今回本編の大幅なネタバレがあるので、魔神任務の第一章第三幕終わってない方は見ないことを勧めます
ふと、昔のことを思い出す時がある。『七神』が『八神』で、魔神戦争が集結した後のことを。
「初めまして、往生堂七十七代目当主、胡桃です。凝光様からお話は伺っております。こちらへどうぞ〜」
───俺達は『七神』として国を治め、民の秩序を護る。そしてお前は『八神』として世界の秩序を護る。それが、『八神』、そしてお前にしかできないことだ。
脳内でその言葉がリフレインする。記憶の奥底に埋もれていた言葉、それを、往生堂に来てふと思い出した。俺は胡桃という可愛らしい少女に連れ立たれ往生堂の中に入った。
「あ、鍾離さ〜ん、連れてきたよ!」
「ああ、ありがとう」
奥の椅子に腰掛けている男性───鍾離が軽く返事をした。彼はこちらを見て微笑んでいる。
「ノエル、胡桃と業務について話しておいてくれ。こちらの仕事と向こうの仕事が被っては本末転倒だからな。旅人は…どうする?ノエルと一緒に行くのでも構わないが」
ノエルは胡桃の場所に行きすぐに挨拶していたが、すぐに業務の話には移らず、旅人の返答を待っているようだった。旅人は少し悩むように目を瞑った後、目を見開いて答えた。
「…私はアガレスさんの話を聞きたい」
「わかった、鍾離殿、彼女の同席は構わないか?」
鍾離が首肯いたので、ノエルと胡桃に軽く挨拶してから俺と旅人は鍾離の座る場所まで移動し、同じテーブルを囲んだ。暫しの沈黙の後、口を開いたのは向こうだった。
「…万物流転、時が経つに連れ人の心は移り変わり、やがてそれに伴って周囲の環境をも変える。だが…お前は何ら変わっていないのだな、アガレス」
……確定、か。
「ああ、モラクス、久しぶりだな」
俺の眼前には旧友たるモラクスがいる。思わず喜びの余り泣いてしまいそうになるが、グッと堪えて、本題を切り出す。
「聞きたいことは山程ある。自分でもわかるよな?」
鍾離改めモラクスは頷いた。
「どのようにしてお前の存在を民衆から忘れさせたか、それか?」
頷く。
「当時、お前がいなくなってから魔神の怨恨の一部が抑えきれずに溢れ出た。そして、璃月に限らず全世界に魔物が蔓延った。そのため俺は夜叉たちに魔物の討伐を命じた。ある者は発狂し、ある者達は同士討ちで死に、ある者は自分の存在を見失っても尚戦った。だが、完全に魔物を抑えることは叶わず、璃月港に多大な被害を出してようやく、事態は収束した」
「…俺の記録はその際ほとんどが失われ、俺のことを知る人物もほとんどは誰かを護る立場にあった存在…なるほどな、語り継ぐ存在がいなくなってしまったわけだ」
モラクスは頷いた。
「そうだ。どのようにしてお前の記憶を民衆から消すかどうかを考えていた矢先にこれが起きた」
「だが、ウェンティ…いやバルバトスは記録を消して回ったと言っていた。それに関してはどういうことなんだ?」
モラクスはふむ、と一つ頷くと、理由を告げた。
「そもそも多大な被害があったのが璃月のみなんだ。だからバルバトスはそう言ったのだろう。実際、ほとんどの国がそうしたのだから」
記録を消せば、記憶も薄れる、そういうことか。
「なるほどな。それに関しては納得できた。で」
俺はモラクスを睥睨した。
「今回の所業はどういうことだ?まさかとは思うが自らの務めを放棄する、なんて甘ったれた考えなんじゃないだろうな?だとしたら今すぐ璃月七星にお前を突き出して生きていたと証明してやるが?」
「…それも合わせて説明すべきなのだろう」
モラクスは現状にか、自身の行いにかはわからないがふぅ、と嘆息しつつ言った。
「俺はお前があの時死んでから500年間、この世界の遷移を見た。その間も俺は考え続けていた。お前を殺してしまったのは、俺達『七神』ではなかったのか、とな」
……。
「俺達は国を持ち、民を持ち、そして責任を持った。だが、世界全てに責任を持っていたお前は、あの時進んで犠牲になった。今でも思う、本当にあれで良かったのかと」
俺は無言でモラクスの話を聞き続けた。最早それは独白に近いものがあったと言える。
「俺は、お前のように世界のために身を擲つことはできなかった。何故なら護るべき民があったからだ。お前は俺達を信じて、そして未来を託してくれた。だが、本当に人間は俺達に護られてばかりでいいのか?逆に俺達は人間を、お前の護ったこの世界を、ただ護り続けるだけでいいのか?そう、疑問を持ったんだ」
頑固だったモラクスが、大分丸くなったなぁ、なんて俺は思う。彼は彼なりにこの500年間、璃月を、ひいては俺に託された世界を護るということに関して、ずっと考えてきたのだろう。そしてその集大成が今回の事件に繋がってくるというわけか。
「俺は、人間達にこの璃月を託すことにした。この先、間違いなく摩耗で俺は死ぬ。その時、俺無しで彼等は生きていけるのか、それを見極めたい。面白い人物も、先を見据えている人物も、俺は全てを見ている」
「…そういうことだったのか」
俺はモラクスを睥睨するのをやめる。彼には彼なりの考えがある、ということなのだろう結局は。
「それで、お前『神の心』はどうした?」
「…ああ、あれは…いや、契約だから言えないな」
それは最早答えだ。
「お前、ファデュイ、ひいては氷の女皇に協力を要請したな?その対価として神の心を渡したわけだ」
