忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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閑話 アガレスの誕生日

「ついに…遂にあの日がやって来るよ!」

 

9月某日。旅人は未だに稲妻に留まっていたのだが、何故かテンション高くそう叫んだ。それに対してパイモンが若干呆れながら言う。

 

「旅人…なんでそんなにはしゃいでるんだよ」

 

旅人はパイモンの言葉にニヤリと笑う。

 

「ふっふっふ〜、前にアガレスさんのクイズ大会をした時にアガレスさんの誕生日を聞いてこの日を待っていたんだよ…!もうすぐだよ!!稲妻の戦争も終わったし、心置きなく誕生日に備えられる!!」

 

「いや、それは将軍と、というか影と意地を張り合った結果だろ?」

 

パイモンはまたも呆れながら言った。

 

「そんなことより!」

 

「そんなことより!?」

 

「アガレスさんに縁のある人全員を集めてパーティーしようよ!!」

 

旅人の言葉に、パイモンも首肯く。

 

「そうだな、普段からアガレスには世話になってるし、色んな人を集めてパーティーをしようぜ!!けど、会場は何処でやるんだよ?」

 

パイモンの至極ご尤もな意見に旅人はしまった、と言った表情を見せた。が、すぐに妙案を思いついたらしく得意気な顔になった。

 

「塵歌壺の出番だよね!!マルちゃんに頼めばきっと頑張って数十人壺にいれるなんて余裕でしょ!!」

 

「お、おい旅人、流石にマルに申し訳ないぞ…」

 

「普段は最大でも8人しか入れないけど、なんとかなるよ!」

 

だが、パイモンの言葉は、何時にもましてテンションが高い旅人には届くはずもなく、旅人はパイモンを伴って塵歌壺へ入るのだった。

 

〜〜〜〜

 

旅人がアガレスの誕生日に向けて準備を始めてから二日後。

 

稲妻の戦争が終結したはいいものの、俺は元司令官兼現助言役としてちょっとした嘆願書に回答して、それを眞の下に持っていく仕事をしていた。今日の仕事はこれだけなので、この後は自室でゆっくりしようと思っている。

 

俺は天守閣の最上階までやって来て扉をノックした。

 

『アガレスね?入っていいわよ』

 

中からそう声が聞こえたので、中に入り、眞の仕事机の上に書類を置いた。

 

「今日の分な」

 

「ええ、ありがとう」

 

俺は立ち去ろうとして、少し気になったことを聞いた。

 

「眞、書類随分と少ないな?」

 

眞が書類に目を通しつつ、実行、保留、却下の3つに振り分けていく。その書類の量が、普段より少なかった。眞は少し微笑むと、こちらを見た。

 

「ええ、本日は少々、少ないようね。あっ、そう言えばアガレス宛にこんなものを預かっているから、渡しておくわね」

 

眞から、謎の紙切れを渡された。

 

「誰からだ?」

 

「私も部下から渡されたからわからないわ。開けるのは自室に戻ってからにしてね?私、まだ見ての通り…」

 

「ああ、わかってる。それじゃあまたな」

 

俺は眞の邪魔にならないようにその場を去り、自室へ戻る。そこで眞から渡された紙を開いてみた。

 

アガレスへ

 

今日の午後6時、稲妻城の裏にて待つ。

 

差出人の名前はなく、悪戯だとも思えるが、眞が直接渡してきたんだし、なんとかするべきだろう。それに彼女のことだ。中身を見た上で俺に渡してきているはずだし、危険はないと見ていいだろう。

 

「…ま、言われた通り行くとするか…それにしても、俺を呼び捨てにするのって影とかモラクスとかバルバトスくらいだよな…でも、三人の中にはこんな話し方をするやつはいないし…ってなると、俺を知る別の人物からの招待状だと考えるべきだな…」

 

面白いので6時までの二時間位を差出人が誰かを考えることにした。

 

 

 

結局の所、誰から差し出されたのかはわからなかった。だが、稲妻城の裏に行けば全てわかるだろう、と考え、俺は稲妻城の裏に向かう。そう言えば今日は影がいなかったな。何処で何をしているのだろうか?

