忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回も散兵さんがいない影響が出てます


第73話 神里家からの依頼

俺は焼きそばを食べながら横を見やる。そこにはうな茶漬けなるものを食す神里家当主、神里綾人の姿があった。人目があまりないからか、店主にも見えないように食べているようである。その隣では上品に同じものを美味しそうに食べる妹、神里綾華の姿があった。

 

さて、どうしてこうなったのだろうか。武士達はご飯を食べ終わってはいたものの、追い出されており少し可哀想だった。擁護しようにも全く有無を言わせないような声色だったため、しそこねたのだ。

 

おっと、思考が逸れたな。何故接触してきたのか、だったな。トワリンは巨体だが、雲の上を飛んできて、尚且稲妻城郊外に降り立っている。目撃者がいないことも確認済みだ。いや、戦闘に参加した武士達とか、迎えに来た伝令の武士とかが見ていたか…まぁ、一般人の目撃者はないはずだ。目撃したとしても、ありえないとして斬り捨てていそうだしな。

 

兎にも角にも怪しいとすれば…いや、影の方から共有した可能性が高いのか。よくよく考えればその方が色々と都合もいいし、万が一問題でも起こされたら稲妻としても溜まったものではないだろうからな。政治的背景とか諸々を考えると普通に三奉行には伝わっているだろうな。上層部だけなのか、或いは末端の兵士にまで伝わっているのかどうかは全くわからないが。

 

一通り食べていたのだが、少し驚いたように神里綾人がこちらを見ていた。何かあったのかと思ってそちらに視線を向けると苦笑された。

 

「すみません、随分と『箸』に慣れていらっしゃるようでしたので」

 

なるほど、俺の顔に…というか口の周りに食べ物が付着していた、とかではなかったようだ。

 

…一応確認しておこう。

 

「箸はまぁ…練習したからな」

 

とはいえ、数百年前の話だ。本格的に眞や影に呼ばれ始めた辺りからご飯を稲妻で食べることが増えたため、嫌でも上手くなったのだ。俺の返答に、神里綾人は微笑む。

 

「箸は難しかったでしょう。外国の方々から特に難しいとお聞きしますから」

 

「いや、そうでもない、神里家当主「綾人で構いません」…綾人殿。難しいという感想は浮かばなかった記憶がある」

 

眞や影から普通に教えられたし、特に俺の指を何度も正しい位置に戻してきたのは、かなり堪えた。まぁ、当然の措置なんだろうが、彼女達はそんなに俺に箸を上手く使ってほしかったのだろうか?

 

「それで、本題を言ったらどうだ?俺は腹芸は苦手なクチでね」

 

嘘ではないが、できないこともない。別に今する必要はないと考えているだけだ。綾人は目をスッと細めると、俺のことを値踏みするように見ながら言った。

 

「貴方を将軍様のご友人と見込んで、折り入ってお願いがあって参りました」

 

見込んで、か。余程影は俺のことを喋ったらしい。綾人は目を瞑ると、胸に手を当てながら言った。

 

「探してほしい方がいまして…知恵をお貸しいただきたいのです」

 

探してほしい、か。人探しはあまり得意ではないのだがな。俺は焼きそばを食べ終わり、茶を啜って喉を潤してから告げる。

 

「聞くだけ聞こう」

 

「感謝致します。雷電五箇伝、というものをご存知でしょうか?」

 

確か遥か昔に5人の弟子にそれぞれ継承された優れた鍛造技術の秘技を持つ五大刀工流派のことだったか?だがあれはお互いに潰し合って一つだけしか残らなかったと聞いている。

 

俺のその説明に概ね間違いはない、と告げるものの、没落しただけで残っている家系もあったらしく、今回の依頼ではその人間を探してほしいとのこと。

 

「なるほど、それで?その少年についての情報は何かないのか?」

 

「…依頼をお受けになって下さるのならお話致しますが」

 

なるほど、食えん輩だな。俺はフッと笑うと、綾人を横目で見ながら言った。

 

「…報酬だ」

 

「…?」

 

「報酬による。人に物を頼むときには報酬は必要だろう?対価だ。お前は対価に何を差し出せる?」

 

それはある意味では悪魔の契約、とも言えるのかもしれないな。影、現雷電将軍の友人とはいえ、彼とはついさっき知り合ったばかりだ。その相手を信用し、対価に何を差し出せるのかを考えるのは難しいだろう。まぁ、ある意味では雷電将軍への忠誠心が高いとも言えるのか。

