更に南へと進んできた俺達は翠決坡の丁度西側くらいの位置まで来て、遺跡の影に遺跡守衛とアビスの魔術師がいるのを見つけ、少し離れたところで様子を窺っていた。
「そういえば、遺跡守衛は全部カーンルイアから来たって言ってたな…?それって、カーンルイアには守るべき遺跡が沢山あったってことか?」
パイモンの尤もな疑問に、ダインスレイヴはアビスの魔術師を注視しつつ答えた。
「そういうわけではない。『遺跡守衛』という名前は現代人がその印象から勝手に名付けたものだ。当時のカーンルイアでのコードネームは『耕運機』だ」
名前的にちょっと親近感を持っていただけに少しショックだった俺は若干落ち込んだが、それをおくびにも出さずとある事柄を思い出していた。
俺が思い出している最中でも、会話は続いていた。パイモンが若干ネーミングセンスに呆れながら言った。
「耕運機?なんか変な名前だな…」
旅人の表情がすごくジトッとしたものに変わった。どうやら、パイモンのネーミングセンスもかなり酷いものらしい。
「あれって農業機械だったの?」
「そりゃないだろ…」
「え?」
コホン、と俺は誤魔化した。まあ、普通に考えれば、コードネーム、と言っていたし、あくまでもコードネームなのだろう。ダインスレイヴは俺が考えているのと大体同じようなことを言ってから、とある理念を口にした。
「『土地は農具で耕すものではない、鉄と血で争奪するものだ』───この理念をもとに、『耕運機』が誕生した」
「カーンルイアの言う土地って、かなり物騒だな…」
パイモンの言葉に旅人も頷いていたが、俺だけは違った。
「…愚かな」
争いによってしか土地を得られないと考えているのは、愚劣というものに他ならないだろう。何より、余程貧相な土地しか持たぬ限り、他の土地を求めるということは争いを欲することと同義だ。カーンルイアの人々は、どうやら血気盛ん、という言葉で済ませて良いのかはわからないが、独自の考えを持っていたようである。
ダインスレイヴは俺を一瞥すると、口を開いた。どうやら、俺に向けた言葉のようだ。
「神々から見たら、人間の行動一つ一つなど、全て愚かな行為に見えるのだろう。だが、我々人間は無駄を肯定して生きていく生き物だ。貴様の考えは理解できるが…あまりそう、責めないでやってくれ」
ダインスレイヴらしくない言だとは思った。しかし、人は誰しも秘密を持つものだ。ダインスレイヴとて、例外ではないのだろう。
「…承知した」
元より、責めるつもりなど毛頭ない。ただ、事実を述べただけに過ぎないのだからな。
「さて…少し話が逸れたが、耕運機は主を失い、制御を失い、そうしてテイワットを彷徨い歩いている。他の古びた遺跡と共鳴するかのように、遺跡の中を只々彷徨っている」
なるほど、それで遺跡守衛という名称がついたわけだ。パイモンと旅人は俺達とは対照的に悲痛な表情をしていた。
「苦しみから、開放してあげよう」
旅人の言に、パイモンは頷いた。ダインスレイヴは、これ以上深く話しても意味はない、とばかりに戦闘態勢をとった。まあ、彼が戦うことはないとは思うが。俺も取り敢えずは戦闘態勢を取った。
俺達がアビスの魔術師を手早く片付けると、アビスの魔術師の死体から紫色の呪符が出てきた。パイモンがそれを見て首を傾げた。
「う〜ん…この出てきた呪符…何かのメッセージなのか?」
ダインスレイヴと俺は顔を見合わせ、頷いた。
「な、なんだよ…なんで二人で頷いてるんだよ…」
「わからないか?この呪符からはアビスの使徒の気配がする。恐らく、命令内容が記されているのだろう…ま、俺には勿論読むことは叶わないが」
「うぅ〜!っ全然読めないぞ!カーンルイアの文字なのか…?」
パイモンが露骨に残念そうな顔をしながら言った。だが、ダインスレイヴがおもむろに口を開いた。
「『敵の信仰を薪とし、崇高なる王子様に栄光の火を灯さん』…」
「…?ダインスレイヴ、それは…」
ダインスレイヴは黙って言うことを聞いておけ、といった節の視線を俺に向けると、更に続けた。
「───『運命の織機、原初の計画』」
どうやら、そこで文は終わっているらしく、ダインスレイヴは呪符から目を離した。
「どうやら、『アビス』共はとある計画を実行しているようだ。そして、その鍵となるものが『運命の織機』だろう。まだ初期段階のようだが、色々試行錯誤をしているようだ」
ダインスレイヴが考えるように顎に手を当てながら言った。
「つまり…運命の織機とは、『運命を織る機械』…あの不気味な遺跡と無関係とは一概に言えなさそうだな」
