忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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第70話 状況把握

「───ッコホン!貴方達は何も見なかった、いいですね?」

 

影がとても恥ずかしそうに俺達の様子を見守っていた武士にそう告げた。有無を言わさぬ視線に武士達は首肯くしかなく、俺へ向ける目が何故か物凄いことになっていた。俺なんかしたっけ?

 

結局、バルバトスとモラクスは影と俺に少し挨拶してトワリンに乗って帰っていった。この空気感をどうしてくれるのか。いや、いたとしてもどうしようもできないし期待もしていないが。

 

「すみません、アガレス。久しぶりに貴方に会えたのが嬉しく、少し取り乱してしまいました」

 

それにしても少しで済んでいただろうか。為政者としての立場を忘れて俺に突撃してくるってかなり取り乱してないだろうか。お陰で武士達からはなんでかわからんけど敵視されてるよ。

 

との思いをおくびにも出さず、俺は首を横に振った。

 

「別に構わない。逆の立場なら俺もそうしていただろうからな」

 

実際嘘はついてない。別に武士達に嫌われたところで何も問題はないし、逆の立場なら俺も泣いて喜んだだろう。影は顔を少し赤くしてそうですか、と言った。余程恥ずかしかったようだ。

 

それより、だ。俺は顔から表情を消して影に聞きたいことを聞く。

 

「眞は?」

 

影は俺の話がとても重要であることを悟り、気持ちを切り替えると、ついてきてください、と言って歩き始めた。俺もそれについていき、やがて稲妻城に辿り着いた。影と俺はそのまま天守閣の最上階までやってきた。そしてそこに、眞は横たえられていた。

 

「…矢面に立って負傷したというのは嘘か」

 

影は首肯き、眞の少し乱れた布団を掛け直した。

 

「眞は一人でスネージナヤの氷神に招かれ、眞は活発化していたファデュイの活動と彼女の目的を探るべく一人でスネージナヤに赴き、怪我を負って帰ってきました。当時は意識がありましたが、今は昏睡状態が続いています」

 

昏睡状態、か。神は凡人とは違い、肉体にできた傷の治りも速いはずだ。で、あるのにも関わらず眞の肉体には深い傷があるようだった。影の話ではどんな手を尽くしても治らないらしい。気になるとすれば死んでいないところだな。

 

「…手は勿論尽くしたんだろう?傷口は?」

 

影が言い淀んでいる。何があったのだろうか?

 

「…ないんです。外傷は昔はあったのですが、今は完治しています」

 

なるほど。

 

「心のほうの問題だったのか」

 

影は神妙な顔つきで首肯き、眞を見ていた。大怪我に加えてなんらかの事実を知った彼女の精神が起き上がるのを拒否している、という状況だろうな。恐らく、だが。残念ながら俺には解決方法は思い浮かばない。

 

「アガレス、なんとかできますか?」

 

駄目で元々、だが一途の望みにかけて影は言った。俺は影の問に、嘘偽りなく首を横に振った。現状では眞の精神を呼び戻す方法はわからない。影は俯き、そうですか、と返事を返した。

 

「…すまないな、何もしてやれなくて」

 

「いえ、そんなことはありません。私だって、何もできていませんから…」

 

外はこれ以上ないほどに晴れているのに、雰囲気は曇りどころか土砂降りだった。久しぶりに会えたため物凄い嬉しい。嬉しいのだが…ものっすごい気まずかった。俺はこの気まずい雰囲気を打開すべく口を開く。

 

「そ、そうだ。バルバトスとモラクスは俺の記録を全て消したと言っていたが、こっちではどうなんだ?」

 

そう聞くと、影の表情が更に落ち込んだ。話題を変えるために振った話題が更に重くなっている件。どうしろというのか。影はそのテンションのまま話してくれた。

 

「勿論、言われた通り一部を除いて全て消去しました。ですがかつて雷電五箇伝と呼ばれていた家系で名前と容姿、そして成したことなどの口伝があるそうですね。それと鳴神大社でも残っています」

 