 

さて、そんなことを考えている内に稲妻城の裏手に到着した。だが、誰もいない。代わりに、壺が一つ置いてあった。

 

「…これは、塵歌壺か…どうしてこんなところに?」

 

だが普通に考えれば、中に入れ、ということだろう。

 

「…まぁ、なんとかできるか…」

 

リスクはそれなりにあるが、まぁなんとかなるだろう。

 

そう考え、俺は塵歌壺の中に入る。

 

「…ここは」

 

塵歌壺の中は、かなり整頓されており、色々な調度品が置いてあった。だが、それでいて統一感もあり、見ていて飽きない工夫も見えた。

 

「此処までの物を作っているのは…誰だろう…」

 

考えてみたが思い浮かばなかった。俺は外を隈なく探索したが特に人がいるわけでもなかった。

 

「…っとなると、やっぱり…」

 

俺は大きいモンド風の家を見る。見た目的には少しアカツキワイナリーに似ている気もする建物だが、中はどうだろうか?俺は少し緊張しながら扉を開いた。

 

直後、破裂音と共に俺の体に沢山の紙が降りかかった。

 

『お誕生日、おめでと〜う!!』

 

俺は一瞬、言葉の意味が理解できなかったが、今日が9月18日だったことを思い出し、そういうことか、と納得した。

 

って、できるか!

 

「さあさあアガレス、皆待ってたんだよ〜」

 

「友よ、お前のために6時間も掛けて用意した茶があるんだ」

 

「アガレス、今日は貴方の誕生日ですよ。少し前にも祝ってもらったので私達からもお返しせねばと思いまして」

 

扉付近にいた俺を神三柱がグイグイと背中を押してくる。あれよあれよという間に中心に移動させられた。そこかしこに机があり、沢山の人が座っている。俺は、と言えばこのために用意されたであろう壇上にある机に座らされた。

 

「えーこほん!」

 

と、旅人が前に出てきた。

 

「皆、集まってくれてありがとう!今日はアガレスさんの誕生日です!!皆で騒いでアガレスさんを楽しませましょう!!」

 

『おー!!』

 

おい、待て、まだ心の整理がついて…。

 

「それでは、誕生日を記念して乾杯の音頭をアガレスさんにとってもらいます!!アガレスさん!」

 

ニコニコしながらこちらを見てくる旅人。そして期待する周囲の目。まぁ旅人がスピーチしている辺り、間違いなく彼女が今回の犯人だろう。裏でこのようなことを企画していたとは。

 

俺は、とても嬉しくなった。

 

「皆、集まってくれてありがとう。今日は俺の誕生日だが…それ以上に、俺は皆がこうして、俺のために集まってくれたことが、凄く嬉しい。拙い言葉ですまないが、礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

そう言って俺は軽く頭を下げた。あまりしんみりさせるのもアレだろうと思って、

 

「それじゃあ、乾杯!!」

 

『かんぱ〜い!』

 

そうして、どんちゃん騒ぎが始まった。

 

そこかしこで話し声が聞こえる。まず始めに話し掛けてきたのは旅人とパイモンだった。

 

「ふふ、どう?アガレスさん、驚いた?」

 

「旅人のやつ、一昨日から準備してたんだぞ?」

 

「ああ、驚いたし、嬉しいよ。ありがとう」

 

俺は心の底から感謝を告げつつ、にっこり微笑んだ。旅人は何故か顔を赤くしながら「気にしないで〜、あ、皆話したがってたから、対応してね?」と言って去って行った。勿論、パイモンも少し照れくさそうにしながら去って行った。

 

「昨日ぶりですね、アガレス」

 

「影…それに、眞も」

 

次に話しかけてきたのは影と眞だった。

 

「影ったら、ここ数日政務を全くしてくれなかったのよ?」

 

「それを言うなら眞は抜け駆けしようとしたの忘れてませんからね」

 

少しお酒が入っているからか、二人は本音が出ているようだ。俺はまあまあ、と宥めつつ、

 

「折角の祝いの席で喧嘩しちゃいけないだろ?まぁ尤も…」

 

俺はとある席に目を向ける。

 

「だからさぁ〜!じいさんはさぁ〜!!昔っから頭かったいよね!!」

 

「そういうお前は口を開けば酒のことばかり。呑兵衛詩人と俺に呼ばれるのも仕方ないと思うが?」

 

