!」
そうと決まれば、とノエルは席を立った。アンバーはまた訓練しそうなことを見越して苦笑すると、
「しっかり休みなよ?ノエル」
そう言った。ノエルはアンバーの言葉にしっかり首肯くと、
「はいっ!アンバーさま、ありがとうございました!」
そう告げて『鹿狩り』へしっかり代金を払ってからその場を離れるのだった。
ノエルが去るのを笑顔で見送ったアンバーも席を立ち、鹿狩りの路地裏に回って突如家の影に向けて手を振ると、
「アガレスさん、戻ったよ!」
そう言った。そして次の瞬間誰もいないかと思われた家の影の上にアガレスが立っていた。アガレスは微笑むと、
「ああ、アンバーお疲れ。頼まれてくれてありがとうな」
アンバーにそう礼を言った。
この会話からわかる通りノエルを励ましたアンバーはアガレスが差し向けたのである。勿論ノエルの友達であるアンバーに何とかできないかを相談した際にアンバーに言われた案を実行しただけであり、最初からアンバーを利用しようとしていたわけではなかったようだ。
アガレスは手に湯気の立つ淹れたてと思われるコーヒーを持っている。そしてそれをアンバーへ向けて差し出した。
「わざわざジンに頼んでまで淹れてもらったコーヒーだ。これで割に合うか?」
つまるところ報酬である。勿論アンバーは報酬など求めていなかったのだがそれを気にしたアガレスが勝手に持ってきただけである。
「あはは、充分だよー!っていうか、大事な友達のためだもん!報酬は関係ないよ?」
アンバーは言いながらアガレスからコーヒーを受け取るとズズッと啜った。少し二人の間に沈黙が流れ、次に口を開いたのはアガレスだった。
「…最近、どうも根を詰めすぎていたみたいでな。目に見えて疲れが溜まっていたんだ…だが俺では本当の意味での説得できなかっただろう。改めて礼を言う」
その改まった言葉にアンバーは顔を少し赤くして照れている様子だった。アガレスは尚も続ける。
「それに、ノエルには休むことの大切さもちゃんとわかってほしかったんだ。まぁ、師匠である俺が言うより、友達であるアンバーの方が、説得しやすそうだという打算も、もちろんあったが…」
「もう、わかってるよ!ノエルが心配だったんでしょ?アガレスさんはなんか回りくどいよね…」
アガレスの言葉を遮ってアンバーが苦笑しながらそう言った。アガレスがその言葉を聞いてショックを受けたように仰け反る。そしてまたその様子を見てアンバーはくすりと笑った。
「あはは、でもそこがアガレスさんのいいところでもあるんだから!」
「……そうか、そう、だな…」
アガレスは少し笑うと踵を返す。アンバーはコーヒーの入ったカップを持ちながら背を向けたアガレスを見て首を傾げる。
その雰囲気を感じ取ったらしいアガレスが首だけ振り向いてアンバーを見ながら、
「ああ、明日は休みだからな。折角だし、郊外に出かけようと思ってるんだ」
そう言ってこれでいいか?とばかりの視線を向ける。アンバー自身も首肯いてまたね、と言って手を振る。
アガレスは手を振り返すと、そのまま歩いて路地裏の闇に紛れて姿が見えなくなった。残されたアンバーはコーヒーを飲み切ると、
「あっ…食器どうしよう…」
先程のノエルの問題とは打って変わって別の問題に頭を悩まされることになるのだった。
ノエルは原作に比べるとかなり強いです。普通にヒルチャール暴徒とかワンパンします。
その腕力を赤子の手をひねるようにあしらうアガレスさんって一体…。
これからも頑張ります!