忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回最初だけ三人称ですが途中からアガレス視点に戻ります。


第77話 情報交換

「───海祇島と稲妻幕府の協力関係の粗を見つけるのは難しいとの結論に至ったわけか…」

 

稲妻にある離島。現在はファデュイの支配下にあり、元々柊家の屋敷だった場所は今やファデュイの指揮官が闊歩する作戦司令部へと変貌していた。その屋敷の中で仮面をつけた男が呟いた。手で机を撫でており、その机の上には部下からの報告書と思しき紙の束があった。

 

「それにしても、稲妻の数々の英雄を屠ってきたあの部隊が全滅させられるとは…」

 

男は独り言を呟きながら窓の外を見る。外は土砂降りの雨だった。その視線から、感情を読み取ることはできない。まるで感情という概念が抜け落ちているかのようであった。

 

「新たなる風が吹こうとしている。三年落とせぬ稲妻を、多少の小細工で落とすことなどできはせぬか…潮時だな」

 

男は報告書の束をそのまま放置し、部屋にある金庫や引き出しに入っている書類などを片っ端から集め、片付け始めた。やがて多少の書類が残った部屋を見回し、男は呟く。

 

「ロザリン…お前を殺したという男が、稲妻に来ているようだ…仇討ちをしてもよいが今はまだ機が熟しておらん…」

 

だが、と男は続けた。

 

「例え我が身が滅びようと、ロザリン…吾輩が約束しよう。お前の無念、その遺志、そして女皇の願いは吾輩が必ず成し遂げると」

 

男は扉を開き、出て行った。窓際には燃え盛る炎のような色の蝶が一羽止まっていた。

 

〜〜〜〜

 

俺と旅人、そして白髪の少年───恐らく楓原万葉───は珊瑚宮にそのまま連れられていった。南十字船隊の『死兆星号』の船長は珊瑚宮心海と軽く挨拶を交わして去って行った。機会があれば俺も話してみたいが、海賊と言えば酒が好きなイメージがある。酒を飲むと何が起こるかわからない俺にとってしてみればある意味では天敵と言えるだろう。会うなら公式の場所くらいにしておこう。非公式で会おうものなら間違いなく酒の席になるだろうし…なるべくならこの弱点は隠しておきたいからな。

 

珊瑚宮の中には入れなかったが、一時的に設けられた天幕内で話し合いが行われることとなった。ちなみに、珊瑚宮の門前であるため、人はまあまあ多い。連行されてるみたいに見えたのか、ヒソヒソこちらを見て話している青い巫女服の女性が多かった。そう言えば鳴神大社は赤色の巫女服だよな。この辺は宗教的な違いなんだろうなぁ…なんて思ったりしている。

 

「それではお茶の用意もできましたので、話し合いを始めさせていただきますね」

 

話し合い、と言ってもこちらに一方的に稲妻の現状を話し、その上で稲妻の指揮下に一時的に入ってもらう、という感じになるわけなので、俺はあまり聞く必要がない話になるな。ただ、珊瑚宮心海は俺へもしっかりと説明をしてくれるようだ。

 

内容は影が話してくれた内容だったので省略するが、旅人は結構驚いている様子だった。如何な珊瑚宮心海と言えど雷電将軍が二人いる、ということは知らなかったようだ。まぁ表舞台に出てくるのは常に一人だし、仕方がないのだろう。

 

「さて、それではアガレスさん、貴方はどうして此処へ?」

 

おっと、考え事をしていたら話を振られた。俺は敬語で話そうとして、珊瑚宮心海から静止の声が掛かった。

 

「私達は対等な立場ですから、敬語は不要ですよ。私の話し方に関してはお気になさらないで下さい」

 

どうやら話し方は性分らしい。常に丁寧ということかぁ…なんか、現人神って崇められるのも首肯けるな。俺より神やってるよ…。

 

と軽く嘆きつつ、俺は言葉遣いを訂正しつつ質問に答えた。

 

「彼女…旅人の出迎えに来た次第だ。詳細はえ…将軍様から聞いているはずだが…」

 

そう言うと珊瑚宮心海はキョトンとした顔をしていた。どうやら、やっぱり早馬は間に合わなかったらしい。

 

「い、いえ…早馬よりも早くご到着されたのですね…あ、あはは」

 

口ではそう言っているが、信じられないらしく、苦笑していた。斯くいう俺もその例に漏れなかった。そんな中、旅人が首を傾げて口を開く。

 

「アガレスさん、私、北斗さんに『稲妻で停泊できる場所がないから仕方なく無理矢理此処に停泊した』って聞いたんだけど…なんでここに来るってわかったの?」

 

旅人はそう言っているが、珊瑚宮心海は理解しているようだ。俺はわかりやすくかつ簡潔に説明した。

 

