忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回長めになってしまいました


第23話トワリン➁

「ウェンティ、そのまま弓を撃ち続けろ!ジンは撹乱!ディルックはそのまま牽制を続けろ!旅人、そこ横に飛ばないと爪に当たるぞ!」

 

「そんなこと言われても!」

 

「いいから言われた通りにしろ!トワリンは腐っても四風守護だ!適切なタイミングで攻撃しないとトワリンもお前達も傷付くぞ!!」

 

ジンもディルックも俺の指示に従って牽制と撹乱を繰り返している。ウェンティはトワリンの注意を引くために矢を放ち続けている。旅人はぎこちないながらも指示に従って横に飛び、トワリンの爪を回避した。

 

俺はトワリンの攻撃、その全てを防ぎつつ、首筋の血塊を壊す方法を考える。

 

トワリンは飛んでいるため、有効な攻撃をするためにはこちらも飛ぶか、高威力の中・遠距離攻撃手段を得る必要がある。しかし、残念ながら自由自在に飛べるのは俺だけ、他は飛べたとしても自由に動くことができないだろう。

殺すことは簡単だが、救わねばならないとなると話は別になるのだ。

 

「いや、待てよ…」

 

トワリンは攻撃の瞬間だけこちらに近づかなければならない。その時になんとか気絶させられれば。

 

「全員、攻撃を止めてくれ」

 

「アガレス!なにかわかったのかい!」

 

ウェンティがブレスを避けながら言った。俺は首肯き、皆に聞こえるように大声で言った。

 

「トワリンは攻撃する瞬間こちらへ近付いてくる!彼を攻撃して気絶させるんだ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

トワリンにも間違いなく聞こえてはいるだろうが、残念ながら今の彼には自我がない。聞こえていたとしても対応はできかねるだろう。

 

「っ…」

 

しかし、中々チャンスが到来せず、トワリンの呪いの侵蝕度は大きくなっていく。流石にこれは俺がなんとかできるかを考え始めた頃、トワリンはブレスを吐くべく、足場に手を掛け大きく仰け反った。

 

「今だ!」

 

ディルックとジンがそれぞれ片腕ずつに攻撃を加えトワリンの態勢を崩し、トワリンが頭を足場に強く打ったため、気絶したようだ。

 

「旅人!行くぞ!ウェンティ、援護頼む!」

 

「わかった!」

 

「足元に気をつけて〜」

 

ウェンティの風の力で浮き上がった俺と旅人はそのまま俺の風元素も並用し二人で血塊へ向け突進しつつ、俺は刀を、旅人は剣をそれぞれ横薙ぎに振るった。

 

血塊は横に大きい罅が走ったかと思うと、粉々に砕け散った。トワリンは痛みのあまりか、はたまた呪いが解けた反動なのか、苦しげな声を漏らし足場からずり落ちていった。

 

「トワリン!!」

 

ウェンティが悲痛な叫びを上げたが、トワリンを気にしている場合ではない。トワリンがいなくなったことで足場のバランスが崩れ、崩壊し始めたのだ。極僅かな時間で、我々もああなるだろう。

 

「ウェンティ、皆をモンドへ頼む」

 

「アガレスは?」

 

「トワリンを救う、そしてそれは、俺にしかできないことだ」

 

ウェンティは泣き出しそうな表情になった。俺は彼の頭に手を乗せる。

 

「安心しろ。『終焉』を止めるってわけじゃないんだ。必ず帰ってくるさ」

 

「本当に?」

 

俺は首肯いた。ウェンティはグッと涙を堪えると、

 

「わかった。皆のことは僕がなんとかするよ」

 

ウェンティは手遅れにならないうちに風の力で皆を浮かせた。

 

「では、皆。あとは任せてくれ」

 

「アガレスさん!」

 

皆が去る直前、旅人が声を上げた。

 

「トワリンのこと、お願いします!」

 

旅人の言葉を契機に、ジン、ディルックもそれぞれ声を上げた。

 

「彼を頼むぞ、救民団団長殿」

 

「…フン、君なら、必ず帰ってこれるだろう。そして今度もきっとそうだ」

 

「アガレス」

 

まだあんのか?とは思いつつ、ウェンティを見た。

 

「トワリンのこと、お願いするね」

 

「ああ、任せろ。ほら、行った行った」

 

シッシッと手で追い払うジェスチャーをしてようやく、彼らは去っていった。さて、と。

 

俺はトワリンの落ちていった場所目掛け、崩壊していく足場から飛び降りるのだった。

 

〜〜〜〜

 

───お前を忘れた風神とモンドを、潰したいとは思わないか?

