忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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なんかお腹下してますね私。やっぱり昨日の麻婆春雨がやばかったのか…調子に乗って食べすぎたみたいですね()
そんな中で描いた第42話、お楽しみ下さい


第42話 若陀龍王③

「───来ます!動ける千岩軍兵士は負傷者を伴って退避して下さい!弓兵は後方から私の指示に従って支援を!!」

 

甘雨が言うや否や、氷元素の二段チャージを済ませてから若陀龍王へ向けて放った。若陀龍王の眉間にしっかりと命中するが、全く効いた様子はない。若陀龍王はそのまま甘雨や弓兵達の攻撃を無視して動き始めた。

 

そんな様子を見た甘雨は苦々しげに表情を歪める。

 

「っ…流石に硬いですね」

 

そんな中、その背後では留雲借風真君と申鶴が作業をしていた。

 

【申鶴、準備はできているか?】

 

「はい、師匠、滞りなく」

 

崖上に、3つの『帰終機』と呼ばれる巨大な弩が設置してあり、削月築陽真君、理水畳山真君、留雲借風真君の三人がそれぞれの砲座に就いた。

 

【皆の者、用意は良いな?】

 

【無論だ】

 

【要領が昔と変わらぬのなら問題はない】

 

【では、放て!】

 

矢が装填され、三本同時に放たれた。若陀龍王は意にも介さずに璃月港へ向けて進軍しようとしたが、弩の矢が着弾した瞬間、わずかに肉体に突き刺さり、やがて内部で爆発を起こした。体表の岩石のように硬い鎧が、何箇所か剥がれている。甘雨は追い打ちをかけるようにそこに向かって二段チャージの矢を放つも、若陀龍王が僅かに体を動かしたことによって矢を鎧で再び防がれてしまう。

 

「ガァァァ!!」

 

痛みの余り、若陀龍王は咆哮し、地団駄を踏んだ。それだけで周囲に岩元素の衝撃波を生み出し、一部の千岩軍兵士を吹き飛ばした。帰終機の存在によって無視できなくなった若陀龍王は雷元素力を地脈から吸収し始めた。

 

「今こそ、全ての怨嗟を祓う時なり!!」

 

雷元素力を吸収した若陀龍王が雷元素で生み出した雷球を自身を覆うように展開した。

 

「これでは迂闊に近付けない…だが、避ければ同じ話だ」

 

申鶴が先行しつつ雷球を躱して若陀龍王に肉薄し、氷元素を纏った槍で突進した。無論、突き刺さらぬことは申鶴とてわかっている。若陀龍王は申鶴を追い払おうと再び地団駄を踏んだ。今回は範囲はさほどではないが、先程より高威力かつ雷元素を纏っていた。申鶴は飛んで回避すると、再び同じ場所に向かって攻撃し続けた。

 

「甘雨!!」

 

「はいっ!」

 

申鶴の行動の意味を理解していた甘雨は申鶴が攻撃していた場所、そこに寸分違わずに矢を打ち込んだ。罅の入っていた鎧に矢が突き刺さり、再び刺すような痛みが若陀龍王を襲った。

 

と、若陀龍王が炎元素を今度は吸収し、上から隕石のように降り注がせた。

 

『───ふむ、我が何とかしよう』

 

そんな中、遂にトワリンが参戦し、申鶴に当たらぬように暴風で竜巻を作り出し、炎元素を拡散反応で霧散させた。

 

「増援か…!!」

 

兵士の一人がそう叫んだ。上空には蒼き巨龍───トワリンが羽ばたいて空中に留まりつつ若陀龍王を見やる。

 

『龍と戦うのは500年ぶりといったところか…此度も負けるつもりはない』

 

言いながらトワリンは若陀龍王に攻撃を開始した。若陀龍王はトワリンの攻撃がかなり効いたようで一声咆哮した。その風圧でトワリンは一瞬たたらを踏むがすぐに体制を立て直して背後を一瞥すると、

 

『人間、そこから離れよ!』

 

と若陀龍王の近くで戦う申鶴へ向けそう叫んだ。申鶴は本能的にその言葉を理解して、すぐに若陀龍王から離れていった。トワリンもすかさず上空へと昇っていくと、示し合わせたように若陀龍王に対して帰終機による矢が突き刺さろうとしていた。

 

しかし、若陀龍王とてただやられているわけでは勿論ない。元素力の高まりを察知したトワリンがすかさず風の壁を若陀龍王と甘雨達の間に生成した。

 

