玉京台。そこでは再び迎仙儀式が行われようとしていた。と、いうのも璃月七星が、モラクスの生存を発表したためである。そのため先の迎仙儀式の説明も兼ねて帝君を迎えるらしい。モラクス、凝光との会談の日から一週間後のことであった。俺は傷も完全に回復し、迎仙儀式をノエル、旅人と共に見に来ていた。
「人が多くて前が見えませんね…前に行きますか?」
「いや、ここでいいだろう。今回は前に行く必要もないしな。ところで旅人…」
俺はチラッと旅人を見る。なんか怪我して包帯しとる。眼だけ出てるから完全にミイラ男…いや、この場合はミイラ女か。とばかりの視線を向けると物凄いムスッとされた。
「お、オイラから説明するぞ」
旅人が物凄く不機嫌なのを察してか、ひょっこり顔を出したパイモンが苦笑しつつ言うには、スタミナが足りずに落ちたらしい。ついでに古傷、というかタルタリヤと戦った時の傷が開いて大変なことになったんだとか。そのタルタリヤだが、黄金屋の修理費を払った後、行方を眩ませているらしい。一体何処に行ったのやら。
「そういうことか…しかし、旅人…よくほぼ相討ちに持っていけたものだな?」
「タルタリヤは戦闘狂だったけど、私が勝ったからかちゃんと言うことは聞いてくれた。でも、タルタリヤの元素が途中で雷元素に変わったり、水元素になったりしてて…」
「恐らく、邪眼だな。神の目を人工的に再現しようとして生み出された代物で、使用者は神の目保持者と同じく元素の力を扱えるようになるが、残念なことに代償として発狂したり、命を落としたりする、危険な代物だ」
「え、じゃあタルタリヤも…?」
俺はフッと笑った。
「安心しろ。執行官達は何らかの方法で副作用を抑え込んでいるのか何なのかは不明ではあるが、死ぬまでの副作用を貰っている存在はいないようだ。だからそんなに心配そうな顔をせずともいい」
「うん…」
さて、そろそろ始まるようだ。凝光が中央に立って再び口上を述べている。前回と同じように術を発動させ準備を整えて天からモラクスを召喚した。だがモラクスは普段とは違い、人の格好をしていた。ふわふわとモラクスは宙に浮きながら凝光を見て笑った。凝光が驚いているところを見るに、独断か。迷惑をかけなければいいが…という俺の心配を他所に、ノエルと旅人の二人はモラクスに見入っていた。まぁ、それなりに神々しい感じ出てるからな。実際神だし。
「まずは俺のために毎年欠かさず儀式を行い続けてきた七星に、感謝を示そう」
モラクスの口上はそこから長きに渡って続いた。
「さて、先の迎仙儀式の際、俺は俺の死を偽装した。それは、俺と璃月の関係に疑問を持ったからだ。このままでは、民は俺に頼り切りになり、何もできなくなるのではないか、と考えたからだ」
周囲にいる人々からどよめきが上がった。そんな周囲の様子を気にする様子もなく、モラクスは静かに、そして自分自身への、民への懺悔のように続けた。
「その計画を実行するに当たって、俺はファデュイと契約した。だが、契約が成されることは叶わず、契約は破棄された。よって俺は再び姿を現した。だが、俺が姿を現した時には既に被害が少なからず出ていた。俺の身勝手な行動によって璃月に被害が出てしまったことを、先ずは詫びさせてくれ」
モラクスは頭を下げた。それによって混乱はさらなる波紋を呼んできていた。
「だが、今回の事件で俺は理解した。俺がいなくとも、人間は人間だけで生きていける。俺の自分勝手な都合に振り回されるより、人間が治める人間のための国家を作るべきだ、と俺は思う。体制を変える必要はない。俺や仙人達は、ただ璃月を見守るだけの存在となることにする、と」
混乱の最中、凝光が言った。
「皆さん、帝君のお言葉です。帝君は私達のことをずっと考えてきたのです。そろそろ休んでもいいとは思いませんか?」
静まり返る会場の中で、そうだ、と誰かが言った。それに同調する声は大きくなり、やがて最高潮へと達した。まさか同調されるとは思っていなかったのか、モラクスは少しだけ驚いていた。
「帝君、確かに帝君の行動によって多少の被害は出ました。しかし、帝君が戻って来て下さらなければ、被害はもっと大きかったでしょう。そして突然貴方が死んでしまっても、かなりの被害が出ていたはずです。帝君はこの3000年以上、私達のことを護ってくださいました。もう、休んでもいい頃だと思います」
