12月24日の今日はクリスマス・イブと言って、明日のクリスマスを祝う準備をする日だ。
「今年は璃月を手伝う、ということになったが…」
去年はモンドで旅人のお誘いに乗じて、モンドの友人達と共に『エンジェルズシェア』でどんちゃん騒ぎをした。去年も今年も変わらず救民団ではクリスマスイベントをやっていたのだが、今年もやることになっている。
去年はモンドの手伝いをする予定だったのに、ノエルやエウルア、そしてレザーまでもが口を揃えて『働きすぎだから休め』などと言ってきたため休むしかなかったのだ。本来であれば率先して指揮する立場だった俺が休むなどと…と当時は思っていたものだが、考えてみれば旅人について諸国を漫遊している俺はほぼいないようなものだしな、と思い直した。
無論少し寂しくはあるが。
さて、それはそれとして、こうして今年璃月支部の手伝いをしにきたのは、別の用事もあったからだ。
「モラクス、手伝いもいいが、俺を呼んだ本当の目的を教えろ」
俺はイベントで使う物資の入った木箱を運びつつ、指示を出すモラクスにそう問いかけた。まぁ、イベントとは言っても璃月七星からの要請で千岩軍と共に見回りをして、ついでに無償で人々の悩みを解決する、というだけのものだ。それに必要な物資といえばメモをするための紙や筆記用具などだ。まぁ、対して多くはないだろう。
ただ、勿論準備にかかる時間は決して多くはない。だからこそ、モラクスが俺を呼んだ意図は別にあるだろうことは明白だった。実際、モラクスはある程度の指示を出し終わった後、俺の所までやってきた。
「アガレス、お前には別件で頼みたいことがある。極々個人的な用事だ」
そして口を開いたかと思うとそんなことを言った。モラクスがわざわざ俺を呼び立てるということは、俺にしかできないことだろう。何を頼むのやら…と少し身構えていると、
「俺はここでの仕事がある。無論、凡人として過ごしているこの身では、仙人を集めることなどできないだろう」
そんなことを言ってきた。その言葉で大体なにをさせたいのかを察した俺は、はぁ、と大きく溜息をついた。心做しかモラクスも楽しそうに口の端を持ち上げ、笑っている。
「…要するに、お前が言いたいのは先の璃月での戦から、人間の力でここまで復興が進んでいる、ということを仙人に示してある程度の自立を促しているのだろう?璃月港を庇護する、という『契約』に囚われ過ぎぬように、と」
契約を結ばせた本人が言った方が絶対にいいとも思うが、先に言った通りモラクスには用事がある。それに加えて彼は仙人とは長らく話していないようだ。どう思われているかがわからず、少々の戸惑いもあるのだろう。
「…はぁ、わかった。璃月港が見える場所がいいんだろ?ってなるとやっぱ天衡山だな。セッティングは俺が好きにしていいな?」
俺の言葉にモラクスは首肯き、仕事へ戻っていく。俺は救民団璃月支部の面々に挨拶しつつ、仙人達のいる場所へ赴くことにした。
とはいえ、現在活動を確認している仙人は然程多くはない。かつてそれなりに数のいた仙人達は、様々な理由で命を落としているからな。
一番近場で言えば勿論、
「ホッホッ!それでばあやのところへ来たのですか?」
そう、ピンばあやこと、歌塵浪市真君である。旅人に塵歌壺を渡したりとなにかと縁がある、恐らく璃月港に一番溶け込んでいる仙人だろう。そんな彼女に向け、仙人を招き俺を含めて集まりたい、という旨を伝えた。ピンばあやはこれまた笑いながら承諾してくれた。
「それでは、明日迎えに行くよ。上まで運ぶ」
「アガレス様に運ばれるなど、幾年ぶりでございましょうか…ばあやは明日を楽しみにしておりますよ」
移動手段の相談をしていたところ、ピンばあやが遠くを見ながらそんなことを言った。確かに、と共感しつつ、それだけ長い間交流が無かったのだと思うと少し寂しく感じられてしまった。
一先ず、また明日と告げて俺は彼女の下を去った。次からは遠くなるのだが、璃月港の北西側の山脈にいる仙人達を訪ねるべく、俺は移動を開始した。
まずやってきたのは理水畳山真君のいる琥牢山だ。ここは璃月港から離れており、なおかつ山脈が連なっている場所であるため滅多に人がやってくることはない。そのためかつて仙人へ参拝する人々の通っていた道の面影だけが残っている。それにこの山には理水畳山真君が作った琥珀があり、危険を排除している天然の要塞と化している。
まぁ、人が来なくなったために魔物が増えてしまったのだから、仕方ないだろう。
【アガレス殿か…久しいな。少し前に来て以来であったか】
バサバサ、と羽ばたきながら俺の来訪を感知した理水畳山真君が上空から舞い降りてきた。その後、彼にもピンばあやと同じように話して、説得に成功した。
その後も留雲借風真君のいる奥蔵山、削月築陽真君のいる慶雲頂と回り、どちらも説得に成功したため、最後の仙人を説得しにやってきた。
