忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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本日は少し体調が優れず更新が遅れてしまいましたすみません…明日も少し遅れるかもしれません


第18話 天空のライアーを盗み返す

救民団本部にて。

 

「ふぃ〜!アガレスの家のベッドはふかふかだな〜!」

 

パイモンがベッドの上で器用に飛び跳ねながら言った。それを見て微笑む旅人にしてみても、ベッドが何故こんなにもふかふかなのかと疑問に思うほどに心地が良かった。

 

まぁ勿論、ノエルが洗濯しているから、という単純な理由ではあるが。

 

そんなことを露程も知らない二人は、とにかく自分達の過ごしている環境が良いことを喜んでいる様子だった。

 

「にしても、よかったな〜、泊めてもらえて!昨日は結局路上で過ごしたんだっけ…くぅ…」

 

「パイモンは浮いてるし関係ないでしょ」

 

パイモンが目に涙を溜めて言ったのに対して、旅人が鋭く突っ込んだ。しかし、斯く言う旅人も例外ではなく、モンドに来る前は砂浜で、そしてモンドに来てからは路上で夜を明かしていた。むしろ旅人という身分であるため、野宿は当たり前なのだが、それでも良いベッドを前にして旅

旅人の気も緩んでいるようだった。

 

元々、モンドにいる間は有名な『ゲーテホテル』に泊まろうと二人は考えていたのだが、現在はファデュイが独占中であるため、野宿を余儀無くされていたのだ。

 

二人は落ち着く時間ができたからか、最近得た情報を整理するようだ。

 

「それにしても、吟遊野郎言ってたよな」

 

───アガレスはね、僕たちを護るために歴史の闇に葬り去られた神なんだ。

 

旅人達は、吟遊野郎───もといバルバトスから既に、アガレスのことを聞いていた。

 

旅人達の旅の目的である、自身の兄と自分をこの世界に閉じ込めた謎の神を探し、はぐれてしまった兄自身も見つける、というものがあるため、バルバトスから聞かされたアガレス自身が謎の神ではないか、という疑念が旅人に生まれていた。

 

しかし、本人と話してみて考え方も話し方も、何より性別も全て違った。つまり、現状アガレスは謎の神ではないと断言できるため、今は信用しているようだ。

 

しかし旅人にとって、別の疑問が頭に浮かんでいる。パイモンと談笑する中、旅人は心のなかでこう思った。

 

───ウェンティが『風神』なら、アガレスさんは何の神なんだろう?

 

そう、バルバトスはアガレスが神である、とは言ったがなんの神であるかは教えていない。そしてその疑問は、旅人の中から眠るまで消えることはなく、目覚めても一層大きくなるばかりだった。

 

〜〜〜〜

 

同時刻、救民団本部にて。

 

「───ス…アガレス」

 

自室で眠りに落ちていた俺は誰かの声で目を覚ます。本来なら寝る必要はないが、寝なければ忘れたくない記憶を忘れてしまうこともある。睡眠は脳が情報を処理するためには必要なものだからな。

 

それはさておき、寝ぼけ眼で外を見るも、勿論まだ夜だ。そして反対側に目を向けると、

 

「君の言うとおり起こしに来てあげたよ。全く、髪色が黒いから一瞬誰かわからなかったよ」

 

ニッコリと満面の笑みを浮かべているバルバトスの姿があった。顔が近いのでバルバトスの顔を押し戻すと、むぎゅ、と声を出している。

 

さて、俺、ディルック、旅人の3人でファデュイの拠点に向かうと決めた手前言うのもあれだが、俺とディルックの二人のみでファデュイの拠点を襲撃することにした。その理由はバルバトスと少し二人きりでしておきたい話に繋がってくる。

 

バルバトスが言っている通り俺の頭髪は普段の銀髪ではなく黒髪だ。理由は身バレ防止のために染めた、という単純なものだ。

 

