忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回からは話の時系列的に第一章第四幕の話となります


第54話 新たなる問題

「───アガレスさん、久しぶり」

 

シューベルト・ローレンスの暴走から一週間後、戦の事後処理は全て完了し、スネージナヤとの国交を正式に断ったことが西風騎士団広報部から発表された。これからはスネージナヤの商人もモンドへの立ち入りをすることは不可能になる。少し可哀想だがそれだけのことをしているからな。なんとも言えないが、氷の女皇…彼女の目的が未だにわからないのが腑に落ちない。

 

「ああ、旅人。一週間の休養で少しは疲れが取れたのか?」

 

そんな、モンドの問題が無いかを少し考えていた時に旅人が救民団本部へとやってきた。

 

「うん。もう元気いっぱいだよ」

 

旅人はにこやかに言った。あったばかりの頃は結構感情を表に出さない子だと思っていたが、親しくなると結構表情の機微が細かいことに気が付く。まぁ、そこまでの過程がかなり厳しそうだがな。

 

「それで、何の用向きでここへ来たんだ?仕事の依頼か?珍しくパイモンも表に出ているようだしな」

 

「うん。どっちにしろ稲妻への行き方はまだ目処が立ってないから待ってるしかないんだけど…それで、一週間も休んだから冒険者協会で依頼でも受けようと思ったんだけど…」

 

旅人は一通の手紙を差し出してきた。

 

「手紙…キャサリンからか?」

 

「ううん、私を指名してる依頼人からだって。別に他の人に見せるなって言われてないからアガレスさんに相談しようと思って」

 

なるほどね。まぁ、俺がいれば大体の問題は何とかできるからな。視線で開けていいのか?と旅人に問うと、旅人は意図に気が付き首肯いた。俺はナイフを持ってきて手紙の封を切った。

 

───拝啓、遠方より届いた異郷の旅人の話を聞き、筆を執った次第だ。勿論、個人的な手紙ではなく、依頼の手紙だ。依頼内容は直接話すが、報酬は君の知りたい情報と交換で如何だろうか。この手紙が届く頃には、私はモンドに到着しているだろう。エンジェルズシェアにて、私は君を待つ。敬具。

 

「ふむ…」

 

「どう思う?」

 

「一人で受けなければならない依頼、というわけでもないだろう。身元は確認のしようがないが、拝啓、敬具とつけるところから高度な教育を受けたことが伺えるな。多少高貴な存在ではあるのだろうが、自らモンドに赴くとはな…そこがわからん」

 

「まぁ取り敢えずエンジェルズシェアに行けばわかるんじゃないかな」

 

まぁ、それもそうだろう。一先ず依頼内容を聞くべきだ。何故なら報酬、それが旅人にとって破格すぎるものだからな。

 

ただ、一つ不安要素としてあるのは、モンドと璃月が探し回って見つけられていない旅人の兄の情報、或いは俺すら知らない謎の神の情報を、果たして何処から手に入れたというのだろうか。

 

「よし、エウルア、レザー。救民団を頼んだぞ。ああそれと、よくわからん宗教団体とかの勧誘は適当に断っておけ」

 

「わかった、アガレス、行って来い」

 

レザーは二つ返事だったが、エウルアは余計な一言を足した。

 

「あのよくわかんないところね…確か貴方を神として崇める───」

 

うげ。

 

「ほんとにやめろ」

 

「ふふ、ええ、これからは恨みを晴らすために言ってあげてもいいわ」

 

俺はエウルアの皮肉にげっそりしつつ、救民団を旅人と共に出た。

 

「ところでアガレスさん…アガレスさんを神として崇める宗教ってなに?」

 

「あまり言いたくはないが…ほら、旅人が休養でどっか行ってる間、モンドが襲われただろう?」

 

「うん」

 

