忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今日は誕生日ですからね…主人公とも関連が深いので、描かせていただきました。時系列的には龍災を解決してアガレスと旅人が旅立つ前になってます


閑話 ウェンティの誕生日

「───誕生日?」

 

「ああ、緑の人、言ってた」

 

俺は救民団本部でレザーにそう言われた。今日は6月16日、ウェンティの誕生日らしい。あまり気にしたことがなかったが、そういえば確かにそうだったか?と首を捻る。

 

適当に酒でもやっとけばいいか、と考えたが長年の付き合いだからと言って付き合いを疎かにしていい理由にはならない、か…。

 

「適当に酒でもやっときゃ喜ぶと思うがな…まぁ、一応誕生日会でも開いてやるか…ノエル」

 

そう考えた俺は台所で食器を洗っていたノエルに声を掛けた。

 

「はい、アガレスさま、なんでしょうか?」

 

「今日の夜はとびきり豪勢にしてくれ。8人前で頼む」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

ノエルは笑顔でそう言ってくれた。折角なので救民団メンツにも色々手伝ってもらうことにして皆に声を掛けていく。

 

「エウルアはノエルと協力して食料調達頼む」

 

「ええ、任せなさい」

 

「レザーは旅人を探してきてくれ。お前の鼻が頼りだぞ」

 

「肉、くえる?」

 

「ああ、勿論、たらふく食わせてやるぞ」

 

「わかった」

 

レザーはすぐに救民団を出発していった。救民団の面子以外でウェンティの正体を知ってるのは旅人とジン、そしてディルックのみだ。彼等をプラスしての8人でパーティを行う予定となった。

 

 

 

と、いうわけで。

 

「今日の夜あいてるか?」

 

俺は西風騎士団大団長室で執務中のジンに話し掛けた。

 

「仕事があるのだが…」

 

ジンは執務を続けたまま困ったように言った。俺はそんなジンの様子を見つつとある提案をする。

 

「手伝うから夜8時に救民団に来てくれないか?」

 

「そ、そうはいってもだな…」

 

しかし中々頑固だった。とはいえジンは今や代理団長だし色々あるのかもしれない。

 

だが一応、俺にも言い分はある。

 

「考えてみろよ、俺も一応とはいえ遊撃小隊隊長だぜ?手伝うための立場はあるぞ?というか、仕事してないんじゃないかとか噂されるのも困る」

 

「む…なら、頼む」

 

ジンはそこまで言ってようやく折れた。俺はジンの書類の山から半分を貰うと席についた。

 

「さて、んじゃあやりますかね」

 

結局、俺の分の執務は昼で終了させることができた。残りはジンの判や確認が必要な物であったため、ジンには暇を出された。

 

『アガレス、いつもありがとう。あとは私がやっておくから、他の皆の方へ回っていい』

 

と、そう言われたので任せてきたのである。ちなみにちゃんと救民団本部に来ることは言質を取っている。なので、今度はアカツキワイナリーまではるばるやってきた。

 

ワイナリーの正面までやってくると、メイド長のアデリンが丁度玄関から出てきたところであったため俺は声を掛けた。

 

「アデリン」

 

「こ、これはアガレス様、どういったご要件でしょうか?」

 

アデリンは俺に驚いている様子だったが、流石はワイナリーのメイド長というべきかすぐに俺に何らかの用事があることを察してくれた。

 

「ディルックに用があってな。割と急ぎの用事なんだが取次お願いできるか?」

 

「えぇっとですね…今は少しご都合が合わず…」

 

ほう?と俺は首を傾げる。アデリンは申し訳無さそうに俺を見ているので今はどうしても通せないのだろう。

 

「誰か来ているのか、或いは商談か…まぁそれくらいなら待つよ。まだ時間はあるしな」

 

俺はそう言ってアデリンを自由の身にすると、アカツキワイナリーの玄関の側でのどかな雰囲気に身を任せながらしばらく待った。しばらくするとスネージナヤの商人の格好をした男と、見送りに来たディルックが玄関から出てきた。

 

「それでは、私はこの辺で…貴方様と良好な関係が築けることを願っておりますよ」

 

「僕の方こそ、とても有意義な時間だったと思っている。これからも宜しくお願いしよう」

 

商談相手ってのはスネージナヤの商人か…どんな取引なのかねー、なんて思うが詮索はしない。

 

スネージナヤの商人が去ったところで俺はひょっこり顔を出した。

 

「ようディルック、今日の夜、あいてるか?」

 

