絶雲の間、巷では、仙人が住んでいると噂されている場所だ。俺はそこに彼等、『三眼五顕仙人』がいることを知っている、といっても昔の話ではあるが。
さて、遠路遥々(?)絶雲の間の頂上までやってきたわけだが、今のところ仙人の姿はない。
「……?」
山道からファデュイが登ってきた。こんなところまで何をしに来たのかを確かめなければならないだろう。俺は岩陰に身を隠し、聞き耳を立てた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫も何も、執行官様の命令だ。試用せねばならないだろ?」
試用?何らかの発明品の試用ということか。
「そもそも、こんなのかなり胡散臭いぜ?」
ファデュイの男が取り出したのは綺麗な札だった。
「あれは…『禁忌滅却の札』か…」
いや、『禁忌滅却の札』は昔から存在しているものだ。あんなに綺麗であるはずがない。であれば、ファデュイが何らかの方法で制作した偽物だろう。
【何者だ?なぜ勝手に『絶雲の間』に入った?】
おっ、出てきたな。緑色っぽい色の神々しい鹿の姿の仙人。削月築陽真君だ。
「っ…出てきたか」
「実験は成功だ」
ファデュイは少しだけ実験成功の喜びを表現してから、削月築陽真君を上手く誤魔化して帰ろうとしたため、彼等が踵を返したところで前に出た。
「───目的は知らんがその報告をさせるわけにはいかないよなー…」
「「何者だ!」」
削月築陽真君は無言でこちらを見ていた。俺はしーっと人差し指を立てて正体を隠すように言った。
「待て、貴様は…」
「そうそう、俺がその変なおじさ───」
「違うが」
あれ。
「アガレスだろう?好都合だ。人里離れた場所で目撃情報もない。ここで貴様を殺す」
ファデュイの男二人はデットエージェントへと変身し、消えた。なーんだ、顔バレしちゃってんのねー…。
「……」
音も匂いもしない。しっかり対策済みというわけか。まさか、俺が敵対したファデュイを討ち漏らしたとは考えにくい。恐るべしだな、ファデュイの情報網もしくはファデュイ脅威のメカニズム。
だが、残念ながらその程度で対策と言われても困る。
さて、一応削月築陽真君の前だし、綺麗な場所を血で汚すわけにはいかないよな。
「…そこか」
「ガッ」
一人を捉えて頭を思いっきり捻った。首の骨が折れる音がしてデットエージェントはパタリと倒れた。
よし、血は出てないな。俺が安堵している最中、俺の背後では出現したデットエージェントが刀を振り被っていた。
「ま、そうするよな」
「っ!?ガッ」
俺は横薙ぎに振るわれた刀をしゃがんで回避すると、そのまま後ろに回って首を捻った。二人のデットエージェントは絶命し、二度と日の目を見ることはないだろう。
【……その者らは禁忌滅却の札を持っていたのだから危害を加えずともよかっただろうに】
「いや、そうもいかないさ。ファデュイって知ってるか?」
【……知らぬ】
余程俗世から離れてるんだな仙人は。
「氷の女皇、氷神の手先だ。良からぬことを企んでいるようで様々な手段を使ってくる。んで、この禁忌滅却の札だが、贋作だな。よく出来てはいるが」
【なんだと…?】
削月築陽真君はまじまじと禁忌滅却の札の贋物を見たが、わからぬといったふうに首を横に振った。
【我にはわからぬ。何故これを贋物と?】
「考えてもみてくれよ。禁忌滅却の札はかなり昔から存在していたじゃないか。それなのに、こんなに綺麗な状態は普通に考えて有り得ない。どんな保存方法だったとしても、だ。であれば贋物で新しく作った、と考えるのが道理だろう」
【ふむ…なるほどな】
削月築陽真君は納得したのか首肯した。
「それで、だ」
俺はファデュイの死体を片付けると削月築陽真君に向き直った。
「俺のこと、覚えてるか?」
【無論だ。久しいな、アガレス殿】
削月築陽真君は口の端を僅かに持ち上げてニッと笑ったのだった。
「───と、いうわけで、今は迎仙儀式を待っているんだ。モラクスに会うために」
【左様であったか…帝君に会うためにその旅人と行動を共にしている、と】
俺は首肯しつつ、更に続けた。
