忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回はファデュイと璃月港のお話となります


第43話 璃月港での激闘

「───そう…一段落ついたのね」

 

凝光は群玉閣のバルコニーで璃月港を見下ろしながら言った。

 

「しかも、帝君が現れて若陀龍王を止めたわけね…図らずもアガレスの想定した通りになったということかしら…今の所、全て彼の掌の上でファデュイも、若陀龍王も、私達も…ほぼ全ての駒が彼の想定通りに動いている…商人としては少し気に食わないわね」

 

背後に控える凝光の側近は無言だったが冷や汗を浮かべている。凝光の言った言葉を必死に聞き流している様子だった。

 

「まぁいいわ。取り敢えずファデュイに動きがあるみたいだし、私も直接千岩軍の指揮を執るわ。下へ降りるわよ」

 

凝光は覚悟を決めた表情で群玉閣を去り、地上へ赴くのだった。

 

 

「───伝令によれば被害が甚大なれど、若陀龍王を斃すことに成功したようだ」

 

「トワリン様は無事なんでしょうか…?」

 

ジンの言葉に西風騎士団団員の一人が心配そうに尋ねた。ジンは安心させるように言った。

 

「傷は深いが致命傷ではなかったようだ。すぐにバルバトス様が迎えに上がるらしい」

 

「であれば安心ですな。後顧の憂いはないというものです」

 

璃月港にある総務司で西風騎士団と千岩軍が集まり、作戦会議をしていた。と、いうのも斥候によれば璃月港郊外のファデュイに動きが見られるようなのである。勿論、斥候はガイアの伝手で雇った者である。

 

「俺の見立てでは、ファデュイは南側の橋や北側の橋から正面切っての突破班、そして奇襲するための班に分かれてくるだろうな」

 

ガイアは斥候から得た情報からそう推理した。それに対し、千岩軍の兵士は鼻で笑うような態度だった。

 

「まさか。璃月港は西側から北にかけて天衡山があります。天然の要塞となっていることに加え、海から来るとしてもそれはそれで奇襲とはなりませんから、奇襲は不可能でしょう」

 

「ッハハ、千岩軍の皆々様は随分と能天気でいらっしゃる。その思い込みが璃月港を滅ぼすことになるだろうな」

 

やれやれとガイアが肩を竦めながら言った。それに対し千岩軍の兵士が激昂し掴みかかろうとして、隊長に止められた。

 

「ガイア殿、貴殿はどこから攻めてくるとお考えで?」

 

「そりゃあ天衡山だろうな。さっきお前さんが言っていたように、天衡山はかなり高く、あそこを越えるだなんて正気の沙汰じゃない。だが…まさか知らないのか?」

 

フフン、とガイアは鼻を鳴らして言った。

 

「奴らの中に、ほとんど正気な奴なんていない。大体は何かに縛られて狂っちまってるのさ」

 

「何を…」

 

「口を挟むな!すまない、ガイア殿…非礼を詫びさせてくれ。本当に来るのか?」

 

「間違いないな。だが、重衛士が来ることはないだろうな。体の比較的軽い奴ら…そうだな…デットエージェント辺りが来るだろう」

 

ガイアの言葉に千岩軍の隊長は僅かに考える素振りを見せると、ふむ、と一つ頷いた。

 

「なるほど…では天衡山付近にも人員を配置しておくべき、ということだな。西風騎士団からは何名派遣できる?」

 

トワリンに乗ってきたのは15名、一時的にノエルも西風騎士団の指揮下に入っているので、16名である。うち隊長格はジン、ガイアのみだ。千岩軍は数十名いるが、ファデュイにこれだけで対応しきれるかは不透明である。千岩軍隊長の質問に対し答えたのは、ジンだった。

 

「行けて三人といったところだ。こちらとしてももう少しだけ回したいが…そうだな、ガイア、そちらは任せていいか?」

 

「ああ、俺に任せておけ」

 

「そちらからは何人出せそうなんだ?」

 

「こちらからは10名行かせようと考えている」

 

「十分だろう。あとは北橋と南橋のどちらが本命なのか、といったところだな…」

 

そもそもファデュイが何故璃月港に攻め込もうとしているのか。それはひとえに岩王帝君ことモラクスを見つけ出し神の心を強奪するためである。つまり、強引に住居に侵入し、一人一人尋問、或いは拷問で探し出す、というわけだ。ファデュイは若陀龍王の騒ぎに巻き込まれないようにと付近には展開しておらず、未だにモラクスが再降臨したことを知らずにいたのだ。だからこそ、璃月港を攻めようとしているのである。

 

「それに関しては随時臨機応変に対応するしかないだろうな。戦力を半分に分けて北と南それぞれを守るしかない」

 

「で、あろうな…」

 

と、作戦会議中に轟音が鳴り響いた。

 

「何事か!!」

 

「隊長!ファデュイです!天衡山を迂回して来ています!今のは北の山が崩れた音です!退路を塞がれました!!」

 

「どうやら北側からの侵攻はなさそうだが、退路が断たれたか…」

 

「俺は先に天衡山へ向かうから、後に二人、誰かついてきてくれ!」

 

ガイアが急いで総務司を出て行った。ノエルも同様である。

 

「ノエル…っ…総員戦闘準備!敵は待ってはくれない!急ごう!」

 

ジンの号令によって西風騎士団も我に戻った千岩軍も戦闘準備をすぐに整え南橋を超えた開けた場所へ向かうのだった。

 

 

 

「さて、来たはいいが…」

 

天衡山の頂上、そこにガイアと部下の西風騎士二人、そしてガイアの指揮下に入った千岩軍10名がいた。

 

