活動報告は嘘です。いや、嘘は嘘です。間に合わないと思ってたら間に合ってしまったんです…。許して。
さて、璃月港まで戻ってきたわけだが、まだ夕方であり、結構時間が余っていた。魈との話は実りあるものだったと思っているが、まあ困ったことに迎仙儀式まではまだ2日の猶予があった。それまでとにかく暇なのである。
「うーん…本当にどうしたものか。旅人はどうするつもりなんだ?」
旅人は少し思案するように顎に手を当てたかと思うと、やがて口を開いた。
「私は璃月港だけじゃなくて、璃月の色んな場所を見て回ろうと思ってるんだけど、アガレスさんも来る?いてくれたらすごく心強いけど」
「オイラもアガレスには来てほしいぞ。だって…」
だって?
「アガレスの料理はめちゃくちゃ旨いからな!!」
思わず、旅人と二人で頭を抱えた。まぁ、パイモンらしいといえばらしいのだがな。
「んじゃあ一緒に行こうか。俺としても旅人が傷つくのは本意じゃないからな」
「ありがとう」
旅人は何故か俯きながら言った。俺達は早速、旅人が行ったことないという璃沙郊方面へ向けて出発するのだった。
〜〜〜〜
「……あれが、師匠の言っていた…アガレス?」
旅人とアガレスが璃沙郊へ出発するのを遠くから見守る影があった。いや、見守る、というよりかは、監視している、といったほうが近いだろう。
───申鶴よ、お前はアガレスの下で凡人の常識を学び、そして慣れ親しめ。このままでは遣いも任せられぬぞ。
申鶴、彼女の師匠、留雲借風真君から言われた言葉が、彼女の頭の中でリフレインした。遣いすらも任せられぬ我に、価値などあるのか、と。しかし彼女は彼女なりに、変わろうとしているため、まずはアガレス、という人間がどういう人物像なのかを確認する必要を感じたのである。そのため、姿を隠し、遠くから監視するようにして彼を見定める、それが申鶴の考えである。
「我の目で…然と確かめねば…」
無論、師匠である留雲借風真君の言葉を疑っているわけではない。しかし、申鶴の中には言葉に、ではなくアガレスに疑念があった。唯一つ、信用できるのか、ということである。師匠たる留雲借風真君が信用しているからと言って、信頼に値するかどうかを決めるのは彼女自身であるからだ。
申鶴はアガレス達の去っていった璃沙郊方面へと向かうのだった。
〜〜〜〜
「───廃墟がこんなにいっぱいあるんだね」
「ああ、此処は確か…魔神の影響で滅んでしまったんじゃなかったかな。廃墟に残った財産を求めて宝盗団が屯しているしな」
最早、ここは宝盗団の町と言っても過言ではないだろうな。何せ本当に大量にいるのだからな。
「それで、何をしに来たんだ?」
「うん、ワープポイントの開放をしにきたんだよ」
わーぷぽいんと?イマイチピンときていない様子だった俺を見て旅人は苦笑交じりに言った。
「ワープポイントはすごく便利なものなんだ。ほら───」
旅人が少し遠くにある赤色に発光している装置を指差した。ああ、あれか。
「───あれがワープポイントっていって、近づいて開放するとワープできるようになるんだ」
「へぇ…興味深いな。それにしたってなんたってこんなものが…」
俺の記憶にこんなものはない。いや、あるいは意図的に抜き落とされていた?それはない。記憶を消す術なんてものは聞いたことがない。いや、俺はそれなりに永く生きてはきたが、知っていることなどそれこそほんの一部、俺の知らない術があるなんてことはザラだろう。
「まあいいじゃん。便利だから」
良くはないが、深く考えてもその正体はわからなさそうだったので、考えるのをやめた。とはいえ、気には留めておくことにする。旅人曰く、七天神像にもワープできるらしいため、何かしらの関係があるものと思われる。
さて、真面目に何かを考えるのはやめて旅人と雑談することにした。
「迎仙儀式まで一日…流石に緊張してきたんじゃないか?」
「うん…まぁね。なんたって、今度の神は契約の神って呼ばれてるんでしょ?尚更怖いよね…変な契約とか結ばされたらどうしよう…」
「それに関しては問題ないだろう」
旅人は怪訝そうな雰囲気を醸し出したため俺は人差し指を立てながら言った。
「モラクスは確かに契約の神で、契約を重んじるが、時偶それとは無関係に行動することもある。理由は様々だが、大体は俺達仲間のためだったり、璃月のためだったり…まあとにかく、お前に全面的に不利な契約とかは結ばされないし、仮にそうなったとしたら俺が止めてやるから安心するといい」
「そっか…なら安心できるね」
「パイモンは…って、消えてるんだったな今は」
「外来るといっつも消えちゃうんだよね。メニュー開かないと出てきてくれないんだ…」
メニューとやらが何かは不明だが、とにかく普段はいないってことがわかった。偶に出てくる旅人のこういう謎の発言は一体何なんだろうな。
「そうなのか…一応こんな俺でも話し相手くらいにはなれるかな。まぁ、退屈させないように頑張ってみようか」
「え、じゃあ聞きたいんだけど」
旅人が物凄く真剣な表情をしている。どうやら、とても重要な話のようだ。俺は多少身構えつつ「なんだ?」と返した。旅人から生唾を飲み込む音が聞こえた。なんか緊張してきたな。
「アガレスさんってさ、好きな人いるの?」
盛大に吹き出しかけた。
「な、なななな、なんて!?」
「え、えっ?だから、好きな人いるの?」
俺は少し昂ぶった気持ちを落ち着かせると、冷静になって答えた。
「何を言っている。俺は神だぞ?好きな人を作ったところで悠久の時を生きる俺と凡人とでは時の流れが違う。必ず、相手が先に死んでしまうんだ」
それによって破滅した魔神や仙人なんかも知っている。だから俺は人を好きにならない。いや、なれないのだ。
「ん〜…そっか、ちょっと残念だなぁ。裏で手回ししてくっつけようと思ってたのに」
なんてことを考えてやがる。意外と腹黒いのか?
