第25話 璃月港と塵歌壺
璃月はあらゆる富が沈着する場所だ、とはよく言ったもので、璃月は活気のある商業都市と言えるだろう。現に、500年ぶりに訪れた璃月港には活気が満ちている。商業国としてずっと栄えてきたのだろう。そして岩神モラクス、岩王帝君や護法夜叉がここを護り続けてきたのだろう。その努力の結晶がこの、繁栄した璃月港というわけだ。
「ここが璃月港かぁー…なんだか、綺羅びやかだぞ…」
暫く姿を現さなかったパイモンが突如出てきて言った。
「ガイアとロサリアが言ってたよな、迎仙儀式が四日後にあるって。事前に岩神がどんな性格なのか聞き取りしようぜ!」
旅人はパイモンの言葉に首肯いた。しかし、いつも肝心なときにいないなパイモン。全く以て謎の生命体だな。
「───岩王帝君?あぁ、今年はどんなお告げをするんだろうな…!一言でも聞ければ間違いなく璃月港で一旗揚げられる!」
「岩王帝君は私達の港を守ってくださるだけでなく、繁栄の手助けもしてくださっているのよ!ああ、今年はどんなお告げなのかしら」
どこもかしこもお告げ、要は神託を楽しみにする声ばかりで有力な情報はないと言っていいだろう。
「どうする旅人、まだ四日あるが」
「うーん…取り敢えず宿泊先を探さないとね…」
それはそうだな。宿泊先がなければ最悪…『アレ』使えばいいしな。あまりいじってはいないが、宿泊スペース程度はあったはずだ。
「まぁ一先ずうろうろして璃月港を見て回るといい。宿泊施設くらいは見つかるだろう」
先程言った通り、見つからなければ『アレ』を使えばいい。しかしまぁ、四日後が楽しみだな。実に500年ぶりにモラクスに会える。ウェンティもといバルバトスとの出会いに関しては風情も何もなかったからな。
で、だ。夜になるまで璃月港の探索がてら宿泊施設探しをしていたのだが、まぁどこも満室だった。そりゃあそうだ、だって年に一度の迎仙儀式だし岩神の姿を拝めるってんだからな。それにしたって…。
「どうなってんの?宿もなにもないってなんなの?」
「あ、アガレスさん落ち着いて…」
このままでは本格的に『アレ』を使わざるを得なくなる。あの感覚は今でも慣れないから、旅人の気持ちも考えるとあまり使いたくはないのだ。
「なんとしてでも探したい。『アレ』を使うわけにゃいかんのだ…」
「一体何言ってるのアガレスさん…」
まぁ、いい。斯くなる上は腹を決めるしかないな。
「旅人、実は一つだけ、俺に案がある。だが、俺的にはかなり使いたくない一手だ。それでもいいか?」
「泊まれる場所があるなら…」
「んじゃあ…」
俺はバッグからとあるものを取り出した。
「アガレスさん、それは?」
「『塵歌壺』というものだ」
「んん?塵歌壺…?なんだそりゃ?」
パイモンも旅人もやはりピンと来ていない様子だった。
「仙人の仙力によって壺の中に一つの小さい世界を作ってある。その中に建物やら自然やら動物やら、様々なものを配置できるんだ。まぁ、俺は大していじってないはずだから、あまり期待はしないでほしいがな」
んで、と俺は塵歌壺から手を離した。
「塵歌壺内でどんなに大きな物を作ろうと、壺以上の大きさにはならないんだ。だからどんなものでも作り出せる。材料さえあれば、というのはまぁ、理論上のものだが」
まぁ『
「まぁ、取り敢えず入ってみればわかるさ」
俺は塵歌壺をチンッと弾いた。すると、塵歌壺から引力を感じ、旅人諸共吸い込まれ、視界が暗転した。
「っ…ここは、って!?」
旅人が驚きの声を上げた。俺は目を開くと、周囲を見回した。
「お久しぶりですね、アガレスさん」
と、『
「ああ、久しぶりだな。変わりないか?」
「はい、変わらず言われたノルマはこなし続けていました」
よし。であれば問題ないだろう。木材や布の原材料である霓裳花、加えて各染料の素材の種の貯蓄は十二分にあったはずだ。マルに種植えと収穫を頼んでおけば各材料が揃う。それで色々必要になるであろう道路や照明、鍛冶屋や家屋(必要かどうかは不明だが念の為)を作ってもらっていた。
とはいえ、懸念材料は鉱石類。それらはテイワットにしか無く、残念ながら塵歌壺内では自給自足が不可能なのだ。在庫は白鉄鉱が少しと水晶が大量、あまり使わなかったらしい。で、鉄鉱は使える量が残り2欠片程度だった。どうやら、500年で大体使い切ったようだ。
