忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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熱はなんとか収まりまして…ただもともとひいてた喉の風邪が治ってなおんですよね…この時期に中々紛らわしいことを…

追記 : さて、描写を足した未来の私ですが、クソほど長くなってしまいました。なんといっても元々それなりに長い話だったのでこんなことに…ということで、ご覧下さいな。


第13話 『龍災』再び

ジンと別れた後、俺は神龍団本部へと戻り皆で夕食をとった。今日はノエルが作ってくれたようで久し振りに自分以外の作った料理を食べた俺はなんだかやけに美味しく感じてしまって大袈裟だ、とエウルアに少し怒られた。

 

さて、そんなこんなで夕食を食べ終わった俺は暗くなったモンド城内を見回りに神龍団本部を出た。

 

普段はこんなことはしないのだが、モンドのとある噂を元に探しているモノがあるのだ。モノ、とは言っても恐らく人だとは思うのだが、曰く『闇夜の英雄』と巷で噂されている存在が夜ピンチの時に颯爽と現れて人を助けていくらしい。

 

颯爽と現れる、とか人がピンチの時にとかその辺は眉唾な気がするが、恐らくモンド城に侵入した存在を処理しているのだろう。だから多分人間だとは思うのだが、はてさてどうなのやら。

 

30分ほど歩き回ったものの、いい加減歩いて探しても埒が明かないことを察した俺は遂に風元素を用いて空へと飛んでモンド城全体を見下ろした。すると、モンド城の側門辺りに不自然に明るい光を見つけた。

 

「…あれは光か…?篝火の炎とも違うようだが…」

 

俺は思わずそう呟いてモンド城の側門付近へと風元素で飛んでいった。

 

〜〜〜〜

 

「判決を───下す!!」

 

氷のアビスの魔術師の放った大きな氷塊と炎の鳥が激突し相殺された。ディルック・ラグヴィンド、燃えるような髪の毛と瞳を持つ男が、そこにはいた。

 

モンド城にある側門は人気も少なく、西風騎士の常駐はあるものの一人だけだ。そのため、極稀に小規模のモンスターの群れが攻め込んでくることがあるのだが、現在知能のある怪物が側門からモンド城へ侵入しようとしていた。

 

その情報を、とある伝手で得たアカツキワイナリーのオーナー、ディルック・ラグヴィンドは怪物───アビスの魔術師を止めるためやって来ていた。自らの元素爆発が相殺されたことに舌打ちをするディルックだったが隙を作らぬようにすぐに大剣を構えた。

 

アビスの魔術師・氷はくつくつと喉を鳴らすと再び氷塊を飛ばそうとして杖を振ったのだが───

 

「炎斬」

 

アビスの魔術師は張っていたシールドごと炎元素を纏った斬撃で真っ二つになった。ディルックは突然の男の出現に驚きつつも、

 

「助太刀感謝する、神龍団団長殿」

 

そう言ってアビスの魔術師を真っ二つにした男───アガレスを見るのだった。

 

 

 

「───それで、僕に用があるんだったかな?」

 

モンドにある酒場、エンジェルズシェア内のカウンターに座ってカクテルを作っているディルックがカウンターに座るアガレスへ向けそう言った。一方のアガレスは好物になったググプラムジュースを一口分だけ喉へ流し込み、ディルックを見据えると、

 

「お前は『アビス教団』の動きがわかるようだからなにか秘密があるのか、と思ってそれについて聞きたかったんだ」

 

そう言った。ディルックはその言葉に特にこれといった反応を示さず、カクテルを作るシャカシャカという音が鳴り止むだけだった。話し始めるのかと思いきやグラスに作ったカクテルを入れて盛り付けが始まっている。

 

アガレスがディルックのそんな様子に肩を竦めてググプラムジュースを再び口に含んでいると、

 

「…それなりに人には秘密があるものだろう。団長殿もそれは変わらないはずだが」

 

手元から視線を逸らさずにディルックがそう言った。ディルックのその言葉に対してアガレスはふむ、と一つ唸ると、

 

「確かにその通りだ。そして人の秘密に土足で踏み入るような真似は俺もしたくない。だが、お前と違って俺の秘密はお前に開示しても恐らく問題がないものでな」

 

そう告げた。そこで初めてディルックは手を止めてアガレスを見る。そんなディルックに向けてアガレスは表情を全く変えずに口を開く。

 

