忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今年もお疲れ様でございましたぁーっ!

皆様、今年はどんな年でしたでしょうか?いい年だった方もそうでない方も来年がいい年になれるように頑張って参りましょう!!

あっ!ネタバレ!!要注意ですよっ!!


閑話 鍾離の誕生日

稲妻での戦争が一段落して、俺が璃月へ戻った頃には冬、それも大晦日だった。

 

帰ってきた俺は知り合いへの挨拶を済ませ救民団璃月支部へ帰った時に一通の手紙が机の中に入っていることに気が付いた。

 

拝啓アガレスへ、と書き出された手紙には略式的な冬の挨拶や俺の動向を気にする文章が書かれてあり…差出人は勿論、このような堅苦しいものを送ってくるような人物ということで想像はつく。

 

内容としては久し振りに共に茶会を開くので往生堂まで来てほしい、とのことだ。これを見る頃には準備が完了しているはずだ、とも書き添えられていたので今日に合わせて準備をしていたのだろう。誰かの入れ知恵か、それとも彼自身が準備していたのかはわからないが何はともあれ往生堂へ向かうことにして俺は救民団を出る───前に少しだけ所用を済ませてからだな。

 

所用を済ませた俺は救民団から出て璃月港の街並みを眺めつつ歩みを進める。久し振りに見る璃月の民は皆厚着でマフラーを着けている者がほとんどだ。中にはカップルで一緒のマフラーを巻いている者達もいる。皆の顔は笑顔に染まり、幸せそうだった。

 

まぁ、今年で一年が終わるともなれば初詣やら何やらで忙しいのだろう。

 

「…護った甲斐があるな…本当に」

 

忘れ去られたことへの少しの怒りがなくなったわけではない。この辺はトワリンの境遇がよく理解できるが、だからと言って憎めるか否かは別問題だがな。ま、護れたのだから、それで良いじゃないか。

 

俺は平和な光景を見て微笑み、そのまま往生堂への歩みを進めた。

 

さて、往生堂の前へとやって来た俺は受付嬢へ話しかけ───ようとして先に気付かれて話しかけられた。

 

「アガレス様、お待ちしておりました。こちらへ…中で鍾離様がお待ちです」

 

俺は受付嬢の案内に従って往生堂の中へと入る。堂職員からは割と好奇の目を向けられたりするが鋼のメンタルで俺は全てを抑え込んだ。

 

受付嬢が少し豪華な扉の前で止まって一礼したので、俺は一言礼を言って中に入った。

 

中は豪華な扉とは対極的で案外質素だった。そして丸いテーブルには少しばかりの料理と、湯気の立つ淹れたてのお茶が置いてあった。

 

俺の位置からは対面に座する存在を見ることはできないような造りになっているのだが、まぁ予想していた通りだった。

 

「待っていたぞ、アガレス」

 

俺は椅子を引いて腰掛けつつ言う。

 

「俺をわざわざ呼び立てるだなんて珍しいな、モラクス」

 

そう、俺を呼び立てたのは岩神モラクスその人だ。ある程度予想はついていたが何の用だろうか?と俺が少し勘ぐっているとモラクスが苦笑しつつ言った。

 

「お前のことだ。重要な案件があると思っているのだろう?」

 

俺は素直に首肯きつつ、出されたお茶に口をつける。モラクスの顔には先程の苦笑とは打って変わって微笑が浮かんでいた。

 

「何、折角来たのだ。お前の復活を祝して久し振りに二人で話をしないか?」

 

モラクスの言葉に俺は緊張を溜息と共に吐き出して首肯くのだった。

 

「前に俺が復活してからのことは話しただろう?それなりに色々あったんだが…」

 

結局、旧友と久し振りに話すとなったら思い出話が一番盛り上がるだろう。まぁ実際モラクスと俺との思い出など掃いて捨てるほどある。思い出話には困るまい。

 

「そうだな、折角だしそれ以前の話をしようか」

 

「いいだろう」

 

モラクスは茶を啜ると俺を見ると「何を話す?」と問うた。考えている内に一つだけ思い出したことがあった。

 

「その前に俺から一つだけ」

 

モラクスは首を傾げた。俺は懐から包装されたプレゼントを取り出し、差し出しつつ言う。

 

「ハッピーバースデー、モラクス。今日はお前の誕生日だったろう?」

 

モラクスは驚いたように目を見開くと俺の手にあるプレゼントを手に取って礼を言った。

 

「開いても構わないか?」

 

「ああ」

 

モラクスは早速俺から受け取ったプレゼントを開けると再び驚いたように目を見開いた。モラクスの手に握られていたのは特にこれといった特徴のない何の変哲もない石ころだった。だがモラクスの目には違うものに映っているのだろう。勿論、俺の目にもだ。

 

「…これは」

 

「折角だし、この石について話さないか」

 

「…いいだろう」

 

───あれは千数百年前の今日のことだった。正確な年数は覚えていない。だが、確かに俺もモラクスも魂に刻み込んで決して忘れることはない出来事。

 

「結局よー、お前は『契約』ばっかで頭が堅いと思わねえか?バルバトスにもよく言われてるじゃねえか」

 

「俺はあくまでも、『契約』に従って動いているだけだ。そこに私情を挟む余地などない」

 

そう、俺達は初めて、喧嘩をしていた。

 

「あ?そう言ってこの前、『契約』に反してしれーっと敵のこと見逃してたの見てんだよ。結局私情挟んでるんじゃねぇのか?」

 

「あれは殺さずとも良かっただろう。俺と七星との『契約』には反しない」

 