「……」
モラクスは沈黙していたが、それは最早肯定だ。
「お前、自分が何したかわかってるのか?神の心を集めて何をするのか、それをお前は知っているのか?」
「…」
「だんまりか?お前が幾ら『契約の神』と言っても俺には関係ないぞ?その目的を暴き出し、それが世界に害をなすものであったのなら、俺はお前も、氷神の国共々滅ぼさねばならなくなる」
「それでも、俺は『契約』に従う。知ればお前は後悔することになるだろう」
俺とモラクスの視線が交錯し、折れたのは俺の方だった。
「はぁ…そう言うと思ったよ全く…いい、それくらい自分で調べることにする」
「すまない」
「それで、神の心はまだ手元にあるのか?」
モラクスは首肯いた。曰く、契約を完了して報酬として執行官に渡すらしい。
「執行官の名前は?それくらいは言えるだろう?」
「確かに、契約にはその名を口外してはいけない、との条文はない。いいだろう」
モラクスはコホンと咳払いをしてから言った。
「ファデュイ執行官第6位『売女』ルフィアンだ」
第6位…それにしても、『売女』とはまた物騒なコードネームだな。
「まぁ、彼女の情報は言えない。名前は問題ないらしいが」
「いい、それはこちらで調べておく」
さて…事態はかなり深くなってきたな。ファデュイが関わっているとなると嫌な予感がする。ただ、神の心を渡させない方法なら簡単だ。依頼を完遂させなければいい。依頼内容がわからないのが問題だが、神のいない璃月を作る、とかだったら簡単だ。
モラクスが出ざるを得ない状況を作ればいい。
「聞きたいことは一応終わりでいい。理由もわかったから七星には見つけたことを言わないでおく」
「感謝しよう」
「さて…それで、七星から話は来ているんだろ?」
モラクスは首肯いた。
「ああ、送仙儀式をするのだろう?それは確かにこちらの専門分野だが、如何せん人手不足でな。最悪俺一人で済ませようと考えていたのだが…」
「救民団が手伝うことになってる。人手に関してはある程度提供できる。運営に関しては七星に任せてしまえば問題ないだろう」
まぁ、送仙儀式なんてさせるつもりはない。何故ならモラクスをモラクスとして再び璃月に降臨させるのだからな。
「では、そのように…向こうも終わったようだな」
モラクスが胡桃とノエルの様子を見て言った。俺もそっちを見ると、二人は仲良さそうに話していた。
「旅人、俺達の話は理解できたか?」
「うん、大体は」
「よし…じゃぁ、本題も済んだし、帰るとしようかな。ノエル!帰るぞ!」
「あ、はい!アガレスさま!胡桃さま、ではまた」
「うん〜、まったね〜!!」
俺は旅人とノエルを先に外に出し、モラクスへ向けて告げた。
「モラクス、これだけは覚えておくといい。行き過ぎた自信は我が身を滅ぼすことになる。自分が全てをなんとかできるだなんて思わないことだ」
そういう状況を、これから作るために奔走せねばならない。俺はモラクスが頷いたのを見て満足し、往生堂を出るのだった。
〜〜〜〜
「っはぁ…」
「鍾離さん、だいじょぶ?」
「っはは、少し気疲れしただけだ。気にすることはない」
「ふ〜ん」
胡桃が去ったのを確認してから鍾離は少し俯いた。奇しくも魔神戦争の際、モラクスがアガレスに言った言葉と似たようなことを言われたのである。
「お前からそんな言葉が聞けるとはな、我が友よ」
鍾離はアガレスの姿を見て思わず喜びの余り叫んでしまいそうだったのを我慢して平静を装っていた。しかし向けられたのは若干の怒りと、呆れ、そして微かに感じる嬉しそうな感情だった。鍾離はアガレスが何も変わっていないことに安堵感を感じつつも、このままではまた再び500年前と同じことが起きるのではないか、とも危惧していた。
「仕方がないんだ、アガレス。お前を護るために俺は神を辞めねばならないのだから」
「鍾離さん、なんか言った?」
また料理を作っている胡桃がひょっこり顔を出した。鍾離はそれに対し微笑みながら、
「いや、なんでもない」
そう答えるのだった。
というわけで、ファデュイを離れた『淑女』に代わって鍾離先生と契約したのはオリキャラ第6位の『売女』ルフィアンなんですよね。ちなみに名前の由来は原神の執行官の名前の由来になったところからとってきました。現在『淑女』がいなくなってるので繰り上がりになってます。タルタリヤが第10位になってるってことですね。現状11位は不在のままです。
それでですね…本当は『散兵』君に頑張ってもらおうと思ったんですよ、ええ。ですがとある思い出しちゃったんですね、わたくし。
あれ?雷電眞生きてるから雷電影が雷電将軍作ってないから『散兵』君存在してなくね?
と。ファデュイ執行官、まさかの一欠け。ということで無理矢理第6位に作ってねじ込みました。これは完全に私の落ち度ですね。そんなつもりなかったのに。
眞さんは原作通りにすべきだったかも知れないと思ったり思ってなかったり。ただその場合もう止まってるカーンルイアの滅亡の場所に眞さんは何故か行ったってなるんで辻褄が合わなくなっちゃうんですよね。
故に…この弊ワット、『散兵』がいません。雷電将軍の人形もいません。ずっと眞さんと影さんの二人で稲妻を治めています。鎖国の理由は追々…。
重ねて、『散兵』ファンの皆様まじですいません。自分も『散兵』好きなんでもうまじで過去の自分を殴りたい気持ちです。