忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回割とタイトル詐欺です。いや詐欺とも言えないですが

※追記

誤字報告に感謝しかないです。めっちゃ寝ぼけてたみたいですね。


第75話 ゆるりと

影の下を離れて自室…と言っていいのかどうかは不明だが兎に角部屋に戻ってくるなり、俺は大きく溜息を吐いた。今までの精神的な疲れが溜息として出てきたのである。そのまま楽な服装に着替え、座布団の上に座り、今日の出来事について考える。

 

天領奉行、勘定奉行は共に国の重役だ。その立場の人間がファデュイと関わりを持とうとしていたとあれば、稲妻全体の戦意に影響しかねない。そもそも、何故今まで露見しなかったのか、それも謎だな。或いは…神里綾人は全て知っていたりしたのか?確証はないが、事前に接触してきたのがどうも引っ掛かる。俺の人となりを確かめに来た、というのだけでも十分すぎる理由だが、それ以外にもあったような気がする。

 

そもそも俺が稲妻城に到着するまで、一応真っ直ぐ帰ったとはいえ荷物もあったし、帰る際にもチラッと色々見たので、三十分ほどの時間があった。その間に何かをしていたとすれば…まぁ、できないこともないだろう。神里家が黒幕だったとして、その目的はなんだ?ファデュイに寝返っていたわけではないだろうが…。

 

いや、そういうことか。神里家が仮に今回の一件の黒幕なのだとしたら一石二鳥の策を弄するだろう。短い時間での接触だったが、彼ならそのくらいのことはできそうだと思う。俺が影の害となる存在なのかどうか、まだわからない。不確定な内ではあるが排除しようとしたのかもな。で、同時に俺が彼等…九条なんだかと柊なんだかを排除しても問題なかったわけだ。どちらにとってしても、稲妻にとっては有益になるだろうからな。後継者とかは大丈夫なんだろうか?まぁ、それは知らん。どちらにせよ俺が関与するところではないからな。

 

「あっ…そういやこれ…」

 

俺は手に持っていた麻袋を見る。団子牛乳の存在をすっかり忘れていた。今から行っても間に合うだろうか?いや、今日は割ともう夜だし、彼女から尋ねてこない限りは明日渡すことにしよう。日持ちはするみたいだしな。

 

さて、それはさておき。

 

「バルバトスに連絡を入れておくか…」

 

俺は指輪を弾くと「あ〜テステステス」と言った。暫し間があって返答があった。

 

『…アガレス、その妙な掛け声はなんだい?』

 

「なに、マイクチェックだ」

 

『意味分かんないよ』

 

実際に見たわけではないが、間違いなく苦笑しているだろう。俺は空気を入れ替えるべく、話題を変える。と、言っても本題に戻すだけだ。

 

「さて、バルバトス。調べてほしいことがある」

 

『おや、君からの依頼は珍しいね?出来る範囲なら何でも聞くよ』

 

心強い言葉だな。腕を腰に当てて胸を張ってそうだな。

 

「人探しをして欲しい。モラクスにも後で連絡を入れてほしいんだが…」

 

『…稲妻にとって必要な感じなのかな?だとしたら僕も手は抜けないんだけど』

 

おい、必要じゃなかったら手を抜くって言ってるようなものじゃないかそれは。そのニュアンスが俺の沈黙で伝わったのか、向こうで苦笑しているようだ。

 

『冗談だよ。それで、その探している人の特徴と名前は?』

 

「楓原万葉、年齢は16くらいだと思われる。白い頭髪だが一部が紅葉のような色だ。背丈は旅人より少し高いくらいだ。探せるか?」

 

『ん〜、まぁやるだけやってみるよ。吉報を期待しててね』

 

礼を言ったが、返答がない。どうやら通信は切れているようだ。こういうところはわかりにくくて困る。通信は切れているのにずっと一人で話し続けてました、とかなったら羞恥で軽く死ねるぞ。

 

一応、用事は全て終わったな…団子牛乳でも食べるか…いや、飲むか、か?どっちでもいいか。

 

布団に横になり、団子牛乳を飲みながら、買ってきた『俺の青春ラブコメがカオスな件について』を一巻から読んでいく。う〜ん、なんというかやっぱり青春ラブコメというものはいいな。この作者、よく考えるじゃないか…恋愛、恋愛か。神である俺には全く縁のないものだろう。だが、なんというか…こう、胸のあたりが締め付けられるというか。兎に角嫌な感覚でないことは確かだ。

