忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

62 / 157
今回もほぼファデュイさん達から見た視点となります


第51話 鏖殺①

アガレスとエウルアがシューベルトの動きに勘付いた次の日、風立ちの地に大量の遺跡守衛が整列していた。その最後方にはファデュイの前鋒軍・雷ハンマーに護られたシューベルトがいた。無論、西風騎士団は街の護りを固め、代理団長以下数名のみが様子を伺いに行っていた。

 

そんな中、最後方では、シューベルトが足を踏み鳴らしていた。

 

「全く…交渉など私に任せておけばいいものを…モンドの民は私を見ただけで跪き靴を舐めるはずなのに…」

 

そのシューベルトの言葉を聞いた指揮官らしき男は心の中で盛大にツッコみつつ、表面上はしっかりと取り繕って言った。

 

「しかしシューベルト様、シューベルト様自ら話されてはシューベルト様自らの格というものが下がってしまうというもの…本来であれば私達下賤な存在ともお話をされるのは不快なこととは存じておりますが…今は耐え忍ぶ時だと愚考致します」

 

恭しく指揮官らしき男は言った。シューベルトはその言葉に機嫌を良くして鼻歌まで歌っていた。

 

「そうか…なるほどな。しかしお前は本当によく尽くしてくれる。私が支配者へと舞い戻った暁にはお前を重用すると確約してやろう」

 

「(まぁそんな称号いらないが)有難き幸せに存じます」

 

「それでは私はその時が来るまで天幕で休む。お前が呼びに来い」

 

「畏まりました」

 

シューベルトが去った後、指揮官らしき男は立ち上がって心底不愉快そうな表情をして呟いた。

 

「全く…決められた役割を演じる、というのも中々難しいものだな…俺は肉体的にはただの人間と変わらないが頭脳を強化されているわけだし大して苦にはならないと思っていたのだがな…頭脳が強化されていても読み切れないのが人の感情、そういうものか」

 

 

 

モンド城内にて、ジンはファデュイの特使と睨み合っていた。理由は勿論、特使の持ってきた書類のせいである。

 

「モンドを大人しく引き渡せ…そんなことができるはずがないだろう。ファデュイの方々にはいい加減にしてほしいものだ」

 

ジンはそう口火を切った。特使はそれに対して馬鹿にするように告げた。

 

「おや、先に追い出したのはそちらではないですか?そもそも、私達は無益な血を流したくないだけ。そしてそちらとしてもつまらない意地に拘って無駄な血は流したくないでしょう?」

 

「仕掛けてきたのはそちらではないか。それに、私達は西風騎士団だ。大団長から、このモンドを任されている。到底、このような無血開城をして即刻モンドを引き渡すなどできるはずもない」

 

無論ジンも特使も相手が何かを言えば反論する。議論は平行線を辿り、そしてそれには際限がなかった。

 

「では交渉は決裂、ということですな。その選択を後悔することになるでしょう」

 

特使は早々に話を切り上げて立ち去ろうと踵を返した。

 

「フッ…後悔するのはお前達だろう」

 

「何…?」

 

立ち去ろうとしたファデュイの特使はジンの態度に少し違和感を覚えて振り返った。ジンは毅然と告げた。

 

「モンド…いや、これはこの世界に住まう存在の危機。我々も勿論抵抗するが…はてさて、その前に全て事が終わってしまうかも知れないな」

 

「…っくはははは!全く、代理団長殿は御冗談がお上手なことで」

 

肩を竦めながら特使はそう言って今度こそ去って行った。ジンは特使の背を少し悲しそうに見つめて呟いた。

 

「冗談、か…冗談でなければもっと下手に出ているよ」

 

 

 

数刻後。シューベルトの休んでいる天幕内に入る直前に思い留まり、来訪を知らせる鈴を鳴らした。

 

「───シューベルト様、お休み中申し訳ございません。お時間頂いても宜しいでしょうか?」

 

「よかろう、入れ」

 

「失礼致します」

 

貴族相手になるとかなりの礼節を尽くさねばすぐに機嫌を悪くする。特にこういった悪徳貴族は特に、である。そのためファデュイの指揮官らしき男は恭しく、そう、とにかく恭しく天幕内へ入り、すぐに跪き言った。

