忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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エウルアの伝説任務だったはずが物凄く大掛かりなことになっている…だと…!?


第52話 鏖殺②

「進め!!モンドを更地へと変えてしまえ!!」

 

大量の遺跡守衛が足並みを揃えて大地を踏み鳴らしながらモンドへと迫っていた。如何に堅牢なモンド城と言えど、これだけの遺跡守衛を相手にして勝てる道理はなかった。加えてトワリンはまだ璃月での戦闘の傷が癒えておらず、戦闘には参加できない。最早状況は絶望的と言えた。フタローイは少し笑いながら遺跡守衛が侵攻する様子を眺めていた。

 

「く、ククク…何が元神アガレスだ…噂ほどでもないではないか…!」

 

最前列を行く遺跡守衛へ向けてモンド城の城壁から矢が放たれたが、遺跡守衛の体は硬く、ただの一本も刺さることはない。やがてモンド城を射程圏内に捉えると、上半身をクルッと回してミサイルを放つ態勢へと移行した。

 

「た、退避…退避ぃぃぃ!!」

 

西風騎士の一人がそう言いながら城壁から退避した。それに釣られて今年西風騎士団に入団したばかりの新米達も逃げ出した。ベテランの西風騎士が遺跡守衛を止めようと攻撃を加えようとしたが、ファデュイに邪魔され上手いこといっていない。つまり、詰み、である。

 

遺跡守衛達は一斉にミサイルを発射し、やがて爆発した。煙で城壁が破壊されているかどうかが見えていない。

 

「───おいおい、この状況になってもバルバトスは動かないのか…なんて無能な神だ…全く。俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

煙の中から、声が聞こえたかと思うと最前列の遺跡守衛が肩口から腰にかけて筋が走ったかと思うと、ずり落ちて真っ二つになり機能を停止した。煙の中から姿を現したのは黒衣に身を包んだ長身で銀髪が目立つ男。頭髪の影の奥にはぼうっと光る紅い瞳があった。やれやれ、とばかりに肩を竦めながら現れた男───アガレスはズラリと居並ぶ遺跡守衛を見やった。

 

「こんなにもよくもまぁ集めたものだ。カーンルイアが作り上げた耕運機と呼ばれる戦闘兵器…それを研究し、そして利用する。ファデュイの考えそうな手だ。第二のカーンルイアにでもなりたいのか?」

 

不思議と、後方に居るはずのフタローイとアディーンの下まで声が届いていた。フタローイは自身の予測が外れ、計画が台無しになることに、舌打ちをした。

 

「貴様!!何者だ!!」

 

と、シューベルトが叫んだ。遺跡守衛の抱える神輿に乗っているのである。アガレスは胡乱な眼差しでシューベルトを見やると、くつくつと喉を鳴らした。

 

「おいおい、神の前で神輿に乗るとは…なんて罰当たりなんだ?」

 

「神…?お前の言っていることはよくわからんが、お前は救民団団長のアガレスだろう?」

 

「ああ、そうだが」

 

「私の配下になれば永遠の繁栄を約束してやろう!!どうだ?私の配下になれ!」

 

シューベルトは自分が目の前の矮小な人間より上だと信じて疑わない。何故なら現に自分は今、神輿に乗り、その存在よりも上に立っているのだから。だからこそ、次の瞬間、自分が地べたに這い蹲り、頭を踏みつけられているという事実に気が付くまでかなりの時間を要することになった。

 

「き、ぎざま!何をする!!離せぇ!」

 

「…一つ、教えてやろうか、シューベルト・ローレンス」

 

喚くシューベルトを押さえつけて黙らせたアガレスは心底不愉快だ、という目線でシューベルトを見た。

 

「俺はなぁ、別に人間が欲望で動くことは、悪くはないと考えているんだ。だってそうだろう?欲望というものは人生で必ず沸き起こってしまうものだ。それに従わずに我慢している人間も沢山いるが、人間の行動原理のほとんどが欲望によるもの、そうだろう?だが…」

 

アガレスは頭を踏みつける力を更に強くした。シューベルトの小さい悲鳴が上がる。

 

「己の矮小な欲望でよくもまぁ人を巻き込む。それも最悪の形で。多くの人々の犠牲の上に成り立つその欲望は、叶える価値があるものか?」

 