「稲妻では本来、外国からの商人を一度、離島に通してから稲妻全土への行商を許可するんだ。何故かと言うと、簡単に言えば危機管理のためだ。商人達は稲妻で結構厳しめのチェックを受けるが、それを突破した商人のみが稲妻での商いを認められる。今回のような戦争やテロを防ぐため、ってことだ。加えて稲妻の港で最も大きいのはあそこだ。大体の船はあそこに停泊する。さて、ではその離島はどうなっている?」

 

今まで影が薄かったパイモンがハッとした。

 

「ファデュイに占拠されてるぞ!」

 

「そういうことだ。だから少なくとも離島には停泊できない。加えて稲妻城は安全なわけじゃない。船は地上から砲撃を受けるかもしれないから、どちらにせよ稲妻城へ直接行くには地上からの砲撃を覚悟しなければならない。であれば他の島で稲妻の勢力がある場所に停泊するしか無い、となれば海祇島が最も都合がいいんだ」

 

戦争に於いて補給というものは常に課題として存在している。そして拠点から離れれば離れるほど、補給は難しくなり、時間もかかる。だから兵隊の密度は拠点から離れるほどに薄くなる。それこそ、特殊工作員や極秘部隊などが多くなる。それはつまり砲撃を行えるような部隊が少なくなることを意味する。まぁつまり拠点から一番遠く、稲妻幕府の影響力がある場所というのが海祇島くらいしかなかったわけだ。

 

その旨の説明を旅人にすると、うんうんと納得したように首肯いていた。パイモンは若干挙動不審になりながらも首肯いていたので何やら勘違いをしていたようだ。珊瑚宮心海さんは、というとニコニコして旅人達の様子を見ていた。

 

「取り敢えず俺達の話は良いだろう。今度は俺から質問したいんだが…」

 

俺はそう言いつつ、旅人を、そして隣に座る楓原万葉と思しき少年を見る。俺は旅人に視線を戻しつつ彼について聞いた。

 

「それについては、拙者から説明するでござる」

 

…ござる?なんというか、不思議な話し方だな。他の稲妻人でござるとか言ってるの聞いたことがないが…何なのだろうか?まぁそれはいいだろう。

 

胸に手を当て、彼は改めて自己紹介をしてくれた。

 

「拙者は、楓原万葉と申す。四方を彷徨う浪人でござる」

 

「俺はアガレスだ。まぁ、これと言って特に特徴はない」

 

冗談めかして自己紹介をすると、旅人に再びジト目で見つめられる。その様子を見た楓原万葉が微笑みながら視線を俺へ向けた。

 

「お主とアガレス殿は親しいようであるな。もしかして知り合いでござるか?」

 

「話すと少し長くなるが、知り合いというか友人だな」

 

俺は微笑みながら旅人へ視線を向けた。面と向かって友人と言われたことが気恥ずかしかったのか、旅人は少し頬を染めながらそっぽを向いた。楓原万葉と二人でその様子に苦笑を零すと、俺は弛緩した雰囲気を再び緊張感があるものに戻すべく咳払いをした。

 

「それで、何故此処へ?南十字船隊の『死兆星号』に乗ってきたんだろうが…どういう経緯があったんだ?」

 

パイモンも合わせて三人にそう問いかけると、三人で説明してくれた。

 

曰く、楓原万葉は元々『死兆星号』へ乗っており、その経緯は稲妻の戦争に起因しているらしい。戦争初期に『死兆星号』が偶々稲妻との貿易に来ていたのだがファデュイが暴れ始めた時に住民を出来る限り救いながら楓原万葉が動いていた時、ファデュイに囲まれ死を覚悟していた彼はそれでもファデュイに精一杯の抵抗をしようと刀を構えた。その際北斗が通りがかり楓原万葉を救い、暫く厄介になっていたらしい。

 

「なるほどな…それでどっちにせよ稲妻には暫く近付けず、今回旅人を送るという大義名分が出来たから戻ってきた、というわけか」

 

如何な海賊と言えど戦争地域には足を踏み入れることはできないだろう。しかも三年前なら楓原家再興の話も知らないのだろうな。ただ…俺からは言わないほうが良いだろう。部外者だからな。

 

俺の言葉に、旅人達は首肯いた。珊瑚宮心海は話の間ずっとニコニコしていた。何を考えているのやら。

 

「そう言えば、アガレスさん。一個報告しなきゃならないことがあって…」

 

神妙な顔つきの旅人が俺にそういった。先程の話とは関係がなさそうだ。俺は旅人の言葉に返事をしようとして、俺の指輪が振動しているのに気が付いた。そう言えばこの指輪、通信が繋がると振動するんだったな。俺はいつも指輪を弾いてすぐに話しているから皆あまり気が付いていないようだが。

 

「すまない旅人、話は後だ。バルバトスから通信が入った」

 

俺は指輪を弾きながら席を立ち、少し離れる。

 

「バルバトス、俺だ」

 

『あ、アガレス?ごめんね、何か取り込み中だったりするかい?』

 

心做しか、バルバトスの声には焦燥感があった。彼が慌てるとは、珍しいな。緊急の用事だと思われるため、俺は旅人に少し時間がかかるかもしれない、と告げてから何があったのかをバルバトスに聞いた。

 

『その…ほら、前璃月を襲ったファデュイの執行官がいたじゃん?』

 

確か第6位『売女』だったか。名前はルフィアンだった気がする。それがどうかしたのだろうか?