モラクスとバルバトスが啀み合っている。勿論、酒の席なので皆笑いながら見ていた。眞と影も二人を見て思い直したらしく、

 

「ちょっと止めてきますね」

 

「行きましょ、影」

 

「またな、二人共」

 

二人が去ってすぐ、俺の背後からにゅっと顔を出したのは申鶴だった。

 

「アガレス殿…久しいな」

 

「申鶴か。確かに、久し振りだな」

 

「うむ…それで、我はしばらく救民団で働いたのだが…その」

 

もじもじしている様子の申鶴を見て、少し変わったな、と感じた。

 

「璃月には溶け込めそうか?」

 

俺はぶどうジュースを飲みながら申鶴にそう聞いた。すると彼女はコクコクと首肯いて少し嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「こんな我にも、彼等は普通の人として接してくれる。こんな我でも、まだ人並みの生活、幸せを望むことが出来るのだと」

 

申鶴は少し気恥ずかしそうだった。そんな彼女へ俺は笑いかけた。

 

「…当たり前だろ?お前はちょっと人生が壮絶なだけの、普通の女の子なんだから」

 

申鶴は驚いたように目を見開いて俺を見ると、嬉しそうに目を細めた。

 

「うむ…うむ、そうか。では我はもう少し他の者とも話してみよう」

 

「ああ、それがいい」

 

申鶴は手を振りながら去って行った。俺は軽く手を振り返して彼女を見送った。

 

璃月支部繋がりなのか、重雲と行秋も来てくれていたようだ。

 

「アガレス殿…久し振りだな。元気…いや、神であるのなら元気じゃないことなどないのか…?」

 

「重雲、そこはあまり気にしなくていいと思うよ。アガレス殿、久しぶり」

 

重雲がよくわからない疑問を口にし、行秋が宥めつつ俺に挨拶をしてきた。

 

「ああ、久し振り」

 

俺は二人に挨拶を返すと、

 

「二人共、救民団の仕事には慣れたか?」

 

そう聞いた。採用してから、俺は全く面倒を見ることが出来なかったので、どうなっているのか聞いてみたわけである。二人は満面の笑みを浮かべて、

 

「ああ、先達に優しく教えてもらって仕事を覚えてからは随分と楽にできているよ」

 

と、行秋が答えてくれたのだが、重雲も首肯いていたのでどうやら二人の総意なようだ。俺は安心して少し笑う。

 

「そうか…これからもよろしく頼む」

 

「ああ」

 

「うん」

 

二人は最後に、誕生日おめでとう、と言って去って行った。次に来たのは救民団繋がりの人だった。

 

「アガレスさま!お久しぶりです!あと、お誕生日おめでとうございます!!」

 

「ふん、祝いに来てやったわよ」

 

「アガレス、誕生日、祝う。おめでとう」

 

そう、ノエルとエウルアとレザーの三人だった。俺は久し振りに会う三人を見て思わず頬が緩むのを感じた。

 

「ああ、ありがとう。皆、救民団はどうだ?」

 

「はい、何ら問題ありません!」

 

「ええ、特にはないわね。まぁ、アガレスがいてくれたほうが賑やかではあるわ」

 

「アガレス、肉、いっぱい食える」

 

どうやら、不自由はないみたいだ。俺は心底安心した。と、どこかからノエルを呼ぶ声がかかった。ノエルは申し訳無さそうにこちらを見る。

 

「行ってきてやってくれ」

 

「はいっ!アガレスさま!」

 

ノエルは一礼して去って行く。その様子を見て俺とエウルアとレザーは少し笑う。

 

「それじゃあ、私達も行くわね。ノエルを一人にはしておけないし」

 

「ああ、頼む」

 

「またな、アガレス」

 

と、二人も去って行った。なんだかんだ久し振りだったのだが、結構あっさりしたものだ。

 

俺は落ち着いてぶどうジュースを一口飲むと、視界の端で何故か再び旅人がこちらへ来ているのが見えた。と思ったら今度は魈の手を引いて連れてきたようだった。

 

「わ、我はいいと…」

 

「魈、久し振り。人混み嫌いなのにわざわざ来てくれたのか?」

 

魈は旅人を少し恨めしそうに見てから、首肯く。なんだか、生暖かい気持ちになった。

 