アガレスは本能が存在しないはずの遺跡守衛が少し後退る程の殺意を込めて言った。

 

固まっているアガレスとシューベルトだが、フタローイは遺跡守衛を動かさなかった。未だに、アガレスを倒せると思っているからである。そう、シューベルトを囮に使い、殺した瞬間、アガレスへ遺跡守衛を当てるのである。

 

「お前は殺さない。俺は、な。そら、エウルア、こいつの落とし前はお前がつけろ」

 

遅れて到着したエウルアへ向けてアガレスがシューベルトを足で蹴って転がした。エウルアはシューベルトを止めると、アガレスを見て顔を引き攣らせた。状況は、絶望的。エウルアやノエル、レザーがいて、西風騎士団を総動員しても恐らくこの戦には勝てないだろう。しかし、エウルアは見ている。アガレスは、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「さて、待たせたな、ファデュイ、そして遺跡守衛共」

 

アガレスはゆっくりと鞘から抜き放つように刀を生成すると、告げた。

 

「お前達はモンドを、その民を恐怖に陥れるべく行動した。さぁ行くぞ?鏖殺だ」

 

フタローイは悪寒を感じ、遺跡守衛へ命令を下す。「殲滅しろ」と。最前列の遺跡守衛群は再び上半身を回転させてミサイルを放とうとした。横目で流し見したアガレスは左腕に水元素を纏わせて足には常に雷元素を纏わせた。光速で動くアガレスは遺跡守衛の弱点である瞳の部分に水元素を叩き込む。水元素の本体は水、水は液体であるため遺跡守衛の内部へと入り込み、精密な機械であるが故に簡単に破壊されてしまった。

 

「なっ…なんだ…」

 

腕を伸ばした遺跡守衛は刀によって粉々に切り刻まれ、その勢いでアガレスは一挙に踏み込み遺跡守衛の一体の腕を取って物凄い勢いで投げつけた。三体がその衝撃に巻き込まれ、その機能を停止させた。

 

「なにが…起こっている…?」

 

アガレスはただただ口の端を持ち上げながら遺跡守衛を淡々と狩り続けた。雷元素と炎元素による過負荷反応の爆発で遺跡守衛を吹き飛ばし、或いは落ちていた西風騎士の放った矢を拾って氷元素を纏わせて鋭利にしてから遺跡守衛数体の目玉を同時に撃ち抜いたり、刀で一刀両断したり、或いは体術で内部へ衝撃を与えて遺跡守衛を破壊した。

 

「こ、こいつは…!」

 

一刻も経つ頃には180体もの遺跡守衛はフタローイ付近に存在する僅かな残り滓のみとなってしまっていた。

 

「ばか…な…化け物か…!!」

 

ファデュイの伏兵達が、命令されずとも今度は遺跡守衛の代わりにアガレスへ向けて襲いかかった。デットエージェントが重衛士の背後で透明化したのにも関わらず、アガレスは背後に回ってきていた遊撃隊を殺してから、デットエージェントから振るわれた不可視の刃を口で噛んで止め、ニヤリと嗤った。かと思えば右手をデットエージェントの腹に添え炎元素で腹に風穴を開けた。重衛士は既に刀によって切り刻まれ、前鋒軍はあっけなく体術や剣術の前に沈んだ。遺跡守衛のオイルやファデュイの血液を被っているアガレスは、正に正真正銘の化け物だった。

 

殺戮に次ぐ殺戮を前にして、フタローイの思考は、完全に停止していた。

 

アガレス、彼は怒ると結構怖いのである。

 

「っく…」

 

フタローイは全身をローブで覆い、肌を出しているところは何処もないため飛んできた瓦礫などが命中しても多少の傷みを感じるだけで済んでいるが、それでもアガレスはフタローイの部下を皆殺しにしたのである。

 

「さて、これで全てか?確かに、この程度の戦力でも落とそうと思えばモンドは落とせるか…だが、お前達は致命的に、神を舐め腐りすぎているようだな」

 

ファデュイや遺跡守衛の攻撃の全てを物ともせず、全てを斬り伏せてフタローイの前に少しずつ少しずつ近付いてきていたアガレスは不意に立ち止まると、屈んだ。直後、現れたアディーンの薙刀の一閃が走り、そしてそれは空を切った。