「まるで自分が一番契約のことを理解してますーとでも言いたげだなおい。俺だってしっかり見てるんだが?」

 

「これは璃月と俺の問題だ。お前に口を出される謂れはない」

 

「そもそも『八神』の中で俺は国を持っていないが影響力は認められているだろう。これもまた『契約』で決まっていることだろう?」

 

その後も俺とモラクスの言い争いは続いた。だが、突如頭に石ころを投げられ俺とモラクスの言い争いが止まった。

 

「───二人共、いい加減になさい?争いは互いの理解を深めるけれど、この言い争いに関しては不毛よ?」

 

俺とモラクスの頭に石ころを投げたのは白髪の女性だった。俺とモラクスは冷静さを取り戻しここにいたのは俺達だけではないことを思い出し席につく。

 

今更ながら、ここは奥蔵山にある机と椅子の揃った場所なのだが…。

 

「あのさ、途中から完全に僕達の存在無視して喧嘩してたよね?」

 

「う、すまねえ…」

 

「すまない」

 

白髪の女性だけでなくバルバトスもいる。勿論、バルバトスもいるということは───

 

「二人共、随分熱くなっているわね。珍しいこともあるものだわ」

 

「眞…遠くから眺めてないで止めて下さい。アガレスも、珍しく熱くなっていましたけれど私達を忘れるのはよくないですよ?」

 

そう、影も眞もいる。白髪の女性はクスリと笑うと俺とモラクスの頭に当たったであろう石ころを拾って俺達に渡してニコっと笑う。

 

「さぁ二人共、この石ころを受け取って頂戴。初めて喧嘩した記念に」

 

「喧嘩した記念なんか受け取っても嬉しくねぇけどな…?」

 

「全くだ。諍いは無意味だと言ったのはお前だろう」

 

俺とモラクスは難色を示したのだが、それを気にせず白髪の女性はふわりと微笑み、それを絶やさなかった。

 

「あら、喧嘩は価値観の違いや双方の勘違いなどから起こるものだけれど、それをいい思い出にさえ出来れば意味のあるものになるとは思わないかしら?」

 

彼女の言葉に俺とモラクスは顔を見合わせ、少し笑う。

 

「ああ」

 

「確かに」

 

「「少し馬鹿らしくなった」」

 

俺とモラクスはお互いの頭に当たった石を持つと懐にしまう。それを見た白髪の女性はふわりと微笑む。

 

「こうして思い出を紡いでいけば『永遠』にもなり得るし、記憶を『守護』することにも繋がるわ。そして思い出は『自由』で良くて『契約』に縛られる必要はないけれどそれも必要…結局、全ては円環の中にあるのよ。例えるなら…犬が自分の尻尾を他の生き物だと思ってずっと追いかけるのと一緒ね。前へ進めど進めど終わりは見えず、されども円環の中に───」

 

「いや、いい。お前の例えは分かりづらいからな…」

 

そのまま俺達は宴を続けていった───

 

 

 

「───懐かしいな。だが、どうしてこれを俺に?」

 

モラクスは俺にそう問い掛けた。俺はポリポリと頬を掻いて苦笑する。

 

「お前に、俺のことを覚えておいてほしいからだ。この石ころで俺との喧嘩を覚えていてほしい」

 

俺の魂の摩耗で記憶が飛んでも、きっと彼が覚えていてくれるだろう。だからこの石を渡すのだ。

 

理由を説明し終わるとモラクスは神妙な顔つきで告げる。

 

「盤石もいつかは土に還る。だが、俺がお前を忘れることはない。例え俺が忘れようと、世界にお前が存在した証は残り続けるだろう」

 

モラクスは俺にそう言って少し笑った。

 

俺も少し笑うとお茶を啜る。

 

「さぁ、今日は色々話そう。まだまだ話題はあるからな」

 

「ああ、そうだな」

 

俺とモラクスは互いにお茶を注ぎ足し合う。俺は一つ思い出したことがまたあったのでニヤニヤしながら言う。

 

「そうだ、モラクス。歌ってやろうか。知ってると思うが歌は上手いんだぞ?」

 

歌が上手いといえばジンなんかも上手だが、一度身分を隠して二人で歌わされたことがあるのだがそれはそれは大人気だった。一時期、モンドで空前のブームを起こして璃月のロックスターと共演したりもしたのだが…いや、この話はやめておこう。

 

それはそうとモラクスだが微笑みつつ、

 

「遠慮しておこう」

 

とそう言い放った。俺は思わず仰け反りつつ抗議する。

 

「ええ、なんでだよ。こう見えて歌がうまいって評判なんだぞ!」

 

「いや、別にいい」

 

「折角歌おうって言ってるんだぞ。その善意をお前は───」

 

12月31日の大晦日、兼モラクスの誕生日に響き渡る言い争いの声は、どこか楽しそうだった。

 

余談だが、モラクスは今年財布を買ったらしい。金銭感覚が来年はマシになることを願うばかりの俺であった。




おまけ

鍾離「アガレス」

アガレス「なんだ」

鍾離「いつぞやユニットなるものを組んでいたようだが…アレはやめたのか。女装して楽しそうだっただろう」

アガレス「!?」

なんてやりとりがあったとかなかったとか。

小話を一つ挟むとバーバラにめちゃくちゃ推されてジンとアガレスの二人でユニットを組んで歌っていたらいつの間にか人気になっちゃってロックスターとの共演を境に姿を眩ませた、という感じですね。

アガレスは…勿論女装してました。案外人気だったらしいです。

では、よいお年をっ
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