忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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というわけで、第三章です


第三章 稲妻
第68話 プロローグ


───『終焉』を止めるために、俺が犠牲になろう。

 

彼と最後にあった日、彼は確かに私、いえ、私達にそう告げた。500年前のあの日、眞が親交のあった『八神』の中の三人を稲妻へ呼んだ日。私に、彼は確かにそう告げたのだ。

 

───『終焉』を止めるためには神一柱を犠牲にエネルギーが必要なんだ。そしてそれは、国を、民を持つお前たちにはできないだろ?これは、俺にしかできないことだ。

 

そう言って彼は陽気に笑った。世界と世界の喧嘩を止めるだけ、と彼は軽く言ってのけた。そんなわけがない。神々の喧嘩と世界同士の喧嘩では規模が全く違う。それでも彼は、行くと言って聞かなかった。

 

───それでも、俺はこの世界に住まう民の笑顔のために、喜んで犠牲になるよ。

 

駄目だと言おうが、彼は困ったように笑って私達を愛しているから、犠牲になってほしくないと言った。それは私達だって同じだ。私達のムードメーカー的存在であり、そして国家間の喧嘩に発展しないようにといつも立ち回ってくれていた彼を、嫌いであるはずがない。

 

───せめてお前達がこの先も生きていけるようにはしてやりたい。それが、じきに死ぬ俺の役目だ。

 

そう言って彼は寂しそうに笑う。笑わないで欲しい。私達は、絶対に笑えない。眞がアガレスの代わりに行こうとしているのを、私は唖然として見ることしかできなかった。そしてそれでも、彼はその役目を全うすると言っていた。

 

───儚い景色であることを知っているからこそ、一層楽しむべきじゃないか?

 

桜を見て、彼はそう言っていたのを眞が耳にしていたようですが、私には未だに少ししか理解ができません。眞はその意味を理解していたようですが…。

 

あれから、500年。私と眞はずっと彼が目覚めるのを待っていた。けれど、稲妻でのファデュイの動向が活発化し、国際的な緊張度が高まっていた。

 

───彼女にもなにかの考えがあるのでしょう…私はそれを知らねばなりません。影、もしもの時は、私を…いえ、稲妻を頼みます。

 

眞はそう言って一人でスネージナヤへ向かい、そして…ファデュイの執行官に眞は深い傷を負わされ、帰ってきた。彼等の目的を、眞は『神の心』だと言っていた。眞の神の心は、神子に預けていたので無事だったけれど、眞は暫く療養することになっている。

 

対外的に流した情報では眞は矢面に立ったことにしているけれど、実際は一人でスネージナヤに行ってしまっている。流石に、この事実を公にする訳にはいかなかった。

 

眞から神の心を得られないとわかったファデュイが私達へ戦争を仕掛けてくるのは、道理だった。あれから三年、離島に攻め込んできたファデュイは内部から離島を崩壊させ、現在はファデュイが稲妻に構える有数の拠点となっている。ある意味では、あそこさえ落とせば私達の勝利ではある。けれど、戦時条約によって私の参戦は禁止されていた。稲妻がファデュイに苦戦を強いられているのはそれが要因だし、そして彼等はそれでなくとも強い。苦戦するのは道理だった。

 

「将軍様、モンドと璃月の使者がお見えになっておりますが…如何がなさいますか?」

 

「…これは稲妻の戦、即刻立ち退くように要求しなさい」

 

私がここまで頑固に『鎖国』というものに拘っているのは、眞にこの国を任されたからというだけではなく、彼が戻ってくるまで、彼が愛したこの国を、この世界を護らねばならないと感じていたからだ。親交はあるとはいえモンドも璃月も他国。戦争で援軍を送ったことを傘に大きな態度を取るかもしれない。それが、私は嫌だったのだ。それに、『鎖国』をしていないと工作員が紛れ込みかねない。だから、多少民の暮らしが困窮しようと『鎖国』を解除するわけにはいかなかった。

 

思えば『永遠』のみを追い求めていた昔と今とでは大きな違いがあると、私は自覚している。変質したのはいつからだろうか。眞が昏睡状態になってから?それとも、500年前、彼がいなくなってしまってからだろうか。どちらにせよ、私は『鎖国』を解除する気はなかった。

