「───ククク…この計画が成功した暁には、私はようやくモンドの絶対支配者へと返り咲くことができる。ローレンス家の栄光を取り戻すことができるのだ…!」
その声を最後に声が聞こえなくなった。周囲は暗闇で、その暗闇を照らす僅かなランプの灯のみが主張を激しくしていたかと思うとそれが持ち上げられた。
「ったく…利用し甲斐があるから利用してやってるが、ほんとに腹立つ奴だな」
「そう言うな。ああ見えても一応、俺たちの役には立ってるんだからな」
新たな声の主達は踵を返すと暗闇の中奥へ奥へと進んでいく。
「『博士』様の研究されていた遺跡守衛…いや、耕運機の調子はどうだ?」
「問題ないようだ。全ての項目に丸表示がついてる。オールグリーンさ」
二人はやがてかなり開けた場所に辿り着いた。
「あの元神アガレスのせいで俺らはモンドには正式に立ち入れなくなってる。貿易目的の純粋な商人しか今は入れないが、それでも抜け道はあった」
バチンッと音がして照明がついた。広間にはびっしりと茶色い巨大な機械、耕運機こと遺跡守衛が座っていた。二人が近付いても起動することはない。
「全く…女皇陛下のため、という名目で騙し騙し耕運機を行動不能にしては連れてきた甲斐があればいいけどな…」
「…数は足りるだろう。極秘作戦『カペレ』を実行する時が来たということだ」
「はいはい…んじゃあ作戦の発動を総員に通達するとしますかね」
二人は照明を落とすと、更に深い闇の奥へと消えていった。
さて、極秘作戦『カペレ』とは、商人以外の入国が禁じられたモンドへ再び入国できるようにするための作戦である。
モンドにはローレンス家という、元貴族の家系があり、そしてほとんどの人間が驕り高ぶり、過去の栄光に縋っている。ローレンス家の人間に協力して西風騎士団を超える戦力でモンド城を包囲、統治機構を都合の良いように置き換えるのが狙いだ。加えて大戦力ともなれば風神が黙っているはずがないため、出てきたところで神の心も奪ってしまおう、という魂胆である。
極秘作戦『カペレ』の真の目的は、モンドの属国化にある。属国化し、モンドを足掛かりとして璃月への工作の拠点とするわけである。
「───耕運機の起動状況はどうなっている?」
「現在30%、一分に一体のペースですね」
「遅いな…まぁ、まだ起動条件に関してはブラックボックス的な部分もあるからな…そのうち『博士』様が解明してくださるだろう」
「ええい遅いぞ!何をしている貴様ら!」
ローレンス家の一人、シューベルト・ローレンスが怒鳴った。
「はぁ…怒鳴る以外能もない癖によく言うぜ…」
「まぁあのような無能でも我等の役に立てるのだ。多少は使えるだろう」
───無能なトップとしては、うってつけだな。
心の中で、ファデュイの指揮官らしき男はそう思った。
「それで、隠し戦力で俺達も出ないといけないんだろ?」
もう一人の男が言った。
「ああ、耕運機だけではどこから調達したのか、それは自ずとわかるだろう。どちらにせよ、この計画は女皇陛下からの勅命によるもの、失敗するわけにはいかん」
「そこでお前の頭脳ってことかー…何処ぞの好まざる人物のせいで執行官様達の頭脳系統はほぼ壊滅してるからなー…『淑女』様も『売女』様も行方知れず…」
「ああ…何処へ行ってしまわれたのだろうか」
さて、少し説明しておくと、スネージナヤによる情報統制のお陰で部下のファデュイには『淑女』が死んだこと、そして『売女』が璃月に捕らえられていることは伝わっていなかった。加えて璃月でもスネージナヤからの攻撃があり、これを阻止したと発表しただけで具体的な首謀者に関する発表はしていない。それは民への不安を与えないためでもあったが、結果的にスネージナヤの思い通りになったと言えるだろう。
「起動率、50%を超えました。現在、起動させた耕運機から風立ちの地にて待機中です」
耕運機、こと遺跡守衛の総数は200程度で現在100機程が風立ちの地に一糸乱れぬ整列をしていた。ファデュイの指揮官らしき男はシューベルト・ローレンスの前に跪き言った。
「シューベルト様、そろそろ頃合いかと。シューベルト様の御威光を見せつける時が来たのです」