 

「お待たせしてしまい申し訳ございません。シューベルト様の手腕を存分に振るって頂く機会がようやく回ってまいりました。西風騎士団はこれだけの数の耕運機を前にしても尚、徹底抗戦を貫く構えのようです」

 

「つまり私に説得せよ、そういう意味か?」

 

シューベルトの声色が少し不機嫌になったのを察してすかさず指揮官らしき男は付け加えた。

 

「いえいえまさかそのようなことは。説得に応じなかった、それはつまり滅ぼされても文句は言えません。西風騎士団を排除するいい機会と捉えるべきかと愚考致します」

 

「そう、そのとおりだな。やはりフタローイ、お前は私の側近に相応しい」

 

シューベルトは指揮官らしき男、否、フタローイと呼ばれた男の肩に手をおいた。思わず払い除けそうになる気持ちを必死に押し殺して、フタローイは満面の笑みで告げた。

 

「は、勿体なきお言葉でございます」

 

「それで、どうすればいいのだ、我が右腕」

 

勝手に右腕にすんなクソ老害、と心の中で盛大に再びツッコみつつ、一瞬考える素振りを見せてからニヤリと笑いながら言った。

 

「シューベルト様の御威光を見せつけるのにはいい機会でしょう。シューベルト様のお力で屈服させればよいのです。そう、千年前のように」

 

「フッ…それもそうだ。私としたことが愚問を問うてしまったようだな。侵攻の準備をせよ、モンド城など幾らでも建て直せば良いのだ」

 

フタローイは内心で今度はほくそ笑みながら恭しく礼をして告げた。

 

「仰せのままに、シューベルト様」

 

 

 

「───お前も大変だな、これからシューベルトのお付きの者として暫くは生きていくんだろ?ほんとに可哀想だねぇ」

 

「思ってないだろう。そういう言い方だし、何より声色に滲み出ている」

 

「おっと、バレちゃあ仕方ねえ…それで、ここ一週間ほど救民団のアガレスが行方不明ってのはマジなのかよ?」

 

フタローイに告げる友人と見られる男は少し不安そうに告げた。

 

「アディーン、まさかとは思うがお前、不安なのか?」

 

「まさか…だが、アガレスにはかなりの同胞が屠られたと聞いている。俺は問題ないだろうが、耕運機だけで勝てるのか?」

 

アディーンと呼ばれた男の言葉に、フタローイは首を振った。

 

「さあ…それはわからんが、奴が来る前にかたをつけるしかあるまい」

 

「ま、それもそだな…変なこと聞いて悪いな」

 

「───フタローイ様!」

 

デットエージェントが珍しく取り乱していった。フタローイはすぐに何かが起きたことを察すると事情を尋ねた。デットエージェントによれば、遺跡守衛の起動は90%まで進み、もうすぐ、というところで何者かの襲撃を受けて基地は壊滅してしまい、残りの10%は全て破壊しつくされた、とのことだった。フタローイはすぐに部下に指示を出した。

 

「ファデュイ前鋒軍、重衛士、遊撃隊はアディーンを中心として配置につけ!襲撃者は風立ちの地までへもやってくるぞ!!ある程度距離はある!!今すぐ作戦を決行すれば間に合う!」

 

「フタローイ、まさか…」

 

冷や汗を流しつつアディーンは問うた。フタローイは首肯き、早く持ち場に着いてくれ、と言った。アディーンは大急ぎで自身の持ち場へ向かって行った。

 

「今の今まで何をしていたのかと思えば…元神アガレス…貴様、我等の基地を探して潰していたわけか…だが、風立ちの地から千風の神殿までは距離があるはずだ。何も問題はない、そう、問題ないはずなのだ」

 

───だがこの言い知れぬ謎の不安はなんなのだ?

