忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第65話 北風の王狼への儀式

大聖堂を出た俺は、奔狼領へ向かった。シードル湖の湖畔で、旅人達が待っていた。

 

「あ、アガレスさん!こっちこっち!」

 

パイモンと旅人が下で手を振っている。ダインスレイヴは神妙な顔つきでこちらを見上げていた。俺は軽く手を振り返すと下へ降り立った。

 

「状況はどうだ?」

 

俺は三人に聞いた。代表して、パイモンが答えてくれた。

 

「アビスの魔術師はやっぱりかなり多くて…旅人が大体道中のは倒してたぞ。あ、あと…途中でジン団長に会ったぞ…!でも、なんであんなところにいたんだ?」

 

パイモンは理解できていないようで首を傾げながら言っていた。

 

「西風騎士団も動いているのは当然だろう。そういえば、『龍災』の混乱に乗じて、アビス教団の奴らが攻めてきたらしいが…」

 

旅人は普通に頷き、パイモンも特段驚いているようには見えない。つまりは…知っていたのか。なんで俺知らないんだろうむしろ。

 

「その情報を元にして、西風騎士団はアビス教団の調査をしていたようでな。今回の動きの性急さには、そういった背景があるんだ。つまりは、まぁモンドにもきちんと今回の件はしっかり伝わってるってわけだ」

 

なるほど…とパイモンはうんうんと頷いていた。

 

少なくとも、今回の件で西風騎士団ができることはないだろう。首謀者はアビスの使徒と空、逃げられるのは目に見えているからな。ま、そういうわけで。

 

「ダインスレイヴ、アビスの使徒の痕跡は、勿論追えているんだろ?」

 

ダインスレイヴは頷くと、腕を組みながら説明を始めた。

 

「ここへアビス教団のヤツらが集まっているのならその目的は唯一つ、『北風の狼の残魂』だろう。東風の龍と同じように、利用しようとしているのだろう」

 

「じゃあ、早く行かなきゃ」

 

旅人の少し焦燥感に駆られた言葉に、パイモンも同意した。だが、ダインスレイヴは行きたくなさそうだった。その様子に、旅人とパイモンが心配そうに言葉をかけていた。

 

「どうしたんだダイン…?ま、まさか…あのもふもふした生き物が怖いのか…?た、確かに、結構おっきいけど…」

 

「もふもふしてて可愛いから大丈夫だと思うけど…」

 

多分、そういう問題じゃないだろ。ボケてんのか二人共…と、ここぞとばかりに俺はジト目を二人に向けた。勿論、二人は首を傾げるだけである。マジかよ。

 

ダインスレイヴも若干視線に「こいつら何言ってんの?」という感じを出したが、一息つくと、事情を説明し始めた。

 

「『狼』とは全く関係ない。かつての魔神が、七神に仕えているのが気に食わないだけだ」

 

と、いいますと?

 

俺と同様に、旅人達もダインスレイヴの言いたいことがよくわかっていないようだった。だが、ダインスレイヴに話すつもりは、端から無いようである。俺は溜息を一つつくと、ダインスレイヴに言った。

 

「ダインスレイヴ、アビスの使徒はお前がいなければ逃してしまう可能性が高い。まず間違いなく、この先に奴はいるだろう。それでも、お前は行かないというのか?」

 

ダインスレイヴは少しの沈黙の後、それでもと首を横に振った。

 

「人と交流するのは問題ないが…神は違う」

 

ダインスレイヴは俺への視線を幾分か厳しくして旅人に言った。

 

「俺の個人的意見だと思って聞くがいい。いいか、神に対して、いつどんな時でも警戒を怠るな。ヤツらを信じきるな、そして…『簒奪』や『凶行』の道に堕ちるな。たとえ貴様の対峙した『憎き敵』であったとしても」

 

旅人はダインスレイヴの言葉を受けて、俺を見た。その視線には、色々な意味を持たせることが出来るだろう。その視線の意味を、俺は理解できなかった。

 

ってか、それにしたって神が目の前にいる状態で神を信じるなとか言うかね全く…困ったもんだよ。こっちとしては結構エグい心境ではあるんだが…。

 

旅人はそんな俺の様子など歯牙にも掛けず、純粋な疑問を口にした。

 

「…ダインの言葉には矛盾が多い気がするんだけど…どうしてそんなに矛盾しているの?」

 

ダインスレイヴは再び暫しの沈黙の後、過去の教訓とした。

 

「最後に一つ、事実を教えてやろう」

 

そのまま、ダインスレイヴは話を続けていた。

 

「カーンルイアは神によって滅ぼされた国、そしてそれが…アビス教団が七神の国を滅ぼしたいと思っている理由だ」

 

まぁ、大体予想と一緒だな。勿論、旅人とパイモンは驚いていたようだったが。ダインスレイヴは待機しているわけではなく、どうやらアビス教団を掃討するようだ。

 