「その時の戦闘をモンドの住民の一部、主に新米の西風騎士に目撃されてな。なんだかあいつら、俺のことを英雄だ何だと持て囃しはじめて挙句の果てには神とか言い始めやがった」

 

「まぁ…間違いではないし…」

 

「大問題だ。俺の生活の安寧がぶち壊されかねん」

 

「元から安寧とかなくない…?」

 

「…旅人、頼むから助けてくれ。本当に奴らの熱量が最近ちょっと怖いんだ」

 

「ええ…」

 

風神を祀るこの国で俺を崇める新興宗教なんか出てきちゃたまらん。連中はしかも俺とバルバトスの関係を知っている存在がほとんどらしく、現在も仲がいいために俺を神としているらしい。一応怪しい団体だから調べてみたのだが構成員はほぼ西風騎士の新米、そして一部の熱狂的なファン。はぁ…嫌になる。モンドはいつから自由じゃなくなったんだろうな。

 

そうこうしている内にエンジェルズシェアへ辿り着き中へ入った。キャサリンの情報によれば、その依頼人は仮面をしているらしい。仮面、と聞くと、何処ぞの執行官を思い出すが、まぁ、今回の件は恐らく別件だろう。まさかモンドに執行官が潜り込んでいる、というわけもないだろうしな。俺達は一階を一通り見てみたが、まだいないようで、二階に移動してもいなかったので、まだ来ていないと結論づけた。

 

下へわざわざ降りるのも面倒なので、このまま待つこととした。

 

「で、パイモン。生きてるか?」

 

パイモンはいるのにここまで一度も口を開いていない理由は単純に旨い飯を食べていないからである。旅人は休養中で料理を作れない。パイモンを連れてもいけない。食べていたのは栄養食。そりゃあこう、真っ白に燃え尽きたくもなる。

 

「うう〜…旨い飯が食べたいぞ…」

 

「まぁまぁパイモン、後でじっくり作ってあげるから」

 

「おおっ本当か!?やっぱり旅人はオイラの最高の仲間だぞ!!」

 

じゅるり、と旅人がよだれを啜る音がした。

 

「じゅるりってなんだよっ!?」

 

「アンバーが言っていたが…旅人、お前パイモンのことを本当に非常食だと思ってないか?」

 

「まさか…パイモンはひじょ…ゲフンゲフン!最高の仲間だよ!!」

 

「今さらっと非常食って言おうとしたぞ…!アガレス、助けてくれよぉ!」

 

「そうは言ってもな…まぁ羊とかに言えるように、幼いほうが肉は美味らしい」

 

「ひ、ひどいぞぉぉぉ…!!」

 

で、だ。

 

「旅人、おふざけはここまでにしておこう」

 

「え?」

 

俺は二階から一階を見る。上から見ているので詳細は不明だが、金髪で右半分を隠す仮面が見える。

 

「お客さんのご登場だ」

 

 

 

「───あ、あの〜…すみません」

 

「なんだ?」

 

「ちょっとお話いいですか…?」

 

旅人は当たり障りのない会話から始めようとしたが、ターゲットによってその話は遮られた。

 

「…その前に、その小さいのと大きいのは?」

 

おい、小さいの、ってのはわかるが大きいのってなんだこら。

 

「う〜ん…非常食」

 

「おいっ!!」

 

「冗談だよ、最高の仲間、はいはい」

 

「なんか恩着せがましいぞ!!」

 

「二人共、一旦落ち着け」

 

「あ、ごめん、アガレスさん」

 

コホン、と俺は咳払いをすると、目の前の存在を少し値踏みしつつ言った。

 

「ご紹介に預かったアガレスだ。一応、モンドでは救民団という組織の団長をしている」

 

「救民団…ああ、なるほど、貴様が…まぁ、他の存在と一緒に旅をするのも悪くはないだろう」

 

よく見ると顔がいいな、いや本当に。てか凄いいい声なのにこの美男子って…ギャップ萌え、とかいうやつか。

 