 

「チッ…まさか外すとはな」

 

「いやいや、あいつ俺が攻撃する直前に回避したぜ?後ろにも目がついてんじゃねえのかってくらいの反応速度だな」

 

「というか持ち場はどうした?」

 

フタローイの言葉に、アディーンは肩を竦めた。

 

「その持ち場自体、護る存在がいなくなっちまったからな。反応する間もなくあのアガレスに頭を踏みつけられてたよ」

 

「それはまた傑作だ…結果的に我々の切り札であるお前が間に合ったのだからな。試作型強化人間の壱号…」

 

「おいおい、今更その名前で呼ぶのか?だったら俺もお前のことを試作型強化人間の弐号と呼ぶけどな」

 

「さて、アガレス。我々の正体を教えておくと───」

 

フタローイは教えたところで問題ない、と考えて自分達の出自について述べようとしたが、それをアガレスに遮られた。

 

「ファデュイの『博士』が主導している、相次いで失われていく執行官クラスの実力を持つ存在を人工的に作り出し、戦争の道具にすることを念頭に添えた極秘要項。ファデュイの地方司令官と思わしき高い地位に就いている存在が教えてくれてな…目的のためには手段を選ばない国だとは思っていたが、人間の成長限界を無理矢理上限値以上まで引き上げて戦争の道具にする。全く以て不愉快だ。世界の規律に反する」

 

アガレスは不愉快そうだったが更に続けた。

 

「人を生み出してよいのは世界だけだ。人工的に世界から与えられた上限を、限界を突破して、何の影響もありませんでした、なんてことはあるまい。さて、その実験を成功させるために、果たして何人の命が犠牲になったのだろうな?まぁ、それはわからんが、到底許されるべきでない行為であることは確かだ。お前達に罪はないが、洗脳教育などによって氷の女皇の命令は絶対、とされているだろうしなんとも言えないな」

 

ここで言う二人、アディーンとフタローイは単なる型式である。アディーンを壱号、フタローイを弐号としているのである。執行官『博士』によって行われるプロジェクトに於いて、技術不足や人体の構造への理解不足によって成功したのはまだこの二人だけなのである。壱号のアディーンには身体能力増強、そして邪眼に耐え得る肉体への変化、そして洗脳教育が施され、フタローイにはアディーンと同じく邪眼に耐え得る肉体、洗脳教育が施され、彼と違う点は、頭脳強化である。特殊な薬剤を長い年月に渡って少しずつ投薬していくことによって脳の機能を最大限に発揮させ、かつ冴え渡らせる。

 

「そのような強化を施して代償がないはずはないだろう。推測するに、左の肉体的改造を受けたお前の代償は身体能力増強による寿命の前借り、あと持って一年といったところか。さて、右の計画立案者、お前は頭脳強化による神経過敏、そうだろう?だからそのように全身を覆い隠し、過敏すぎる神経への影響を最小限に抑えている」

 

「…そうだ。だがお前にそれが理解できたところで何もできまい?」

 

アディーンは薙刀をぐるぐると回してアガレスへ突きつけた。フタローイも本の形をした法器を取り出し、ページを開いた。

 

「ファデュイの力によって強化された肉体を持つ存在を、常人よりも遥かに強化された頭脳で以て運用するのだからな」

 

「なるほど、よくわかった…話してみたら救いようがあるかもしれない、なんて考えていた俺が甘かったわけだ…なるほど、洗脳はよく行き届いているな」

 

アガレスは刀に付着していた血液を刀を振るって落とすとアディーンへ向けてその刀の切っ先を突き付けた。

 

「何度も紡がれてきたこの世界の中で、お前達のような存在を何度も見てきた…さぁ、お前達をその苦しみから解放してやろう。それが、この世界に住まうお前達へ向けられる最大限の慈悲だからな」

 

「行くぜフタローイ…!」

 

「ああ、指示は任せろアディーン」

 

ここにファデュイの非人道的な研究によって生まれた二人の戦士と、世界を護ってきた神との戦いが幕を開けた。




長めですね〜今回…あと一話だけ続くと思います。ちなみに強化人間の話ですが、勿論創作です。ただファデュイならやりかねない、という感じですね。
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