「来る気配はないな」

 

「あんた、見栄張っただけなんじゃないのか?」

 

「ああ、それもあるが…ほら、お客さんが来たぜ?」

 

ガイアは剣を抜き放ち、何もないところに向けて氷を放出した。

 

「っ…!」

 

「なっ!?デットエージェントだと!?」

 

西風騎士は余り驚いていない様子だったが、千岩軍はかなり驚いていた。

 

「ご覧の通りだ。デットエージェントが来てるんだからそりゃあ姿が見えなくても当然だろう。精々足元に注意してみるんだな」

 

西風騎士とガイアは指示に従い配置につき、足元を注視していた。しかし千岩軍は慣れていないためかやはりデットエージェントには苦戦していた。とはいえ、デットエージェントの数は多い。不意打ちを喰らうこともあり、ガイアの肩に切り傷ができた。

 

「っ…しかし、厄介だな…慣れてるとは言えこうも数が多くちゃな…」

 

仕方ないか、とガイアは呟いて元素爆発を放った。

 

「風邪引くなよ?」

 

周囲にいたデットエージェントに氷塊がぶつかったかと思うと、凍らせ砕いた。

 

「このまま、押し切るか…ゴリ押しってのは俺の趣味とは合わないんだがなぁ…」

 

ガイアは自虐気味にそう呟いてそのまま戦場を縦横無尽に走り回るのだった。

 

 

 

「───いざ、勝負!!」

 

ジンの風圧剣がファデュイ前鋒軍・風拳を吹き飛ばした。ジンは戦況を見て歯噛みした。戦闘が始まって三十分、既に劣勢である。如何せん、ファデュイの数が多いのである。

 

「はっ、せいっ、やっ」

 

だが、千岩軍や西風騎士がピンチになった時に暴風のように現れてはファデュイを倒すノエルの存在によって何とか枚数不利を作らず、何とか持ち堪えている状況だった。

 

「っく!!」

 

そんな中、千岩軍の一人がデットエージェントに背後から刺され、絶命した。

 

「く!持ち堪えろ!!」

 

隊長の叱咤激励があっても尚、ファデュイの勢いは凄まじく一人、また一人と倒れ伏していった。

 

「っ…流石に数が多すぎます…!もうっ、戦場のお掃除の時間です!」

 

ノエルが元素爆発を使用し、長く伸びたリーチを活かしてまるで台風のようにファデュイの兵士を薙ぎ払っていく。しかし、数が多く少しして効果が切れた。ファデュイの兵士たちはノエルを危険だと判断したのか、複数人で一斉にかかった。

 

「うぅ…失礼しました…」

 

さしものノエルと言えど、複数人のファデュイを同時に相手取ると、負けはせずとも勝つことはできなかった。ノエルが抑えられたことによってより一層戦況は悪化していく。そしてそれには際限がなかった。

 

「無礼者は必ず制裁される」

 

「あれは…見たことないな…」

 

ジン達が知らないファデュイの兵士が出てきたため、全員が慎重になる中、ジンの背後からとある声が響いた。

 

「───あれはミラーメイデンでござるな。稲妻地域によくいるファデュイでござるよ。照準を合わせられると厄介だから早めに倒さねばならぬ相手であるな」

 

「なっ?」

 

ジンが背後から響いた声に思わず驚いたが次の瞬間眼前に迫っていたデットエージェントが白髪の少年によって切り刻まれた。手に握られているのは、名匠が鍛えたであろう業物であった。やがて白髪の少年は振り向くとニコッと微笑んみながら言った。

 

「拙者は楓原万葉。今は海賊の一味でござる」

 

「…?」

 

ジンが白髪の少年───楓原万葉の言動に首を傾げていると、

 

「炭になるがいい!!」

 

雷元素がジンと万葉の周囲にいるファデュイの兵士の間に連鎖し、穿った。普段は璃月港の東側の諸島にいる北斗率いる南十字船隊が加勢にやって来ていた。

 

「南十字船隊も加勢する!!皆、アタシに続けぇぇぇ!!」

 

北斗が先陣を切ってファデュイを殲滅していく。それに続くは先程もジンを助けた白髪の少年だった。ジンは呆然としつつも後ろを見ると、やはり凝光が千岩軍の指揮を執っていた。

 

「凝光殿!」

 

「私の手引よ!皆、後少しだけ踏ん張って頂戴!!」

 

「ああ!感謝する!!」

 

ジンはファデュイ遊撃隊・炎銃の銃弾を三次元的な動きで回避すると、袈裟斬りをして絶命させた。南十字船隊の参戦と凝光の指揮により、形勢は一気に璃月側に傾いた。それでも、ファデュイが後に引くことはなかった。

 

しかし、最早多勢に無勢、士気の高い璃月側に対してファデュイは完全に敗北し、逃走者や降伏者すら出さずに文字通り全滅した。そして今、最後の一人のファデュイが倒れ伏し、全員が勝鬨を上げた。

 

「璃月港が無傷であることを見ると…もしかして天衡山からの奇襲は来なかったのか?」

 

「いえ、そんなことはないはずよ。ほら…」

 

少しボロボロになったガイア達が天衡山から降りてきて手を振った。

 

「どうやら、向こうも何とかなったようだ…後は…旅人とアガレスの方か…」

 

ジンはアガレスがいるであろう方向へ視線を向けた。

 

「アガレス…無事に戻ってきてくれ」

 

ジンはそう告げると、戦後処理へと自身の思考を切り替え、奔走するのだった。




遅くなりましたが…次回は旅人回です
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