 

───違う…我は…!

 

───憎いだろう?苦しいだろう?お前を忘れ去ったモンドの民は、お前の苦しみを何らわかってはいない。

 

───わかられずとも良いのだ…!我はただ…命に従っただけなのだ!

 

───本当にそうか?お前自身、認められたかったのではないのか?モンドに、ひいては風神に。

 

───わ、我は…我は…!

 

───そうなのだろう?だが、風神はお前のことすら忘れ、モンドの民もお前のことを忘れ去った。お前は、独りだ。誰もお前のことを理解してはくれまい。

 

───そう、なのか…。

 

───そうだ。お前は孤独だ。恨め、怨んでしまえ。モンドの民を、風神バルバトスを。

 

───許さぬ、赦さぬ、バルバトス、ひいてはモンドの民よ…!

 

「ま──眠──や───か?起─ろ、トワリン」

 

周囲は闇に包まれ、風が全く届かぬ中、銀髪の男が髪を靡かせながら蒼き巨龍の前に降り立った。巨龍は、彼の接近で目を開いた。

 

「お前は…」

 

「まさか、忘れたわけじゃないだろう?」

 

「ああ、無論、憶えているとも」

 

やれやれ、と銀髪の男は首を振った。彼はトワリンの頭の横まで移動すると、ストンと座った。

 

「……孤独は、やはり耐え難かったか?」

 

「……ああ、我は何者かの唆しを受け、モンドの民やバルバトスを恨むようになったのだ。否、憎んでいた」

 

「不思議だったのは、モンドの民は四風守護の存在を忘れていたことだな。モンドの過去にも何かがあったのだろう。そして俺はそれを知らない。だが…」

 

銀髪の男は一旦言葉を区切り、言った。

 

「だが、バルバトスは、何より俺は、お前のことを憶えていたぞ」

 

「バルバトスが…?戯言であろう」

 

「いや、本当だ。何度もお前の前に現れては説得していただろう?まさか、我が身可愛さにお前の前に出ていたわけもないだろう?」

 

トワリンはグルルと喉を鳴らした。

 

「バルバトスがお前を、モンドを命を賭して守ったお前を、忘れるわけがないだろう?ましてや、見捨てるわけがないだろ?」

 

トワリンは未だ納得がいっていないようだった。銀髪の男はふぅ、と溜息を吐くと再び口を開いた。

 

「お前と同じように、俺は500年前、命を賭してこの世界を護った。そして復活した時、俺の存在は綺麗サッパリ、忘れられてた」

 

トワリンは驚いたように喉を鳴らし、顔を上げた。

 

「俺は孤独感に苛まれ、この世の民から、ひいてはこの世界から見捨てられたのだと感じた。『忘れ去られた一柱の神』として、俺はこのまま朽ち果てていくのか、と」

 

だが、と銀髪の男は続けた。

 

「俺の場合は、すぐにノエルという、とても丁寧な女の子に出会ったんだ。俺のことを見知らぬ旅人と知っていて、優しく接してくれた。一柱の神としてではなく、一人の凡人としてな…そうだな、なんとなく、あの時救われた気がするんだ」

 

銀髪の男はギュッと握り拳を作った。

 

「神として世界を護ってきた俺が終ぞ辿り着いた場所は、俺のいない世界だった。だが、彼女が、俺を最初に見つけてくれたんだ」

 

「……人の子が」

 

「それから、バルバトスに会って、『七神』の意思で俺の名を消したことを知った。真の意味で救われたのはそこなのかもしれないが、俺を救ってくれたのは彼女だ」

 

銀髪の男は立ち上がり、トワリンと向き合って両手を広げた。

 

「なぁトワリン!お前はモンドを長い間護った!それは誇れることだ!だが、もう自由に飛んでもいいんじゃないのか!」

 

「自由に…だが、バルバトスとの契約が」

 

「契約なんか破棄しちまえ!お前は、お前の生きたいように生きて、この世界で自由に生きるんだ!」

 

トワリンの目に、光が映る。銀髪の男は風元素の力で浮き、手を差し伸べた。

 