若陀龍王が上空へと飛び上がると、そのまま地面に自身の肉体を叩きつけた。その振動だけで甘雨達は体勢を崩し、トワリンも衝撃波でたたらを踏んだ。加えて炎元素が風の壁に激突し、拡散反応によって多少は防がれたものの、壁を更に貫通して甘雨達を襲った。

 

「っ…霜寒化生!」

 

甘雨の咄嗟の判断で氷元素でできた花が生成され、破裂し、氷霧が形成されたことによって何とか防ぎきった。

 

「っ…煙緋さん、大丈夫ですか?」

 

「私は問題ないが、甘雨先輩…貴女は左腕が火傷で使い物にならないのでは?」

 

ずっと後方支援をし続けていたが若陀龍王の耐性によって有効打を与えられずにいた煙緋の言う通り、現状有効打を与えられ得る数少ない人物である甘雨が火傷によって戦闘不能になってしまったのだ。

 

そんな自身の背後にいる甘雨達を見たトワリンは、

 

『むぅ…我の風の壁をも突破するとは…やはり侮れぬ…』

 

若陀龍王を見てそうぼやいた。そんな中でも若陀龍王はそのまま今度は尻尾に氷元素を集め始める。それを見た仙人の内の誰かが焦ったように言う。

 

【不味いぞ…!今のうちに阻止せねば…!!】

 

帰終機から矢が放たれ、生き残りの千岩軍からも矢の雨が降り注ぐ中、地脈から元素力を無理矢理吸収し、若陀龍王は咆哮した。

 

「千年の怒りを、今こそ其の身に受けるが良い!!」

 

若陀龍王はそう言うと地下に潜っていった。尻尾のみを残して。申鶴と煙緋が攻撃しにかかるが、次の瞬間、其の場に文様が浮かび上がり、氷元素の槍が地上から円状に生え二人を襲った。バックステップで何とか二人は躱すも、すぐに次の攻撃が来ていた。何とか避けに専念していたが、このままではこちらも有効打を与えるのは望み薄であった。

 

「トワリン殿!!何とかできないか!!」

 

その現状を理解した煙緋がトワリンを見上げてそう叫んだ。言われたトワリンも煙緋と同じことを理解したらしく喉を鳴らすと、

 

『引きずり出せるかはわからぬが、やってみるしかないのだろう!』

 

そう言いつつトワリンは行動を開始する。彼は上空で若陀龍王が出てくるのを待っていたのだが、煙緋の言葉を受けて急降下し始め、そのままの勢いを利用して若陀龍王の尻尾を掴んだ。

 

『ぬぅん!!』

 

気迫の籠もった雄叫びとともにトワリンが若陀龍王を地面から引きずり出すと、トワリンは陀若龍王を地面へ叩きつけ、そのまま再び空を舞って一旦距離を取ってから若陀龍王に向き直った。

 

「モンドの蒼き巨龍よ…何故我の邪魔をする!!」

 

若陀龍王はトワリンを忌々しげに見つめながらそう叫ぶ。

 

『何故とは異な事を聞くではないか…隣国が滅ぼされれば次はモンドかも知れぬだろう』

 

そんな若陀龍王に対してトワリンは至って冷静に相手の話に耳を傾けた。バルバトスからはできればでいいから暴走の原因を探るようにも言われているので、それを実行しようとしているのである。

 

対する若陀龍王はトワリンを味方につけようとしているようで、

 

「我は我から生まれし子供の眼を通じてモンドの災害を聞いた!お前もモンドを滅ぼそうとしたのだろう!!憎かったのだろう風神とモンドが!!」

 

トワリンへ向けそう言った。トワリンは無言だったため迷っていると受け取ったのか、若陀龍王は更に続けた。

 

「我に手を貸せ!まずは璃月を滅ぼし、その後で共にモンドを滅ぼそうではないか!!」

 

若陀龍王の言動に違和感を覚えつつ、トワリンは大きく溜息を吐くと冷ややかに告げた。

 

『そうだな。我は確かに、モンドと風神が憎かった。500年前、命を賭して護った民と神に忘れ去られていたのだからな』

 

「で、あるならば!!」

 

『だが、貴様と我とでは決定的な差があった』

 

トワリンは若陀龍王の言葉を遮ると、目を瞑って自分の脳裏にとある二人を思い浮かべた。やがて目を開くと、

 

