忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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今回ちょっと短めです。


第81話 控えめに言って修羅場過ぎる

旅人は困惑していた。と、言うのも会って僅か数分の相手に突然斬り掛かられているためだ。いや、勿論海乱鬼などの初対面の相手には斬り掛かられてきたが、彼等は浪人。つまりは悪人である。だからこそ旅人は困惑していた。何故、一国の主に突然斬り掛かられているのだろうか?と。

 

下から物凄い勢いで振るわれた薙刀を後ろに下がって避け、返す刃で上から振り下ろされた薙刀は剣で受け流し、とばかりに旅人は防戦一方だった。影は時偶雷元素も織り交ぜて攻撃してくるため、油断ならない。影の攻撃を受け、或いは躱すだけで旅人は影へ攻撃を仕掛けることはなかった。

 

「…何故反撃をしないのですか?」

 

純粋に疑問を持ったのか、影は攻撃の手を一切緩めずに言った。旅人は回避に手一杯であるため口を開けなかった。だが、その心中ではかなり焦っている。

 

───一国の主に攻撃しちゃったら大問題でしょ!!

 

と、いうわけで旅人は反撃が出来ないのである。それを知ってか知らずか、影の攻撃の手が幾らか緩んだ。だが、その瞳へ込める感情は変わっていないようで、相変わらず冷たい視線だった。

 

「…そうですか」

 

一言だけそう呟くと、影の攻撃の手が止んだ。旅人は若干警戒しつつも自身の剣を下げ、首を傾げた。

 

「……ません」

 

と、いうのも影が小声で何事かを呟いていたからである。旅人とふわふわと不安気に浮いているパイモンが顔を見合わせていたが、不意に顔を旅人の目を真っ直ぐ見て影は言った。

 

「…どこの馬の骨ともわからない小娘にはアガレスを任せられません」

 

思わず「は?」と言ってしまう旅人。アガレスが聞いたら真顔で「何を言っているんだ…お前は?」とでも言いそうな感じである。そして影の言葉には友人へ向けるものとはまた別の感情が籠もっているようだった。

 

そのことを理解した旅人はなるほど、と全てを理解した。

 

「そうは言うけど影さ「雷電将軍と呼びなさい」…雷電将軍は最近のアガレスさんとはあまり長い間過ごしてないよね。どこの馬の骨ともわからない、って言っていたけどそれなりにアガレスさんとは関係が深いよ?」

 

「た、旅人…無自覚でそれ言ってるのか…?やめたほうがいいと思うぞ…」

 

パイモンの制止の声も聞かずに、旅人と影は新たなステージへと移行してしまったようだ。パイモンは、既に自分の存在など忘れられていることに気が付き、若干落ち込んだ。

そんな中、影は負けじと反論する。

 

「そうは言いますが、アガレスの好きなものは私が一番知っていると自負しています。例えば好きな食べ物一つとっても彼の好みの味は私が最も熟知しています」

 

と、言っても影は料理が出来ないので、眞に指示を出して「こんな感じでお願い」とばかりに作ってもらっていただけなのだが、この際それはどうでもいいらしかった。旅人はむぅ、と頬を膨らませるとそれに切り返すようにどんどんとお互いに議論を重ねていく。言い争いではあるが、ほとんどアガレスについての話題である。話題は途切れず、しかし最初の険悪な空気とは真逆に、若干笑顔まで見え始めている。

 

パイモンは、というと二人を呆れた様子で見ながら、やがて名案を思いついた、とばかりに部屋を急いで出て行った。部屋を出てからも二人の話し声は聞こえていたらしく、若干苦笑気味だったという。

 

「そうだ。私便利な物を持ってるから、アガレスさんに聞いてみよう」

 

「なんですか?指輪…ああ、昔彼が持っていたのを見たことがありますね…と、いうか何故それを貴女が持っているのですか?何より、どうして左手の薬指に嵌めているんですか」

 

なんて言葉が聞こえてきたパイモンは聞かないふりをしたという。

 

