『俺からの依頼は唯一つ、とある存在の調査と撃滅だ』
とある存在っていうのはまた随分とふわっとしてるな。とはいえ、彼は知るべきことを知っている、とかっていう不思議な存在だ。それに、俺のことを知っているようなので、表舞台には決して姿を現さない、そんな存在な気がする。彼にとって何がそうさせているのかはわからないが、ま、彼の敵と言えば大体の想像はつく。
「アビス教団か」
「アビス教団…?あいつら、またなんか企んでるのか?」
パイモンがうんざりしたように言った。ダインスレイヴはパイモンの言葉に対してふむ、と一つ首肯いた。
「アビスの手の者を見たことは?」
旅人も俺も首肯き、魔術師を見たことがある、と言った。まぁ、アビス教団の怪物が魔術師だけではないだろうし、その上は勿論いるのだろう。だが、俺は勿論会ったことがない。なんたって確かあいつらは500年前に生まれたらしいからな。ダインスレイヴはなるほど、と納得してから、
「とは言え、俺はまだ奴らの計画の全貌を解明できたわけではない。加えて、アビスに仕えるあれらの怪物だけが構成員ではない」
やはり、か。今回彼が追っているのは恐らく魔術師よりも更に上の存在なのだろう。ま、俺には検討もつかないが。更に彼によれば、あくまで依頼についてはついでで、本来の目的は、その魔術師の格上の存在たる『アビスの使徒』の痕跡を追ってきたのだという。
それにしても疑問は残る。元素視覚で痕跡を追ってきたにしても、それなら一人でも解決できるはずだ。果たして俺達に依頼をする必要があったのかどうか。
「アビスの使徒?」
「アビスの魔術師を統率する存在であり、アビスで特に歪んだ怪物の一種」
パイモンの疑問にすかさずダインスレイヴは詳しく説明してくれた。しかし、特に歪んでいる、というのはどういう意味なんだろうか。
ま、普通に考えれば500年前に生まれた存在であることを踏まえてカーンルイア、または『終焉』に何らかの関係があるのだろう。
「最近、アビス教団とは全く関わってこなかったぞ…」
「うん、最近はモンドも攻められたりしてたし、ファデュイの相手ばっかりだったね」
言われてみればそうだった。世界全体で見ればファデュイはまだやってることが可愛い方だと言え…はしないが、それでもアビス教団に比べればまだマシと言える。なんたって、アビス教団は世界をひっくり返そうとしているのだからな。
アビスの唆しの下統治される世界など、碌な世界であるはずがない。
「そうは言ってもだ、旅人。アビス教団がここ最近何かを企んでいたのなら、わざと会わないようにしていた、なんてことも考えられるだろ?」
「ん〜…オイラ達、狙われてるのか?」
「さぁ、そこまではわからん。だが、警戒しておいて損はないだろう」
とはいえ、だ。警戒したところでワープできたりするあいつらは神出鬼没、四六時中警戒しておくのは不可能だ。
「仕入れた情報で潜伏先だった西風の鷹の神殿のアビスの魔術師を締め上げて吐かせた情報によれば、アビスの使徒は俺の接近に気が付き、もう一つの潜伏場所へ向かっているようだ。そのもう一つの潜伏場所である奔狼領で落ち合おう」
そう言うとダインスレイヴは早速とばかりに席を立ち行ってしまった。残された俺達は若干の沈黙の後、顔を見合わせた。
「えーっと…行っちゃったぞ?」
「ま、俺達も向かうとしよう」
仕事の引き継ぎに関してはエウルアに一任してきたから問題はないし…あとの問題は璃月港に残してきたノエルかぁ…早めに戻りたいところだが、暫くは戻れないだろうなぁ、なんて思いながら旅人と共にモンドを出て奔狼領へ向かう。
「…ダインスレイヴの足は早いな。先程出たばっかりだと言うのに、もう見えない」