『我が主と、そして我が友が我を覚えていてくれたのだ!貴様もそうではないのか!!岩神が…あのアガレスが…お前を忘れるなどとそんなことがあると思うか!!』

 

「ぬぅ…黙れ!!」

 

若陀龍王はわずかに動揺を示したが、首をぶんぶんと振ると炎元素によるブレスを上空のトワリンへ向けて放った。対するトワリンも風元素のブレスで応戦したが、結果押し勝ったのは若陀龍王である。

 

トワリンは力の差があることを認識したが退くわけにもいかず、

 

『くっ…!まだまだよ!』

 

そう言って急降下すると鋭い爪で若陀龍王の鎧を削り、背後へ離脱していった。俗に言う一撃離脱戦法である。

 

「小癪な!!」

 

相対する若陀龍王はトワリンが来たタイミングで少し飛ぶと、トワリンに噛み付いて掴まり、やがて天空から引き摺り下ろした。トワリンは何とか拘束から逃れると、風元素のブレスを若陀龍王の顔面に直撃させる。

 

そのままブレスを目眩まし代わりに、トワリンは若陀龍王へ突進して肉薄すると、直接殴り合いの戦いになった。

 

【むぅ…これでは助け舟が出せんではないか】

 

留雲借風真君が僅かにそう悪態をついた。だが、削月築陽真君は冷静に戦いを見極めている。

 

【否、あの巨龍は機を窺っているのだ。我等の最大火力をぶつけられる瞬間、それを待っている】

 

削月築陽真君の言葉に、理水畳山真君が納得したような声を出した。

 

【ほう…戦いに身を興じながらも戦局を見る、か。早めに我等を璃月港へ送ることを考えているのだろうな】

 

【そうなると我々は今こそ帰終機に力を注いで最大火力をぶつけるべき、ということであるな】

 

留雲借風真君は言うや否や、力を帰終機に注ぎ始めた。削月築陽真君と理水畳山真君も同様にそうし始める。

 

「───ガァァァ!!」

 

『ぬぅッ!!』

 

若陀龍王はトワリンに肉薄されてから、地団駄を踏んだりブレスを撃ったりとトワリンの気をかなり削いでいた。その甲斐あってか、トワリンは後方にいる甘雨達にまで気を回さねばならず、劣勢を極めていた。

 

『っぐ!』

 

次の瞬間、甘雨達に気を取られトワリンが隙を見せてしまったところに若陀龍王の突進が腹に直撃し、更に炎元素のブレスを諸に腹に食らってしまい吹き飛んで崖に叩きつけられた。若陀龍王はそのまま障害になり得るトワリンに止めを刺そうと、仙人達がいる場所に背を向けた。

 

その瞬間、トワリンが苦しげな瞳で、しかし力強く留雲借風真君達の方をジッと見た。留雲借風真君達はそれだけで真意を理解し、力強く叫んだ。

 

【今だ!放て!!】

 

若陀龍王がその声を聞いて留雲借風真君達の方を向いた瞬間、巨大な弩から三本の一際巨大な矢が発射された。三本それぞれが真っ直ぐ若陀龍王へと吸い込まれるように突き進み、そのまま若陀龍王に突き刺さって爆発を起こした。爆煙が辺りを覆い、若陀龍王の姿も掻き消された。

 

【やったか…?】

 

留雲借風真君がそう呟いた瞬間、爆煙を切り裂いて一筋の赤い光が帰終機を薙ぎ払ったかと思うと、帰終機が爆発四散した。仙人達はなんとか仙法でそれを防いだものの、帰終機は使い物にならなくなってしまった。

 

「我は…消えぬ…ッ!」

 

「あんなにぼろぼろになってもまだ生きてるのか…!」

 

兵士が恐怖のあまりそう叫ぶのも無理はない。表面の鎧はほとんど剥げており、顔の半分は火傷により黒く変色している。それでも、若陀龍王の体を長年の怨念と憎悪の念だけが突き動かしていた。全ては、自分を忘れ去った璃月とモラクスへの復讐のためである。

 

しかしそんな若陀龍王を止める術はないに等しい。現状璃月側に残された戦力では若陀龍王への有効打は望み薄である。申鶴は槍であるため点の攻撃しかできず、最大火力を与えられるはずの帰終機は既に破壊され、仙人達は帰終機の爆発の余波で若干だがダメージを負っている。