「で、俺は?」

 

「貴様は旅人と一緒に行くといい。アビス教団に関しては貴様とも因縁があるようだからな」

 

それだけ言うと、ダインスレイヴは去って行った。

 

「あ、行っちゃったぞ…本当におかしな人だな…」

 

「さぁ?そうとも言えないだろう。考え方はまぁ…わからなくもないからな」

 

俺がパイモンの言葉にそう答えると、旅人は少しだけ申し訳無さそうに言った。

 

「神を信じちゃいけない、とか…言われた側はどんな心境なんだろうね…」

 

「いや、まぁ…色々な考えがあるのは理解するし、勿論尊重もしてる。ただ…そうだな、慣れてはいるが、少しやりきれない気持ちも勿論存在してるぞ?」

 

無論、その程度で俺の身の振り方が変わることはないが。ってか。

 

「旅人、お前がそんなに申し訳無さそうにする必要はないだろう。俺のことはいいから、今は目の前のことに集中しようぜ?」

 

旅人は少しだけ落ち込んでいたがすぐに前向きに戻ると一歩を踏み出した。

 

「信用がないなら、避けるしかないもんね…うん、考えても仕方ない!行こうアガレスさん!」

 

ふんすっと鼻息を荒くして旅人は歩いていく。俺はパイモンと顔を見合わせて苦笑いしつつ、旅人についていくのだった。

 

 

 

「───ここは…お前を…歓迎しない」

 

王狼の領地の中央、そこで、狼の残魂たる王狼ボレアスがアビスの力によると思われる鎖に縛られていた。そしてその前にはレザーがいる。

 

なんとなく察していたが…やっぱり来ていたか。無論、アビスの使徒も存在している。

 

「フフフ…残魂の狼にも、跡継ぎを守る習性があったとはな」

 

下卑た笑いをしながらアビスの使徒は言った。

 

「防衛のためか?しかしその実力、魔神の足元にも及ばぬ」

 

アビスの使徒は俺達の存在に、未だ気付いていないようで、ベラベラと色々喋ってくれた。

 

「我々に服従すれば、神に匹敵する力を得られるだろう。過去のようにな」

 

ボレアスはしかしあくまで風神に服従することを選択し、ただただ唸っていた。アビスの使徒は自身の腕についている剣をブンッと振るった。それを見て俺達はレザーとボレアスの前に出た。

 

「レザー、怪我は?」

 

俺はレザーの体を隅々まで見つつ言った。

 

「特に、ない」

 

「なんの儀式なんだ?苦しそうだぞ!トワリンの時と同じ『腐食』か?」

 

パイモンの言う通り、俺はトワリンの時と同じような力を、ボレアスを縛る鎖からは感じていた。どうやらボレアスはレザーや他の狼達を守ってこの鎖に蝕まれたようである。レザーはそのことを知ってか知らずか、苦々しい表情を崩さずに言った。

 

「狼は、屈しない…でも、これ以上は」

 

レザーは恐らく、奔狼領ひいてはボレアスの危機を察知して単独で来たのだろう。恐らく、今頃はエウルアかノエルがレザーを探しているだろうな。

 

「レザー、前に言わなかったか?」

 

俺は刀を抜き放ちながら、未だに苦々しい表情のレザーへ向けて告げてやる。

 

「俺達をいつでも頼っていいってな。ボレアスも、困ったら風神か俺に言えばいいのに」

 

「…貴様だけに…頼るわけには…ゆかぬ」

 

「はいはい、そりゃあ言い訳にしか聞こえないな。わかるか?事が起こってからじゃ遅いんだぜ?」

 

ボレアスは面倒くさかったのか、若干唸った。レザーは俺を見て首を傾げていた。旅人は俺の代わりにアビスの使徒の動向を注視してくれている。アビスの使徒も、なぜか知らないが待ってくれるようだ。とはいえ、もう話すことなんてないが。

 

「ま、そういうわけ、で?アビスの使徒、悪いが計画は阻止させてもらうぞ?」

 

「何度やろうと…無駄な足掻きだ」

 

アビスの使徒は、しかし戦法を変えてヒルチャール、アビスの魔術師を召喚し、配置した。どうやらかなり面倒臭そうである。

 

「旅人はアビスの使徒を頼む。余り時間はかけられないから、雑魚は俺がすぐに消して加勢する。それまで保たせろ、いいな?」

 

旅人にしては珍しく怒っているようで、アビスの使徒を睨みつけ、そしてレザーを一瞥しながら言った。

 

「わかった…大切な友達の家族を奪おうとしてるやつなんかに負けない…!」

 

「よし…では、行くぞ!」

 

俺と旅人はそれぞれ刀、剣を構えると同時に走り出すのだった。




よ、ようやく戦闘パートだ…長かったぜ…

最近は夏休みなんですけどちょっと忙しくて更新が滞っておりますが…そのうち治るはずです…多分…
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