忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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月見るならやっぱり秋がいい気がするんですよねぇ…異論は認めます。


閑話 お月見

稲妻の戦争が収束し、アガレスは稲妻で事後処理に追われていた。

 

稲妻城内でアガレスは一人で机に向かい、執務をこなしていた。外はもう真っ暗であり、時刻もそれなりに遅かった。アガレスは窓の外をチラッと見て、溜息を一つついた。

 

「…そう言えば、今日満月だったか…」

 

連日、執務に追われていたため、すっかり日にちの感覚を忘れているのである。それから更に二時間ほど経ってようやく、アガレスの対応していた事務の処理が終了した。アガレスは目一杯伸びをしてから天を仰ぎ、ぬるま湯に浸した手拭いを自身の目の位置に乗せて一息つく。

 

少しして手拭いを外すと、部屋の照明を落とし、窓を開けて外を見る。

 

「今日は随分と月が大きいな…」

 

改めて、アガレスはそう感じつつ、少し笑う。

 

「…昔も眞と影と俺で月見をしたんだったか…」

 

言いつつ、アガレスは昔のことを思い出していた。

 

「昔は確か、眞が全部団子を用意してくれたんだったか…影が気合い入れて作ろうとして大変だったっけ」

 

「あら、アガレス、それは今も変わらないわよ?」

 

バッとアガレスは部屋の入り口を見て、ホッとする。

 

「眞か…二人きりになると素の口調になるのはなんとかならないのか?」

 

というのも、3年間雷電将軍が影になっていた関係で外向けの口調を影と同じ口調に変更している。しかも最近は助言役之仕事も多かったので外向けの眞を見る機会が多く、少し驚くことになっていた。

 

「ふふ、別に貴方を特別扱いしてもいいでしょ?」

 

「影に俺が怒られるからやめてくれ」

 

軽く冗談を言い合いつつ、アガレスはそれで?とばかりに眞を見た。眞はずっと後ろに隠していた手を前へと持ってきてはにかむ。

 

「と、いうわけで作ってきたの、お団子。貴方の仕事も終わったみたいだし、影も誘ってパーッとやりましょう?」

 

 

 

「それで私も…?」

 

「ああ」

 

「ええ、ほら、影はアガレスと一緒にいたいでしょう?」

 

眞は冗談めかしてそう言ったのだが、影にとっては本当のことだったらしく、結構動揺しているようだった。こちらまでなんだか恥ずかしくなったが、無表情を貫いた。勿論、眞は俺を見てニヤニヤしていたが。

 

さて、眞に指定された場所は稲妻城の更に奥、空地になっている崖上である。まぁ要するに鳴神島の最南端であり、遮るものがなにもないため、月がよく見えるのだ。月見には丁度良い。

 

さて、影は眞の言葉に若干頬を染めながら首肯く。既に彼女自身から彼女の気持ちを聞いている俺は特段驚くことはしなかった。それでも、恥ずかしくはなったが。

 

「眞、酒は?」

 

「勿論、無いわよ。月見酒は勿論良いものだけれど、アガレスはお酒が飲めないしね。私達姉妹だけで楽しんでも良いのだけれど、それじゃあアガレスが可哀想だもの」

 

そりゃあありがたいな、なんて思いつつ、少し申し訳無さもある。

 

いい加減、酒という弱点を克服しよう、などと考えつつ、俺は団子に手を伸ばし、一つ口の中に放り込んだ。ほんのり甘くて、少しもちっとした食感が口の中に広がる。

 

「そう言えば眞。稲妻の人手不足は大丈夫そうなのか?」

 

「こんな時まで政治の話?まぁいいですけど…」

 

眞は少しムスッとしながら団子を一つ口の中に放り込むと、食べながら言った。

 

「まぁ、アテはあるけれど、完全に元通り、とはいかないわ。稲妻は、あまりに多くのものを失ったのだから」

 

団子をもう一つ頬張りながら、思う。

 

稲妻はその領土をまず失い、人々の娯楽を失い、希望を失い、命をも失い、それでもと足掻き続け、現在に至っている。家族を失った悲しみ、それによる稲妻全体の雰囲気。まだまだ課題は山積みなのだ。

 

「本当なら、こうして月見をするなんて、不謹慎なんだけれど…ほら、友人を労ってあげたいじゃない?」

 

「眞はもう少し、私の苦労も考えるべきでしょう」

 