「さぁ、トワリン。今から俺と一緒に、500年ぶりの景色を楽しまないか?」

 

トワリンは顔を上げるとそのまま体を起こした。

 

「我は…護ることに囚われすぎていたのだな。自由、か…そうだな、行こう、アガレス」

 

忘れ去られた一匹の龍、トワリンが、忘れ去られた一柱の神、アガレスに連れ立たれ、青空へと羽ばたいた。

 

トワリンは並んで飛ぶアガレスに告げる。

 

「ありがとうアガレス。我は長年の苦痛と何者かの唆しでモンドを滅ぼすところであった。お前が居てくれて本当に良かった」

 

トワリンはそう言って一声吠えた。アガレスはほんのり笑い、

 

「ああ、これからは自由に生きるといい」

 

トワリンは一際大きな声で吠えると、そのまま自由を謳歌するように飛び続けたのだった。

 

〜〜〜〜

 

これにて、モンドの『龍災』は終わりを告げた。アガレス、ジン、ディルック、ウェンティ、そして異郷の旅人の活躍によりトワリンの呪いが解かれ、トワリンは四風守護としての自我を取り戻し、今一度その座に就きたいと願った。モンドの民も初めは戸惑っていたが、トワリンの話を西風騎士団広報部が発表、徐々にモンドの民にもその話は馴染んでいき、昔と同様にトワリンを崇めるようになった。今一度、モンドでは四風守護を見直して崇拝し直す、という方針が締結された。

 

そして。

 

「───ほう?ファデュイは随分強硬な態度を示されているようですな。いやはやしかし残念無念、問題はほとんど、西風騎士団と救民団が解決してしまう…ああ、ファデュイの手を借りたかったのに残念無念極まりない。と、いうわけなので貴方方に頼る理由もありません。これらの証拠書類の話も含め、今後一切、ファデュイの手の者のモンドへの入国を禁じさせていただきます」

 

「そ、そんな…どういうことなのですか!?」

 

ファデュイの外交官アナスタシア(ジンに対し強硬な姿勢を取っていたファデュイの外交官)が声を荒げた。

 

「あの風魔龍は危険です!暴走し、あなたがたに危害を加えないとも限らぬのです!ですから───」

 

「申し上げたはずですが…まさか、この程度のことも覚えておられぬとは…」

 

はぁ、と溜息を吐いた。

 

「『貴方方に頼る理由もない』、わたくしは先程そう申し上げたばかりですが?」

 

うぐっ、とアナスタシアは口を噤んだ。

 

「これは我らモンドの問題。ファデュイが口を挟んでいい話ではない。お引き取り願いましょう。これからは、良好な関係を築けることを願っておりますよ」

 

アナスタシアは冷や汗を流しながら言った。

 

「ええ、こちらこそ」

 

 

 

「お疲れ様でした、アガレスさま!」

 

ノエルがお茶を淹れてくれて俺の眼の前の卓に置いた。俺は一言礼を言いつつ、紅茶を飲んだ。

 

「ファデュイの圧力はこれで心配する必要はない…外交問題になることを先にしたのは向こうだから、こちらにある程度従ってくれるだろうしな。貿易とかに関しては恐らく滞りなく進んでくれる。ようやく、一息つけるな…」

 

「アガレスさま、本当にお疲れさまでした」

 

ノエルがにこやかに言った。俺もにっこりと笑いつつ言った。

 

「問題も減ったし、俺達の依頼も減るだろう。どっか遊びに行くか?」

 

「で、ですが…その間の依頼はどうするのでしょうか…?」

 

それはそれ、これはこれだ。

 

「西風騎士団に任せよう。最近、活躍が目覚ましいから入団希望者も多いみたいだしな」

 

「ウェンティさまもトワリンさまが元に戻られてとても嬉しそうでしたね」

 

「ああ、本当に良かったよ」

 

俺は紅茶を飲みつつ、遠くを見た。

 

「トワリン、お前も誰かに出会えていれば、こうはならなかったのかもな」

 

「アガレスさま…何かおっしゃいましたか?」

 

「いいや、なんでもないさ」

 

俺は平和になったモンドを見てホッと一息をつかずにはいられないのだった。




というわけでモンドの問題ついに解決しました。いやぁ、ここまで描けるとは…。
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