〜〜〜〜

 

旅人達と別れた俺は『俺の青春ラブコメがカオスな件について』を読み漁っていた。読むスピードは勿論それなりに早いが、それでも挿絵や展開の一つ一つを楽しみつつの読書であるため、三分で1ページのペースで読み進めていった。

 

それにしても、主人公、やっぱり鈍感すぎないか?7人もの魅力的な女性達にこんなにも愛されているというのに…ああ、歯痒い。歯痒いぞ。何故そこでお礼を言うだけで終わってしまうんだ。いや…彼女の行動に関してはそれが正解…っ!?実際、主人公はそれがキッカケで今までただの女友達だった本人のことを意識し始めるみたいだしな…くぅ、たまらん。

 

さぁて次の巻を…とばかりに弄ったが、どうやら最新巻まで読み終えてしまったようだ。

 

「えぇー…」

 

とばかりに俺は思わず悪態をついた。こっから他の女の子達も白熱してくるところだっていうのに…だが作者のペースとかも考えると急かすわけにもいかん。それでクオリティが下がってしまっては本末転倒だからな…。

 

「ああ!歯痒いぃ!!というか歯切れが悪い!!あああああ!!」

 

くぅ…本命は誰なんだ…!?気になる…俺の人生史上最も気になるぞ!!ん?推しは誰かって?そういう概念は俺にはない。だが…共に生きることは出来る(?)。

 

そんなこんなで手持ち無沙汰になってしまった俺はぐで〜っとして寛いでいた。そんな時だった。俺の指輪が振動した。旅人と繋がっている方からである。俺は指輪を軽く弾いて聞こえやすいように口を適度に近付けた。

 

「旅人、何かあったのか?」

 

『アガレスさん!今すぐ来て下さい!!今ちょっと大変な状況なので!!』

 

どうやらかなり切羽詰まっているようだ。『俺の青春ラブコメがカオスな件について』の続きは気になるが、考えていてもしょうがない。俺は急いで支度をして旅人がいるであろう場所へ向かった。

 

その途中、パイモンが見えたので軽く挨拶をすると、こちらへふわふわと飛んできた。

 

「アガレス!大変なんだ!」

 

「ああ、さっき旅人から聞いた。今すぐ行く」

 

「そうじゃなくて!今すぐお前逃げたほうがいいぞ!!」

 

ん?どういうことだろうか?

 

「残念だがパイモン、俺は逃げることはしない。たとえ敵がなんだろうが、俺は自分が大切に思うものを護るって決めてるからな!!」

 

「違うんだよ!オイラが心配しているのはそういうことじゃなくて…」

 

どうにもパイモンの歯切れは悪かった。だが、あまり構っている時間もない。

 

「旅人はこの先か…悪いが行かせてもらう」

 

「あ、アガレスぅぅぅ!!」

 

俺は大急ぎで大きな扉の前に立つと瞬時に開いて中に飛び込んだ。飛び込んでしまったのだ。

 

「あ、やっと来た!」

 

「…待っていましたよアガレス」

 

「…え、ええっと旅人…この状況は…?」

 

疑問に思った俺は好戦的な笑みを浮かべる二人にそう聞いたのだが…返ってきたのはその問いに対する答えではなく…。

 

「さあアガレスさん!」

 

「アガレス、選んで下さい」

 

「「どっち(どちら)がアガレス(さん)に詳しいか!さあ!」」

 

思わず面食らった俺は柄にもなく「は?」と返事をしてしまった。後ろを見るとパイモンが溜息を吐いていた。どうやら、パイモンが心配していたのはこのことだったらしい。そんなことよりもこの状況…と俺は少し思案する。

 

ラブコメの小説を読んでいたからこそ、俺にはわかった。勘違いかもしれないが、ほぼほぼ間違いないだろう。

 

この状況、控えめに言って修羅場過ぎる。




俺の青春ラブコメがカオスな件についての内容に関しましては多少は話を参考にしておりますが、若干は創作入ってます。ま、私自身気になりますが()
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