忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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ま、間に合った…!


第33話 OHANASHI

モンドにある救民団本部に俺は久しぶり(5日ぶり)に戻ってきていた。雨の中だから結構ジメジメしていて居心地が悪かったが、ようやく屋根のある場所につけると思うと嬉しいものだな。俺が救民団本部の玄関をノックすると、出てきたのはエウルアだった。

 

「はい…って、アガレスじゃない。帰ってきたの?」

 

エウルアは驚いたような表情をしながらも俺を中に入れてくれた。

 

「ま、一時的なものだ。璃月での出来事の報告と、重要な話があってな。皆を集めてくれるか?」

 

「ええ、わかったわ。外は雨で大変だったろうし、休んでいていいわよ」

 

「ありがとう」

 

エウルアは俺のお礼に少し照れくさそうにした後皆を呼びに奥に入っていった。エウルアは救民団に所属してから少しして結構素直になった。彼女なりに心境の変化があったのだろうが、俺にはそのきっかけがわからず終いとなっている。今度聞いてみようかな。

 

「ふぅ…」

 

俺がリビングのソファに座って一息ついていると、後ろからヌッとお茶の入ったグラスが差し出された。

 

「やあやあおつかれだね、アガレス」

 

俺は響いた声に少し驚きつつも、差し出されたお茶を受け取った。

 

「…なんでお前がここにいる?お前、西風大聖堂にいるんじゃないのか?」

 

俺は首だけで振り返った。全身緑色の吟遊詩人、ウェンティことバルバトスである。彼はモンドへの再降臨の際、西風大聖堂に居候をしている状態だった。そこで詩人として歌い、苦しみを少しでも和らげようとしているらしい。本格的に神っぽいな。

 

「えへっ、抜け出してきちゃった」

 

「えへってなんだよ」

 

「それで、今日はどうして戻ってきたんだい?じいさんには会えた?」

 

俺はお茶を飲んで喉を潤した。

 

「それも含めてこの後話そう。お前にも関わることだからな」

 

そう言うとウェンティは真面目な表情になって「うん、わかった」とそう言った。

 

 

程なくして全員が集まってきた。はじめにやってきたのはノエルだった。

 

「アガレスさま!つい先程帰ってきたと伺っているのですが本当ですか!?」

 

「え、お、おう…」

 

「お迎えに上がれず申し訳ありませんでした…」

 

「そんなに悲観することはないだろう。たかがお迎えだぞ?俺はこうして無事に会えただけでも嬉しいから安心してくれ」

 

そう慰めてやると、ノエルは少しはにかんで「ありがとうございます…アガレスさま…」とそう言った。

 

ノエルが大急ぎで作ったお茶菓子を食べながら待っていると、レザーとエウルアが戻ってきた。レザーに関しては眠っており、エウルアが引き摺ってきた形である。だが、鼻がピクッと動いたかと思うとガバッと起き上がり、こちらを見た。

 

「アガレス、戻っていたのか。おかえり」

 

「おう、ただいま。よーしよしよしよし!」

 

撫でてほしそうだったのでレザーを久しぶりに沢山もふもふした。うん、今日もいいもふもふ具合だった。全世界に誇れるもふもふだなこれは。レザーをボレアスに託されてから救民団に入団させたが、俺にかなり懐いてしまっていて偶にこういうふうにして撫でることを要求してくる。やっぱり狼に育てられただけあって犬っぽい。かわいい、とても。

 

「さて、全員揃ったな。まずは俺が璃月港で行われた迎仙儀式で見たものについて話そう」

 

俺は迎仙儀式でモラクスが殺害されたこと、そして璃月七星が犯人探しをしていることを告げた。ウェンティはふむ、と顎に手を当て何かを考えているようだったが、構わず俺は続けた。

 

「それと、伝えておかねばならないことがある。ファデュイの執行官『淑女』についてだ」

 

「『淑女』…?ああ、僕の神の心を狙ってたあの?」

 

俺は首肯き、話を始めた。

 

「奴はファデュイを離れ、単独で行動している。そしてその目的は恐らく俺への復讐だ」

 

「ん…?どういうことよ」

 