 

背中に嫌な汗が流れるのを感じつつフタローイは自身の立てた計画を信じることしかできなかった。

 

〜〜〜〜

 

「潜伏中のファデュイが吐いた情報によればここに200機もの遺跡守衛が運び込まれているらしい。そしてその作戦決行日は今日だそうだ」

 

「ならモンドにいたほうがいいんじゃないの?」

 

エウルアの言葉に少し俺は考えたが、すぐに首を振った。

 

「遺跡守衛が現状どれほど起動されているかわからない以上、大本を潰さなければ増える一方だ。つまり、基地から潰す必要があったんだよ。それに、お前の叔父さん、シューベルト・ローレンスもこっちにいるかも知れないしな」

 

「ええ…一応、中を全部確認してから暴れるわよ」

 

エウルアと共に俺は中へ入った。神殿の中はかなり暗く、ほぼ何も見えなかった。二人居るな。背後、そして正面、挟み撃ちか。

 

どういう原理でこの暗闇の中を正確に移動しているのかはわからんが…それを聞いている暇はない。前後から飛んできたデットエージェントのものと思われる刀を掴むと、寸分違わず同じ場所に向かって投げ返した。小さい呻き声と共に、何かが倒れる音が聞こえてきた。ふむ、手応えあり。

 

「さて、先に進むぞ」

 

「なんでわかったのよもう…」

 

斯くいうエウルアも気が付いていたであろうが、反応はできなかった、というところか。俺は少しエウルアの注意が散漫になっていることに心配を覚えつつ、更に奥へと踏み入っていった。

 

暫く進むと、行き止まりになった。見逃している可能性はあるが、一本道だったはずだ。と、そんな時に風を感じた。だが行き止まりである。なるほど、この先に空洞があるものと見た。

 

「少し離れていろ」

 

「ええ」

 

俺は拳を振り被ると壁をぶん殴った。壁が砕け散り、突然明るい場所に出た。視界が回復したタイミングで俺は周囲を瞬時に見回し、ニヤリと嗤った。

 

「予想通り、か」

 

慌てふためくファデュイ達、そしてここはただの遺跡守衛保管庫だろうと推測できる。他に小部屋も見当たらなく、大きな出入り口らしきものがあるだけである。つまり、他に部屋はない。シューベルトもここにはいないわけだ。

 

「エウルア、ここにシューベルトはいない。好きなだけ暴れられるな」

 

「ええ、やってやるわ」

 

エウルアにとってシューベルトは悪徳貴族の鏡そのものではあるが、腐っても家族だ。そんな叔父を誑かしたファデュイを許すつもりは毛頭ないのだろう。斯くいう俺も、だ。神殿になるべく被害を出さず、かつ生存者は少しだけ残してわざと報告させる。

 

「さぁてファデュイの諸君。楽しい楽しい戦いを始めようじゃないか?」

 

「何処の戦闘狂よ全く…」

 

エウルアのツッコミで全てを台無しにしつつ、俺達は基地で暴れ倒し、20機の遺跡守衛を片付けることに成功したが、逆に言えば180機はモンドに向かっている、ということになる。そして俺がわざと逃した一人のデットエージェントは今頃は上司に報告して作戦を先に続行させているだろう。加えて千風の神殿から風立ちの地までは少し距離がある。このような計画を立てた存在は間違いなく俺の仕業だと気が付き、しかし俺とて間に合わないだろうと予測するだろう。ま、常識の範囲内に俺が収まっていれば、の話だがな。

 

「エウルア、この基地の施設のみを破壊してから行くから、先に風立ちの地へ向かってくれ」

 

「ええ、わかったわアガレス」

 

俺はエウルアを軽く見送ると、指輪の通信機能でウェンティことバルバトスを呼び出した。

 

「バルバトス、現状はわかるか?」

 

『遺跡守衛100体くらいが風立ちの地に集結してるよ。交渉も決裂して丁度侵攻を開始した頃だね』

 

「よし、ありがとう。すぐに向かう」

 

『うん、僕はりんご酒でも飲みながら見物してるね〜』

 

それだけ言って通信が切れた。流石に自由人、いや自由神だな。俺は少し肩を竦めつつ雷元素をそこかしこに放った。これで基本的な施設は破壊して尚且神殿にはダメージを与えていないはずだ。俺はすぐに神殿の外に出ると風立ちの地へ向けて飛ぶのだった。




ふぅ…今日も何とか間に合ってよかったよかった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。