なるほど、残すところにだけ残しているのか。奉行所とかに残ってたら悪用するやつもいそうだからな。信頼できるところだけに残したのか。それはそうと…。

 

「狐斎宮は元気なのか?鳴神大社で今頃何をしているのやら」

 

またも影は暗い表情だ。稲妻が一番500年前から変化しているのかもしれないな。

 

「…そうか、じゃあ今鳴神大社の宮司は誰なんだ?」

 

影は黙っている。まさかいない、ということもないだろう。そう言えば狐斎宮の肩にいつも乗っていた小狐がいたな。

 

「…まさか、八重神子か?」

 

影は首肯いた。八重神子、彼女は狐だ。昔…500年前は可愛い小狐だったのだが、今は恐らく人の形を得ているのだろう。どんな感じに育ってしまったのだろうか。思わず遠い目をする俺だった。

 

「鳴神大社は高所にありますし、政治、戦争の両方で不干渉を発表したためファデュイに目をつけられず、未だ無傷のままです。少なくとも、不吉な知らせは何一つ届いていません」

 

影は八重神子の現状についてそう説明した。大社が無事なら、神子も無事ということなのだろう。まあそれがこれからも続くかは勿論わからないがな。まぁ狐斎宮が育てたなら、世渡り上手に育ってくれているはずだし、あまり心配する必要もない、か。挨拶には勿論行くが。

 

「取り敢えず眞に関しては戦争が落ち着いたら俺が現状持ちうる手段の全てを使って助ける」

 

彼女がスネージナヤで見たその元凶をなんとかすれば、脅威はないと説明できるのだがな。如何せん、彼女は寝たきりだし、それを伝える手段がない。まぁそれは追々考えるしかないだろう。影にも詳しく事情を聞いて協力してもらわねば到底事態の打開は望めない。

 

影は顔を伏せて小さく俺に礼を言った。

 

「それで、確か稲妻で現在占領されているのは離島、そして紺田村だったか。離島に住んでいた人々はどうなったんだ?」

 

俺の言葉に影は少しだけ悲痛そうな顔つきで答えてくれた。

 

「捕虜として投獄されている人を除けば他は稲妻城城下町に避難しています。勿論、外国からの商人も少数含まれていますが」

 

その後も俺は影から詳しい情報を聞き、ファデュイが退かないところを見るに未だに目的は達成されていないとの見方を示す。まぁファデュイのことだ。目的を達成して尚あの手この手で疲弊した稲妻を倒そうとするだろうな。

 

「それにしても、宣戦布告からわずか一時間で開戦か…逃げられた商人や住民は少なかっただろうな」

 

宣戦布告から開戦までの動きが早すぎる。離島も二時間ほどで完全に占拠され、戦火も拡大している。こうなることを予想して事前に準備していたのだろうな。加えて気になるのはスネージナヤの言い分では、不慮の事故によって眞が重傷を負ったということだろう。不慮の事故に見せかけた殺人…いや、この場合は殺神未遂か?をしている可能性もあれば、本当のことを言っていたりする可能性もある。まぁ結局の所、どれも推測の域を出ないわけだ。

 

それにしても、眞が絶望するほどの未来或いは事柄ってのはなんだろうな?影によれば皆目検討もつかないようだが、勿論俺にも検討はつかない。

 

全く以て嫌な感じだ。ファデュイ、その主たる氷の女皇、そしてアビス教団。彼等は何か、この世界にまつわる重大なことを知って、そしてそれを回避するか、或いは対処しようとして動いている。

 

そうだな…こちらでも色々調べておこう。

 

「大体聞きたい情報は聞けた…ありがとう」

 

「いえ、こちらも色々と話して少し楽になりました」

 

影の様子は、やはりというべきか、眞関係のせいで少し落ち込んでいるように見える。当然だろう、突如雷電将軍として振る舞わねばならなくなったのだから。眞の現状を知っているのは一部の側近のみ、ボロが出ないように日々奔走しているらしい。なんというか、稲妻だけかなり不憫な状況に置かれているな。まぁ他の国もどうなっているのか全くわからないし、一概には言えないが。