「ふん、まだ半分ではないか。この程度の戦力でよくもまぁ時が来たなどと言えたものだ」
「無論理由が御座います。第一、モンドに敵対された際後詰めが居なくては一点突破される可能性が存在します。加えて、シューベルト様を御守りする耕運機も必要です。そして風立ちの地は広いですが、耕運機200機ともなると戦闘になった際狭すぎます。ですから、御威光を示すには100機程度で充分足り得ると愚考致しました」
「ふむ…なるほどな」
ほんとはわかってねーだろこのおっさん、なんてファデュイの男は思ったが苦笑するだけで口には出さなかった。
シューベルトは如何にも全てを理解したとばかりに首肯き言った。
「わかった、私は寛大だからな。お前の言葉を聞き入れ、出陣と行こうではないか」
シューベルトはそう言うと無駄に仰々しい動きで去っていった。ファデュイの男と指揮官らしき男がお互いに顔を見合わせ苦笑した。
〜〜〜〜
シューベルト達が遺跡守衛を連れて攻め込んでくる一日前。
「───ほう…シューベルトの動きはこんな感じか…」
「ええ…あの人、どうやらモンドをまたローレンス家が手中に収めようとしてるみたいよ」
「潜伏してるファデュイの残党と接触したのか」
西風騎士団も救民団も、国境付近を常に警護できるわけじゃない。必ず綻びが出てその度にファデュイの侵入を許している。かと言って彼等を捕縛しても自殺する。事前に防止すらもできない。毎度何らかの理由で死んでいて、その理由も不明なのだ。
「加えて、今回の件、意外と奥が深いぞ?表面上だけの狙いに留まらず、その奥に二重三重の狙いが存在している。かなり付加価値の高い計画だ」
シューベルトの動きから、何らかの方法でモンドを脅迫し、再びトップに返り咲く。無能なトップ、そしてそれを手助けしたファデュイの願いを、シューベルトは無下にもしないだろう。狙いは…なんだろうな、モンドの属国化、とかはありそうだ。
加えて脅迫しているならバルバトスが出てくる。例えシューベルトの計画が失敗しようと神の心さえいただければ何でもいいだろう。となると…武力行使による脅迫だとわかる。
問題はその武力行使の方法だ。
「エウルア、何か情報は無いのか?」
エウルアにそう聞くと彼女は首を振った。
「残念ながらないわ。叔父さんは昨日からいないみたいだしね」
妙だな、いない、というのも可怪しい。
「ファデュイには『博士』がいたな…いや、だからといって一概にはわからんか」
まぁ武力行使の方法は置いといて。
「狙いとしては他にもあると考えるべき、か…」
仮にモンドを属国化できたとしてスネージナヤが得することといえば何だ?一つは単純に土地が増え、加えて不凍港も確保できる。
モンドには龍もいる。その研究もできるようになるだろう。
戦争状態になった際はモンドから徴兵することもできるだろう。2方面同時展開作戦なんかもできるかもしれないな。
他、他か…ん?その繋がりで言えば、失敗した璃月での戦争…いや、なるほどな。璃月を攻める足掛かりにもなるわけだ。物資集積所としても使えるだろうな。
さて、考察はこの辺にしておいて、どうしたものか。
「このままだと証拠不十分で捕まえることもできんな…何せほんとに証拠がないからな」
「ええ、ただ動きが怪しいだけなのよね…まぁ、事後でも対応できるといいけど…自信はないわ」
「叔父を手に掛けることになるかもしれないからか?」
コクリとエウルアは首肯いた。
「確かに、あの人は私の叔父さんだけど、モンドに害を成そうとしているのなら…私に止めない道理はないわ。けれど…叔父さんをその時殺してあげることができるかは…わからないわ」
エウルアの手は震えていた。俺は彼女の手を握って言った。
「お前ができないなら俺がやるだけだ。だがエウルア。これはお前の家族が起こすかもしれないことだ。お前自身が、決着をつけるべきなんだよ。それだけは、覚えておくといい」
エウルアの手の震えが止まったので俺は手を離し、先に救民団へと戻った。エウルアは俺のいなくなった場所で一人、
「ええ…無論そのつもりよ…」
決意を秘めて呟くのだった。
というわけで今回はほとんどファデュイ側の話でした。次話も似たようなもんです。眠いので誤字多めです恐らく。
だが断る、寝ます。