モンド城内、牢獄。
「ここから出せ!私を誰だと思っているのだ!!」
「…なぁ、あれさっき目が覚めてからずっと叫んでるのか?」
「あ、ああ…」
アガレスによって気絶させられたシューベルト・ローレンスは牢獄へと入れられていた。牢獄内で目が覚めたかと思えばすぐにこのようにして吠え始めたのである。
「全く…叔父さんは本当にどうしようもない人ね」
「なっ…!貴様…この期に及んで私の計画を邪魔立てするなどどういう了見だ一族の恥晒しが!!」
シューベルトは歯噛みしつつ叫んだ。エウルアは耳を軽く塞ぐと、シューベルトを見下ろした。
「叔父さん、殺されなかっただけでもありがたく思ってよね。あの人、本当は敵には容赦しないんだから…」
「何を言っている!私の質問に答えろ!」
「答える意味はあるのかしら?大罪人」
「な、なんだとっ…!!」
はぁ、とエウルアは溜息を吐いた。
「私利私欲のためにモンド全域を巻き込んだ貴方を大罪人と呼ばずしてなんと呼ぶというのかしら、叔父さん」
「であればお前もローレンスの末裔だ!お前も同罪だろう!!」
「違うわ。私はもう、ローレンスとは縁を切ったもの。まぁ、忌まわしき罪人の血は私を簡単には解放してはくれなかったけれど…」
エウルアは首を振ると、少し笑って言った。
「きっと彼が…アガレスがこの罪を精算してくれるわ。本当は私がやらねばならないことだけれど、私にはそれができるだけの力はないから…」
だから、とエウルアは続けた。
「せめて見届けましょう。私達罪人の犯した過ち、その終焉を」
ぎゃあぎゃあと喚き始めたシューベルトを無視してエウルアはアガレスが戻ってくるのを、牢屋内で待つのだった。
〜〜〜〜
「ハァッ!!」
「ふむ…」
横薙ぎに振るわれた薙刀を俺は刀で受け流しつつ、右足で蹴りを放った。アディーンはバックステップで蹴りを躱すと、氷の槍を幾つも生み出しながら俺の周囲を走り回って様々な方向から放った。俺はそれに対し、刀を振るって氷の槍を斬り落とすと、すぐに背後へ向けて火球を放った。
動きを読まれていたことに驚いたアディーンだったが、フタローイの指示に従って横へ飛んだ。直後、火球は通り過ぎ、そのすぐ後ろから炎の槍が火球に突っ込み、破裂し、消滅した。この戦法は、淑女が使っていたものである。単純故に、凶悪なものだ。
「そう、躱すのが正解だ。躱さなければ死んでいた。フタローイと言ったか?その頭脳は伊達ではないようだな」
「舐めるなよ…行けアディーン!」
「応!!」
俺は横薙ぎ、右斜下、再び横薙ぎ、と振るわれていく薙刀を丁寧に避けつつ言った。
「加えてアディーンを操り人形かのように扱うその手腕、はて…俺の預かり知らぬ思念伝達方法があるようだな。だが…」
少しだけ態勢を崩した瞬間に上から振るわれた薙刀の刃を歯で噛んで止めると、薙刀の刃を噛み砕いた。勿論口の中を結構切るが、このまま敵の武器を大人しく返すわけにもいかんだろう。俺はすぐに後ずさりつつ、刀をわざとアディーンの背後へ向けて振るった。
アディーンは薙刀の柄部で刀を防ぐと、俺を押し退けかつ距離を取った。
「やはり、そうか。糸だな?」
「…」
「沈黙は肯定と受け取るぞ?」
俺は口の中に水元素を放り込むと軽く回復させて傷を塞いでからぺっと吐き出した。
「うーん…増援も来そうだし、早めに終わらせておきたいな。じゃ、アディーン、フタローイ。少し早いが実力を見るのもこれくらいにしておこう」
この程度の戦力なら、幾ら居ようが俺の敵ではないだろう。救民団のメンツなら十分一対一で相手できるレベルだろう。俺は刀を仕舞うと、手を合わせて炎元素を纏わせた。
「ま、消滅してくれるなよ?」
俺は雷元素を足に纏うと一挙に踏み込み、アディーンの背後に立った。
「っ!?」
「もう遅い」
俺はアディーンの背中から伸びている糸全てを炎元素で燃やし尽くした。アディーンが背後に居る俺目掛けて柄部だけになった薙刀を振るったが、俺は薙刀を受け止め、燃やした。
「なっ…!?っ!!」
「ほう…?」