俺自身は理解できかねるが。

 

「俺の名はダインスレイヴ、何か用か?」

 

「その…冒険者協会に所属している…」

 

そこまで言ってようやく、ターゲット改めダインスレイヴが合点がいった、という評定をした。

 

「なるほど…道理でな…貴様が蛍か。そしてその仲間パイモン、加えて…」

 

「俺は相談されたからついてきただけだ。この件に関わるかどうかはまだ未定だが、モンドの、ひいては世界の害になるようなことなら協力するつもりだ。ま、それ以前に旅人の度に俺も同行するから結局は関わることになるだろうな」

 

「な、なんかいい方が回りくどいぞ…」

 

パイモンが呆れたように言った。失礼な、こういう相手にはこういう言い方をしたほうが後々いいんだぞ。混乱してくれるから。

 

「そうか。旅人、そして救民団団長アガレス、これから貴様達には3つの質問に答えてもらう」

 

3つの質問、ね。

 

「な、なんか緊張してきたぞ…」

 

「パイモンは緊張する必要ないでしょ…」

 

「こ、答えを間違えたらどうなるんだ!?」

 

パイモンの悲鳴のような言葉に俺も同意する。ま、間違えても多分問題はない。ここまでわざわざやってきて何の成果もありませんでした、なんてなったら目も当てられんからな。

 

「質問の『回答』に間違いなど存在しない。あるのは『態度』の違いだけだ」

 

ほらな。

 

「俺が知りたいのはその選択だ。好きに答えてくれて構わない」

 

ダインスレイヴの言葉に俺と旅人、と何故かパイモンも首肯いた。

 

「では一つ目の質問だ。モンドで起こった『龍災』は貴様と貴様の協力者達…そしてウェンティと名乗る風神が解決した。では『龍災』を終わらせたのは誰だと思う?」

 

「どうしてウェンティのことを…って、ウェンティはちゃんと風神の座に就いてたな…」

 

「「「…」」」

 

パイモン、お前…。

 

「ち、違うぞ!!忘れてたわけじゃないからな!!」

 

「質問に答えてもらおう」

 

ダインスレイヴは旅人の回答を待っているようだった。旅人は少し考えた後、

 

「私やウェンティも確かに貢献したかも知れないけど…一番はアガレスさん、かな…」

 

「それが貴様の答えか。把握した」

 

ダインスレイヴは一つ首肯くと、二つ目の質問をしてきた。

 

「璃月港を幾千年も護ってきた岩王帝君は、自身の神の心を用いて、『全ての契約を終わりにする契約』を交わした」

 

…ふむ。

 

「だがその目論見は契約相手の契約不履行によって破棄され、再び璃月港に岩王帝君は降臨した。その場で岩王帝君はこう告げている。『俺や仙人は璃月を見守る存在となろう』と。さて、ではこれからの璃月港を発展させていくのは、誰だと思う?」

 

「…それは…やっぱり璃月港に住まう全ての人々じゃないかな」

 

「それが貴様の答えか。把握した」

 

普通に考えてこの質問俺にもするのか…ちょっと面倒かも。

 

「最後の質問だ。この世界には、『神の目』を持つ者と、『神の目』を持たない者がいる」

 

……。

 

「では、神にとって、どちらが重要だと思う?」

 

「…う〜ん、難しい…」

 

「難しく考える必要はない。好きに答えろと言ったはずだ」

 

ダインスレイヴは急かすような発言をしつつも、しっかりと待つことはできるようだった。旅人は一瞬俺をチラッと見やってから答えた。

 

「どちらも重要じゃないのかも…」

 

旅人が一瞬俺を見たのは純粋に神である俺を見て反応を確認したかっただけか…或いは全元素を扱える俺の存在があるからこそ…と考えたのか。実際のところはわかららないがあながち的外れではないと思う。

 

「それが貴様の答えか。把握した」

 