 

「し、しかし…」

 

報告に来た武士はしかし何かを言い淀んでいるようだった。

 

「構いません、申してみなさい」

 

「はっ…その、使者というのが…モンドの風神、璃月の岩神なのです」

 

思わず、武士の言葉に私は目を見開かずにはいられなかった。そして少し考え、告げる。

 

「受け入れの準備をして下さい。稲妻城の正面の庭が丁度いいと思います」

 

「恐れながら将軍様、巨大な蒼き龍に乗っている故、少し手狭かと…」

 

私は少しばかり驚きつつも平静さを保って言う。

 

「では稲妻城の郊外にある程度兵を集めて下さい。私も出ます」

 

「し、将軍様御自ら、でございますか?」

 

「なにか問題でも?」

 

私はわからずに首を傾げた。武士は慌てた様子でご命令どおりに、と言って去って行った。私の命令を実行してくれるようである。

 

「では…私も出迎えの準備をせねばなりませんね」

 

あの二人には悪いのですが、ある程度あしらってお帰り願うとしましょう。

 

 

 

あまりに展開が早すぎて呆然としてしまったのも仕方がないでしょう。しかし、今は私も眞の代わりに稲妻を任された身。この程度で狼狽えていては…。

 

事は稲妻城郊外に使節団を受け入れるために外出したところまで遡る。私は蒼き巨龍───トワリンの背に乗る二人の旧友を見る。モンドの風神バルバトスと璃月の岩神モラクスだ。

 

「突然押しかけてしまってすまない、雷電影」

 

「ごめんね、ちょっと火急の用事があってさー」

 

二人はトワリンの背から降りてきつつ、先ずは私へ謝罪してきた。

 

「お二人共、お久しぶりです。あまり時間は取れないので…」

 

「ああ、そうだろう。早速話をしたいのだが、いいか?」

 

バルバトスもモラクスも多少の表情の機微はあるが、その表情や行動から感情や考えていることを理解することは難しそうだ。

 

国としての面子を考えるのなら、他国のとはいえ神が自らが来たのですし、追い返すわけにもいかないでしょう。私は了承の返事をするべく、口を開いて声を発した。

 

 

 

そのまま私は二人を稲妻城へ招き、一室で会談を執り行う運びとなった。それぞれ席につき、まず発言したのはバルバトスだった。

 

「じゃあ事前の取り決め通り、僕から発言させてもらうね」

 

事前の取り決め?と疑問に思う私だったが、口には出さず、バルバトスかモラクスの次の言葉を待った。

 

「『自由』の国、モンドは非公式に稲妻へ援軍を送ることを提案する」

 

「同じく、『契約』の国、璃月も非公式に稲妻へ援軍を送ることを提案する」

 

二人の言っている意味が少しの間理解できず呆然としていたが、すぐに思わず、と言った形で声を上げた。

 

「…本気なのですか?稲妻は現在鎖国中、民も我々の国だけで戦争に打ち勝とうとしています。しかもどの国も三年もの間全くと言っていいほどに援助をしてきませんでした。であるのに今更援軍というのは虫が良すぎるのでは?」

 

稲妻は周辺国、特にモンドと璃月とは関係を良好にしていた。けれど、戦争状態に入っても援助は期待できなかった。今思えば色々な要因が存在していたけれど、今更援軍というのもおかしな話としか思えない。

 

モラクスは困ったように笑いながら言う。

 

「だから言っているだろう。非公式に援軍を送る、と」

 

割と気が動転していた私は非公式、という部分を忘れていた。バルバトスは補足説明をするかのように口を開いた。

 

「今回とある人の依頼で援軍っていう立ち位置が必要なんだよね。まぁ飾らないで言えば、どうしても稲妻に渡らなきゃならないから協力してほしいって言われたんだよね」

 

なるほど、二人は…というか主にバルバトスが、だが彼は元々風神という地位にいながら国を見守るだけの存在に過ぎなかった。けれど、バルバトスは何らかの心変わりによって助言役という形で国に戻ってきた。モラクスは変わっていないようだけれど。こういう時に外界で何があったのかがわからないから『鎖国』は不便なのだ。