「でも、そうだな。ただの一凡人として気になっている、という人間は何人かいる」
「え!?そうなの!?気になる!」
まあ、教えても問題はないだろうし、教えておくか。
「そうだなぁ〜…何人かいるんだが、まぁ、候補程度に聞いていて貰えると助かる。とどのつまりは本気にするなよ、ってことだ」
「それでもいいから、聞かせてよ」
旅人は余程気になっているらしく、俺を急かした。俺は名前を言おうとして口を噤んだ。少し近付いてきたな。接触するつもりか?余り好ましくない人物だった場合旅人が巻き込まれるな。早めに勧告を出しておかないと人質を取られたときに俺は何もできなくなってしまう。
「璃月港から俺達を隠れて追いかけてきていたようだが、一体何の用だ?俺達を害する気なら黙ってやられるつもりはないぞ?」
後方の草むらがガサガサと音を鳴らして揺れた。やがてすぅ、と姿を表したのは甘雨に少し似た服装の白髪の女性だった。
「…なるほど、留雲借風真君が遣わしたのは、というか面倒を見て欲しがっていたのはお前のことか。お前が申鶴だろう?」
俺の眼前に佇む女性───申鶴はコクリと頷いた。
「───なるほどな、それで俺の動きを探っていた、ということか」
「ああ、師匠が信頼する人のことを信用しないのはどうかとも思ったのだが、しかし我は自分自身で考え、判断せよとの教えを師匠から受けている。故に、このような行動に出たのだ。気分を害してしまったのなら謝らせてほしい」
「いや、まぁそれは構わないんだが…」
俺はチラッと横にいる旅人を見やった。頬を膨らませて、そっぽを向いている。話を遮られたため、拗ねているのである。
「何度も言うが話の腰を折ってしまってすまぬ。バレてしまった我の落ち度だ」
このように手を変え品を変え、申鶴は何度も謝っているのだが、旅人の機嫌は一向に直らなかった。こういうところは少し年相応、といった印象だな。
「旅人、申鶴もこう言ってるし、許してやったらどうだ?さっきの話はまた今度じっくり話せばいいだろう?」
「むぅ…アガレスさんがなんでも一つ言うことを聞いてくれるならいいよ」
…。
「…え?」
え、じゃねえよ。
「なんでも、ということはつまり、自分の全てを賭けることと同義だ。何をされても文句は言えないし、何より何でもなんてできるはずがない。知的生命体には自我があり、そして嫌なことも存在するからだ。だが───」
「わかった、わかったから…ごめんなさい」
正論の嵐には流石に勝てるわけはない。だが、
「話を最後まで聞くんだな。だが、嫌か嫌じゃないかは人によるだろ?」
「えぇっと…?」
つまりは、だ。
「そのうち、一つだけ、なんでも言うことを聞こう。例え永久に続くような契約だとしても、俺に二言はない。死ねと言われれば死ぬことも覚悟している」
「そんな過激なことは言わないよ。ありがとうアガレスさん」
「それで、申鶴はこれからどうするつもりなんだ?俺に師事するにしても、迎仙儀式が終わってからじゃないとどうしようもないぞ?」
申鶴は少し考える素振りを見せ、やがて口を開いた。
「我は我なりに一般常識を学んでみようと思う。師事するだけでは何も身につかぬ故」
「そうか、じゃあすぐ璃月港に戻るんだろ?泊まるところは早めに確保しておくといい」
「ああ、感謝する」
申鶴は踵を返すと振り返らずに璃月港へと続く道を歩いていくのだった。
〜〜〜〜
申鶴は帰りの道すがら、先程会ったアガレスという男について考えていた。
(あれは…正真正銘の化け物だろう。我は仙法で姿を隠していた。僅かな気配すら残っていなかったはず。で、あるのにも関わらず我がいることを看破した。カマをかけたわけでもなく、確信していた)
申鶴はあまりの恐ろしさに肩を震わせた。
実は申鶴は留雲借風真君から、アガレスは信用できる存在としか聞いておらず、その正体を知らない。そのため、あまりの得体の知れなさに恐怖を感じているのである。とはいえ、申鶴はそんな圧倒的な力を持っているのにも関わらず危害を加えてくる素振りを全く見せなかったアガレスを、少しだけ信用していた。
「後は如何にしてアガレス殿の信頼を得るか、それに尽きるであろうな。ひとまずは璃月港での常識を少しでも学ばねばなるまい」
申鶴はそう決意して璃月港の帰路に着くのだった。
活動報告の方で本日の更新はなしと言ったんですが間に合ってしまったので投稿致します。
活動報告?あれは嘘だ(当時は本気でした)。
なんとか間に合ってよかった。