「ディルック、お前の情報網がどんなものかは知らないが、かつて『七神』が『八神』だったことは知っているか?」

 

アガレスのその言葉にディルックは驚いたような顔をすると、

 

「ああ、僕はそれを知っている。とはいえ、その話を広めると、天罰を喰らうとも言われていてね。迂闊に広めることはできないんだ」

 

そう言った。対するアガレスはふむ、と一つ唸るとその神の名を問うた。ディルックは何故そんな質問を、と疑問に思ったが、アガレスを見てまさか、という表情を浮かべた。

 

それを見たアガレスはニヤリと笑うことでその答えを示し、対するディルックは眉間にシワを寄せつつ考え込むように顎に手を当て、そのまま口を開く。

 

「確かに、『元神』アガレスの記録が途絶えたのは500年前…そして表も裏も、『元神』に関する全ての記録は抹消されたと聞く」

 

ディルックのその言葉にアガレスはバルバトスから聞いていた通りだな…と思いつつ、

 

「ああ、俺の肉体は殺してきた魔神たちの怨恨に塗れていたからな。完全にこの世から俺が生きていた痕跡を現『七神』が消し、魔神たちの怨恨から俺を解放したんだ。俺が今ここにいられるのは、あいつらのお陰なのさ」

 

そう言った。また、アガレスはそう言いつつも、内心でバルバトスは裏の情報網に至るまで全て抹消したと言っていたのに、一体どこに残っていたのだろうか、と思案していた。

 

さて、アガレスの秘密を聞いたディルックは若干動揺というより混乱している様子だったが、

 

「…君の秘密に免じて、僕からも情報源を教えよう。僕が『アビス教団』の情報を持っているのは裏の情報網だ。少し訳あってね」

 

そう言った。それを聞いたアガレスは裏の情報網か…と思わず呟く。とはいえ、バルバトス達『八神』が裏の情報網に残っていた自分の情報も完全に消去したと言っていたのを思い出したアガレスは不思議そうに首を傾げる。

 

そのためアガレスは、

 

「俺の情報は裏で手に入れたわけではないのだろう?」

 

ディルックに素直にそう問い掛けた。それに対してディルックは首肯きつつ、

 

「ああ、僕が君のことを知ったのは、そのアビス教団からだよ。彼らが、君の話をしていたのを詳しく聞き出してね」

 

とそう言った。

 

恐らく、何らかの形でアビス教団にはアガレス自身の情報が残っており、その情報が記録なのか、はたまた記憶なのかは不明だがアビス教団が出現したのは500年前。となればアガレスが止めた『終焉』か、或いはカーンルイアそのものと何らかの関係があるのだろう、とアガレスは勘繰った。

 

「俺についてどこまで知っているんだ?」

 

そのまま考えても埒が明かないため、アガレスはアビス教団の末端の怪物が自分についてどれくらい知っているのかを知るためにディルックにそう問い掛けた。

 

聞かれたディルックはというと素直に、

 

「『八神』のうちの一柱、『元神』アガレスの名と、500年前に『終焉』を止めたこと、そして彼の情報が表裏どちらからも抹消されたということは知っているよ」

 

そう言った。ふむ、とアガレスは一つ唸ると、

 

「やはり記憶による継承…?或いは魔物となったことによる一代のみの継承か…」

 

アガレスはぶつぶつとそう呟いた。やはりアビス教団は『終焉』ではなくカーンルイアと深い関わりがあると見るべきだろうな、と一人納得すると同時に、アビスの怪物は拷問に対してある程度耐性があるのだろう、との結論を出した。何と言ってもディルックが掴んでいるのは基本的な情報のみで、アビス教団がそれだけの情報しか持っていないわけがなかったからだ。

 

アガレスは小休止を挟んでから、再びディルックへ向けて口を開くと、「魔龍ウルサの件は知っているか?」と問い掛けた。

 

ディルックは再び意図の分からない質問に対して首を傾げたが正直に首肯くと、

 

「『アビス教団』が毒龍ドゥリンの血塊を利用したと聞いている。毒龍ドゥリンは500年前モンドへ攻め込み、それを阻止しようとした東風の龍トワリンと死闘を演じて敗北し死んだ。その遺骸はドラゴンスパインに残っているようだが」

 

そう言った。アガレスにとって500年前のその出来事は初耳だったため、驚きの余り目を見開いている。アガレスは今はいい、と驚きを切り捨てるとディルックにトワリンについて説明を始めた。

