と意気込んでいる中で描いた第44話、お楽しみ下さい
黄金屋。そこは通常、モラを製造する場所として稼働しているが、現在は七星によってモラクスの遺骸が安置されているため製造は中止されている。そのため、普段より人が少なかった。
「旅人、見ろよ…!千岩軍の人が倒れてるぞ…!」
「本当だ…タルタリヤがやったんだね」
「急いで説得しに行こう!あいつ、岩王帝君の遺骸の中に神の心がないってわかったら、きっと今度は璃月港に来るぞ…!」
「そうだね、急ごう」
旅人とパイモンは重厚な扉を開いて中に入った。
「わぁぁぁ…モラがいっぱいあるぞ!一つくらい取ったって…バレないよな?えへへっ」
「凝光さんに怒られてもいいなら」
「絶対やめておくぞ…」
パイモンが顔を青褪めさせながら言った。旅人は注意深く辺りを観察したが、タルタリヤは見当たらなかった。
「おい、『公子』はいないみたいだぜ?」
「うん…タルタリヤ、どこ行っちゃったのかな?」
「───ここ、ここだよ!」
と、仙人の遺骸の後ろからひょっこりタルタリヤが顔を出した。
「公子!!」
パイモンが驚いて叫ぶように呼んだ。タルタリヤは飄々とした様子で旅人とパイモンを見た。
「待ってたよ二人共。君達がここに来てくれると思ってた」
「どういうこと?」
旅人はタルタリヤの言っている意味がわからずに言った。
「俺がモラクスの遺骸から神の心を奪うように見せれば、救民団団長アガレスか西風騎士団栄誉騎士の旅人…どちらかは釣れると思っていたんだ」
「奪うように見せれば…ってことはお前、モラクスが生きているのを知ってたのか!?」
タルタリヤはパイモンの言葉を鼻で笑った。
「俺はファデュイだ。一応の商売仲間である『売女』から、その情報は貰っていたんだよ。まぁ、裏で何をコソコソやっているのかは、わからないけれどね。今回の行動は俺の独断だけれど…まぁ、強いヤツ、特に興味があった君かアガレスと戦えるのを、俺は楽しみにしていたんだ!」
タルタリヤは両手を広げて水元素で作られていると思われる武器を二刀流で構えた。
「タルタリヤ!私はっ!」
「まずは一戦交えよう!話はそれからでもいいよねぇ!!」
タルタリヤは一挙に踏み込むと、旅人に肉薄し、武器を横薙ぎに振るった。旅人は突然の行動に対応が遅れたものの、バックステップで何とか回避しつつ、剣を構えた。
「本気なの?」
「折角のチャンスだ!本気を出して俺を楽しませてくれ!」
タルタリヤは近接武器から弓に切り替えると、水元素を纏わせた矢を連続で放った。旅人は時に避け、時に矢を叩き斬り、タルタリヤを中心にして円を描くように走り始めた。
「投降も一つの選択だよ?俺は敗者に優しいからねぇ」
タルタリヤは逃げ回る旅人に対して空に矢を放った。旅人は注意深くタルタリヤを観察していたが、不意に足元が光ったため、その場から急いで飛び退いた。直後、その場に矢が着弾し、水刃が撒き散らされた。旅人は再び、その攻撃に当たらないように走り始めた。タルタリヤは当たらないことを悟ると、攻撃をやめ、水の上を滑るように移動し、旅人の虚を突いて肉薄した。
「っ…」
「どこに行く?」
再びタルタリヤは近接武器に切り替えると、旅人へ向かって斬りつけた。旅人は咄嗟の判断でしゃがみながら転がり回避し、タルタリヤの背後から斬りつけた。
「甘いよ!」
「えっ…きゃっ!!」
旅人は何が起きたか理解できなかったが、ただ単純にタルタリヤは旅人が背後に回るのを読んで後ろに蹴りを放っただけである。旅人は腹を抑えつつ立ち上がり、再び剣を構えた。