俺は立ち上がり出口のドアの前まで行くと、

 

「バルバトス、一つだけいいか?話があるんだが」

 

踵を返して窓から帰ろうとしていたバルバトスにそう言った。バルバトスは振り向くと首を傾げている。

 

「あの小さい浮遊生物、パイモンについてだ」

 

俺はそのまま、違和感はないか?とそう告げた。バルバトスはすぐに理解したようで、しかし違和感…?と首を傾げていた。

 

俺だけなのかもしれないが、明らかに異常なのだ。

 

「旅人は最初は元素を扱えなかった。しかし、パイモン、彼か彼女か知らんが…とにかく、彼女の鶴の一声によって扱えるようになったと言う。おかしいと思わないか?」

 

バルバトスはふむ、と一つ唸りつつと首肯くと、

 

「うん…確かに妙だね。旅人本人が知らない能力を、彼女…かどうかはわからないけど、他人が引き出したわけだからね」

 

加えて、飛べる彼女が何故溺れていたのか、という疑問も残る。まぁ、あのマントで飛んでいる、とかであれば簡単に説明はつくんだが。

 

俺は考えつつドアノブを回してドアを開けた。そろそろ出なければディルックと合流する時間に間に合わなくなるためだ。

 

バルバトスはそれを理解しているからか何も言わず、俺は彼を一瞥してからそのまま視線を外すと、部屋を出る直前に言った。

 

「……あの小さいのを警戒しておいて、損はないだろう」

 

そしてそのまま部屋の外に出て扉を閉めた。残されたバルバトスは俺の去った部屋で一言、聞こえるはずのない俺に向けて言った。

 

「…うん、まぁ善処するよ」

 

〜〜〜〜

 

モンド郊外、清泉町にほど近い森の中で目元に黒い仮面をつけた赤髪の男が佇んでいた。

 

「───待たせてしまったな」

 

と、そんな声が聞こえた直後、赤髪の男の背後の方から歩いてきたのは黒髪の男の姿が現れた。この男も同じように、目元に黒い仮面をつけているが、中から赤い眼光が見えている。

 

「来たか、アガ…いや、A」

 

「そっちもな、ディ…D!」

 

「……声が大きい…間違えたからと言って動揺してしまっては敵に勘付かれるぞ」

 

「わかってるよ…偶々だたまたま…慣れてないだけだ」

 

AやDはコードネーム的なもので、本名をバラさないための配慮である。ちなみに、赤髪がディルックで黒髪がアガレスだ。アガレスは先述の通り、身バレ防止のために髪を黒く染めている。

 

勿論二人共事前に作戦は話し合っているため、最後の確認のみで手短に済ませることにしている。

 

「それで、裏口はDが抑えるのか?」

 

「ああ、正面突破力なら君のほうが強いだろう。だから僕は逃げてくるファデュイの処理をする」

 

事前にお互いの手の内はある程度晒しているので計画も立てやすい。とはいえ、アガレスの手の内はほぼ無尽蔵であるため、どこに配置しても働けるだろうから、ほぼディルックに合わせた形である。

 

ディルックの言葉を聞いたアガレスは一つ首肯くと、

 

「誰一人逃がすつもりはないってことだな。了解。んじゃ、打ち合わせ通りに」

 

そう言った。それに対してディルックは首肯きつつ龍血を浴びた剣をアップがてら振り回しながら裏口がある場所へ走っていった。

 

「さて───」

 

アガレスは軽く地を蹴ると、気合を入れつつ森へと入っていくのだった。

 

〜〜〜〜

 

森へ入って少し進んでいくと、

 

「貴様は何者だ」

 

夜に加えて隠蔽された拠点ということもあってか、付近の見回りに来ている西風騎士を警戒して大声ではなく、首筋にナイフを充てられ脅される。この刃の形状から見るに俺を脅しているのはどうやらデットエージェントのようだ。

 