早速、俺は彼に本題を切り出す。俺がいることを既にアデリンから聞いているからか特段驚いてはいないようだったが、

 

「アガレスか…悪いが、今日の夜は酒造業に熱中しようと決めていたんだ」

 

そう言っていた。多分今日はバルバトスの誕生日だからだろうな。新しい酒を作って売り込みでもしそうだな。

 

しかしそれはそれとして俺は交渉のカードを切った。

 

「む、そうか…今日は酒場のツケを払ってもらえるいい機会になると思ったんだがな」

 

俺の言葉にディルックの眉がピクッと動いた。

 

…食いついたな。

 

「というと?わかるように説明してくれるかな」

 

ディルックは若干考えが及んでいるのか、苦々しい表情を浮かべてそう言った。

 

「ほら、今日はウェンティの誕生日だからな。いつ来るかわからないあいつのことだ、ディルック、お前の追求も逃れているのだろう?」

 

ディルックは不機嫌そうに首肯き、やはりか、といった表情を浮かべた。俺はニッと笑うと、

 

「今日は救民団に呼んである。だからついでに払ってもらったらどうだ?」

 

とそう言った。

 

「…ふむ、そうだね、そうしようか。酒造業は明日でも問題はないよ。今年の風神に捧げる予定の酒は既にできているからね」

 

ディルックは先程までとは一転して少し微笑みながらそう言った。

 

バルバトスに捧げる酒を作るわけじゃなかったのか、と思ったがそれも当然か。今日に間に合わせなければならないだろうからな。

 

俺はそんな考えをおくびにも出さず踵を返しながら、

 

「んじゃ、夜8時に救民団本部でな」

 

そう言ってディルックに軽く挨拶するとアカツキワイナリーを離れるのだった。

 

 

 

さて、あとはウェンティを呼ぶだけだな。ディルックにはああ言ったがまだ呼んでいない。まぁ俺が呼べば十中八九来てくれるとは思うが、内容は伏せておくことにしようと思う。

 

レザーの言うところによると今日はモンド城内で飲み明かすとか言っていたらしい。そんなモラがどこにあるのやら。

 

一応、と思って『エンジェルズシェア』のドアをちょっとだけ開いた。

 

「───ぷっはぁ〜!!さぁ、もう一杯!!」

 

「お、お客様…それ以上は…」

 

「いいからお酒〜!今日は僕の誕生日なんだからぁ〜!」

 

そっとドアを閉じた。

 

「……なんだろう、今からやめたくなってきた…」

 

勿論冗談だが、事実どうしたものか。閉じたまま放置していたドアが突然開き、ウェンティがぼてっと捨てられた。バーテンダーのチャールズが俺を見て苦笑しつつ、頭を軽く下げた。

 

…まぁ、好都合、か。

 

「酒代はあとでツケの分も救民団に」

 

「畏まりました、アガレス様」

 

俺は地面に激突し、目を回しているウェンティを抱え、風立ちの地の木陰に座らせた。ついでに、『夜9時に救民団本部へ』という書き置きも残しておいた。

 

そうしてやることを終えて帰ってくると旅人とパイモンが出迎えた。

 

「おかえりーアガレスさん」

 

「おかえりだぞ!」

 

「ただいま、詳しい話は聞いてるか?」

 

旅人もパイモンも首肯いた。よし。

 

「んじゃ、俺達だけでできる準備はいち早くやっておこう───」

 

 

 

夜8時になってから、まずはジンが救民団の戸を叩く。

 

「アガレス、いるだろうか?」

 

俺は玄関のドアを開きつつ、苦笑した。

 

「いないわけないだろ?誘っておいて…」

 

冗談交じりにそう答えると、ジンはふふっと笑った。

 

「それもそうだな」

 

ジンは少し嬉しそうにしながら中に入ると、ノエルとエウルア、レザーと、そして旅人にパイモンに挨拶しつつ細かい段取りを聞いていた。

 

「───少し遅くなってしまったかな」

 

続いてディルックも到着した。

 

「いいや、いいタイミングだ。ウェンティが来るまで一時間ある。準備を済ませてしまおうか」

 

風元素を使ってウェンティの様子をなんとなく探ってみると、どうやウェンティはちゃんと起きているみたいだ。書き置きは彼の胸の上に置いたから気が付かぬはずもなし。

 

さて、準備を開始しよう。

 

 

 

───夜9時、ウェンティがここを訪れる時間に、遂にコンコンと玄関のドアがノックされた。

 

「来たぞ…配置につけ」

 