「ふぅ…割と本気で蹴ったんだけど、気絶しないなんてやるねぇ」
タルタリヤが肩を竦めながら言った。旅人はタルタリヤの言葉を無視して突撃し、左手で元素スキルを発動した。
「っ…落ちて!!」
「直線的すぎないかい?」
タルタリヤは降ってきた岩の塊を軽く避けると旅人がいるであろう場所に向かって矢を放った。
「っ…な!?」
しかし、タルタリヤの予想とは裏腹に、旅人は既にそこにはいなかった。元素スキルの岩の塊を目眩ましに、死角へ飛び込んだのである。
「ハァッ!」
「っく…!」
タルタリヤは突如死角から伸びてきた剣を身を捩って躱したが、それでも頬を掠める結果となった。
「ッハ!悪くないねぇ…!」
「っ…!」
タルタリヤが水の衝撃波を放ち、旅人と一旦距離を取った。
「俺相手によくここまで持つなぁ!」
タルタリヤを水が包んだかと思うと、すぐに晴れ、やがて黒い服に変わったタルタリヤが姿を現した。旅人が再び元素スキルを発動させ死角へ潜り込もうとしたが、元素スキルが発動する前にタルタリヤは既に旅人の懐へと潜り込んでいた。
「隙あり!」
「なっ!?っ…!」
旅人はすかさず元素スキルの発動をやめ、剣を自身の前に盾のようにして何とかタルタリヤの攻撃を防いだ。旅人はタルタリヤの攻撃の勢いを利用して一旦距離を取る。しかし、着地して顔を上げた時には再び眼前に迫っていた。
「捕まえた」
タルタリヤが斬撃を繰り出すたび、放電し、バチバチと火花を散らしていた。旅人はそこで初めてタルタリヤの使用元素が変化していることに気が付いた。何故、とかどうして、とかは後で聞けばいい、と旅人は余計な思考を完全に省いた。今はただ、戦いに集中するのである。
「っまだまだ…!」
「あっはは!その意気だ!!」
タルタリヤは心底楽しそうに旅人に攻撃を繰り出していく。対する旅人もフェイントを交えながら剣術だけでタルタリヤと渡り合っていた。そんな中、タルタリヤの攻撃が旅人の頬を掠め、旅人に雷元素が付着した。それも特殊な形で、である。タルタリヤはニヤリと笑い、距離を取った。
「これは…どうだい!」
「っ来る…!」
旅人は雷元素によってマーキングされている、との結論を出し、タルタリヤの動きを注意深く観察していたが、タルタリヤの足が一瞬浮いたのを見て、慌ててその場から飛び退いた。
直後、一瞬もしない内にタルタリヤが近接武器を地面に突き刺す形で落ちてきた。その威力は凄まじく、当たっていればまず間違いなく致命傷になるであろう攻撃だった。タルタリヤが突き刺した場所から蜘蛛の巣状に亀裂が広がり、旅人とタルタリヤが落下した。旅人は風の翼を展開し降り立った。タルタリヤはそのまま落ちていき、器用に着地した。旅人とタルタリヤは黄金屋の地下で睨み合っていた。
「っ…何!?」
と、突然タルタリヤが水を纏いながら浮き始め、タルタリヤが体の各部を振るう度に鎧が体を覆った。最後にタルタリヤが両拳を顔面の前で合わせると、仮面をしている全身鎧のタルタリヤが現れた。
「君の実力を褒めてやろう…俺も全力で戦わないと…!」
「っ…」
旅人は浮遊しているタルタリヤへ向けて剣を構えた。
「旅人、君にこの「魔王武装」を見せるつもりはなかったんだけどね。まさかここまで俺を楽しませてくれるとは思わなかったんだ。君には悪いけど、勝たせてもらうよ!!」
