旅人達と別れてから10分ほどでモンドの大聖堂へ到着した。風神像前に着地した俺はキョロキョロと辺りを見回した。勿論、ど真ん中に降りてきたのでかなり注目は浴びているが、降り立ったのが俺だとわかると会釈したり、興味をなくしたように視線を外したり、手を振ったりと中々どうして様々な反応を返してくれた。俺は苦笑しつつ手を振り返したり会釈し返したりしてから大聖堂の中へと入った。
まぁ話す内容は考えたほうがいいだろうな。『穢れた逆さ神像』に関する情報は伏せたほうが良いだろう。聞くとすればこの神像が何処にあったもので、そしていつなくなったものなのかを聞くべきだろうな。こういう時に救民団の団長という立場はかなり役に立つな。
さて、中に入ると丁度横の部屋からバーバラが出てきた。こちらを見つけると表情を輝かせて近付いてきた。
「アガレスさん!こんにちは、元気にしてました?」
「ああ、バーバラこそ久しぶりだな。俺は見た通り元気だぞ」
バーバラは俺の言葉に少し笑った。
「そう言えば、天空のライアーはまた盗まれたりしていないか?」
「大丈夫ですよ!前より警備状態もいいですから!」
天空のライアーは旅人達が破壊してしまってそのまま壊れたままだったはずだ。それをバルバトスの幻術で普通に見せているらしいが…まだバレていないとは少し驚きだ。
久しぶり、ということもあって少しの間談笑に耽った俺達だったが、バーバラが何かを思い出したのか険しい表情を作り、俺を見た。
「アガレスさん…璃月で大怪我したって聞きましたけど…本当ですか?」
「…あ、えっと…いや、まさかそんな…俺が怪我するわけないダロ…」
やべ、最後片言になった、終わった。
「はぁ…アガレスさんがとっても優しいのは知ってますけど…怪我したら心配するんですから…」
「ッハハ…まぁ気を付ける」
「説得力ありませんよ」
物凄いジト目で言われた。バーバラはそれで、と首を傾げながら俺に問うた。
「アガレスさんは今日何をしに此処へ?大聖堂まで来るって珍しいですよね。風神様に用があるんですか?」
バルバトスに、か?話しておいても損はないだろうが今じゃなくていいだろう。と、いうわけで首を横に振った。
「いや、今日用があったのは…まぁ正直誰でも良かったんだが、丁度いい。バーバラ、今ちょっと空いてるか?」
「一応、予定は空いてますけど…」
「じゃあ少し調べてほしいことがあるんだが…頼めるか?」
バーバラは両の手で握り拳を作ると、
「ええ、いいですよ!」
そう笑顔で引き受けてくれた。それにしたってこの子、流石に良い子すぎるだろう。俺の人生の中で5本の指に入るな。間違いない。
さて、何から聞いたものか…一応、これは聞いておこう。ダインスレイヴを信用していないわけじゃないが、全面的に信用できるような関係でも、まだないからな。
「バーバラ、これは調べなくてもいいから普通に答えてくれ。『耕運機』って知ってるか?」
バーバラは考える仕草を見せると、首を横に振った。
「『耕運機』…?う〜ん…わかんないです…何に使うものなんですか?」
「なるほど…いや、この質問は答えだけ知れればいい。ありがとう…それで、本題なんだが」
バーバラが煮え切らない表情をしていたのを断腸の思いで何とかスルーし、本題を告げた。
「過去に、教会は七天神像を失くしたことはあるか?」
「アガレスさん、歴史について聞きに来たんですね。そのことについて最近は話す人もいませんから…」
コホン、とバーバラは咳払いをすると、思い出すように言った。
「遠い昔、確かにとある七天神像が一夜にして痕跡も残さずに消失したことがあったはずです。当時の教会員で探したみたいなんですけど、結局見つからなかったって…」
「……」
そういえば、復活してすぐ図書館で見たな…今の今まですっかり忘れていたが、『失われた七天神像』って呼ばれてる事件だったか。少し思い出していたのだが詳しい年代や場所が書いてなかったのを思い出した。
「バーバラ、その詳しい年代や場所はわかるか?」