アディーンは薙刀が使い物にならなくなったことをすぐに察して薙刀を投げ捨て、右ストレートをまっすぐ俺に向けて放った。
「薙刀が使い物にならなくなったことを察して即刻体術に切り替えたのは上出来だが…」
俺は雷元素を利用してアディーンの背後に回り込むと、敢えて少し攻撃せずに待ち、アディーンが俺に気が付いて回し蹴りを放った瞬間に俺の全身を炎元素で覆った。少し暑いが我慢できる程度だ。アディーンの蹴りが俺に命中するかしないかのところでアディーンは足を咄嗟に引いてすぐに後退った。
「強化された反射神経を少し甘く見すぎていたか…今度はもう少し速く行こう」
「チッ…アディーン、援護する!自立して動け!!」
「了解だぜ…!」
「何をするつもりなのかは知らんが…お前ら、なにしようが無駄だからな?」
俺は再び刀を生み出した。
「だって、俺が本気を出せば世界だって滅んでしまう。皮肉だと思わないか?世界を護るはずの存在が、世界を滅ぼせる力を持ってしまっているのだからな」
「アディーン!右から回り込め!!」
「応!」
二人は俺の話を無視して俺から見て左側からアディーンが突貫してくる。俺から見て右側からは火球が飛んできていた。俺は火球を水球で相殺しながらフタローイに近付いて刀を振るった。フタローイの反応はやはり常人レベルだったが、アディーンが俺の刀を横から殴って弾いた。
なるほど、ようやく、こいつらの開発コンセプトが何となく理解できた。二人で一つ、こいつらは二人でファデュイの執行官となるべく生み出された存在というわけだ。恐らく、『博士』は人工的に執行官クラスを再現できなかったのだろう。だから二人に分けてその能力を再現したという訳だ。戦闘や謀略に必要な頭脳、そして戦闘力。これらを両方備えていた『淑女』や『売女』は現在ファデュイの活動を何もできていない状況だ。『淑女』は死んでいるし、『売女』は璃月で投獄されている。そうなると人員補充の必要が出てくるのは、道理だった。
しかし勿論、執行官クラスがゴロゴロ居るわけもない。だから作ろうとした。その開発の集大成が、この二人、という訳だ。
「本当に、お前達は哀れな人の子だ…」
「何…?」
フタローイは頭脳戦をするという性質上、アガレスの話に耳を傾けた。アディーンは無言で俺に攻撃を加え続けている。右ストレートを軽く首を捻って躱した俺は回し蹴りを脇腹に当てて吹き飛ばした。
「ここまで馬が合うなら恐らくお前達は血縁者なのだろう。だがそのことすら忘れて今は戦闘に身を興じてしまっている」
普通に考えて何らかの方法で糸を遣い、指示を出せていたとしてもここまで馬が合うわけがない。で、あるならば一卵性双生児などの不思議なシンクロを見せている可能性が高い。まぁ、糸で指示を出すにしても恐らく体の部位に繋がっていて何処をどう動かすかを指示していたのだろうし、何より反射神経も強化されたアディーンはその反射神経で以て反応できていた可能性は非常に高いだろう。だが、早々都合よく肉体の強化に耐え得る人間が見つかるわけもない。だとすれば恐らく、近しい遺伝子を持つ存在が必然的に強化に耐え得るのではないか、と考えた。
「アディーンと俺が…血縁者だと…?世迷い言を…!」
起き上がってきたアディーンはしかし、動くことはなかった。
「アディーン!何をしている!!アガレスへ早く攻撃を───」
「兄さん…兄さん…何処…何処だ!!」
「アディーン…何をしている!!」
予想は的中したようで、俺はアディーンが泣き叫びながら兄を呼ぶ姿を見て少しだけ胸が痛んだが、更に追い打ちをかけた。
「アディーンの方は思い出したようだぞ?お前はどうだフタローイ」
「クッ…頭が…痛い…グゥ…!!」
「兄さん…兄さぁぁぁん!!」
アディーンは目が見えていないようだったが、本能で以てフタローイの下まで辿り着くと、縋り付いて言った。
「兄さん…兄さんだろ…?ねぇ…俺を置いて何処行ってたんだよ…!」
「クッ…来るな!!」
フタローイは混乱しつつもまだ自我を保っているようだった。俺は刀を鞘に収めると、居合の姿勢で固まった。未だに二人は混乱しつつもじゃれ合いを続けていた。