タルタリヤは近接武器から派生した棍にもほど近い槍を持って後ろに引いて勢いをつけた。旅人は本能的に右へ飛んだ。タルタリヤが旅人の元いた場所を槍を構えながら通り抜けた。正に雷光の如し、とはこのことである。
旅人は何とか直感に身を任せてとにかく動き回った。やがてタルタリヤが意表を突き、旅人に肉薄して槍を振るった。旅人は剣で何とか受け流しつつも態勢を崩され、再び腹に蹴りを食らった。
「っ…荒星!!」
旅人が苦し紛れに放った元素スキルが偶然タルタリヤに命中し、鎧の一部を剥がした。
「っく…」
「っはぁ…はぁ…」
「は、ははは!!旅人、やっぱり君は凄い、なんたって俺の魔王武装を前にしてこんなに立っていられるんだから!だが…終わりにしよう」
タルタリヤは少し旅人から距離を取ると、弓に武器を持ち替え、自身の元素力を高めていった。旅人はそうはさせまい、とばかりにタルタリヤへ突撃した。
「止水の矢!!」
が、しかし旅人は一歩間に合わず、地面から出てきた鯨に手を何故か上げながら押し流され、壁に叩きつけられた。朦朧とする意識の中、旅人はタルタリヤが苦しんでいるのを見た。
「っはは…やっぱり反動が大きいなぁ…コレ…ま、勝てたからいいけど…」
タルタリヤは外見的には傷が少ししかないのに、まるで瀕死の状態かのようにゆっくりと旅人の下まで歩いてきた。
「さぁ俺の勝ちだ、旅人…最後になにか、言い残したことはあるかい?」
「っ…」
旅人は動かなかった。ただ口をパクパクと動かしているだけである。タルタリヤは何かを伝えようとしているのだ、と考え、顔を近づけた。
(私の…勝ちだね)
「なっ!?なるほどね…そういうことかい」
タルタリヤは手を上げた。その首元には旅人の持つ剣があった。旅人は瀕死ではあるが、頑張って歩ける、程度の状態であるタルタリヤを殺すことは可能だ。そしてそれは首筋に充てられた剣によっていつでも成せるのである。よって、旅人はタルタリヤに勝利したのだった。
「───それで、何を交渉しに来たんだい?」
「うん、本当は黄金屋にあるのは仙人の遺骸だけど神の心がないから暴れるのをやめて、って言おうと思ってたんだけど…」
旅人がそう言うと、タルタリヤは得心がいったとばかりに微笑した。
「なるほどね。俺がモラクスが生きていることを知っていたから、説得の意味もなくなったわけだ」
「うん」
「それにしても…旅人、君もかなり強いよね。アガレスってどれくらい強いんだい?君と同じくらいかな?」
タルタリヤは戦うのがとても楽しみだ、といった表情で旅人を見た。旅人は少し考えると、事も無げに答えた。
「私の百倍くらい強いんじゃないかな。アガレスさんが苦戦してるところ、見たことないし」
「へぇ…それなら俺もさらなる高みにいけそうだ」
「本当にタルタリヤは好戦的だね」
タルタリヤは黄金屋の中で天を仰ぎながら呟いた。
「ああ、そうだね」
「そういえば私達、黄金屋の地下に来ちゃったけど、帰れるのかな?」
「…そのことは考えないようにしてたんだけどね」
旅人とタルタリヤは二人で顔を見合わせてはぁ、と溜息を吐くのだった。
余談だが、この後凝光が旅人を助けに黄金屋まで来るのだが…。
「……」
「「……」」
パキッと凝光の持っているキセルが折れた。
「事情は理解したわ。旅人は悪くないわね。そうだ、修理費はぜ〜んぶ、北国銀行にツケておくから」
「…」
「わかったのかしら?『公子』殿?」
「は、はい、わかりました…」
タルタリヤは、若干涙目だった。
というわけで次回、淑女とアガレス、乞うご期待(?)
いやぁ…次のアップデートが楽しみだ…