「えっ?え〜っと…遠い昔ってことしか…詳しい記録が残ってなくって…」
「そうか…わかった」
バーバラには悪いが少しだけ考える。まず、神像が現在利用されている点で言えばまず間違いなく盗んだのはアビス教団だろう。加えて、痕跡を残していないのならアビスの使徒の能力で盗んだ可能性もある。まぁ、あの空間を斬り裂く能力でどこまでのものを運べるのか、それは全くの未知数だが。
アビスの怪物が出現したのは500年前だからそれ以降だ。加えてバーバラの口振りからするに恐らく100年以上前の出来事だろう。それに、アビスの怪物が出現してすぐアビス教団を結成したとしても様々なことをするのにも時間がかかるだろうし、世界中に散り散りになったであろう仲間を見つけ出さねばならないことも鑑みると、恐らく100年は活動できないし、仮に揃ったとしても七天神像を盗み出すことを考えつくのにもう少しかかるだろう。
そうなると…大体の年代は恐らく、300年前から100年前までの200年間に行われたと考えられるな。問題は場所についてだが…こちらは全く当てがない。そちらに関する情報は皆無だからな。
熟考をここらで終わりにし、バーバラを見た。彼女は俺の質問を待っているようである。彼女には悪いが、『穢れた逆さ神像』については、やはり話すことはできないだろう。彼女の身の安全のためにも、な。
「では…他に変わった出来事なんかはあるか?」
再び、バーバラは考える姿勢を見せつつ言った。
「変わった出来事…えっと、教会に記録されてるものだと『暴君の遺恨』とかですかね…あ、でも、時期的にはあんまりその七天神像とは関係ないと思いますよ」
「『暴君の遺恨』?」
知らないな。暴君、と言えば間違いなくデカラビアンのことだろうが…と、バーバラがしっかり説明をしてくれるようだ。
「その変わった出来事は、今では『風龍廃墟』って呼ばれるようになった『旧モンド』で起こって、当時はすごく危険だったみたいですよ?」
バーバラによれば、近付くだけで天から火の玉が落ちてきたそうだ。そしてそれを『竜巻の魔神』ことデカラビアンの呪いだと考え、『暴君の遺恨』と呼ばれるようになったそうだ。
「それで、その奇妙な出来事は一年続いたようなんですけど、どうにもできなくて。結局、時間が経って自然と消滅したらしいんです」
…妙だな。デカラビアンは火の玉など吹けない。そこがまずデカラビアンの怨恨によるものではないと考えられる。何より、奴の怨恨は俺が一身に受けている。影響が及ぶとは考えにくい。恐らく、その火の玉とは無関係だろう。
「でも、後になって教会は『暴君の遺恨』と竜巻の魔神との関係を否定していて…きっと、何か他の原因があると思うんです…」
「それ以外には?」
バーバラはまた考え込んでいたが、やがて首を横に振った。
「そうか、色々教えてくれて助かった、ありがとう」
「『ありがとう』…また面倒事の気配がする言葉が聞こえてきたわね…」
と、大聖堂の奥から長身の女性、ロサリアが姿を現した。バーバラがすかさず笑顔で挨拶をしていた。
「あ、ロサリアさん、こんにちは」
「ロサリア、久しぶりだな。その様子だと元気そうではあるな、いいことだ」
俺もすぐにバーバラに倣って挨拶をした。ロサリアは普段通り気怠げな雰囲気を崩さずに告げた。
「はぁ…本当に憂鬱ね。また『あの魔物たち』が現れたのよ」
「あの魔物たち…?」
バーバラはわからなかったらしく、復唱した。ちなみに、俺もわからない。ロサリアはそんな俺達の雰囲気を察して溜息を吐きつつも、教えてくれた。
「風魔龍…いえ、トワリンの混乱に乗じてモンドに攻め入ろうとした魔物のことよ」
「…なるほど」
すぐにわかったが、アビス教団による陽動作戦だろう。トワリンを狙っているのなら風龍廃墟へ彼等は向かうだろうし、一部の者がモンドへ攻め込んできたとしても不思議はない。
「それで、何処に居るんだ?」
「集まっているのは奔狼領よ。狼達もピリピリしているわ」