 

「今回の騒動、トワリン…いや、風魔龍と言ったほうが馴染み深いか?とにかく、彼の腰部と首筋に魔龍ウルサと同じ血塊があった」

 

アガレスのその言葉に、ディルックはほう、と息を漏らして心底興味深い、といった視線をアガレスに向けた。アガレスはつい先程ディルック自身から得た情報で自らの情報の足りない部分を補完しつつ続けた。

 

「毒龍ドゥリンとトワリンが戦っていたのなら、負傷しないわけがない。その傷口から毒龍ドゥリンの血液が入り込み、この500年間その苦しみに耐え続けていたとしたら…」

 

アガレスは神妙な顔付きでそう言いつつ更に付け加える。

 

「モンドの住民は彼をトワリンではなく風魔龍と呼び、恐れた。トワリンは500年で忘れられていたのが心底堪えたのかもな」

 

或いは見捨てられた、と感じたのかもしれないな、とアガレスは更に続けた。

 

ディルックはそれに対して「…そうか」と淡白な反応を見せたが、何かを思いついたように固まっている。いや、点と点が線になったというべきだろう。ディルックはそのままアガレスへ向け口を開いた。

 

「トワリン、風魔龍がモンドに対してマイナスな感情を持っていたのだとしたら、『アビス教団』はそこにつけ込み更に堕落させたのだろう。奴らの常套手段だ」

 

どうやらディルックから見ても『龍災』に関して『アビス教団』が関わっているのは間違いないようだ。それを聞いて安心したらしいアガレスは聞きたいことは聞けたらしくふぅ、と大きい溜息を吐くのだった。

 

〜〜〜〜

 

俺はあの後ディルックとの諸々の挨拶や会計、情報交換の礼とこれからのことも交えて話し込み、夜が明けるところで漸く『エンジェルズシェア』を出た。

 

「なるほどな…このモンドの一大事に風神が顔を出さぬ訳が無いと思っていたが…」

 

そして思わずそう呟いた俺は肌に直に感じる夜風に舌打ちした。

 

風が不自然に乱れている。バルバトスに何らかの危機が及んでいるようだ。最近は忙しすぎてそもそも風を気にしたことがなかったから、気付くのが遅れてしまったのだが、バルバトスは無事なのだろうか。

 

「バルバトス、一体お前は何処にいるんだ…?」

 

俺のその心配から来る無意識の呟きは、再び吹き荒んだ風に運ばれて何処かへ消えていった。

 

 

 

翌日、俺はノエルを連れて西風教会の本部とも言うべき、西風大聖堂を訪れていた。

 

丁度大聖堂の入口で掃除をしていたシスター───ヴィクトリアが俺に気がついたようで胸に手を当てながら目を瞑り、「風神様のご加護があらんことを」と言って来た。

 

俺は同じ言を返しつつ、久し振りだな、と告げた。対するヴィクトリアは微笑むと、

 

「ええ、アガレス様。前は助かったわ、ありがとう」

 

そう言った。『前』というのは教会に入ってきた泥棒を追跡し、特定、西風騎士団に引き渡した事件のことだろう。なんでも西風大聖堂の奥地に保管されていると噂の『天空のライアー』を狙った犯行だったらしい。

 

このライアーは特別製で風神バルバトスが使っていたとされるライアーであり、風神の力が眠っているともされている。それを狙ったとあらばあの犯人はただじゃ済まないだろうな。

 

俺はヴィクトリアの言葉に対して礼は不要だ、と前置きしてから微笑むと、

 

「モンドに住まわせてもらっているんだし、これくらいはするよ」

 

そう言った。ヴィクトリアは感謝は大切だから、とだけ呟いて一緒に連れてきたノエルにも久しぶりね、と微笑みを携えながら声を掛けていた。ノエルはヴィクトリアに同じようにお久し振りです!と元気よく返事をした。

 

ヴィクトリアに会えたことも勿論嬉しいのだろうが、何より友人であるバーバラに会えるかもしれないからか、表情に幸せが溢れ出ているように見える。

 

俺はそんなノエルを生暖かい目で見守りつつ、ヴィクトリアに本題を話すことにして声をかけた。ヴィクトリアはノエルとの世間話もそこそこにして俺に視線を向けた。

 

「それで、教会の警備強化についてだったな」

 