「今までよく頑張ってくれた。今日からはノルマはしなくていい」
必要なものは随時集めていくとして、俺は未だに塵歌壺内を走り回りはしゃいでいる旅人とパイモンの二人を呼び、大きい家に案内した。ちなみに家はモンドのものである。
「こ、これ…アガレスさんの家?」
「まぁそんなところだ。いや、というかそうなるな」
「すっっごい豪邸だね…びっくりしちゃった」
「オイラ、アガレスがお金持ちだって知ってればもっと優しくしたのに…!」
いや、下心丸見えだなパイモン。と、パイモンの腹をがくぅ〜と鳴った。俺と旅人は思わず吹き出した。
「うぅ〜!なんだよ!オイラの腹が鳴ったのがそんなに面白かったのかよ!?」
「いや、すまんな。腹が減っていたのか?では飯にしようか。作るから少し待っていてくれ」
俺は二人に食卓に座っているように言うと、台所へと入った。
「───はいっ、鶏肉のスイートフラワー漬け焼き、3人前だ」
「おおっ!旨そうだな!!」
パイモンがキャッキャと騒いだ。確かに、我ながら上手にできたと言えるだろう。
3人で談笑しつつ、そのまま料理を食べ始めた。
「それで、アガレスさんって元神って呼ばれてたんだよね?前にウェンティに言われた『原神』と何か関係はあるのかな?」
うーん、と俺は唸る。
「原神との関係はなくもない。神で在る以上、関係を絶つことは不可能だからな」
「そうなんだ。それと、アガレスさん、一番聞きたかったことなんだけど、いい?」
俺は首肯いた。
「お酒飲めないらしいね。500年も経ったんだし、流石に飲めるようになったんじゃないかな、と思って」
うぐっ、と俺は言葉を詰まらせた。
「そうまでして酒を飲まねばならない理由があるのか?」
「アガレスさんの唯一の弱点とも言えるじゃん?だからそろそろ克服したほうがいいんじゃないかと思って」
「ぐ…それは、そうなんだが…」
「じゃあ飲んでみようよ!前ガイアさんからこっそり貰った弱めのお酒あるから…」
旅人がバッグから取り出したのはアルコール指数の低い酒だった。アルコール指数は2%らしい。
俺は恐る恐る酒を手に取り、グラスに注いで、一思いに口の中へと流し込んだ。むせ返るようなアルコール臭に吐きそうになりながらもなんとか飲み込んだ。
そこから先の、記憶がなく、俺の意識は暗転した。
〜〜〜〜
「あ、アガレスさん…?」
「ふぅ…」
アガレスはゆらりと立ち上がり、目を細めた。
「……凡百の人間共の創りし都市の気配、いやはやしかし繁栄したものだ」
「アガレスさ…」
「アガレス?それはこの肉体の主であろう?」
何がなんだかわからない、しかも酔い潰れなかったからいいものの、寧ろ事態が複雑化したような気がして旅人もパイモンも頭を抱えた。
「私は古の巨神と呼ばれていた存在だ。この世界が生まれる前にこの世界に属していた存在だ」
「なんですかそれ…」
「お、おいアガレス、冗談はやめておけよ…」
「冗談?いや、ほう…そこの小さい生物はまだこの世に存在していたとはな…中々、興味深い」
「んん…?」
パイモンも旅人も、アガレスの言っていることが何一つわからなくてずっと頭にハテナを浮かべている状態だった。アガレスはニヤリと意味深に笑うと、踵を返した。
「久しぶりの現世だ。少し見て回ろうではないか…ん?」
ガクガクとアガレスの右手が震えだし、自身の顔をガッと掴んだ。
「ほう、早いな…前とは別人のようだ」
「なに、どういうこと…!?」
「ななななにが起こってるんだ…!?」
「ッハハ、こんなに早く時間切れか…まぁ、残滓に残った力程度ではこれが限界か…」
アガレスは最後に慇懃そうに礼をしたかと思うと、一言だけ告げた。
「古の巨神の加護を受けしかの者の選択を、然と見届けることだな。きっと、面白いことになるだろう」
ずっと何言ってるんだよ、という旅人とパイモンの気持ちを無視してアガレスは一瞬ガクンッと魂が抜けたようになった後、
「すまない、奴が色々言ってただろう…?」
「「どういうことか説明して(しろ)!!」」
アガレスはそのまま、旅人とパイモンに詰め寄られ、困ったように笑うのみだった。
というわけで…遅くなりましたが第25話でした