奔狼領…?読み違えたな。いや、俺が勘違いしていただけか。あくまで計画の第一段階で風魔龍ことトワリンを狙っていたのなら、今は既に第二段階…狙っているのがトワリンではなく…まさか。
ロサリアが俺の様子を一瞥してから自身の考えを述べた。
「アビス教団は『北風の狼の残魂』を狙っているのかもしれないわね。その目的に関しては、私もわからないけど…」
再び、ロサリアは険しい表情をしながら俺を見た。
「ジンは勿論、動いているんだろうな?」
ロサリアは首肯き、そして自分も裏で動く予定だと告げた。
「じ、じゃあ私も…!」
と、バーバラはジンの名前を聞いてからそう言った。彼女としてはまぁ…姉が心配なのだろう。だが、ロサリアはすかさず、首を横に振った。
「君は教会に残りなさい。ジン団長からのお達しよ。聖職者としての本職を忘れないように」
「で、でも…あなただって、聖職者でしょ…」
バーバラは苦々しい表情をしながらも珍しくロサリアに反論した。
「バーバラ、気持ちは理解できるが…他でもないジンが教会に残れって言ってるんだろう?それは、バーバラを信じてのことだ」
俺はジンの意を汲んでバーバラを説得することにした。バーバラはキョトンとして、いまいち意味がわかっていないようだった。
「私を…?」
「そう、他ならないバーバラを、だ。ジンはそんな信頼を置くバーバラにこそ、自分のいないモンドを守って欲しいと、そう思っているんだろう。何より、ジンはきっと、バーバラのことを心配している。だから教会に残っていてほしいんだろう。お前としても、ジンの意を汲めないのは本意じゃないだろ?」
バーバラは少しだけ落ち着いたようで、頷きつつ言った。
「わかりました…アガレスさんがそこまで言うなら…でも、気をつけてくださいね。風神の加護が、アガレスさんの安全を守らんことを…」
俺は首肯くと、大聖堂を出るべく移動を始めた。ロサリアも俺についてきて耳打ちしてきた。
「流石は言いくるめるのが上手いわね。それも長い人生で身に付けたものなのかしら?」
失礼なやつだな全く、と思って俺は苦笑しつつ答えた。
「まさか、とも言えないが…俺は素直に考えついたことを言ってあげただけだ。そこに言いくるめようとか、そういった打算は全く無いよ」
「そう…なら、そういうことにしておくわ。するべきことがあるのでしょう?なら、私は先に奔狼領へ向かっているわね」
…なるほど、俺がそこへ行くことも予想できていたか。俺は頷くと、微笑みながら告げた。
「ああ、会えるかどうかはわからないが、また後で、と言っておこう」
ロサリアは軽く手を振ると去って行った。俺は指輪を一度弾いた。
「旅人、聞こえるか…?」
これで聞こえてなかったらただの独り言の激しいヤバイやつになってしまうため、声は勿論控えめである。だが、そんな俺の心配も杞憂に終わり、旅人が応えてくれた。
『アガレスさん、何かわかったの?』
「ああ、あらかた調査は終了した。そっちはどうだ?」
ダインスレイヴが一緒なら何の収穫もない、なんてことはないだろう。そして俺の予想通り、旅人は説明してくれた。
『うん、最古の耕運機に関しては心当たりがダインにあったみたい…だけど、アビスの使徒が何処に行ったかは結局わからなかった』
「そうか…ではこちらの報告をしよう。まず、あれは300年前から100年前にかけて一夜にして盗まれたモンドの七天神像で間違いない。痕跡が一切なかったことからアビス教団によるものと見て間違いもないだろう」
向こうから小さく、やはりか、という文言が聞こえたが、無視して続けた。
「今何処にいる?」
『今は…ダインの心当たりのある場所に向かってる途中で…奔狼領の近くかな』
好都合だな。
「丁度そこにアビス教団の動きが見られるらしい。奔狼領で待っていてくれ。すぐに向かう」
『わ、わかった。ダインにも伝えておくね』
それだけ言うと、俺は指輪を再び弾いて通信を切った。さて、これで合流できるだろう。俺は少し嫌な予感を感じつつ、風元素で飛び上がり奔狼領へ向かうのだった。
毎度毎度長めになるのは何とかならんのかね作者…と、思いながら描いてました今回。