ま、急ぐ必要はないだろう。彼にも準備があるだろうし、歩いて行くことにしよう。歩いている最中に、旅人が俺に疑問をぶつけてきた。
「ねえアガレスさん、知ってたらでいいんだけど…アビス教団の目的ってなんなの?」
「確かに…オイラも気になるぞ…」
アビス教団の目的、か。
「俺が聞いたところによれば神々による世界の統治をひっくり返そうとしているようだ。本当かどうかは勿論わかりかねるがな」
「オイラ、もっとよくわかんない理由だと思ってたぞ…」
まぁあり得ない話じゃない。アビスの魔術師が『終焉』かカーンルイアの滅亡によって生まれた怪物なのだとすれば世界をひっくり返そうとしていても何ら不思議じゃないわけだからな。
「まぁそういうことだ。アビス教団の真の目的が何であれ、神々の統治を覆そうとしていることだけは確かだ。それだけは、覚えておくといい」
その後も旅人のアビスに対する疑問にできる範囲で答えつつ、奔狼領に到着し、俺と旅人はダインスレイヴを探した。
北風の狼、ボレアスの居住地の目と鼻の先に、彼は立っていた。
「奔狼領の主、『北風の狼』…鋭利な爪と牙を持ちながらここに居座るだけとは…」
ダインスレイヴのそんな呟きが俺達の耳に入ってきた。俺は少し疑問に思いつつ、知り合いか?と問うた。
「いや、俺はヤツを知らないし、ヤツも俺を知らない。だが、かつての仲間が知りたがっていたから、自ずと詳しくなったんだ」
ふーん、と俺は自分でも驚くほど興味がなさそうな声で返した。旅人はダインスレイヴにどうするのかを聞いていたが、やはりアビスの使徒の痕跡が濃いらしく、いないかどうかを探してみるとのこと。
「…ん?」
「パイモン、どうしたの?」
パイモンが辺りを見回して何かに気が付いたようだ。
「いや、あそこにある篝火の上に、なんか模様が浮かんでるぞ…」
俺も言われて初めてパイモンの見ている芳香を向くと、篝火がまだ燃え盛っており、それに覆いかぶさるようにして紫色の文様が浮かび上がっていた。
「この文様はアビスの呪文だ。この文様があることから察するに、痕跡はここら一帯にあるだろう。俺も少し探す。貴様等も探してみろ」
ダインスレイヴはそう言うと、何処へともなく去って行った。俺は思わず溜息を吐く。
「なんかあいつ、マイペースだな」
パイモンの言葉に心底同意だ。全く以てその通りだと思うよ。
「じゃあ私達も探しに行こっか」
「ああ」
それから少しの間アビスが残した痕跡を探していたが、その影響を受けていると思われるヒルチャール数体に加え、アビスの魔術師数体、そして最初に見つけた痕跡と同様の篝火を見つけた。
「なにか痕跡は発見できたか?」
ダインスレイヴの言葉に、俺達は見つけたものを羅列していった。ダインスレイヴは俺達が挙げた痕跡を聞いて一つ首肯くと、
「俺もここら一帯で痕跡を少し見つけた」
だが、とダインスレイヴは腕を組んで続けた。
「それらは全てアビスの魔術師が残した痕跡に過ぎない。『アビス』の深いところには、未だ達していない」
「つまり、ここももうもぬけの殻、ってわけか」
俺は肩を竦めて言った。旅人とパイモンは互いに顔を見合わせてからパイモンが口を開いた。
「ん〜…結局、アビスの使徒は見つからなかったな…これで調査は終わりなのか?」
「いや…現状で行く場所は次で最後だ」
ダインスレイヴは俺達に背を向けると、首を横へ向けて後ろを目だけで見て言った。
「『風龍廃墟』にて待つ」
ダインスレイヴはそのまま風龍廃墟へ向けて去って行った。
「…アビスの使徒、か…」