 

いまいちわかっていないと思われたのか、モラクスが外で起きていることについて説明してくれた。

 

「まずモンド、璃月共にファデュイの工作を受け、いずれも戦争状態に突入、両国とも今や完全に国交を断っている。どれも一年以内に起きたことだ」

 

一年以内に戦争に勝利するなど前代未聞だ、というのは置いておき、両国、特に璃月がスネージナヤとの国交を断ったことには驚いた。璃月は訪れる商人が多ければ多いほど潤い、富が沈着していく国だ。そんな国が国交を断つとは驚きだ。

 

「そういうわけでこちらにも稲妻を救う理由ができた、というのもある。元々、個人としては稲妻を見捨てるのは本意ではなかったしな」

 

「そういうことだよ。ついでだから、稲妻に行きたがっている二人を援軍として送ればいいんじゃないかってなってね」

 

まぁ正直、非公式ということであれば問題はないのだけれど…その言葉を鵜呑みにしていいかどうか、という私の猜疑心が伝わったのか、二人は顔を見合わせて苦笑した。

 

「一応、国としてちゃんとした援軍を出すことも考えはしたんだけど、それじゃあ稲妻の民が納得しないかなって。だから潜り込ませても良かったんだけど…わざわざ僕達がここで正式…ではないけれど、こうして援軍の話を非公式にする必要性はないと思うんだけど…どうかな?」

 

筋は通っている。今一度、旧友を信じてみることに、私は決めた。もし騙し討ちなどを考えていたのなら私が排除すればいいだけ、とも思っているし。

 

「それでは…わかりました。それで、その援軍とやらはどうやって来るのですか?というか腕は確かなんですよね?」

 

流石に二人程度増えたところで大勢に変化はないと思っているけれど、念の為そう聞いておいた。

 

「う〜ん…一人は既に乗せてきてるんだけど…今頃はトワリンとゆっくりしてそうな予感がするね。ちなみに実力は僕もじいさんも保証するよ」

 

「まぁ、この会談にも来たがっていたが、それは流石に遠慮させてもらった。会談どころではなくなるだろうからな」

 

二人揃ってなんの話をしているのだろうか?私はわからずに首を傾げていると、私を呼ぶ声が扉の外から聞こえてきた。

 

「すみません、少し失礼します」

 

私は二人にそう言うと部屋を出て跪いている武士に何があったのかを問うた。すると、慌てた様子で捲し立ててきた。

 

「稲妻城郊外にファデュイが出現!何とか警備兵だけで持ち堪えていますが、これ以上は…!」

 

「…すぐに増援を派遣しなさい。稲妻城の護りが多少手薄になっても構いません」

 

武士は私の命令に返事をするとすぐに行動を開始すべく天領奉行所へ向かうようだ。私は溜息を一つ吐くと部屋へ戻った。部屋へ戻ると、バルバトスとモラクスの二人が睨み合っていた。どういう状況なのかわからずに放置していると、

 

「影、何かあったのか?」

 

不意にモラクスが私にそう問うてきたので、私は素直に答えることにした。

 

「稲妻城郊外にファデュイの軍勢が出現したようです。恐らくトワリンを見て危機感を覚えたのでしょう」

 

雲の上を飛んできたから目立たないはずだけど…とか言っているバルバトスは無視しつつ、何故か苦笑しているモラクスを見やる。モラクスは私の視線に気が付き、腕を組みながら言った。

 

「我々には仕事があるからな。ここらでお暇させてもらうとしよう」

 

モラクスの言葉に違和感を持っていた私はそれを聞くために口を開こうとする。が、続いてバルバトスも口を開いて同じようなことを言った。

 

「この状況で帰るのですか…?結局、援軍に来てくれた者の存在も不明なままですし…」

 

バルバトスがポリポリと頬を掻きながら言う。

 

「その…ファデュイは郊外に出てきたんだよね?僕達がトワリンから降りたのもそこだから、多分否が応でも誰かはわかると思うんだよね」

 