「ただ、モンドで俺はファデュイを追っ払って完全に貿易だけの関係になってるからな。璃月港にどんな影響があるか検討もつかん」
璃月港内の裏路地や地方で、ファデュイの工作員をよく見かける。今日もかなりの数がいたため、影響はやはり大きいのかもしれない。
「奴らが璃月港で騒ぎを起こすようなら、モンドよりも大きいものになるかもしれない」
実際阻止はしたが、天空のライアーを使ってウェンティ、いや、風神バルバトスを誘き出し、彼の神の心を奪う計画はかなり周到で大掛かりだった。更に言えばファデュイ執行官第八位『淑女』が直々に出てきて彼の神の心を奪う計画だったようだしな。
奪われていたらどんな影響があるかわかったもんじゃない。なんてったって風神なのだ。腐ってもな。
「一応、三眼五顕仙人と護法夜叉とが連携して事に当たる準備も整えておくべきだろう」
【成程な…何が起こるか不明な以上、各々の仙人に連絡を取っておくべきなのは確かであるな…アガレス殿、留雲借風真君と理水畳山真君、そして降魔大聖にその情報をいち早く伝えるべきであろうな】
三眼五顕仙人は全員揃っているようだったが、護法夜叉の名前が降魔大聖しか出てこなかった。俺は嫌な予感を募らせつつ、一応尋ねた。
「降魔大聖以外の護法夜叉はどうした?」
削月築陽真君は黙っている。沈黙は即ち、というところか。
「…そうか」
【……うむ】
「そうか。理水畳山真君は琥牢山、留雲借風真君は奥蔵山、で、降魔大聖は?」
【今は望舒旅館にいる。彼処からであれば、璃月中を回りやすいからな】
確かに、少し考えればわかることだったな。
「わかった、ではすぐに向かおう。近場で言うと奥蔵山か琥牢山からだな」
【アガレス殿の話とあらば彼等も無碍にはできまい】
削月築陽真君は俺に背を向け、一言だけ告げた。
【嫌な予感がする。璃月港は大きく荒れるやも知れぬ】
「俺がいる。どうにかするさ」
削月築陽真君はそのまま山奥へと去っていった。俺はそれを見届けた後、まずは理水畳山真君に会うために琥牢山へと向かうのだった。
〜〜〜〜
一方その頃。モンドでは。
「近頃モンドは平和だからすることがないわね…」
「暇だ。狩りしたい」
救民団本部でエウルアはソファでぐでーっとしながら呟いた。それに対し、同調したのはレザー。紅茶を淹れ、茶菓子を作っているノエルが苦笑交じりに言った。
「アガレスさまが取り戻した平和ですから、維持されているのはとてもいいことなんですけどね…流石にわたくしも誰かを助けたいですね…」
ノエルの中でなんとなくだが忙しくない日々は退屈だ、という感覚が芽生えてしまっていた。
「ここはわたくしが一肌脱いで…と、いうか、お茶の時間にしましょうか」
「お茶、いい匂いする」
「ノエルの淹れるお茶もお茶菓子もとてもいいものよね。尊敬に値するわ」
「いえいえ、そんなことは…」
モンドは今日も、平和である。
〜〜〜〜
迎仙儀式が3日後に迫ったタイミングで、モンドに風神バルバトスが再降臨し、神託を下した。
───君達は自由だ。自由に生き、自由に死ぬ。君達に赦された唯一の権利。僕はこの国を統治したりなんかはしないけれど、君達の営みを見守り、そしてそれを妨害する存在には容赦をしない。僕は自由に、君達を護ることにしたんだ。
バルバトスの言葉は兎にも角にも、敵対する存在には容赦をするな、という意思が込められているようにも感じられた。バルバトスのこの言葉は西風騎士団広報部によって、瞬く間にモンド中へと広まった。
さて、ウェンティとして彼は長らくモンドにいたわけで、代理団長やモンドの酒造業のオーナー、救民団団長に面識もあり、そして彼等にバルバトスとして降臨するということは相談してあり、無論許可を得ていた。
無論、バルバトスが降臨し、神託を下した、という情報はファデュイを通じてスネージナヤにも伝わり、バルバトスの発言により、両国間の緊張状態は更に高まってゆき、次第に戦争状態へと発展していくのだが、それはまだまだ先の話である。
次回、理水畳山真君とアガレス、デュエルスタンバイ!(タイトルはばっちり仙人③です)