「お前達の境遇に同情はできる。だが、容赦はできない」
「くそっ…アディーン…!正気を取り戻せ!!アディーン!アディーン!!」
「兄さん…兄さぁぁぁあああん!!」
「せめてもの情けに二人纏めて葬ってやる。死体は勿論、故郷に返してやるからな」
俺は二人の首を、刀で同時に刎ねるのだった。
〜〜〜〜
───出ていけ、この出来損ない共が。
俺と弟は幼い頃に何もできないことを親に言われて家を追い出された。猛吹雪の日だったのを覚えている。俺達の屋敷は街まで遠く、しかし他に行く宛もないため猛吹雪の中を街へ向けて身を寄せ合いながら歩き続けた。
街まで辿り着いたはいいものの、俺達は吹雪によって凍傷も酷く、体温も奪われ、満身創痍だった。加えて俺達はまだ幼く、少しの環境の変化でも死に絶える可能性があっただろう。故に、せめて少しでも寒さを凌ぐために路地裏で肩を寄せ合った。路地裏は風は来なかったがひんやりしていて特に羽織るものもなかったために体温は奪われていく一方だった。
そんな時だった。あの男が現れたのは。
「丁度いい実験材料がいたな。この二人で俺は神の叡智を手に入れる。否、手に入れてみせるのだ」
あとになって知ったが、その人物こそ、ファデュイ執行官である『博士』だった。
『博士』によって肉体への改造を施された俺と弟は幼少期の記憶を完全に封じられ、代わりに氷の女皇への絶対なる忠誠心を植え付けられた。
───ああ、思い出した。すべて思い出した。
俺の首は既に宙を舞い、アディーンの首も飛んでいるのが見える。最早本当の名前も思い出せない弟を、なんとかして掴もうと必死に手を伸ばしたが、首が離れているために肉体が動くことはなかった。ああ、畜生。結局俺達兄弟は幸せになれないのか。
俺の首が地面に落ち、そして俺達を殺した死神の方を向いた。
「…」
死神の顔は哀しそうだった。
「来世があれば、お前達も幸せになれるといいな。今度はモンドにでも生まれると自由に生きられる。聞こえていたら、そう願え。幸せになるために」
ああ、糞が。そうだ、そうだよな。諦めるもんかよ。俺と弟の約束を果たすまでは諦めねえよ。
───ねえ、兄さん。僕達、絶対幸せになろうね!!
ああ、そうだな───
その名を呼んで、俺の意識は、暗転した。
〜〜〜〜
「これにて一件落着、だな…エウルア、おつかれ」
「ええ、アガレスもお疲れ様。今回の件だけど…正直、助かったわ。貴方がいなかったらと思うと本当にゾットするわね」
エウルアは身震いしながら言った。事件の首謀者であるファデュイの死体は全てスネージナヤへ送られ、壊れた遺跡守衛は全て西風騎士団によって片付けられていた。
事件を主導したとしてモンドとスネージナヤの国交はこれを機に完全に断たれた。アガレスとしてもこれには納得していたのだが…。
「シューベルトは結局処刑になるのか…ま、仕方がないとは思うが…」
シューベルトは国家転覆罪で死刑が言い渡されていた。アガレスはその件に関して言えば正直反対だった。勿論、エウルアを思ってのことである。だが、当のエウルアは全然平気そうだった。
「私なら大丈夫よ。もうとっくに覚悟は決めていたわ」
それに、とエウルアはアガレスを見て悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私のイメージが下がっても貴方がなんとかしてくれるでしょ?」
「…ッハハ、そんな言葉がお前の口から紡がれるなんてな。酒でも飲んだのか?」
「な、何よ…何がおかしいのよ…」
アガレスは少し笑った。エウルアは拗ねてそっぽを向いて微笑みながら言った。
「この恨み、覚えておくわ」
というわけでした。次回からついに第一章第四幕のお話になりますので、あの方が出てきます…ひゃあ楽しみだ…!!
そう言えば新しいPV出ましたね。興奮しすぎて死ぬかと思いました。それだけですはい。スメールとても楽しみ…!!
追記 : アガレスのキャラ若干違いますが遺跡守衛のオイルの匂いがお酒に似てるせいで若干酔ってます。