「───将軍様!いらっしゃいますか!?」

 

と、再び扉の外から私を呼ぶ声が聞こえてきた。先程よりもかなり慌てているように見える。

 

「今度は何事ですか」

 

「そ、その…黒衣に銀髪の男が現れ、突如ファデュイを蹴散らし始めまして…その、なんというか筆舌に尽くし難い戦闘でした。恐らく、使者殿の護衛の方かと思うのですが…」

 

銀髪に、黒衣?と思ってバルバトスとモラクスを交互に見た。二人はただ微笑むだけで、何も言わない。気が付けば稲妻城郊外へ向けて私は走り出していた。

 

「しっ、将軍様!?危険です!!どうかお止め下さい!」

 

そんな声が背後から聞こえてきたが、私にとってはどうでもいいことだった。5分ほど、少し息が切れるまで走ってようやく、稲妻城郊外の先程の場所まで辿り着いた。見ればトワリンは姿を消し、しかし場には尻餅をついていたり、武器を持って呆然と一点を見つめている武士が存在していた。けれど私に、稲妻城を守る武士としてのあるべき姿とはかけ離れていることを責める資格はないだろう。私もその武士達同様に見入ってしまっていたから。

 

ファデュイの巨大な槌を持った雷元素を扱う兵の攻撃を一回転して躱し槌の上に立って踏み込み首を切り飛ばし、背後から振るわれた暗殺者の刀を手にした刀で受け流して蹴り飛ばし、すぐに振り返って刀を振るって再び背後から現れた暗殺者を真っ二つにしている。

 

その光景は戦闘というより、剣舞に近いものがあった。洗練され、かつ完成された戦闘姿勢が、私達にそういった印象を植え付けていたことは間違いないだろう。

 

「───」

 

ボソッと彼が何かを呟いたタイミングでその場に残っていたファデュイの兵士に雷が直撃し、怯んでいる兵士の真っ只中に彼は踊り込んで一人、また一人と斬り捨てていく。そしてファデュイが撤退するまでに、然程時間はかからなかった。

 

「逃げたか…ま、稲妻にも俺がいることを知らしめて貰えればそれだけで圧力にはなり得るが…それにしたって俺相手に戦略兵器とか持ってこられても困るし、正直言えばあんまり正体バレはしたくないんだよなぁ…」

 

血の付着した刀を一度振るってそれを落とすと鞘に仕舞うようにして刀を仕舞った。そうしてこちらを振り向く。彼は高身長で、黒衣と銀髪が特徴的で、瞳が異様に赤かった。そして私の記憶の中に、その外見の特徴を持つ人は、一人しかいない。

 

「旅人が来るのは明日か明後日になるらしいし…それまでは一人行動か…ま、それより。稲妻の武士の皆さーん、非公式ですが援ぐん…が…?」

 

彼の視線が、武士から私に来た途端動かなくなり、そして真剣な表情へと変わった。いや、あれは…感極まってるけどそれを表に出さないようにしている、というべきですね。彼はやがて震える口を開いて声を発した。

 

「…元気、かどうかは別として…久しぶりだな、影」

 

やっぱり、間違えようがなかった。あの声も、外見も、話し方…は少し変わったようだけど、やっぱりそうだ。私は駆け出し、彼の胸に飛び込んだ。人外の膂力である私の力は、到底普通の人間では受け止めることはできないだろう。けれど、彼はしっかりと私の体を受け止めていた。

 

私は彼がしっかり生きていることを確認すると嬉し涙を流しながら言った。

 

「ええ、お久しぶりですね───アガレス」

 

今は、今だけは全てを忘れて彼が戻ってきたことの喜びに打ち震えるのだった。彼は困ったように笑うと、

 

「ああ、改めて久しぶり、影」

 

そう言うのだった。




さて…大体稲妻編は戦闘メインです。まぁ…戦闘描写の練習をしたいというのが本音の部分です。

なんてったって下手ですからね!はっはっは!!

アガレス「それを誇る辺り本当にどうかしてると思うわ」

…私もだよ。

という申し訳程度のおまけでした。
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