俺の小声の言葉に暗闇の中、全員が首肯き移動を始めた。俺は玄関の扉の前まで行き、「開いてるぞ」と言った。ドアが開き、入ってきたのはやはり緑色の少年、ウェンティだった。

 

「アガレスー、書き置きの通りに来たんだけど───」

 

その瞬間俺は手を上げて合図をした。バッと部屋の照明がつき、一気に明るくなったかと思うと、破裂音が沢山鳴り響いた。クラッカーである。

 

『ウェンティ、誕生日おめでとう!!』

 

ここにいる全員(ウェンティ以外)が一斉に言った。

 

「さぁ、飯にしようか皆!ウェンティとかエウルアに関しては酒も沢山あるからな!今日はいっぱい飲んでいいぞ!無礼講だ無礼講!!」

 

俺が笑いながらそう言うと、

 

「ち、ちょっと待ってよアガレス、これはどういうこと…?」

 

ウェンティが動揺を顕にしながら俺の袖をつかんだ。その言葉に俺は何でもないことのように告げる。

 

「なにって…お前、今日誕生日だろう?だからお前の正体を知ってる面子でパーティをしようと思ってな」

 

ついでに、『龍災』収束記念と、ウェンティの『神の心』収奪阻止記念を兼ねている。まぁそれは勝手に俺が言っているだけだが。

 

俺からパーティの理由を聞いたウェンティは少し困惑を残しつつも、

 

「そ、そうなんだね…まぁ、お酒も一杯飲めそうだし、いっかぁ!」

 

そう言って納得してくれたようだった。ウェンティが輪に混ざったところで、ディルックに耳打ちする。

 

「ツケに関してだが、これからはしばらく返してもらえなければ救民団にツケてくれれば支払うぞ」

 

話し終わった俺はにっこり笑みを浮かべた。ディルックは苦笑しながら、

 

「……それで増長されても困るのだけれどね」

 

そう言った。それに対して俺は笑いながら、

 

「ッハハ、違いないな」

 

そう言って俺とディルックは互いにブドウジュースをグラスに注ぎ乾杯をして飲む。そうして少しディルックと談笑していると、背後からジンに声をかけられた。

 

「アガレス、ウェンティは蒲公英酒が好きだと聞いたのだが、あるだろうか?私も少し興味があるんだが…」

 

どうやら蒲公英酒をまだ飲んだことがなく、普段公務ばかりのジンには新鮮なものなのだろう。俺は少し笑うと、

 

「こんなこともあろうかとばっちり仕入れてあるぞ。注いでやろう」

 

俺はそのまま冷蔵庫から蒲公英酒を取り出して栓を抜き、ジンのグラスに注ぐ。ウェンティとエウルアも匂いにつられてやってきたのでグラスに注いでやった。

 

「好きなだけ飲むといい。在庫は結構あるからな」

 

まぁ俺は酒の匂いで昏倒しそうだがな、との言葉は飲めない酒の代わりに飲み込んでおいた。

 

 

 

しばらくして、皆が(ノエル、レザー、俺、ディルックを除く)いい感じに酔い始めた時ウェンティが酔った勢いで立ち上がった。

 

「───じゃあ、宵もたけなわ、ということで僕の詩を一編披露しようかな」

 

ウェンティの言葉に俺は手でメガホンを作りながら、

 

「よっ、待ってました!」

 

とそう言った。そんな俺の様子を見た隣に座るディルックが俺にジト目を向けながら、

 

「アガレス、君は酔ってないだろう…」

 

とそう言った。俺はしっかり聞き流すとウェンティを見る。

 

「はいはい、今からモンド最高の吟遊詩人の初出しの詩を聞けるからね!」

 

ウェンティはそんな俺達など目に入らない、とばかりに無視を決め込み詩を詠み始めた。

 

 

 

───遥かな昔、まだ風が自力で動くことのできなかった時代、一匹の龍が生を受けた。

 

やがてその龍は風が自由に動けるようになった時、人の姿を得た。

 

風の精霊は言う、「外の世界を見て回りたい」と。

 

龍は返した、「共に?」

 

風の精霊は笑う、「そう、僕たちは、友人だから」

 

龍は首肯いた、「良いだろう、世界を未だ知らぬ者よ」

 

風の精霊と龍は世界の色々な場所を見て回った。氷の大地、火山の山脈、水に囲まれた島々、砂の平原…風の精霊と龍はやがて最も穏やかな風の吹く場所へと辿り着く。

 

風の精霊は言う、「風向きは変わるもの」

「いつか光射す方へと吹いてくる」

「これからは、ボクの祝福と、そして君とともに、もっと自由に生きていこう」

 