「そうか。ありがとう」

 

「い、いえ…アガレス様の記念すべき生誕の日を祝わぬのは、筋違いというものですから」

 

魈はそれだけ言って恥ずかしそうに目を逸らして去って行った。ちょっと料理を確認したら杏仁豆腐もあったし、彼がこの場を去ることはないだろう。

 

「よう!アンタがかの有名なアガレスってのか!アタシは北斗、稲妻で一回見たことあるぞ!」

 

と、ジョッキを片手に肩を組んできたのは北斗だった。

 

「確かに、話すのは初めてだな。俺がアガレスだ。俺のことをよく知らないと思うんだが参加してくれるとはな」

 

北斗はジョッキを傾け、ぷはぁっ!と豪快に酒を呑みながら、

 

「ああ、旅人と万葉がアンタのことを手放しで褒めててさ。気になったんだよ」

 

「北斗船長、あまり彼を困らせないほうがいいわ。特に、彼はお酒が苦手なんだからあまり近付かないほうがいいと思うのだけれど。主役が倒れちゃ困るわ」

 

若干酒臭かったので、後からついてきた凝光の言葉はかなりありがたかった。北斗は酔っているのか、凝光にだる絡みをしているようだ。

 

凝光が申し訳無さそうにこちらを見た。

 

「気にすることはない。少なくとも、悪意なんて微塵も感じなかったからな。それより凝光、久し振り」

 

俺が彼女にそう声を掛けると、微笑みながら首肯いてくれた。俺はぶどうジュースの入ったグラスに手を伸ばそうとして、寸前で後ろから伸びた手にグラスを取られた。

 

「んぐ…んぐ…ぷはぁ…あら、ぶどうジュースね、これ」

 

「夜蘭…なにやってんだよ。わざわざ気配を消してまでしなきゃならないことだったのか?」

 

夜蘭に悪戯されたのでジト目で見やると、彼女は無邪気に笑った。

 

「あら、勿論よ。貴方に構ってもらうためだから」

 

なんというか、余り勘違いさせるようなことは言わないで欲しい。ほら、影の視線が厳しくなったじゃん。夜蘭はそのことに気が付いたのか、苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、一先ずは退散するわね。また来るわ」

 

「ああ、凝光と北斗にもよろしく言っといてくれ」

 

夜蘭は首肯くと、手を振りながら去って行った。何人かは見たこと無い面々だが、モンドの人々は皆見たことのある人々だった。いやまぁ、三年も住んでいたのだから当然だが。

 

「騎士団面子か。久し振り」

 

「アガレスさん、やっほー!本当に久し振りだね!!」

 

「クレー、アガレスお兄ちゃんと会えなくて寂しかった…いっぱい遊べるよね!」

 

「こらクレー、アガレスは忙しいから…けれど、アガレス。ボクからもお願いできるかな?」

 

「師匠…お父さんみたいですね…それはそうと、アガレスさん、私からも…お、お願いします」

 

アンバー、クレー、アルベド、スクロースの四人は固まって動いているようで、俺の下にもこの四人で来ていた。俺は首肯くと、クレーを見る。

 

「クレー、アリスさんは元気そうか?」

 

「うん!」

 

「そうか…なら、今はいないアリスさんの分も、クレーと遊んでやらないとな」

 

今は無理だが。

 

だが、クレーは花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「ほんとっ!?約束だよ!!」

 

クレーもそれはわかっているのか、そう言いながら小指を差し出してくる。俺は小指で指切りげんまんをしてあげた。

 

「ああ、約束だ」

 

クレーは少し名残惜しそうにしながらもアルベド達と共に去って行った。

 

何時見ても元気溌剌、天真爛漫の言葉が似合う女の子だなぁクレーは、なんて思いつつ、料理を頬張る。一旦、休息みたいだ。

 

「とでも思ったのか旦那?」

 

「ガイア…少しはアガレスを休ませてやったほうがいい。先程から全員に丁寧に対応していたようだからな」

 

「ふむ…アガレス、疲れているのか。なら私達はお暇しよう…」

 

「あ〜、待て待て、応対させろ。久し振りにお前達とも話がしたかった所だ」

 

帰ろうとしたガイア、ディルック、ジンの三人を引き止める。なんで主役の俺が引き止めてるんだろう。

 