 

一先ずの状況整理はできたと言っていいだろう。後はどちらにせよ旅人が来るまでは何もできないな。なんと言っても、援軍とはいえ何処の指揮系統の下につくのかがわからないからな。

 

「そう言えば、報告だ。二日後、もう一人モンドからの応援が到着する。多分だが…海祇島に上陸するはずだ」

 

稲妻の現状として、雷電将軍が支配する地域と、地底から逃れてきた人々がいる海祇島の二つに、一応は分かれている。だが、稲妻という国家の危機であるため海祇島の人々も幕府に協力している。さて、では何故海祇島に旅人の乗った船が来ると予想できるかというと、簡単な話で一番安全であろう港がそこくらいしかないからだ。九条陣屋は地形的に巨大な船を入れるのは難しいだろう。

 

「では受け入れの準備をすればいいのですね?」

 

俺は首肯きつつ、補足で説明をした。

 

「ただ、通行許可証とかは持ってないぞ?なんたって非公式の応援だからな」

 

そう、問題はそれなのだ。最悪、応援だと言っても信じてもらえず船が沈められたりしてしまうかもしれない。スネージナヤとの戦争が長引き、そういった工作に関してはかなり敏感になっているだろうし、誤解が生まれてしまえば解くことはかなり難しいだろう。

 

「通達は私からしておきますが…暗号みたいなものでも決めておきますか?」

 

「いや、それには及ばないだろう。応援に来る奴には…そうだな、言うなれば浮遊する幼児とも言うべき存在がいる。見れば一発だな、偽装のしようもないだろうし」

 

それと、と俺は若干驚いている様子の影に向けて言葉を付け加えた。

 

「ファデュイの工作も警戒して俺も海祇島に行く。応援の受け入れはそれで問題ないだろう。差し当たっては応援の地位を保証してくれるようなものがあればいいんだが…」

 

と思って影を見ると、顎に手を当てて何事かを考えている様子だった。やがて考えるのを止めて俺を見ると、首を傾げながら言った。

 

「私もついて行けばいいのでは?」

 

「…よし、どうしてそんな結論に至ったのか小一時間ほど問い詰めたいところだが…」

 

まぁ、それは置いといて、とばかりに影を見つめると、本気なのに…と呟いていた。マジかよ。影は諦めたように何かを引き出しから取り出すと筆を執り取り出した何かに何事かを書き込むと、それを渡してきた。見た目は完全に古びた木の札だが、綺麗な文字で『応援』と書いてあった。

 

「…なんというか、これだとただ影から応援されてるみたいになってるんだが」

 

「問題ありません、海祇島の現人神の巫女にはそれで伝わるでしょうから」

 

現人神…なるほど、事実上の海祇島の統治者のような存在ということか。担ぎ上げるのも理解できるな。それはそうとこれで伝わるのか…それはそれでどうなんだろうか?

 

「まあいいか…」

 

ファデュイも今日明日は稲妻城へ攻め込んでは来ないだろう。今日攻め込んできた奴らも戦闘に特化した者達ではなく、何処か工作員として潜り込んでいたという感じがした。普段より少しだけ手応えが薄かったためだ。

 

今日倒したファデュイについての考察をしていると、影が俺の肘辺りの布を摘んでこちらを見ていた。俺はあぐらをかいて座っているが、影は正座だ。足が痺れていそうだが、実際のところどうなのだろうか。

 

「で、どうした?」

 

「で、とはなんですか…?まぁいいです。それよりアガレス、復活してからのことを聞きたいのですが…いいでしょうか?」

 

ああ、なるほど。旧友としてはそりゃあ気になるか。俺は微笑むと、復活してから今日ここに来るまでの過程を掻い摘んで話し始めるのだった。




外に出ていない…根っからのインドア派閥なので…太ってないか心配ですよ私としては

アガレス「なら適度に食事量を減らすか、栄養を考えた献立にするか、それから───」

み、耳が痛い!

と、いうことで最近ちょっと食べすぎてる気がします。お陰で執筆が捗ってますやったね(白目)
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