俺の言葉にヴィクトリアは首肯いた。

 

教会、特に西風大聖堂の警備に関しては人手不足の西風騎士がなんとか交代で回している状況だ。それとは別に、夜はとある番人…というか暗殺者?密偵…?まぁとにかくそう言った隠術方面に精通しているヤツが見回りをしているから泥棒が入ったとしても返り討ちに合うだろうが、前回のは警備の少ない白昼堂々行われたものであるため、すり抜けられてしまっていたようだ。

 

西風大聖堂のこの問題に関しては俺が常々危険視していたため人員を派遣したいのは山々だったのだが、その場合西風騎士団に神龍団全員分の、天空のライアーが保管されている場所への入室の許可を得ねばならない。

 

それが面倒なのと、西風騎士団との情報交換の齟齬が出てくる可能性を鑑みて業務提携を提案した、という目的もあったのだ。

 

俺は事前に考えて来たローテーションの書いてある書類をヴィクトリアに渡す。尚、事前に代理団長から入室の許可は俺含めて全員貰っている。

 

「書類にある通り、昼間はレザー、エウルア、ノエルの3人を毎日交代制で寄越そう。とりあえず改善が見られなければ別の方法をまた考えるが、人員不足に関してはこれである程度緩和されるはずだ。人が多い、というだけで犯罪率はかなり下がるだろうしな」

 

俺はヴィクトリアが書類に目を落としたタイミングでそう告げた。ヴィクトリアはうん、と声を上げると「これでいいわ、ありがとう」と言った。尚、事前にノエル達3人には許可を貰っているため明日からすぐにでも見回りが追加されることだろう。

 

具体的には午前10時頃から午後3時頃までだ。食費に関しても教会の炊き出しをくれるようなのでありがたい限りだろう。因みに俺がローテーションにいないのは、その時間に俺しか処理できない仕事や出来事が起きた場合に対応できなくなるためだ。尚、これは俺の言葉にではなくエウルアの考えである。

 

「まぁ最近は『龍災』のせいで泥棒どころではないだろうし、今日は問題ないだろう…さて、では明日から人材を派遣させていただく。まぁ、かなり長い任務だから、それなりに値は張るだろうが問題ないか?」

 

本題は終わったし締めの言葉を置いて去ろうと思ったのだが、最後に値段の問題があったのを忘れていたため俺はそう聞いた。

 

対するヴィクトリアはふふっ、と笑うと、

 

「ええ、経費で落ちるから」

 

とそう言った。それでいいのか西風教会、と思いつつ高位のシスターであるヴィクトリアが言うならいいのかな、と取り敢えず無理矢理納得させた。実際教会側にしてみればモラより天空のライアーの方が何倍も重要なものなのだろうし問題ないはずだ。こちらとしても法外な金額を要求するつもりもないし、警備と言っても結構暇なものだから、通常の相場より安めにするつもりではある。

 

今度こそ忘れていたことがないのを脳内で確認した俺は踵を返して去ろうとした。

 

「じゃあ俺達は───ッ!!」

 

そしてヴィクトリアへ軽く挨拶をしようとしたタイミングで、異変を感じた俺は北西方向をバッと見やる。そんな俺を怪訝そうに見るヴィクトリアとノエルだったが、俺の中の疑念が確信に変わったタイミングで、

 

「ノエル、ヴィクトリアを急いで教会内へ避難させろ」

 

ノエルを一瞥もせず俺はそう言った。言われたノエルは、というと状況は飲み込めていないようだったが、

 

「は、はい!ヴィクトリアさま、急いで中へ!」

 

俺の指示に従って何が何やらわからないと言った様子のヴィクトリア西風大聖堂の中へと誘導している。ヴィクトリアは堪らず、

 

「え!?ち、ちょっと、どうしたのアガレス様!?」

 

そう叫んで俺に短い言葉で状況を問い掛けた。俺は北西方向を睨めつけたまま一言だけ、

 

「龍が来る!」

 

と告げた。その直後、再びモンド城を暴風が襲った。俺は法器を素早く取り出すと、風元素を展開して暴風からヴィクトリアとノエルを護り、

 

「早く中へ!」

 

とそう言って西風大聖堂の入り口を離れた。ノエル達は無事に西風大聖堂の中へと避難できたらしく、チラッと西風大聖堂の入り口を見たのだが誰もいなくなっていた。

 