 

加えて煙緋は炎元素の攻撃しかできず、若陀龍王が炎元素を吸収して高い耐性を持つ現状、有効打は望めなかった。加えてトワリンも深刻なダメージを負っているため起き上がろうとして力を入れるが起き上がれないというのが現状であった。

 

若陀龍王は勝鬨と怨嗟の籠もった咆哮を上げると、辺りにブレスを吐いて破壊を始めた。煙緋や申鶴も手負いの甘雨や仙人達、そして千岩軍とトワリンを逃がそうとすることで手一杯で、最早若陀龍王を止めることは不可能と思われた。

 

「───若蛇」

 

そんな絶望的な状況の中、悠然と若陀龍王へ向けて歩いていく男がいた。

 

「なっ!一般人…いや、往生堂の客卿が何故こんなところに!!」

 

それを見た煙緋が叫ぶように言った通り、ボロボロになりながらも辺りに攻撃を撒き散らしていた若陀龍王の前に、往生堂の客卿である鍾離───モラクスが存在していた。

 

「モラクス…!!この瞬間をどれほど待ち侘びたことか!!」

 

そんなモラクスを見た若陀龍王が大きく口を開き、ブレスを吐く準備をした。煙緋や甘雨、仙人達や千岩軍、トワリンは何が起こっているのかわからなかった。往生堂の客卿が、モラクスと呼ばれているのである。

 

モラクスはそんな周囲の様子を全く意に介さず若陀龍王へ向け寂しげに告げる。

 

「…千年も待たせてしまってすまなかった、旧友よ。だが、あの時俺にはああすることしかできなかったのだ」

 

「黙れ!!我を裏切ったその罪、その命で支払ってもらうぞ!!」

 

若陀龍王がモラクスの言葉を無視してブレスを放った。モラクスは動かず、ブレスが眼前に迫る中でもただ静かに懺悔のように口を開くだけだった。

 

「そして今、お前は璃月を、俺を滅ぼそうとしている。俺が、人間がお前にしたことを考えれば当然の措置だろう。『売女』による精神誘導…それがあるのも認めるが、これをしているのはお前自身の意思もあるのだろう。だが、俺は岩神だ。『売女』の契約違反により、俺はまた岩神として璃月を守護せねばならない」

 

よって、とモラクスは槍を構えた。

 

「お前を、殺す」

 

モラクスに極太のブレスが直撃した。やがてブレスによる煙が晴れると、モラクスは無傷でその場に立っていた。光り輝くシールドがモラクスの周囲に展開されており、周囲への影響も全く無い。

 

モラクスはそのまま軽く地を蹴ると若陀龍王のブレスや上から降ってくる氷塊を躱しながら若陀龍王に肉薄した。若陀龍王は最後の悪足掻きで口を大きく開き、モラクスへ向けて極大のブレスを放とうとした。

 

「すまない、若陀」

 

だが、モラクスの生成した岩の柱によって無理矢理口を閉じられ、口の中でブレスが暴発、若陀龍王はその場に倒れた。上空からモラクスが槍を地面に突き刺すようにして、若陀龍王の眉間に槍を突き刺した。

 

「…モラ…クス…っ…!」

 

若陀龍王は怨嗟の籠もった声を上げたかと思うと二度と動くことはなかった。

 

「…帝君」

 

甘雨が煙緋に肩を貸されながらモラクスの背後に立っていた。その眼には明らかに猜疑心が見て取れた。

 

「事情を、お聞かせ願えますか?」

 

モラクスは首肯き、「まずは傷を治すといい、話はそれからだ」と告げた。

 

 

 

これにて、若陀龍王の起こした騒動は多大な被害を出して終結を迎えた。死者42名、負傷者は『玉衡』と仙人を入れて百余名にも登った。南天門付近の地形は大きく変わり、地下へと続く大きい陥没穴は璃月七星によって封鎖されている。加えて南天門付近は若陀龍王の吐き出した呪詛と怨恨によって強力な魔物が大量に発生していたため、『仙人の去った地』とも呼ばれている。若陀龍王の遺骸はモラクスによって丁重に葬られたとされているが、真偽の程は定かではない。一部では璃月七星によって保管されているとも、復活させて静かに璃月港を見守っているともされている。




というわけで若陀龍王編はこれにて終了となります。次回からは璃月港をファデュイが襲う話になります
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