「…聞け、璃月の民よ。俺は岩王帝君として、璃月に住まう人々を守護してきた。一年に一度の神託はするつもりだが、それも璃月の様子が変わりないかどうかを確認するものに変える。璃月七星『天権』凝光、そして璃月の民によって、これからの璃月は変わっていくだろう。何かあれば頼ってもいいが、なるべく人の手で片付けて見せてほしい。それと、旅人、アガレス」
モラクスは俺と旅人を手招きした。俺と旅人は顔を見合わせつつ、前へ出た。
「お前達は異郷からやって来たのにも関わらず、璃月の危機を救ってくれた。感謝する。お前達には璃月の英雄の証、それを授けよう」
証?と思いつつ手を出せと言われたので俺と旅人は手を出した。俺と旅人の手の平にはそれぞれ赤色の仙霊と金色の仙霊がいた。思わず驚いて後退りした。
「その子達は俺が生み出したものだ。璃月を救ってくれた証としてお前達にやろう」
「「感謝致します、帝君」」
一応俺と旅人は璃月の人々に倣ってモラクスを帝君と呼んだ。モラクスは一つ首肯くと凝光を見て言った。
「今年の神託はこれにて終了とする。さて、璃月の英雄に関しての周知、そして隣国モンドへの返礼品や礼状、諸々は任せたぞ」
「はい、お任せ下さい、帝君」
モラクスは、頼んだぞ、と一言言うと、その姿を消すのだった。
「───なるほど、往生堂にもいられないからこっち来たって…?何してんだよ」
「…いや、すまないとは思っているが、往生堂に俺を一目見ようとかなりの人集りができていてな。堂主に追い出された次第だ」
俺は迎仙儀式が終わったと同時に旅人、凝光ととある約束をしてノエルを送り届けるために救民団璃月支部にやってきていたのだが、何故かモラクスも一緒だった。俺はモラクスがここへ来た理由を何故かキメ顔で言われたのに対して、
「いや、キメ顔で言われても困るんだが?」
思わずそう告げた。
「お茶、いかがですか?」
「いただこう」
てか、ふっつうにくつろいでやがる。そんなイレギュラーな中でもノエルが紅茶を淹れて俺とモラクスの分を持ってきてくれた。俺はノエルに礼を言いつつ紅茶を飲んだ。
「それで…モラクス、お前これからどうするつもりだ?往生堂の客卿としての仕事もしばらくはできないだろうし、かなり暇になるのだろう?」
「む、そうだな…あまり考えていなかった」
ふっふっふ…いいものを見つけたぜ、とばかりに俺はニヤリと笑った。その俺の顔を見た奥にいるノエルが苦笑を浮かべた。
「なぁモラクス、お前働いてみる気はないか?」
「ん?アガレスの紹介なら全く構わんが…何をさせるつもりだ?」
「なに、簡単だ。人助けだけしてればいい」
まぁ、モラクスにできるとも思えないがな。結構鈍い所あるし…そういうところ岩っぽいんだよな。
「ふむ…まぁ始められることから色々やってみるのも悪くはないわけか」
「そういうことだ。で、どうだ?給料も勿論出すぞ?そうだな…モラクス、何ならここの支部長にでもなってくれれば万々歳だ。それもこれも勿論仕事に慣れてからになるだろうが」
「アガレスさま、蛍さまがお見えになっていますよ?」
「おっと…時間らしいな。んじゃぁモラクス、ノエルから色々教わっておけ」
「ああ」
俺は蛍との約束を果たしに外へ出ると、蛍が果物の沢山入った籠を持って待っていた。
「旅人、それは…って、まぁそりゃそれは必要か。お見舞いに行くんだものな」
そう、俺や旅人の関われなかった若陀龍王や璃月港での戦いで傷ついてから、未だに怪我が完治していない人々の見舞いに行くのである。
「まぁ…英雄になったくらいだし、凝光も俺達を色々利用しようと思ってんだろ…まぁ使われてやる気しかないが」
実際英雄による慰安はかなり効果があるだろう。旅人の願いである兄を探す張り紙もしてあるし、相手に何かをさせるのであれば対価を支払わねばならない。凝光が用意した対価が、俺達の願いを、できる範囲で叶える、といったものだった。旅人の願いが兄を探してほしい、ということだった。
ん?俺か?俺は…別にいいだろうよ。特に驚くようなお願いもしていないしな。
「さて、じゃぁ行こうか」
「うん、行こう」
その前に俺も見舞いの品を持っていかねばな、なんて考えながら旅人と共に歩き始めるのだった。
毎度毎度の誤字報告本当にありがとうございます