俺は首筋に刃が充てられていることも気にせず呑気に返した。

 

「何者、とかはないが…ま、強いて言うなら泥棒かな!」

 

背後のデットエージェントに肘打ちを喰らわせ、数m吹き飛ばす。デットエージェントは吹き飛びながらも光学迷彩、とばかりにその姿を消した。

 

俺は脅されている刃を避ける事もできたが、まぁファデュイの拠点があるかどうか確かめるのに一番手っ取り早いから避けなかっただけであって、彼の存在を見破れなかったとかでは決してない。

 

さて、一度姿を消したデットエージェントを見つけるのは中々困難だ。だが、やりようはある。

 

俺は何もない虚空へ向け勢いよく貫手を繰り出す。直後何かを貫く音とともに俺の手から血液が滴り落ち、息絶えたデットエージェントの姿が現れた。

 

「悪いが元素の痕跡で丸見えだ」

 

先程、肘打ちを喰らわせた際、デットエージェントには水元素の痕跡を残しておいた。まぁ、ああやって距離を取られてしまっては、デッドエージェントには消えて暗殺する或いは逃げることしかできなくなる。

 

その後も見張りと思われるデットエージェントを木の上から首を刎ねたり、頭蓋を人間離れした膂力でかち割ったりして片付け、洞窟のようになっている入口を見つけ出した。

 

周囲には野生動物の反応しかないし、外にはもういないようだった。それを確認した俺は一瞬気を抜くとすぐに切り替え、

 

「さってと、始めますか」

 

と気合を入れた。天空のライアーを取り戻すため、ひいてはトワリンに正気を取り戻させるために洞窟の内部へと侵入していった。

 

 

 

洞窟の内部は遺跡のようになっており、しかししっかりと所々にファデュイの手が加えられているため道はハッキリしている。しかしまぁ高所と低所の差がかなり著しいため、不意打ちには警戒せねばならないが───

 

『冷タクサクサク』

 

と、警戒しながら辺りを散策しつつ少し進んだときに、くぐもった声と共に背後から突如氷霧が噴射された。俺はすでに侵入者、身元の確認すら必要ないとでもいうのだろう。

 

しかも気配を隠すのが巧く、直前まで気付かなかった。どうやら中々の手練れらしい。

 

俺は直ぐ様振り向くと法器を持ち出して手を前に突き出し、

 

「炎霧」

 

と呟く。別に霧というわけではないが、炎を周囲にばら撒き、ファデュイ先遣隊・重衛士・氷銃ごと攻撃を燃やし尽くした。

 

一息ついていると奥が騒がしくなる。どうやら増援が来たらしい。

 

すぐに増援が来るこの感じ、やはり誰かがどこからかこちらを見ているようだな…と考えた俺は辺りを一瞬見回す。

 

まぁ普通に考えて上だろう。あの高低差は観測員か指揮官が状況に応じて手を変え品を変える為に作られたのだろう。

 

俺は溜息を吐くと、高所へと一気に飛び上がった。

 

「グヘッ!?」

 

あ、踏んじゃった…なんて内心で感想を漏らす。降りたところにうつ伏せになって双眼鏡を覗いている兵士がいたのだ。

 

兵士は何も言わずに自身を踏み付ける俺を忌々しげに睥睨している。俺は微笑みながら軽く謝り、そしてすぐにその笑みを更に深くした。

 

「お前、『アレ』の位置知ってるだろ?」

 

俺を遠くから監視できる、つまり部下を差し向けられる存在ということだ。指揮官らしき男はギリッと歯噛みするだけで言おうとしなかった。

 

あまりやりたくはないのだが致し方ないだろう。

 

「今から、拷問を始めようか。なに、天井のシミを数えている間に終わる───」

 

〜〜見せられないよ!!〜〜

 

 

 