という疑問は飲み込み、俺達は話し始めた。

 

「ははは、アガレス、相変わらず酒は飲めないらしいな?」

 

「まぁな。酒だけは駄目らしい」

 

ガイアの軽口に付き合いつつ、ディルックに視線を向けると少しムスッとしていた。

 

「まぁ、だから僕のぶどうジュースが役に立っているわけだが。勿論、品質と味は保証しよう」

 

実際美味しいからな。

 

「それじゃあ、俺達はちょっとその辺の奴らと話してくるぜ。アガレス、言うのが遅れちまったが、誕生日おめでとう。またな」

 

「アガレス、無理はしすぎないように。ではまた」

 

二人はジンを置いて去って行った。俺は取り残されたジンを見て、少し心配になる。

 

「その…良かったのか?置いてかれてるが」

 

「まぁ…大丈夫だ。それより、アガレス、本当に久し振りだな。見ての通り元気そうで何よりだ」

 

「ああ、ジンも」

 

俺は久し振りに会った彼女を見て、一先ずの世間話をした。

 

「アガレス、モンド、璃月に続き、稲妻でも頑張ってくれたみたいだな。お疲れ様」

 

ジンはそう言って微笑んだ。彼女は何処まで行っても、彼女だと認識した。

 

「それでは、アガレス。また後で。後がつっかえているようだから」

 

「ああ、またな」

 

それにしても、ジンに関しては二日前から準備したにしてはよくもまぁ皆来れたものだ。仕事とかあっただろうに。

 

「特に甘雨と刻晴なんかはなぁ…」

 

「私が何?」

 

「私が何か?アガレスさん」

 

と、二人が俺の前に立っていた。刻晴は少し不機嫌そうに、甘雨は不思議そうな顔で俺を見ている。

 

「二人共、仕事が忙しいだろ?だから普通は来れないと思うんだが…」

 

「…部下がやるって言って聞かなかったのよ。今日はその…璃月を救った英雄の誕生日だって言うし、私は仕方なく…」

 

「刻晴さんったら、『今日は尊敬すべき方の誕生日よ…仕事を早めに終わらせないと…!』だなんて仰っていましたよ。この日を楽しみにしていたみたいですね。斯くいう私もそうですが…」

 

甘雨が若干照れながらそう言ったが、刻晴は物凄い形相で固まっている。「え?なんで言うの?」みたいな顔だ。どうやら図星らしい。俺はやれやれとばかりに肩を竦めた。

 

「まぁ、来てくれて嬉しいよ。話が出来たのは一瞬だったが、刻晴なりの信念が伝わってきたんだ。これを機にもう少し仲良くしてくれると嬉しい。と言っても、璃月には余り滞在できないんだけど」

 

少し冗談めかしてそう言ってやると、刻晴は少し恥ずかしそうにしながらも、首肯いてくれた。

 

「…甘雨、時間は有限。料理も有限。無くなる前に行くわよ」

 

「ふぇ?は、はい!アガレスさん、お誕生日おめでとうございます!」

 

そう言って二人は去って行った。なんだか仲の良さそうな二人だな、なんて勝手に思う。

 

「おや、奇遇ですねアガレス殿」

 

「アガレスさん、お久しぶりです」

 

次に話し掛けてきたのは、神里兄妹ともう一人だった。俺は三人の来訪者を見て、思わず驚く。

 

「二人共来ていたのか。それと…そちらははじめましてだな」

 

「ああ、そうでした。此度の祭典への参加で彼を紹介することも目的の一つでして。トーマ、挨拶を」

 

神里綾人の背後に立っていたのは、綾人と同じくらいの身長の男性だった。だが、神里綾人より、優しそうな印象を受ける。彼は軽く礼をしながら自己紹介をした。

 

「はじめまして、助言役殿。俺はトーマ、神里家では『家司』の役を賜っています。どうぞよろしくおねがいします」

 

言葉遣いは丁寧だし、第一印象も悪くない。

 

「ご丁寧にどうも。知ってると思うが俺はアガレス。今日が誕生日の者だ」

 

ちょっと冗談めかしてそう告げた。そして。

 

「お前がよければだが、俺に畏まる必要はない。できればフランクに接してくれ」

 