ダインスレイヴは旅人を見る目を幾分か和らげて言った。

 

「やはり、貴様は彼と似ている」

 

「…彼って誰…?」

 

「お前の兄のことだろう。なるほど、持っている情報とはそっちか」

 

「……」

 

ま、別にだんまりでも構わないが、沈黙は肯定とも取れることを覚えておくといい。こちらはこちらとして勝手に納得しておこう。

 

「ではアガレス、貴様に質問だ」

 

「ああ」

 

「500年前、カーンルイアが滅んだ時、もっと世界への被害は甚大になるはずだった。いや、或いはもう一つの危機によって滅びていたかも知れない。ではその危機を止めることができたのは何故だと思う?」

 

「…」

 

もう一つの危機、とは『終焉』のことを言っているのだろう。『終焉』は世界と世界の衝突だ。パワーバランスの乱れによる世界の衝突、それが『終焉』の正体。止められたのは…止められたのは、何故だ?その場で調べた記憶はない。500年前のことなど昨日のように思い出せる。しかし、その場で『終焉』のことを調べた記憶がない。

 

知っていた?『終焉』のことを?何故?

 

「…アガレスさん…?」

 

「…少し、考えさせてくれ」

 

知っていたとして、俺の生涯の中ではそのような光景見たことも聞いたこともない。いや、そもそも何故『終焉』が訪れるとわかった?

 

まさか、と思って俺は口を開いた。

 

「知って、いたのだろう…『終焉』の存在を…」

 

ここで初めて感じた、違和感。俺が何故『終焉』が来る、ということがわかったのか、そして何故止め方を知っていたのか。それは恐らく、生物としての本能に刻み込まれていたからだ。

 

「それが貴様の答えか。把握した」

 

俺の動揺など露知らず、ダインスレイヴはただ淡々と次の質問をしてきた。

 

「次の質問だ。この世界には輪廻という概念が存在するが、未だに前世を覚えているという存在を見たことがない。当然だ、魂は死して漂白される。そうでなければ精神が崩壊してしまうからだ。では、この輪廻による魂の漂白が成されていない魂が前世を思い出すことがあると思うか?」

 

輪廻に対する理解度が高いな。ほぼ理解していると言っていい。魂の漂白云々はわからないが。先程の話は一旦置いといてこの質問に答えるとするならば…。

 

「答えはイエスだ。魂の漂白とは表面上だけのもの。記憶を消し、人格を消したとしても、魂自体に深く刻まれているものは残る」

 

現に俺は…俺の魂には恐らく、『終焉』に関する記憶が刻まれていたのだろう。だから忘れておらず、本能的に察知したのだろう。

 

「それが貴様の答えか。把握した」

 

では最後の質問だ、とダインスレイヴは言った。

 

「お前は何者だ?」

 

シンプルでいてしかし、答えるのが難しい質問だ。だが、回答は決まりきっている。

 

「俺は『八神』だった時に元素の神という意味の『元神』を冠していた忘れ去られた一柱の神、アガレス。世界と、世界に住まう人々を守護する。それ以上でも、それ以下でもない」

 

「…それが貴様の答えか。把握した」

 

ダインスレイヴは最後に少しだけ溜めを作ってそう言い、深い溜息を吐いた。

 

「貴様は不思議な男だ。貴様等のこの世界に対する認識も、ある程度把握した。では、依頼内容を話すとしよう」

 

何はともあれ認められたようだ。だが、このダインスレイヴという男は中々どうして知るべきことを知っているらしい。加えて言うならば俺の魂に関する情報を得られたのはかなり大きい。俺はまだ会ったばかりの眼前の男に感謝しつつ、旅人と共に依頼内容を聞くべく耳を傾けるのだった。




アガレスに関する謎が増えました。ということで依頼内容に関しては次回、となります。

追記 : ちょっと表現おかしなところとか直したり言葉を足したりしました。内容に対して変化はないのでご安心を〜。
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