男から情報を得た俺はそのまま洞窟の奥へ奥へと進んでいった。向かってくるファデュイをことごとく鏖殺し、人気がだいたいなくなったところで天空のライアーが収容されている場所までたどり着くことができた。俺は指揮官を処理すると、天空のライアーを取ろうと近付いた。

 

「あら?こんなところにネズミが迷い込んでいるだなんてねぇ…」

 

手が届く寸前で、檻が降りた。背後を振り向くと、魔女、といった雰囲気のプラチナブロンドの頭髪を持つ女がいた。情報通り、だな。

 

「ファデュイ執行官第八位、『淑女』」

 

「あたしのことを知っているだなんて、随分勤勉なのね」

 

勤勉も何も有名人だろ。執行官だぞ。

 

「天空のライアーは風神を釣るための餌だったのだけれど…とんだネズミが釣れたものね」

 

「はは、悪かったな。風神でなくて」

 

俺は檻に手をかけた。炎元素を高温に維持し、檻を溶かす。『淑女』は目を見開いていた。

 

「炎元素の熱で檻を溶かすだなんて…貴方、何者?」

 

流石に余裕をぶっこいてるわけにはいかないと判断したか、だがもう遅い。俺は天空のライアーを手に取った。

 

「見たと思うが、ファデュイの面々は皆殺しだ。多少は行動しにくくなったか?」

 

「貴方が殺ったの、そう…なら、生かして帰すわけにはいかなくなったわね」

 

ッハハ、と俺は思わず声を上げて笑ってしまった。

 

「生かして帰さない?そりゃあ無理だろう」

 

何故なら…と俺は『淑女』の背後を指差した。ボコッと音を立てて石が溶けた。『淑女』はその音にようやく振り向くと、状況を理解したのかギリッと歯噛みした。

 

「んじゃ、あばよ」

 

俺は思いっきり地面を叩いた。煙幕、ついでに、合図である。そのまま俺は煙幕の煙が流れていく方へ向かって走り、裏口から脱出し、急いで離れた。

 

直後、轟音と共に地形が変わるほどの大爆発が巻き起こった。『淑女』は、まぁ死なないだろうが怪我はしているだろう。火傷はただの傷と違い水元素で治しにくいはずだ。しばらく、公の舞台に彼女が出てくることはないだろう。

 

「天空のライアーは?」

 

ディルックが俺に聞いてくるので現物を取り出してみせた。

 

「それと、ファデュイがこの地で行っていたことの書類だ。これがあれば西風騎士団でもファデュイを糾弾できるだろう」

 

流石に隠蔽拠点というだけあって中々大量に、非人道的な実験の証拠や天空のライアー盗難計画などの証拠が発見された。全て岩元素で作ったケースに入れて保存しているため、燃えたりする心配もない。

 

「んじゃ、帰るか」

 

「ああ、そうしよう」

 

結局、裏口にはファデュイが来ず、ディルックはかなり暇をしていたらしいが、俺が皆殺しにしたと説明すると苦笑していた。ふと空を見ると夜が明けかけている。結構長い時間いたようだ。

俺とディルックは夜明けの空を眺めながらモンド城へと帰還したのだった。

 

〜〜〜〜

 

「───っはぁ…!はぁ…はぁ…ッ!!」

 

衣服を黒く焦がし、所々から血を流しているプラチナブロンド髪の女、『淑女』はモンド郊外の森の岩に拳を叩きつけた。

 

「っ…あのネズミ…絶対見つけ出して殺してやるわ…ふ、ふふ…」

 

『淑女』はニタリと歪な笑みを浮かべ、

 

「貴方の背丈、匂い、頭髪の色、ぜーんぶ覚えてるわ。必ず見つけ出して殺してやる…必ずよ…!!」

 

譫言のように呟きながら、『淑女』はモンド郊外の鬱蒼とした森の影へと消えていくのだった。




『淑女』好きの皆様には申し訳ない第18話でした
怪我した『淑女』ですが…これによる影響は…。
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