 

『璃月で取り調べを受けつつ拘束されていたんだけど、二日前に忽然と姿が消えていて…』

 

「本当なのか?」

 

ルフィアンは脱獄したのか。或いは仲間に助けられたのかもしれないな。璃月の牢獄は結構ガード固そうだし、助けに行ったのは執行官クラスかもな。それにしても何故その情報をバルバトスが知っているのだろうか?友好国であり、隣国だからといってこうも簡単に自国の失態を晒すとは思えないが…。

 

俺の疑問が通じたのか、バルバトスは詳しい状況を説明してくれた。

 

『璃月、モンド両国の関係は最高潮だからね。まぁそれは理由の一割くらいかな。一番の理由はアガレス、君だ』

 

俺か。あ〜なるほど、と思わず首肯く。

 

『君は両国にとって最早重要人物と言えるからね。旅人も同様だけど、璃月にいなかった君はこの事件を知らないだろうと、じいさんが珍しく気を利かせてくれたんだよ』

 

俺が今いる稲妻は、ルフィアンこと『売女』が所属しているファデュイと戦争状態にあるわけだ。ルフィアンの脱獄によって欠員があった執行官の席も僅かに埋まる。そしてその影響は、かなり大きいわけだ。士気的な意味でも、戦闘力的な意味でも。だから当事者である稲妻の上層部、そして前線で戦う俺へ伝えるべき、となったのだろう。恐らく、モンドの一般市民は、少なくとも今は知らないだろう。人の口に戸は立てられないと言うし、その内璃月に立ち寄った商人などから情報は広がるだろうが。

 

「そういうことか…しかし、彼女を逃したのは痛い」

 

彼女の年齢は恐らく見た目よりも歳を重ねているだろう。で、あるのにも関わらず見た目は17歳程度だし、あの強さだ。旅人が戦ったというタルタリヤ、そして『淑女』。彼、彼女達は例外なくその戦闘力は高い。旅人から聞いた話によればタルタリヤは恐らく本気を出していない、とのことだったし、年功序列式の執行官で言えばルフィアンは結構な歳なのだろう。それにしても、『淑女』がファデュイに入ったのは恐らく500年程前。それで第9位だ。それ以上の人たちって最早人じゃないよなぁ。その辺は『邪眼』とかに秘密があるようにも思えるが、詳しいところはなんとも言えないんだよな。

 

『うん、そっちでもちょっと気にしてて。僕達の方でも取り敢えずの捜索はしてみるから』

 

「ああ、よろしく頼む」

 

それと、とバルバトスは続ける。話はまだ終わっていなかったようだ。俺は『なんだ?』と返し返答を待った。

 

『影と眞には会えたかい?』

 

バルバトスの問にどう答えるべきか少し迷い、そして

 

「ああ、二人共元気そうだった」

 

嘘を吐いた。眞が伏せっているという情報は身内のみに留めておいたほうが良いだろう。どこから漏れるかわからないし、誰かがこの通信を聞いているかもしれないからな。バルバトスはそっか、と少し安心したような声を発し、それじゃあ、と言って通信を切ったようだ。俺も指輪を弾き通信を終了した。

 

席へ戻ると、旅人が首を傾げながらどんな内容だったのかを聞いてきた。

 

「バルバトスから、ルフィアン…ああ、『売女』が脱獄したという情報を貰ったんだ…って、旅人?」

 

何故か旅人が頬を膨らませて不機嫌そうだ。理由を聞くと、俺はなるほど、と納得し、苦笑した。

 

「私が鍾離先生に頼まれたから伝えようと思ってたのに…」

 

ということだったらしい。どうやら鍾離ことモラクスは旅人が伝えられないことも考えてバルバトスに頼んだようだ。恐らく、モラクスは不機嫌だっただろうがな。

 

「まあ旅人。伝わったんだから良いじゃないか」

 

「そういう問題じゃない!」

 

それから小一時間ほど旅人に説教を受けた。さしもの珊瑚宮心海も、楓原万葉も苦笑いしながら横で談笑していた。パイモンは俺に助け舟を出そうとする度に旅人に視線で黙らされている。

 

なんだろう、情報交換していたはずなのに、どうしてこうなったんだろうか?わたしはふしぎでたまらない。金色の頭髪を持つ少女が、まるで雷の如き圧を掛けてくることが。

 

結局旅人の説教によって夕方になってしまったため、その日は海祇島で過ごすことになるのだった。

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