逆さ神像に関して言えば明らかに関係していそうだからな。と、パイモンが興味深そうに呪符を見て言った。
「ダイン、他にはどんなことが書いてあるんだ?」
対するダインスレイヴの答えは実にシンプルだった。
「ふむ…複雑で理解できない部分も存在するが、狂気に満ちた計画であることは確かだ」
ダインスレイヴが言うには、計画の初期段階は東風の龍トワリンと関係していたらしい。これによって『龍災』がアビスによって引き起こされたものだと証明できたわけだが…はてさて。
「その計画でトワリンに似たようなことをしようとしているとして、再び俺達に阻止されることは目に見えているだろう…だとすれば」
と、俺はダインスレイヴを見た。ダインスレイヴは俺の視線を真正面から受け止め、頷いた。
「貴様の言う通り、この『メッセージ』によれば、今回の計画は更に進んだものだ───」
ダインスレイヴはその後もメッセージに書いてあることを説明してくれた。しかし、精神の改造に加えて耕運機製造の技術力を活かした肉体改造か…。中々どうしてファデュイも似たようなことをしているな。
ダインスレイヴの説明はわかりやすかったが、当の本人はかなり険しい表情をしていた。心底やっていることが気に食わないのだろう。パイモンは説明を聞いて何かを思いついたようだった。
「パイモン、何かわかったようだな?お前の視点はいつも斬新だから少し頼りにしてる部分があるんだ。言ってみてくれないか?」
パイモンにそう言うと、パイモンは鼻を高くしながら言った。
「アビス教団のヤツら…『究極殺人兵器・機械東風焼鳥』を作ろうとしてるのか!?」
思わず、全員(ダインスレイヴ以外)で頭を抱えた。
「パイモン、物凄くいいにくいんだが…その、そうだな…どこからツッコんだものか…」
まず究極殺人兵器という安直なネーミングセンス、加えて機械東風までは百歩譲っていいとしてなんだ焼鳥って。巫山戯てんのか?
「今となってはカーンルイアの技術力を推し量ることは難しい。即ち、それがどの程度の力を持つかは未知数ということだ」
ダインスレイヴはかなりのスルー力を持っているようだ。見習わねばな。
しかし、アビス教団はカーンルイアの失われた文明を追い求め、その意志と執念だけで動いていることは確からしい。
ダインスレイヴによると、呪符には『穢れた逆さ神像』を元にしてトワリンの肉体を機械龍に改造し、神像の手のひらにあるエネルギーのコアになりうるものが『最古の耕運機の目』というものらしい。聞いたことないな。
「聞いたことはないが、大方予想はつく。アビス教団がずっと探し求めているのはそれなんだな?」
ダインスレイヴは神妙な顔をして頷いた。パイモンも合点がいったようでうんうんと頷いていた。
「それにしても…話がどんどん複雑化してきたね…」
旅人はげんなりしつつ言った。ダインスレイヴはその言葉に対し、同意しつつ。
「加えてあの逆さ神像とも関係があったわけだ。その目を手のひらに置けば『天空の島にある神座を揺るがす』力を、新たに誕生した魔神に与えることができる」
…神座を揺るがす力…そして新たに誕生した魔神…中々どうしてスケールが壮大だが、想像できない話じゃない。まぁ、旅人とパイモンにとってはかなり壮大だったようだが。
「最古の耕運機に関しては全く不明だが…あの神像は風神像のものだったな…西風教会で聞いてみるとしよう」
俺は西風教会に久しぶりに行きたいのもあってその役を買って出た、というよりかは半ば強引に出発しようとした。
「え?私達も…」
勿論、旅人もパイモンも俺についていく気満々である。
「いや、ダインスレイヴについて『最古の耕運機』について探ってほしい。大聖堂へは…ダインスレイヴは行きたくなさそうだしな」
ダインスレイヴを見ながらそう呟くと、ダインスレイヴは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。図星だな。
「では、俺達は最古の耕運機について探る。明日の朝には俺達もそちらへついているはずだから、そこで合流しよう」
合流地点がわからなくても最悪旅人と通信すればいいが、まあ、情報はアドバンテージだし、ダインスレイヴにそれを伝える必要もないだろう。俺は頷いて風元素を使って浮き上がった。
「では、旅人、何かわかったら連絡する。そっちは任せた」
「うん、任された」
俺はダインスレイヴを一瞥すると、モンドの大聖堂へ向けて飛翔するのだった。
いやぁ…話が進まん!!わっはっは!!
確認しながらなもんで…すません。
スメールが楽しみすぎて夜しか眠れず、昨日は更新できませんでした…改めてすみません