「あら、ごめんなさいね、影…でも、その甲斐あってアガレスに会えたんだからいいじゃない」

 

結局、眞は月見酒を楽しんでいるようだったが、勿論風下にいた。ちゃんと俺への配慮は欠かさなかったようだ。

 

それはそれとして。

 

「…少し、昔話でもしないか?」

 

俺は、二人にそう提案した。二人は俺を見て、首を傾げた。

 

「ほら、俺達、というか俺なんか特に、稲妻に来てからずっと忙しくて、特に眞とはあまりゆっくり話せなかっただろ?だから、昔の話でもして親睦を改めて深め合うのも悪くないんじゃないか、なんて思ったんだが…駄目か?」

 

少し不安になって二人に尋ねる。二人はフッと微笑むと、首を縦に振ってくれた。思わず、俺も笑顔になる。

 

「それじゃあ何から話そうか…あ、そういえば昔もこうやって月見したよな?」

 

確か700年ほど前だったはずだ。モラクスとバルバトス…あと、マハールッカデヴァータもいたな。

 

「そうだったわね…あ、影ったら、モラクスとバルバトスに───「眞…それ以上は絶対にやめて下さい」いいえ、言います!いざとなったらアガレスに守ってもらうんだから…!」

 

眞は何故か、影の当時の言葉を再現するようで、影の制止の声も聞かずに、再現を始めた。と、言っても、俺の背中の後ろに隠れながら、だが。

 

「『アガレスを困らせるのはやめてください。彼だって、ずっとあなた方に付き合っているわけにはいかないのです…特に、私に構えばいいと思っています』なんて、自信満々に…アイタッ!」

 

影がいつの間にか俺の背後に回り込んで眞の頭に軽いチョップをしていた。ってか、今思うと完全に愛情の裏返しなんだよなぁ…。

 

「あ、アガレス…その…」

 

影が恥ずかしそうに俺を上目遣いで見る。俺は頬をポリポリと掻いて苦笑した。

 

「まぁ、聞かなかったことにしとくよ」

 

「す、すみません…」

 

なんだかバラ色になりかけた空気を咳払いして戻すと、

 

「そう言えば、その時もバルバトスは飲み過ぎで俺に絡んできていたな。で、モラクスはやっぱりそれに反発して…」

 

「あ〜!ありましたね!それで彼女が驚いて固まってましたよね!!」

 

「ええ。それで私が二人を仲裁(物理)をして…本当に、懐かしいですね」

 

しっとりした空気が、辺りを支配した。

 

「彼女は元気なのか?」

 

俺は彼女、マハールッカデヴァータの様子を二人に聞いた。が、二人は沈黙した。

 

「…そう、か…」

 

俺はそう呟いて、黙祷した。影が説明をしてくれた。

 

「500年前、彼女はカーンルイアにいたようなのですが…その、生死は不明です。そもそもカーンルイアにいたという情報そのものも出処不明なのでデマだと思っています。一般的には死んだとされていますし、新たな草神も見つかっているので…」

 

「待て、新たな草神?」

 

新しい神が見つかった、というのはあまり聞かないな。魔神なんか特に、復活しないからな。

 

「はい、スメールの教令院の賢者達が見つけたらしく、クラクサナリデビというらしいですね」

 

へぇ、と思わず俺は感心する。

 

「よく見つけたもんだな…」

 

その内、会いに行くことにはなるだろうが、ある程度事前に色々聞いておかないといけないだろうな。『八神』について知っているのかどうか、とかマハールッカデヴァータの生前の行動に関して何かを知らないか、とか。

 

「まぁ、それはわかった。それにしても…」

 

俺は眞を見る。眞は沈黙している、と思っていたのだが、どうやらお酒の飲みすぎで寝落ちしてしまったらしく、規則正しい寝息を立てていた。

 

影もそれに気が付き、俺と目を合わせ苦笑し合った。

 

「…なあ、影」

 

「…なんですか?アガレス」

 

「…今日は、月が綺麗だな」

 

影が立ち上がり、俺の隣に腰掛け、頭を俺の肩に乗せた。

 

「…はい、とても」

 

俺は横目で彼女の顔を見る。彼女は、月光に照らされ、幸せそうに微笑んでいた。俺はなんだか気恥ずかしくなって、それ以上何かを言うことはなかった。




というわけで月見会でした。次の閑話はアガレスの誕生日です。

ちなみに、めっちゃくちゃ長いと思います。
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