望舒旅館に、その仙人がいる。俺は少し急ぎめでやって来て、望舒旅館のオーナーであるヴェル・ゴレットに挨拶しつつ、最上階へとやって来た。
そのままその景色と穏やかだが少しだけ冷たい風を堪能し、
「…いるんだろ?魈」
と呼びかける。するとすぐに後ろに気配が現れ、無言で平伏しているのを感じ取った。俺は振り向き、跪いて平伏している魈に向けて言葉を向ける。
「久しぶりだな、息災だったか?」
まずは近況報告をお互いに少しだけして、その後本題を切り出した。
「モラクスと、他の仙人もある程度呼んで、昔話でもしたいと思ってな。モラクスも他の仙人も快く承諾してくれた。そこで、お前にも折角だから来て欲しいんだ。仙人しかいないし、お前の身を蝕む呪いも気にする必要はないだろう?」
無論、ずるい言い方である自覚はある。魈は俺やモラクスにお願いという名の命令をされた際、決して断ることはしないのだ。
しかし、
「…アガレス様、大変申し訳ないのですが…我には先約がありまして…」
と、断る様子を見せた。それは絞り出すような声だった。ずるい言い方をしてしまったのが裏目に出たことを反省しつつ魈に謝った。そして、その予定とは?と尋ねると、どうやら旅人と共に過ごすようだ。
…なんだ、とばかりに俺は少し笑う。怪訝そうにこちらの様子を窺っている魈を置いて俺は踵を返すと、
「楽しんでこいよ。昔話はまた今度な」
そう言い残して璃月港へ帰るべく風元素を使って飛び立つのだった。
〜〜〜〜
12月25日、クリスマス当日。
璃月にある店が前日の準備を終わらせて様々なイベントやフェアなどを行っている。救民団の面々や千岩軍は様々なトラブルを解決するべく動きつつ、この日を楽しんでいる。無論、公務中ではあるため、酒などは控えているが。
非常に盛り上がっている璃月港とは裏腹に、天衡山の頂上では穏やかな雰囲気が漂っている。
「こうして、旧友が一堂に会するのは、喜ばしいことだ」
上座に座る男性───モラクスがそう言う。それに同調するのは正反対に座るアガレスだ。
「同感だ。元々この催事は俺が広めた物だからな。まぁ…ルーツはあまり覚えていないんだが」
他四人は璃月を数千年もの間守り続けてきた仙人達であり、モラクスとは契約で結ばれているが友人と言える関係だった。そんな仙人達もアガレスの用意した料理を堪能したり、久しぶりに顔を合わせる友人達と思い思いに昔話をして花を咲かせている。
そんな中、アガレスはモラクスに話しかけた。
「な?誰もお前のしたことなんて気にしてないって言っただろう?」
そう言いながら空になった椀に酒を注ぐ。モラクスは少し笑みながらそうだな、と呟いて酒を口にする。
「…生々流転、絶えず世の中は変化している。そしてそれは…長く生きる俺達も例外ではない」
モラクスは一度言葉を区切った。そして旧友達が笑い合うその光景を見て微笑むと、
「俺達は、この500年であまりにも多くのものを失った。友人、好敵手、民…その形は様々だが、その本質は変わらない。俺達にとって、何よりも大切なモノだった」
そう言いながらアガレスを見た。アガレスはモラクスから視線を外して璃月港を見る。
「…そうだな。この光景は、決して一朝一夕で成せた物ではない。少しでも何かが違えば、違う未来があった。璃月自体がなくなる危険だって孕んでいたわけだからな」
「アガレス…俺のやろうとしていたことは、間違っていたと思うか?璃月から神を去らせ、民の自主性に任せる、という選択は」
アガレスはモラクスの口に人差し指を当てて黙らせた。驚いた様子で固まるモラクスに対して、アガレスは告げた。
「基本的に、今後の運命を変化させる選択肢に正しいか間違っているかなどといった判断は下せない。それによって起こる出来事の善悪の判断はできてもな。だから、それを聞く必要はない」
アガレスはそのままモラクスに視線を戻して、
「お前はお前なりのやり方で、璃月の未来をより良いものにしようとした。であれば責められるべきは…お前をそこまで追い込んでしまった俺達だ」
そう言って更に続けた。
「だからお前は気にすることはない。今こうして、旧友同士で笑い合っているのが証拠だろう?」
その言葉にハッとしたような表情を浮かべるモラクスは、そのまま笑った。
「…ああ、そうだな…その通りだな」
そのまま宴は、日を跨いでも続くのだった。
〜〜おまけ〜〜
刻晴「さぁ、プレゼント配りの時間ね」
夜蘭「…」
アガレス「……」
刻晴「…なによその表情」
アガレス「いや、なんで俺も??夜蘭はともかく…」
夜蘭「私は今日くらい早く寝たかったのだけれど?」
刻晴「あら、君達以外にプレゼント配りで頼れそうな人材がいなかったのよ。勿論残業代は私のポケットマネーから支払わせてもらうわね」
アガレス・夜蘭「「お金の問題じゃない(のよ)」」
なんてやり取りがあったとかなかったとか…