そのまま入り口を離れてモンド城を一望できる位置まで来たのだが、黒い竜巻が複数モンド城を襲っており、トワリンもブレスで攻撃しているようだ。

 

そんな中、風神像の下にアンバーが見え、何故逃げていないんだ?と疑問に思っていると、もう一人同じ場所から逃げ出そうとしている見知らぬ金髪の少女が逃げ切れずに暴風に巻き上げられていくのが見えた。

 

なるほど、と思いつつアンバーが逃げていなかった理由を理解した俺は現状に舌打ちしつつ、少女を救うために風元素を使って宙に浮く。思ったより強い風元素の奔流になんとか対抗しているためかなり体制は不安定だが、なんとか維持して空高く飛んでいくのだった。

 

〜〜〜〜

 

モンド城をトワリンが襲い始める数刻前。

 

「───旅人〜、オイラお腹すいたぞぅ…」

 

モンド城の東側に位置する星落としの湖付近の草原にて、くぅ、と可愛らしい音を響かせてパイモンのお腹が鳴った。旅人は恥ずかしがるパイモンを見てくすっと笑うと、

 

「じゃあ朝食にしよう」

 

そう言って朝食の準備を始めようとしていた。だが、

 

「わぁっ、なんだあれ!?」

 

直後に血相を変えたパイモンが空を指差して叫ぶ。旅人がバッと空を見上げると蒼き巨龍が空を飛んでおり、旅人達の進路上にある森林へ向け降りていくところだった。

 

それを見たパイモンは若干の恐怖は覚えたものの、それよりも好奇心が勝ったようで、

 

「オイラたちも行ってみようぜ!」

 

と興奮気味にそう言った。旅人はその言葉に苦笑を浮かべつつ、

 

「はいはい、パイモンって本当にせっかちだね」

 

そう同意して先行するパイモンに置いていかれないように足を動かし始めた。

 

2分ほど走って囁きの森と呼ばれる森林までやって来た旅人達は蒼き巨龍を見つけると物陰に隠れて様子を窺った。しかし、どうも様子がおかしいようで、旅人達は食い入るように蒼き巨龍を───正確には龍の正面辺りに視線を向けていた。

 

というのも、そこでは蒼き巨龍と緑の服を纏った吟遊詩人のような少年が向かい合っており、龍に少年が話しかけていたのである。

 

「───安心して、僕は帰ってきたよ」

 

少年は龍を安心させるように両手を龍の顎に添えつつそう言った。龍は警戒心を顕にしつつもその手を受け入れていた。

 

旅人は驚きの余り頭が真っ白になっており、パイモンの静止の声も聞かずに一歩前に出ると足元にあった灌木を折ってしまった。一人と一匹の世界に突然、乾いた音が響いたものだから当然吟遊詩人も龍も驚くことだろう。

 

現に龍は旅人の姿を見つけた途端、敵意を剥き出しにして少年に向けて咆哮するとそのまま飛び去ってしまった。旅人は灌木を折ってしまった驚きによって我に返っていたため、すぐ物陰に隠れた。

 

「ッ…誰!!」

 

少年がキッと旅人のいる方向に視線を向けると叫ぶようにそう言う。旅人は物陰から再びノコノコ出ていくこともできず、ただ息を潜めてその場に留まっていた。

 

しかし旅人が気付いたときには龍も少年もおらず、先程までの喧騒が嘘のように静まり返っている。旅人とパイモンは少ししてから恐る恐る物陰から姿を現したが、当然辺りは静まり返っており、動物達の音も何も聞こえなかった。

 

やがて二人は少年と龍のいた場所へやって来たが、龍がいた場所にふわふわ浮いている謎の紅い色の雫以外は特に何も見つからず、先程の光景を説明できるようなものはなにもなかった。

 

パイモンと旅人は後回しにしていた雫の下までやって来て観察するも、やはり雫自体もなんなのかわからなかった。だが放っておくこともできないと考えたらしいパイモンが、旅人に雫を回収しようと提案し、旅人もそれに首肯いて同意すると、雫をバッグに仕舞い込むのだった。




今回長めでしたね…まぁ一気に旅人の方を描いたので…時系列的にやるしかなかったんです!許して!!

追記 : 尚一部は後から次の話の最初にぶち込まれる模様。まぁ普通にしてたら一話だけで1万字いっちまうところだったのでね!許して!!
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