「簡単な話だ。俺は彼女の出世コースやらなんやらを絶ったからな。腹癒せとかじゃないのか?」

 

「いや、違うかな」

 

「ウェンティ?」

 

ウェンティは顎に手を当てて一つの昔話を引っ張り出してきた。

 

───昔々あるところに、一人の少女がいました。彼女には恋人がいて、そしてその恋人から一つの時計をもらいました。彼女は大層喜び、片時もその時計を離すことはありませんでした。そんな中、彼女は遠方へ留学することになります。恋人と彼女は離れ離れになってしまったのです。

 

しかし、そんな中で事件が起こりました。とある災いによって、魔物が野に蔓延ったのです。騎士であった彼女の恋人は民を護るため、戦わねばなりませんでした。少女が戻ってきた時、恋人は死に、故郷は辛うじて残っている状態でした。

 

彼女は復讐のため動き出します。世の魔物を全て駆逐するために、そして災厄を防ぎきれなかった風神に復讐するために。彼女は戦いの中で自身の肉体ごと魔物を灼き尽くし、数え切れないほどの魔物の命を刈った時、彼女は彼女自身の寿命をも蝕んでいたことに気が付いていました。それでも、彼女は魔物を狩り続けます。愛する恋人を奪った魔物を、ひいては対策を講じなかった風神を殺すために。

 

そんな時、とある国のとある機関が炎の権化と化した彼女を勧誘しました。その勧誘には、平和になった暁には愛する恋人と再開できる、という内容が含まれていました。生きる理由を失い、周囲のもの全てを灼き尽くすだけの炎の魔女となっていた彼女は、ありえないと思いつつもその勧誘に応じることになるのです。

 

「───そして彼女は新たな主人に与えられた氷の力で無理矢理抑え込み、寿命を先延ばしにして今もどこかで生きているのです」

 

「…なるほどな」

 

災厄、とは500年前のカーンルイア滅亡のことだろう。風神ということは…そうか、『淑女』はモンド人だったのか。

 

「そう、だから君が与えた火傷、それで古傷を思い出したのかもしれないね。だから君への復讐を進めているのかもしれないよ」

 

「…奇しくもその身を焦がす炎を彼女に与え、そして思い出させてしまったわけか」

 

大切な存在を失ったときの痛み、そして己の身を焦がす復讐の炎の痛みを。

 

「まぁ、俺を狙う理由はわかった。で、だ。それほどの危険な力を持っているのなら、国一つを人質に取る可能性がある。ウェンティ、モンドは任せていいか?」

 

「うん、任せてよ〜」

 

…あまりに頼りないな。だが、俺は彼の凄さを十分知っているつもりだ。恐らく問題はないだろう。

 

「それで、璃月のトップである璃月七星の一人、『天権』凝光に接触して璃月に潜伏していると思われる『淑女』の捜索を依頼した。その対価として…言いにくいのだが」

 

「何よ、早く言いなさいよ」

 

エウルアが急かすので、俺は口を開いた。

 

「人材は向こうで探すことにはなるが、璃月港に支部を開くことになった」

 

「あら、ようやくね」

 

「事業拡大ですね!とても喜ばしいことです!」

 

「肉、もっと食える」

 

あれ、意外とポジティブな反応だな。

 

「まぁ、満場一致なら問題ないか…取り敢えず土地に関しては璃月港の西に土地を提供してくれるそうだ。人材を探すために取り敢えず宣伝はしないといけないだろうから、俺以外にももう一人誰か来てほしいんだが…」

 

エウルアは副団長だから除外、モンドで頑張ってもらわねばならない。レザーはモンドから離れたくはないだろう。特に、故郷ともいえる奔狼領を離れている。それだけでも辛いだろうに璃月港に連れていくわけには行かない。となれば。

 

「ノエル、お願いできるか?」

 

ノエルは一瞬キョトンとしていたが、すぐに花が咲いたような笑顔になって、

 

「はいっ、お任せください!」

 

とそう言ってくれた。俺はその後も様々なことをウェンティや救民団で共有してからノエルを伴って璃月港に戻るのだった。




今回は短いですね…誤字報告ありがとうございます!
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