龍は言う、「風は自由だ」

「お前も同じように自由だ」

「できることならばお前のように自由でいたかった」

 

風の精霊と龍との関係は、なるべくしてなったと言えるだろう。彼等は同じであって、違う存在。兄弟のようで、赤の他人。それは偏に世界とそこに住まう民の関係性を如実に示しているかのようだ。

 

どれだけの月日が過ぎ、人が生まれ、国家を作り、魔神達が鎬を削り、風の精霊が人の姿を得ても、彼等の関係が変わることはなかった。

 

やがて来る『終焉』に対処するため、龍は笑い、泣き、そして消える。風の精霊は同様に涙を流し、彼の帰りを待つ。彼が戻ってくるまで、永遠に───。

 

 

 

「───どうだったかな?僕の友情の詩は」

 

ウェンティはそう言ってライアーを爪弾いた。あの様子だと酔いは醒めているようだ。

 

「凄い話だった…まるで、実際に経験してきたかのようだ」

 

ジンはウェンティの詩に対しそう感想を漏らす。

 

「ああ…吟遊詩人、その詩、『エンジェルズシェア』でやってもらえないだろうか?相応の報酬は約束しよう」

 

「えへへっ、なら蒲公英酒かりんご酒がいいなぁー」

 

ディルックの言葉にウェンティは満面の笑みを浮かべた。ウェンティの詩で更に盛り上がった俺達は、しばらくその話題を肴にして夜が更けるまでパーティを続けるのだった。

 

 

 

「ノエル、あとは俺がやっておくから、寝ていいぞ」

 

「はい…すみません…おやすみなさい、アガレスさま…」

 

「ああ、おやすみ」

 

俺はノエルを見送ると、そのまま食器やらを洗って片付けてからソファに座った。対面にはまだ起きているウェンティがいる。

 

あの後少ししてジンとディルックが帰っていき、エウルアは酔い潰れ、レザーは早い段階で眠り、そしてノエルは限界まで片付けの手伝いをして寝た。

 

現在救民団本部で起きているのは俺達二人だけである。

 

「……あの詩、俺とお前の話か」

 

俺はウェンティにそう切り出した。ウェンティは酒───ではなく水を口にしながら、

 

「さぁ、なんのことかなぁ…」

 

そう言って恍けながら肩を竦めてみせた。そんなウェンティの様子を見ながら、

 

「まさか、覚えていてくれたとはな。嬉しいよ」

 

そう言って心の底から微笑んだ。ウェンティは少し照れ臭そうにしていたが、やがて決心したように言った。

 

「…僕は別に、『神の心』を取られたって良かったよ。けれど、どんな影響が僕にあるかもわからない。そんな僕を心配してくれて、君が阻止してくれた」

 

ウェンティは水の入ったグラスを机に置き、そのグラスを見つめている。

 

「…また、助けられちゃったね」

 

「友人を助けるのは当然だろう?」

 

ウェンティは顔を上げて俺に向かって苦笑をしながら、「君のは度が過ぎてるけどね」と言う。

 

「それでね、僕考えたんだ。そんな君に、僕は何を返してあげられるだろうか、ってね」

 

俺がちょっとムスッとしているとウェンティはそんなことを言った。俺が首を傾げると、

 

「風神バルバトスとして、僕は再びこの地に降り立つよ。モンドを、護るために…そして、君のことも護るためにね」

 

ウェンティは決意を秘めた表情でそう俺に告げた。俺はというと少し驚いて固まっていたのだが、思ったことを素直に返した。

 

「別に俺は見返りを求めていたわけじゃない。お前は民には自由にして欲しかったから風神として姿を現すのをやめたはずだ」

 

「もう、それは別にいいじゃないか…」

 

ウェンティはそのままソファに寝そべると、目を瞑った。

 

「いつになるかはわからないけれどね…僕も一応、神として責務は果たさなきゃだし…それに、僕は風神である前に『自由』の神、そして君の友人さ…」

 

「おい、ここで寝るのか?」

 

言い終わるよりも前に、ウェンティはすぅすぅと寝息を立てていた。俺はしょうがねえな、と溜息をつきつつ、冷えないように毛布をかけてやった。

 

「そうだ、お前は、自由だ。好きに生きて、好きに死ねばいい…俺のために死ぬ必要なんて、どこにもないけどな」

 

俺はそう言い残して自室へと戻るのだった。




というわけで、ウェンティ誕生日おめでとう!by作者
ウェンティ、頑張って育成せねばと思って早数ヶ月…頑張らねば
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