 

暫くして。

 

「…いい、とてもいいな。恋愛小説、いいじゃないか。これは確かに神子がどっぷりハマるのも首肯ける。俺も恋愛小説みたいな展開やりたい…いや、やってみたかったなぁ…」

 

新しい扉を開いた俺だが、神であるこの身では恋愛などできないだろう。どうしたものか…どうにかして俺もこういう、なんというか、胸が締め付けられるような恋がしてみたいものだ。ああ勿論、この主人公のように複数の女性から狙われてカオスになるのは御免だが。

 

「…第一巻だけでこれかぁ…続きが気になるな…」

 

こんなにワクワクしたのはいつぶりだろうか?前回は…そう、バルバトスがモラクスと仲直りするって言って璃月に行くときだったか?結局、あの時はバルバトスがモラクスを更に怒らせて俺が仲裁してようやく、って有様だったんだよな。懐かしい。

 

フラグを少し前に立てた気がするが、今やもう午後11時。誰かが俺の部屋に近付いてくる気配は…いや、あるな。風元素の力で外の様子を探ると、三人ほど、俺の泊まっている部屋に近付いてきている。部屋の灯りが消えるのを待っているようだ。

 

今日はゆるりと過ごしたいんだよなぁ…どうしようか?動くのだるいから嫌なんだけど。

 

「あっ、そうだ…」

 

無視すればいいんだ。灯りをつけっぱなしにして眠ればいいんじゃなかろうか。寧ろそれでいいだろう。というかそうさせろ。そういうわけで俺は布団に入り目を閉じる。疲れているからか、少し頭の回転が悪い。

 

「襲撃者など知ったことではない。俺は休むんだよ…というか休ませろ」

 

灯りを消していないのにこっちに来るようだ。どうやら痺れを切らしたらしい。襲撃者としては二流、いや三流と言わざるを得ないな。俺は布団の中から出る。

 

「しかしタイトル詐欺もいいところだな…ゆるりといかせてくれよ」

 

侵入者達は壁を伝って登ってきた。俺の部屋の様子を伺っているようで、俺が寝室にいるとわかるなり窓から侵入してきた。勿論、俺のいる部屋とは別の部屋である。十中八九、天領奉行か勘定奉行によって雇われた暗殺者…或いはデットエージェントか。動き的には前者っぽいな。なんというか、夜襲に慣れていなさそうだ。

 

そうこうしている間に俺の部屋に三人が入ってきて刀を抜いた。勿論、その視線の先には盛り上がった布団。そして一斉に刀を突き刺し───

 

「残念ドッキリでした〜てってれ〜!!」

 

頭に思い浮かんだフレーズを言いながら天井から三人の内の一人に背後から襲いかかり踵落としで気絶させた。さて、風元素で盛り上がらせていただけの布団が役に立ってよかったよ。流石は素人、俺があそこにいないことも見抜けないか。

 

「くっ…!」

 

「おや、逃走すんのか?何が何でも俺を殺したいってわけでもないのか?いやぁまさか」

 

俺は未だに布団に突き刺さっている刀と倒れている襲撃者の一人とを交互に見やる。

 

「殺せればよし。殺せなくてもお前らを餌に俺を失脚させるような材料にする、なんてそんなことするわけないよなぁ?」

 

間違いなく、こいつらを殺せば俺は稲妻から排除されるだろう。過剰防衛とか難癖をつけられるだろうな。加えて、彼等襲撃者が俺を殺すことができればそれはそれでファデュイの仕業として決定づけられるだろう。まぁ、この程度で殺そうなどと…そうだな、「何年早い!」とか言おうと思ったが、一生かかっても無理そうだ。

 

残った二人は青い顔をしていたが、俺へ向けて刀を向けた。どうやら、完全に戦意が喪失したわけではないらしい。こいつらの雇い主の誤算は、というか敗因は相手を舐めすぎていることだな。自分が世界の中心と信じて疑っていないようだな。

 

「馬鹿は矯正できないとも言うし、ちゃんと失脚してもらうか」

 

 

 

「───よし、ようやく眠れるな」

 

こいつらの引き渡しは別に明日の朝で問題ないだろう。暴れたところで縄に縛られた状態だ。動こうにも動けないだろうし、縄を解くことも切ることもできないはずだ。

 

まぁ襲撃者のことはいいだろう。結局ゆるりとできずに戦ってしまった。もう寝よう。俺は少しズタズタになってしまった布団に入り、目を閉じるのだった。

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