トーマは驚いたように目を見開くと、少し笑った。

 

「ああ、よければ今日から俺は、君の友達だ」

 

トーマはそう言いながら俺に手を差し出してきた。

 

友達、か。大きく出たな。だが…。

 

俺は彼の手を握った。

 

「ああ、悪くない」

 

「ああ、そうでした」

 

と、神里綾人が声を上げた。彼は神里綾華と顔を見合わせてから、トーマを一緒に頭を下げながら言った。

 

「非公式な場であるため頭を下げながら言わせていただきますが…お誕生日、おめでとうございます。貴方の未来に、幸多からんことを」

 

神里綾人はそれだけ言うと、三人で去って行った。神里綾華は会釈を、トーマは手を振って去って行った。

 

 

 

その後、集まった皆で旅人が考案したらしい『ビンゴ大会』というものをやったり、『王様ゲーム』なんてものもやったり、それはもう色々と大変だった。

 

「は〜い、皆様、宴もたけなわ、ということで、プレゼントを渡していただきまーす!!」

 

旅人が皆の注目を集めてそう言った。まぁ、誕生日パーティーをするくらいなのだからあるとは思っていたが、驚かずにはいられなかった。

 

「えー、話し合いの結果、国ごとにプレゼントを用意してもらうことにしました!まぁアガレスさんもこの人数からプレゼント貰うのは大変だと思うしね」

 

否定はしないが、嬉しくはある。

 

「それでは、まずはモンドチームから!!」

 

バルバトスを始めとして、ジン、ディルック、ガイア、アルベド、クレー、スクロース、アンバー、そしてノエル、エウルア、レザー達からのプレゼントなようだが。

 

「えー、こほん。バルバトスだよ。アガレス、勘違いしないでほしんだけど、このプレゼントはこの場にいる者達だけじゃなくて、モンドの民全員からだ」

 

バルバトスはそう言ってウィンクをした。いやなるほど、2日でよくそこまで準備できたものだ。

 

「それでは、僕達からのプレゼントはこれだよ!!」

 

モンドの人々から渡されたのは、何の変哲もない花束だった。風車アスター、蒲公英、他にも様々な花があった。

 

俺が花束に驚いていると、モラクスと眞、影コンビから声が上がった。

 

「む…バルバトス」

 

「バルバトス…」

 

「「プレゼント、被ってしまったな(しまいましたね)」」

 

そう言いつつ、二人共花束を取り出した。だが、モンドにはモンドの、璃月には璃月の、そして稲妻には稲妻の、文字通りの特色が出ていた。どれも綺麗だった。

 

バルバトス達は一瞬集まって何事かを話し合った後、俺を見て言った。

 

「どうやら、気持ちは同じだったみたいだね」

 

「…ああ」

 

「はい」

 

「…」

 

三人は声を揃えて言った。

 

「アガレス、僕たちはね、記憶に残るものを贈りたかったんだ。ほら、復活してから初めての誕生日だしね」

 

「だが、食は何時でも用意できるし、物品でも記憶には残るがそのうち壊れたりしてしまうだろう」

 

「そこで私達、考えたのよ。どうすればアガレスの記憶に残る誕生日になるのかってね」

 

「記憶とは即ち、魂に刻み込まれる情景や感情です。ですから、一生残る『思い出』を作ればよいと考えました」

 

四人は笑うと、

 

「ですから、この花束を贈ろうとなったんです」

 

一生に残る思い出、か。俺は少し笑った。俺は四人の持つ花束を受け取り、心の底から笑みを浮かべた。

 

「ああ、ありがとう。本当に、嬉しいよ!」

 

俺のその言葉を皮切りにして、また宴会が始まる。その喧騒は今暫く続くようだった。

 

影が俺の隣にやってきて微笑みながら問うてくる。

 

「アガレス。今日は、どうでしたか?」

 

そんなの、答えは一つだけだ。

 

「ああ、俺の一生の中で、どう考えても最高の誕生日だよ」




ちなみに来れなかった人は後日個人的にプレゼントを渡したそうです。アガレスは大層喜んだとか。というわけで、お誕生日おめでとう、私とアガレス。

アガレス「言ってて悲しくなるだろ、それ」

悲しくならないもん、別に。

というわけで、誕生日でした。
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