最近になってその名前を聞いたが、龍災の裏にもアビス教団がいた、と考えるとそのアビスの使徒が黒幕だった可能性はあるか…?或いは更にその上…最上位の存在だったりするのか?ま、考えたってわかんないか。
「アガレスさん…?」
「考えたって仕方ない、か…さぁ、俺達も風龍廃墟へ向かおうか」
思うところはある。が、考えたって仕方のないことだ。俺はある程度自身の感情に見切りをつけて考えることをやめて風龍廃墟へ旅人と共に向かった。
「───この地名も、『風龍』より『廃墟』の方がしっくり来る」
ダインスレイヴは風龍廃墟でそう呟いた。
「俺の記憶では、この廃墟とあの龍は何ら関係はなかったはずだ」
ま、そうだな。あくまでここは旧モンドの廃墟、トワリンとは何の関係もない。
「それで、この廃墟に封印されていた導光装置に覚えはあるか?」
なるほど、何に使うかはわからんが、それに目をつけかねない、というわけか。一応の見回りに来たって感じだな。
そういうわけでダインスレイヴと共に全ての装置を見て回ったが、なんの手掛かりも存在しなかった。
「結局、アビスの痕跡は見つからなかったな…」
「残念」
残念とも一概には言えないだろう、と思っていると、ダインスレイヴが似たようなことを言った。
「どちらにせよ、否が応でも奴らに会うことになるだろう」
「そんな強い奴にあったら逃げるに限るぞ…!!」
パイモンが悲鳴に似た叫びを上げた。まだ会うと決まったわけでもなかろうに。だが、そんな俺の感情とは裏腹に、ダインスレイヴは少し笑って言った。
「フッ…逃げることで危険を回避できるのなら、その方が良いのだろう」
詳しいな?と視線だけでダインスレイヴに問いかけると、彼は神妙な面持ちで言った。
「昔、あの旅人と共に旅をした時の経験だ」
「えっと…ダイン、その旅人って、どこに行っちゃったんだ?」
パイモンが尤もらしい疑問を口にした。
「彼は…彼はもう、旅をしていない」
ダインスレイヴの言葉には、その言葉以上の深い意味があるように感じられた。
「旅をしていればどのような…そう、神だとしても疲弊する。やることを成せば、家に帰るのだろうが…そうだろうダインスレイヴ?」
ダインスレイヴは少し驚いたのか、目を見開いてから首肯いた。
「で、旅人…歌塵浪市真君…いや、ピンばあやから壺は貰ったんだろ?」
「うん、まだあんまり使いこなせてないけど…」
ダインスレイヴはなんのことかわからないようで、首を傾げていた。わかんないのか、意外だな。
「ダインスレイヴにわかるように説明すると、仙人の力で生み出された壺で、名前を『塵歌壺』と言い、中に小さな世界が広がっている。中に住居も構えられるし、かなり便利な代物だ。旅人、もしこの世界でやることが終わって、もう旅をする必要がないのならば、この世界に住むのも一つの手だ。或いは、少し、休んでいくと良い」
「うん…」
ダインスレイヴも続けて口を開いた。
「家…うむ、旅の終点に到着してから、後のことは考えると良い」
と、旅人が弾き出されたように風龍廃墟付近の崖の上を見た。
「旅人?」
「崖の上から…知っている気配がしたんだけど…」
「知っている気配…?」
パイモンが首を傾げながら旅人にそう問うと、旅人は首肯いた。
「うん、知ってる気配…龍災のときも一瞬だけ感じたんだけど…」
妙だな…俺は崖の上に誰かがいる、といった気配は感じなかった。それはダインスレイヴも同様だった。
「知っている気配?…知り合いか、或いは知っている魔物か…」
「うーん…」
「どちらにせよ明確にするべきだろう」
「…アガレスさん…先行してくれる?」
「なるほど、どうしても正体が知りたいわけか…わかった」
俺は三人と別れて先に風元素で崖上へ向かうのだった。
遅くなり申して…申し訳ないっす…