神里綾人はふむ、と一つ首肯くとにこやかに告げた。

 

「神里家にできることなら何でも致します。勿論、将軍様の意向にそぐわない形の依頼はお受け出来かねますが」

 

なるほど、妥当なところだろう。だが気になるものだ。神里家がそうまでして探したい人間とはな。しかも没落した家柄だ。そうまでして探す価値があるとも思えんが。

 

「そうだな、いいだろう。それで?」

 

「感謝致します。それでその少年は現在何処にいるかはわかりかねます。最も直近の目撃例も戦争の始まる三年前ですから」

 

稲妻国内でないということは亡命しているのではないのか、という言葉は飲み込んだ。

 

「なるほど…まぁ探してみよう。確か名は…楓原万葉だったな?」

 

没落した楓原家について、その後も詳しく聞いた。結構、雷電五箇伝の話には陰謀があるように思えてならなかった話だが、首謀者は雷電五箇伝の内の一つの門派とされている。他の技術を我が物にしようとして失敗したそうだ。

 

楓原万葉は、どうやら旅をしているようだ、というのがわかった。家にいるのが辛くて飛び出した、というわけでもないだろうし、恐らく見聞を広めに行ったのだろう、と仮定した。そのうち帰ってくるとは思うが、この感じだと帰るタイミングを逃していそうな予感がするな。というかそりゃあ三年前にたまたま帰国していたりすれば目撃例はあるだろうが三年間無いのは当たり前だろうな。

 

「使える伝手は使っていいのか?」

 

綾人は暫し逡巡していたが、やがて首肯いた。

 

「よし。では早速今日から開始する。とは言っても、間違いなく稲妻国内にはいないだろうし、伝手頼みだがな」

 

俺はその後も綾人に何処まで伝えていいのかを聞いてからその場は別れ、一週間以内にできれば探してほしいそうだ。

 

そう言えば探してほしい理由だが、楓原家の押収品の中に当時の設計図があったらしいのだが、その設計図には改ざんの形跡が見られ、楓原家の過去の罪は不問とし、家の再興をするのだとか。そのために彼を探したかったらしい。唯一の跡取りらしいからな。

 

少し疲れたので今日はこの辺にして稲妻城に戻ると、先程別れた武士達が待っていた。

 

「お待ちしておりました。将軍様がお呼びでございます」

 

どうやら、まだ休むことはできなさそうだ。

 

〜〜〜〜

 

志村屋を出たアガレスを笑顔で見送った神里兄妹は先程出会った男について、議論を交わしていた。

 

「…お兄様はどう思われましたか?あの方の所作全てに高貴さが滲み出ていましたが…」

 

綾華の言葉に綾人も同意した。

 

「ええ、ですがあれは生まれ持ってのものではないでしょう。彼は国を持たぬ神と聞きますからね。恐らく、生きていく上で身についたものなのでしょう」

 

実際その通りである。アガレスの立場上、国の上役の仲介人となって戦争を回避したことなど何度もあったのだ。礼儀作法を知っているのは当然とも言えた。

 

「しかしそれでも腑に落ちません。何故そんな彼の記録が500年前で途切れ、最近になって再び活動を再開しているのでしょうか…」

 

「ファデュイの罠とも考えにくいでしょう。楓原家の件はあくまでついでですからね」

 

今回の接触の目的の一つに楓原万葉の捜索というものはあったが、そこまで優先度は高くないものだった。本当の目的はアガレスが本人かどうかを確かめること。そしてこれは将軍の同意を得てのことでもあった。無論、影はアガレスを疑っているわけではない。むしろ自身の配下にアガレスが自分の友人だとアピールし余計な手出しをさせないという狙いもあった。綾人は勿論、そのことを察していたため、楓原家の再興というカードを持ってきたのである。

 

「何より将軍様が彼のことをかなり信頼されているご様子でした。500年前に何があったのかは気になりますが、それは追々調べていけば良いでしょう。綾華、今日は面白い方に出会えましたね」

 

「はい、お兄様」

 

二人は微笑み合いながら志村屋を後にする。綾人はアガレスの去って行った稲妻城の方角を見て一言だけ呟いた。

 

「ですが…国の、ひいては将軍様の邪魔になるようであればいかなる手段を以てしても排除するべきでしょうね。なにせ彼は…危険すぎますから」




少し遅くなりました。あの、ですね…めっちゃ寝てました。それはもう盛大に
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